第二話 力の強さと使い方
その勇者ー少女はとても整った顔立ちのかわいい少女だった。
ステータスもついでに確認しておく。
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名前:愛結 蒼
年齢:17歳
職業:聖女
クラス:勇者(kingdom)
レベル:1
レベル上限:99
ステータス
HP:500
MP:700
生命力:700
筋力:300
魔力:800
守備力:300
魔法守備力:600
精神力:800
瞬発力:300
魔力属性
生、聖
ジョブスキル:聖なる者
生魔法使用時の効果補正
クラススキル:英雄
ステータスの大幅強化、更に成長率が大幅に上昇する。
スキル:ジャッジメント
他人の悪意を読み取ることができる。
また自身を含めた味方への攻撃を、MPを使い退ける。
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見たところ回復系だろうか。ステータスも高く、光に続く二人目の聖属性保持者だった。
何となくだが、個人が持っているスキルはその人の性格に依存しているような気がする。愛結 蒼という名前とスキルのジャッジメントから、とても優しそうな印象を受ける。
気づけばエリシアが周りの騎士にたしなめられて、捲し立てている所を止められていた。
「すみません少し取り乱してしまいました。早速訓練と行きたいところですが、まずあなたたちにそれぞれの装備を進呈したいと思いますのでついてきてください。それと、私のことはエリシアと呼んでください。硬いのはあまり好きではありませんから。」
エリシアはそう言うとみんなを案内し始めた。
☆――
俺たちは白いレンガで造られた巨大な倉庫に案内された。扉が開け放たれると涼しい風が中から吹いてきた。真っ暗でジメジメしていそうなところだが、もしかすると外より快適かもしれない。
「ライト」
エリシアがそう言うと壁に取り付けられたランタンのようなものに一斉に光が灯り、中が見えるようになった。
見るとそこにはいろいろな武器や防具その他小瓶など、様々なものが所狭しと並んだ棚に鎮座している。
「ここはこの国に古くからあるオーパーツと呼ばれる武具を集めた倉庫です。ちなみにオーパーツとは現在の技術では再現不可能な武具その他アイテムのことです。ここにある武具で君たちに合った好きなものを持っていってください」
皆は恐る恐る中に入っていく。棚は大まかに区分分けされており、武器、防具、その他といったように分けられていた。
初めは静かだった空間だが、男子は武器を、女子は防具を見てはしゃぎ始めていた。
防具といっても鎧やローブといった、日常生活であまり着ないようなものだけでなく、普段着となんら変わらない防具もあるようだ。
俺も何かないかと探していると、俺のいつもの普段着と似ているようなセットを発見した。黒のジーパンに、白いシャツ。そして黒いフードつきの外套。
白いシャツは袖が黒く、外套はもはやコートといってもいいような大きさだが、無い物ねだりしても仕方ない。
黒と白で地味なのがとても落ち着く。
防具は見つかったので武器を探しに行こうとして、エリシアさんに話しかけられた。
「そんな地味なのでいいのですか?」
不思議なものを見るようにまじまじと此方を見ている。
「あなたたちくらいの年ごろだともっと派手なものを選ぶかと思ったのですが」
「俺が地味なものが好きなだけですよ」
そういうと突然エリシアさんが怒り始めた。
「硬いのは苦手だといったでしょう。その様子だと私を呼ぶときに敬称で呼びかねません。以後気を付けてください」
「一番硬いのはエリシアさ、、」
「さんを付けない!」
さんを付けて怒られたのは初めてだ。
「それに、今私がこの話し方をしているのは当たり前です。今私はあなたたちの教師なのですから」
「親しき仲にも礼儀ありってことか」
何気なく呟いたことわざにエリシアが一瞬キョトンとなり少し悩んだ後、おもむろに口を開いた。
「その言葉がだれのものかはわかりませんが、意味なら大体わかりました。そういうことです」
「それじゃあなおさらエリシアには敬語を使わないといけないのでは」
「私がいやだと言っているのに敬語を使うのはマナー違反ではないのですか」
エリシアが露骨に圧力をかけてくる。
「わかったよ。もう敬語は絶対使わない」
「最初からそういえばいいのです」
そういうとエリシアは上機嫌のまま立ち去って行こうとして、突然急旋回また俺の所に戻ってきた。
「忘れていました。一緒にあなたの武器を探してあげようと思っていたのでした」
「なんで俺だけ?」
わざわざ俺だけのために来たのかと思って聞いていると、
「別にあなただけではありません。即決していない人たちには全員に声をかけていますよ」
「声をかけてるってことは俺の前に何人かいたってことだな」
何人かには声をかけているらしい。3人くらいかと思いながらよろしくお願いしますというと、
「ちなみに、武器が決まってないのはあなただけです」
と、想定外の返事をもらった。
そんなやり取りをしながらもエリシアと一緒に武器を見ていると目に留まる武器があった。
何の変哲もない白い立方体。強いて言えばルービックキューブのような溝があった。
大きさは一辺約10cmだろう。
俺がこれに興味をひかれているとわかるとエリシアは少し困った顔をして、
「本当にそれでいいのですか?魔力を消費するので魔法使いにはあまり向かないものですが」
詳しく聞くと、この正方形は、魔力で極限まで圧縮されてるそうで、使うときは27個の正方形にわかれるそうだ。
大きさも一つが一辺50cmになるそうで、それが自分を取り巻くように展開されるようだ。
展開しているときは常に微量のMPが消費され、さらにMPを消費することによって、自分の好きな形の色の武器に変形させることができるようだ。
一つ気になったことがあったので質問してみた。
「魔力によって圧縮されているのなら、どこから魔力の供給を?」
「これは今の技術力では解析できないオーパーツ。その機構がわかっているのであれば、オーパーツとは呼ばれません」
と教えてくれた。
「それとその武器は使用者の魔力により、その性質を変えます。火属性であれば炎の塊に、水属性の場合、水の塊になります。まあ、属性に関しては無属性のあなたに関係のない話ではありますが」
とりあえず、装備はこの2つをもらておくとして、俺は訓練場に戻った。
☆――
エリシアがみんなが倉庫から帰って来たことを確認し、口を開く。
「訓練を皆さんに少しでも早く受けていただきたいと思っていますがその前に、ステータスについて詳しくお伝えしたいと思います」
エリシアの説明が長かったので要点だけ説明すると、
1つ目HPについて。これは自身の命の強さでこれは物的外傷により減少しHPがゼロになると死に至るとのこと。ただ、HPが0になる=即死というわけではないらしい。
二つ目MP。これは自身が体内に貯め置くことのできるMPの量を表したもの。
MP事態に魔法の強さを決める関係はないため、量が多ければ魔法がいっぱい撃てるという認識でいいだろう。
3つ目生命力。これはHPとは違い自身の自然治癒能力、致命傷を追ったときのHPの減る速度、
毒への抵抗、そして出血時のHPの減少に関係しているようで、これは高ければ高いほど死ににくくなる。
3つ目筋力。物理攻撃が強くなるだけでなく、走るスピード、運動時の疲労感など、筋肉全般にかかわりがある数値。
5つ目魔力。高ければ高いほど、魔法を撃つ時のMPの消費量が少なくて済む。つまりMP効率を表したもの。
6つ目守備力。生物全般が持っているという薄い障壁の強度のことだそうで、こればっかりは説明を聞いただけではしっくりこなかった人も多いようで、エリシアが実演してくれたのだが、本当に剣がエリシアにあたっても傷一つ付かなかった。
7つ目魔法守備力。これは守備力の魔法版のようだ。
8つ目精神力。これはMPが切れたときの倦怠感、そして精神攻撃に関係している。疲労などもこの数値が高ければごまかせる。
9つ目敏捷力。瞬間的な筋力の使用に関係している。高ければ、ステップや剣の振り抜きが早くなる。
これがステータスに関する要点だ。
「訓練所は職業ごとに分かれていますので皆さんはそれぞれの場所に移動してください」
そう言われて俺たちは、まだ少し残る困惑とともに、それぞれの場所へと移動した。
☆――
今俺たちは魔法職専用の訓練場に来ている。
魔術師ということになっている俺は王国騎士団に所属する魔術師から魔法の扱い方について学んだ。
魔法を使うこと自体は簡単で、したいことをイメージすれば、その属性の魔法ができることは何でもできるようだ。
俺の闇属性は少し特別で、生物の脳などに干渉できる属性らしい。勇者たちが持っている光の属性もそうだ。
ただ、イメージといってもぼんやりとしたものではなく、はっきりとしたものを持つ必要がある。さらに、魔法が暴走しないように制御することも同時に必要で、それを助けるために詠唱という定型文を唱える。
基本的に頭を使う職業が魔法職だそうだ。自由に頭を使う。その土台を築くために最初にやる訓練が精神統一。
訓練の内容はとっても簡単。ただただひたすら頭で様々な立体を瞬時にたくさん思い浮かべるだけ。だけなのだが、、。
思っていたのとだいぶ違う。思ってたんと違う!
中世ヨーロッパ風の異世界で、誰が座禅で訓練すると予想できただろうか。
誰もできないだろ。一時間くらいずっと座って静かな空間に何もせずに立体を思い浮かべる。これがニートかと一瞬本気でそんなことを考えが頭をよぎる。
ひたすらに立体を頭に思い浮かべるのはただの苦行。とそんな所で今日の訓練は終了というところだった。
体が痛い。それはもうバッキバキで、一緒に訓練を受けた人の中には足がしびれて倒れていたり、悲惨な状況になっていた。
さっさと帰ろう。そう思っていいたところを魔術師の人に止められた。
なんでもエリシアから言伝があったらしく、次の訓練からエリシアのところに行くように言われた。何か引っかかるいやな予想をを感じながら俺はとりあえず「わかりました」とだけ言って食堂に向かった。
もう夕暮れ時。おそらく料理が用意されているんじゃないだろうか。
美味しい匂いがしていることだし。美味しそうではない。美味しい匂いである。
これは絶対うまい。
そんなことはどうでもいいんだ。とにかく俺でも食欲には勝てず食堂へ一直線で向かった。
☆――
そこまできつくなかったな。そう思っていた時期が私にもありました。
そんなテンプレセリフが聞こえてくるほど素晴らしく忙しくなった。
エリシアのところに行くとそこには剣を地面に突き立て仁王立ちしているエリシアがいた。
「それではさっそくはじめましょうか。あなたの武器を取りなさい」
突然のことに唖然とする俺をよそにエリシアはさらに言葉を重ねる。
「まずは基本から行きましょう。やり方を言うのでその通りに構えてください」
いまだに動き出せずに思考停止状態の俺をエリシアは思いっきりぶっ叩くと今まで見せたことのない鬼のような形相で怒鳴り散らす。
「さっさとしてください!なんですか?やる気がないんですか?!」
その時俺は二つのことを理解した。一つはとんでもないところに来てしまったということ。
もう一つは、エリシアが極度のスパルタだということを。
☆――
一度エリシアに落ち着いてもらうために頑張ってみたのだが、一度火がつけばどうしようもないタイプなのか、一向に止まる気配がなかったので、時間を置くこと一時間。
「すみません。またしても取り乱してしまいました」
とりあえずエリシアさんがこちらに帰ってきた。
「それでは改めて基本について教えましょう。まずは剣の持ち方ですが、、、。」
それから基本を教え込まれた。
「持ち方が違います!!」
「姿勢がおかしい!!」
「振り方がぶれている!!」
「力がこもってない!!」
そんなこんなでに時間が経過した頃にエリシアがとんでもないことを言い始めた。
「それでは実践です。私にかかってきなさい」
「いきなりそんなこと言われても無理だって二時間ちょっと剣の基本を学んだくらいで、、」
先ほど剣を握ったばかりのひよっ子。何ができるというのか。しかし、エリシアになるほどと言えるような答えをもらった。
「実践がもっとも体に叩き込めます。それに、理解していなければいけないので効率のいい復習にもなります」
そうして、俺が納得したところに笑顔で、
「ではやりましょう」
と、輝きを振りまきつつ言ってくる。というか迫ってきた。そのまま剣を振り上げ一太刀。
危険を感じて横に跳んでいたのが俺の命をつなぎ留める。だって、剣が当たった地面クレーターになってるし。
「ちゃんと身についてるじゃないですか!どんどん行きましょう!」
そんな俺の心境お構いなしなエリシアに俺は声を荒げた。
「へ~るぷみ~~~っ!!」
☆――
とりあえずその後何が起こったかだけ伝えたいと思う。
暴走したエリシアと剣を打ち合い続けていたのだが、エリシアが毎度毎度生命的に致命傷な攻撃を木刀で易々としてくるものだから、俺のHPはたとえ剣で受けたとしても低下し続け、ついに俺が感覚的にやばいと思ったタイミングでエリシアに本当のステータスを開示、したのだが、エリシアの木刀が止まりきらず、直撃。
残っていた俺のHPを消し飛ばした。らしい。俺はHPが消し飛ぶ直前に気を失い気づけば医務室のベッドの上。目を開けるとエリシアが隣で心配そうな顔をして待っていた。
「本当にごめんなさい。最初あなたのステータスを見たときはもうちょっと高いと思っていたのですが、勘違いしていたようです」
エリシアはかなり萎れていた。
「いいんですよ。僕が隠していたのが原因ですし」
そういうとエリシアが驚きに一瞬停止。しかしすぐに気を持ち直し、
「親しくしてくださいとは言いましたが、あまり大人をからかうものではありませんよ」
と冗談だと思い込んだみたいなので俺はエリシアにありのままのステータスを伝えたのだった。
「え、、な、それ、、どう、、うそぉ」
と見事に動揺して焦る。
俺がステータスを隠していたことよりもMPだけがとても膨大だったことに放心状態で固まっているらしい。
俺が声をかけても反応しないので、そのままにしておいた。一時間くらいそのままで固まっているエリシアがとてもシュールだった。
☆——
訓練という名のシゴキか始まって今日で一ヶ月経った今。
俺はまだ訓練で、エリシアに一撃すらも入れることをかなわず、悪戦苦闘する日々が続いている。
最近知ったのだが、自分の身体能力をMPを使うことにより強化することができる。
これを使って俺はエリシアと訓練をすることになった。しかしこれにはかなり重大な欠点がある。MP効率が非常に悪い。
だから基本この方法は使われず、ステータス強化のスキルを持った人はかなりの高待遇を受けることができるらしい。
しかしデメリットはあくまでMPが常人と同じ値だった場合のみ。俺みたいなMPモンスターであれば話は別だ。
そうはいっても全ステータスを100引き上げても1分しか持たないが。
そんなこんなで本当のステータスを見せたらそういうことができると発覚して、次の日から訓練の過激さが増したの必然で、、。今も絶賛訓練中なわけだが、、、。
「ほらほらどうしました?動きが遅いですよ!」
「そんなこと言われても、、これが、。限界だって!」
「そんなことはありません!まだけるはずです!さあ、さあ!」
まさに死にかけ真っ最中でもあった
「待って。ほんとに、、そろそろ。MPがまずい。」
そういうとエリシアはしぶしぶ引き下がる。
「仕方ありません。そろそろ休憩しますか」
今まで訓練中だった張りつめた空気が一気に緩んでいく。日に日に緊張度が増していく気がして、いつか本当に死ぬのではないかとそんな恐怖があった。
「にしても傀儡はすごいです」
「どうして?」
「だってこんなきつい訓練にも耐えているじゃないですか」
きついって自分でも思っているならもうちょっと優しくしてくれてもいいのでは?
「死ぬかもって恐怖が付きまとってるんですが、もう少しどうにかできないの?」
「それを感じることも訓練の一環です。いざという時に死の恐怖に足がすくめば、待ているのは本当の死ですから」
「それより、こんなに俺につきっきりで大丈夫?もっと自分の仕事とか、ほかの皆の面倒とか」
「自分の任務は今のところみなさんをサポートすることです。ほかの皆さんのところにも言っていますし、あなたにつきっきりなのは、あなたが一番危なっかしいからです」
相変わらずエリシアは皆のことを考えている。本当にやさしい人だ。
「ちなみに、危なっかしいってどういうこと?」
「魔法の属性も戦闘向きでなく、スキルも使えない。初めはそんなあなたを線上に立たせるのは危険だと思い、私と訓練することによって、自分から折れてくれることを待っていました」
エリシアがぽつぽつと言葉を漏らす。
「でも、私に打ちのめされた後でも、あなたはあきらめなかった。だから私はあなたをサポートしようと思ったのです」
違う。俺はあきらめなかったんじゃない。ただ言われたことをやろうとしただけ。何の考えもなく。でもそんなことを言えば、エリシアに悪いと思い口を噤む。
「話は変わりますが傀儡、あなたに言っておきたいことがあります。もうしばらくしたら、近くのダンジョンに遠征に行こうかと思っています。そこで皆さんに初めての実戦を経験してもらおうかと思っています」
「なぜ俺にだけ先に言ったの?別にみんなと同じタイミングでもいいと思うけど」
「傀儡はステータスがとても低いからです。先ほども言ったでしょう。危なっかしいと。特に実戦では何が起こるかわからないのですから。」
確かに否定できない。練習ではうまくいっても、本番でのイレギュラーによる事故はどうしても発生してしまうものだ。
「というわけであなただけは私が指定したパーティーに入ってもらいます。」
「パーティーっていうと、複数人一組で行くってこと?」
「正確には四人一組です。本当であれば、仲の良い者同士で自由にパーティーを組むのが一番なのですが」
「俺が危ないからがっちり固めると」
「そういうことです」
そこまで心配してもらうとさすがに申し訳なくなってくる。これはどうしても強くならないといけないな。
「さて。時間も経ちましたのでそろそろ再開しますか。MPは回復してないでしょうから、私も手加減しますから」
またしてもにこにこしながら言ってくる。どうやら地獄はまだ続くらしい。
☆――
そのあと食堂で、エリシアが遠征の発表をしその日は幕を閉じた。光に誘われたり、希望から闇のオーラを感じ取ったり、いろいろあったりしたが、何事もなく訓練は続きついに演習当日というところまでやってきた。
「これから行われるのは訓練ではなく実践、すなわち現実です。皆さん気を引き締めてそのことを忘れないように」
エリシアの声が響く。彼女の言葉には人を引き付ける何かがあるようだ。場の空気が一気に引き締まる。
「それでは行きましょう」
俺たちは馬車に乗り込んだ。
まだ書き溜め分です。
週一ペースでの投稿を目指しますので応援ください。




