第八話 目的
かなり城から離れ、ガスティア国の城下町よりも外の森まで逃げた俺たちはそこでやっと一息ついた。
気づけば夜も明けかけており、みんな疲労困憊だった。
「さて、、、、、。ここまでくれば、、、多分大丈夫だろ、、、」
息もたえたえにガスティアが話し出す。
「さて、さっきサタンが言ってたように俺の本名はアスティアだ!
訳あって、ガスティアって仕立て上げられてたけど、それは後から説明するからよろしくな!」
「なんで後、、、なんですか、、、、?」
蒼が不審そうに聞くたが、
「なんでって、お前ら疲れてんだろ?休んでからじゃないと、話が頭に入らないだろ?」
確かに、全員今にも倒れそうな程消耗している。
「てことは、ここは安全ってことか?」
光が、あたりを見まわしながら不思議そうにつぶやく。
それもそのはず、ここはただの森だ。
「そうだ。正確にはこの下だけどな」
地下に部屋か何かがあるのだろうか?
そう思い、扉のようなものがあるのかと探していると、アスティアがおもむろに地面に向かって拳を打ち出した。
それと同時に地面が崩れ、
「「「「へ?」」」」
「きをつけろよ!」
ここにいる全員が口を開けた穴に悲鳴ごと飲み込まれた。
☆——
死ぬかと思った、、、。
全員がそう思っていることだろう。崩れた地面に飲み込まれた先にあったのは、キレイな庭園だった。
俺たちはみんなその庭園の池に落ちたのだった。
「それにしてもなんで地下に青空と、太陽と、庭園があるんだよ、、、。」
真っ先にそう話したのは光だった。
「まあここは時空のねじ曲がったいわば別世界、異世界みたいなもんだ。だからここだと誰かに変なことを聞かれることもない」
当然のように地に足を付けて立っているアスティアはのんきに説明を続ける。
「この世界の管理者たちのそれぞれの隠れ家のうちの一つって考えてくれればだいじょうぶ、、、、、って」
アスティアの言葉が止まった理由はその言葉を聞いているものが俺以外いなかったからだ。
「たく、シャアねえな」
そういってアスティアは気絶した者たちをさっさと救出した。
「あのー、、俺は?」
「自分で歩けんだろ、さすがに自分で歩いてくれ」
正直スキルがなければ俺も気絶していたところだ。
運んでくれてもいいじゃないかとか思ったが最後の気力を振り絞ってアスティアについていく。
「あ、お前にだけは管理者について話しとくか」
道中アスティアが説明の要約は以下の通り。
世界の理に干渉し、世界を維持する存在。
簡潔に説明するとこういうことらしい。
正直長すぎて、今の頭では右から左に流れていく。
そのおかげか、疑問も頭から抜け落ちる。
アスティアに連れられてきた部屋に入り、備え付けられたベッドに乗った次の瞬間みんながベッドの上で困惑していた。
どうやら意識が飛んでいたようだ。
『マリオネット』だけで維持していた意識もとうに限界だったし、当たり前といえば当たり前だ。
「お、起きたか傀儡。これ今どういう状況かわかるか?」
「一応ここはセーフハウスみたいな、安全な場所らしいということしかわからないんだよ」
「安全たって、、」
そうこう言っているうちに扉があき、外からアスティアが入ってきた。
「お、お前ら起きたか。じゃあ状況説明が欲しそうなお前らに情報提供をしてやろう」
そういってアスティアは説明を始めた。
「長話はいやだろ。手短に話すぜ」
そういって話し始めたアスティアは先ほどとは打って変わって真剣な表情となった。
「ここは、管理者の部屋。世界の理を管理するやつらが使ってた部屋だ。
世界の理を管理するために、この部屋は元の世界から隔絶された、別の次元に存在してる。
そして、俺の目的を話すには、元の世界とは別の次元でないとできない話だ。ここまでで質問は?」
そう尋ねたアスティアに光が発言。
「まずそもそも、なんでお前はこの空間があることを知ってるんだ?」
「それは、サタンが教えてくれたんだ」
「サタンが!?」
蒼が大きな声を上げ、俺を含めた全員が臨戦態勢になった。
「まてまて、血の気の多いやつらばっかだなほんと、、、」
アスティアは抵抗の意思がないとでもいうように両手を上げ、ひらひらと手を振った。
「サタンとつながってるのは、やつと俺の目的が同じでって、、
そういえばサタンが悪と認識されてるなら俺も悪になるな、、、」
アスティアの言葉を聞くたびに俺たちの手に力がこもる。
「もういい。御託はここまでだ。単刀直入に言おう。俺は暴走したこの世界の管理者を殺そうとしてる。
これでどうだ?」
「この世界を滅ぼすというのですか!?」
この世界の住人であるエリシアが非難の声を上げる。
「暴走してるって言ってるだろ?むしろ、生かし続けたほうが後がなくなるってもんだ」
「そもそも具体的にどのように暴走してると!?」
エリシアはさらに声を荒げてアスティアに問う。
「そうだな、、、最近理不尽だと思ったことはあるか?自分の無力さを痛感したことは?絶望の淵に立たされたことは?」
その話を聞いて全員押し黙る。今のどれか一つに、覚えがあるからだ。
「でも、それは世界に生きる限り当たり前では、、、」
「だろ?そういうことだよ」
その言葉に全員完全に押し黙る。
確かに、この世界の理を管理している何者かが暴走しているなら、理不尽も奇跡も、多くておかしくないことだ。
「さすがに、都合の悪いことは全部管理者のせいだ!とまでは言わねえ。だが、暴走しているのも事実だと肝に銘じておけ」
疑問が無くなり静まった場に俺が次の言葉を述べる。
「世界の管理者が暴走したのはわかったけど、口ぶりに理の管理者は複数人いたんだろ?今どこに?」
「暴走した世界の管理者に消された。正確に言うと、受け継がれなかった」
「世界の管理者は選ばれたものだということ?」
「そういうことだ。そのすべてを世界の管理者が管理してるんだが、邪魔になるということで、奴の独断で受け継がせなかった」
つまり、一人で好き勝手したくなったってことか。
「管理者も、もとは人間。永劫の時を経ると、精神が耐えられなかったんだろうな」
アスティアの説明でみんな一応は納得したらしく、それぞれの武器をおさめる。
「と、いうわけで隔離されたこの世界に一度お前らを運んだってことだ」
「で、この話をなんで私たちに?」
「察しろ、仲間を集めるためだ。」
蒼の問いにアスティアが半ば呆れつつ答える。
その対応が癪に障ったのか、少し不機嫌そうに返した。
「世界を管理するような存在を前に私たち程度が力になるとでも思っているんですか?」
「まあ十中八九無理だろうな」
あっさり一言で返したアスティアに蒼だけでなく、みんなが呆ける。
しかし、ではなぜ?という蒼の言葉が出るよりも先に、アスティアが口を開く。
「だが、対抗できる力を手に入れることはできる。そのために、ここに来たといってもいい」
そういって、ついてくるように促しながら、アスティアは部屋の外へと出ていく。
そうしてたどり着いた部屋には、何もなかった。
「なんでこんなところに?」
もっともな疑問。みんなが同じように頭に疑問を浮かべている。
「じゃあみんなこの部屋にはいってくれ」
「なんでなにもない部屋に?罠か?」
俺が警戒しながらガスティアに問う。
何もない部屋だが、何かあるのを感じる。
警戒してしまうのは当然だった。
「安心しろ。これは適性検査場みたいなもんだ。力を受け継ぐためのな。まあ多分このなかで適性があるのは蒼だけだと思うがな。」
「もしかして、管理者の力?」
「そうだ。その力があれば、対抗できる」
蒼に適性のある力と言ったら回復、生命力に関する何かだろう。
「そういうわけで入ってくれると嬉しいんだが?」
それならとみんな入っていく。光、エリシア、先生、彩乃、俺と順番に入っていく。
俺たちが入った段階では何も反応がなかったのに対し、蒼が入った瞬間、部屋全体が光始めた。
部屋全体の光は、徐々に一転に集まり、集まりきったところで蒼の胸に溶け込んでいった。
「あ、、、、、。」
その瞬間蒼は小さな声を上げ、崩れ落ちた。
「「蒼!?」」
彩乃とエリシアが、瞬時に蒼を支える。
「どういうことだ!」
光がアスティアの胸ぐらをつかむ。
俺は剣を取り、アスティアに向けた。
「力の定着が終われば時期に目を覚ます」
「正直、まだ信用できてないんだが?」
「じゃあ俺を見張っとけばいいだろ?とりあえず、ほかのやつらはさっきの部屋で、休むなりなんなりすればいい。」
「見張ったところでお前に本気を出されれば終わりなんだが?」
「傀儡と光、二人を相手にはできねえよ」
先ほどからずっと手をあたまの後ろに置いてるアスティアを見て、ひとまず光はアスティアを離した。
「とりあえず、蒼が起きるまでは休憩だな。」
そういったアスティアに光は警戒の色を残したまま部屋を出ていく。
「見張りはいいのか?」
「さっきから勝てないって言ってるだろ」
光についていくようにみんな部屋を出ていく。
最後に俺が部屋から出たとき、その部屋は本当の意味で空っぽの部屋になった。
☆——
「ここは?」
目が覚めたら、世界が真っ白になっていた。
「さっきまで、なにもないちいさなへやにいたはず、、」
独りごとが漏れるほどにこの場所はさっきの場所とは違った。
どこまでも広がっていそうな真っ白い空間。
距離感もわからなくなってしまいそうな場所。
見える範囲には何もない。
そのはずなのに、
「始めまして」
火との声が聞こえた。
おもむろに振り返る。
そこにはきれいな女性がいた。
緑色の髪と目はそれが作りものではないと思わせるように違和感がなく、その表情は優しさであふれていた。
「そんな警戒しなくていいのに」
そういった女性の声はとてもやさしく、いつまでも聞いていたいと思えるような、そんな癒しが含まれた声だった。
「ここはどこなんですか?」
「あなたの頭の中と言ったらいいかしら?」
頭の中といわれても実感が湧かない。
「夢みたいなものということですか?」
「そうね。そうとらえればいいわ」
「じゃああなたは私が作り出した幻影?」
夢の中で、知らない人と話すことは、何度か経験にあると思う。
「それは違うわね。まあ、私は肉体のない、意識の残りみたいなものね
難しかったら、夢に出てくるあなたに力を与える魔法使いって思ってもらえばいいわ」
「力?」
「そう。あなたに力をあげるわ。あと、助言もね」
「どんな力?」
「みんなを無条件に癒せる力よ」
「みんなの役に立てる!?」
彼女の言葉に、少しがっついてしまった。
「そうよ。ケガも一瞬で治るし、不治の病だって、癒せる力」
「それをいまからくれるんですか?」
「今すぐ上げたいのはやまやまなんだけど、まだあなたには器が足りないわ」
「今の私には有り余る力だってことですか?」
「理解が速くて助かるわ。資格はあるから器さえあればいつでもあげることができる。
だから、あなたの器ができるまで、あなたのなかで見守ってるわね」
彼女がそう言うと、白い世界の端から闇が迫り始めた。
得体のしれない闇に恐怖が生まれる。
「怖がらないで。大丈夫。あの闇は寝るときに訪れる闇と同じよ」
そうはいっても怖いものは怖い。世界がどんどん狭まっていく。
「目覚めるだけ。安心して起きなさい」
恐怖で目をつむる。しかし何も起きない。
気が付くと、みんなの声が聞こえてきた。
ゆっくりと目を開けると、みんなが私を不安そうに見ている。
私が目を開けたのを確認すると、ほっとしたように表情をほころばせた。
ここまで見てくださった方。ありがとうございます。
遅すぎる更新頻度、どうにかこうにかならないかと頑張っています。
できれば待っててくれると嬉しいです。