第一話 世界のルール
授業が終わって家に帰る。一応部活は野球部には入っているが、コーチがインフルエンザで休んでいるため自主練になっている。
インドア派の俺は自主練なんかには参加しない。
イレギュラーな事態にそれは重なるもので後ろから突然声をかけられた。
「なあ、一緒に帰んない?」
「もしかして俺に言ってる?」
「他に誰がいるんだよ」
俺に声をかけたのは、いつも俺と趣味の話で盛り上がれる数少ない友人。
名前は「白井 光」(しろい ひかる)俺は光と話す時仮面はかぶるが人形にはならない。本心は隠すが自分の意思で好きなように話せる相手で少しばかり休憩みたいな感じの友人。
「いや、いつものように1人で喋ってるのかなーって」
「それただの狂人じゃねーか!」
「それにしても、お前から帰ろうとか珍しいな。いや、はじめてか」
「お前が可愛そうだったからさそってやったんだろーが」
「ひっパテでも帰るって?」
「ああ、そうだよだからいっしょに、、、」
「いやって言ったらどうするよ」
「その時は再起不能にしてでも帰るよ」
「引っ張って行くってそういうことじゃないよな」
こんな感じでいつもふざけまくっている。いつもは喋らない俺だが光と話すときだけはとても楽しくつい卿が乗ってしまう。
「とにかく帰ろうぜ。傀儡」
「ああ、そうだな」
俺は、「宿木 傀儡」は、そう答えた。突如、謎の光に包まれ俺の視界はブラックアウトした。やっぱり異常事態は続くのだろう。
☆ーー
俺が次に見たものは知らない天井だった。すぐさま起き上がり周りを確認してみたところ、クラスのみんなが周りにころがっている。
俺と同じように起き上がり不安そうにしている生徒もちらほらいる。
しかし周りの生徒を気にするよりも先に考えなければいけないことがある。
俺達がどこにいるか、ということだ。周りを見回してみたが雰囲気がどことなく古臭く、全体的に西洋の雰囲気の作りでとても広い。
少なくとも学校の近くではないだろう。
そんなふうに周りを観察していると、この部屋の唯一のドアから日本では見ないような服を着た人が複数名入ってきた。
入ってきた人はほとんどが中世の騎士の甲冑のようなものを着込み、若干名は祭祀服のようなものを着ている。
その中で一際派手な服や装飾品を身につけている人が集団の中心から顔を出す。おそらくこの集団の中心であろう。
俺が周りを確認している間にみんな起きてだしていたようだ。それを確認してか中心にいた男は
「ようこそ!勇者とその御一行さま!」
と、大きな声言い放った。
突然の言葉にみんな唖然としている。誰一人状況を呑み込めていない。
俺達の中から一人がこえをあげた。
「ここはどこなんですか。なぜここに連れてきたのですか。場合によっては訴えますが。これは誘拐と同じですよ。」
声を上げたのはクラスのリーダーの「暁 希望」(あかつき のぞむ)希望と書いてのぞむと読むらしい。
それを知らず初めてあった時にきぼうくんとかいっちゃって若干気まずい空気になった。
今この状況で質問を考え出すくらいに冷静なのは流石と言える。
「まずは名乗らなければなりますまい。私はガスティア国の王。
名をアズ・ガスティア=バルバロスといいます。以後お見知りおきを。私のことはガスティアとお呼びくだされ」
そう名乗ったガスティアに対し希望は
「ふざけるのもいい加減にしてください!
ガスティア国なんて見たことも聞いたこともありません!もういいです。警察に通報します!」
そういって携帯を取り出した希望は 直後驚きの表情と共に少し震えるような笑いをこらえるような声で言った。
「なるほど、、ここはどこかの地下空間なのですね?ここまでして一体俺達に何をさせようって言うんですか!」
ここに来て皆ようやく思考を取り戻し始め、そして今の状況を理解し畏懼し始めた。。
「何させるかという問いですが簡潔に言うと魔王を倒して欲しいのです」
ガスティアのその答えにみんなが恐怖も忘れて憤然する。みんな口々に「ここから出せ!」と口々に喚き立てた。
俺はその間ずっと観察していた。ガスティアの言葉に嘘はないようだがどことなく胡散臭い。
ただここがガスティア国とか言うところなのは間違いなさそうだ。
誘拐にしては共犯者が多すぎる。こんなに人数がいては確実に足がつく。
さらにガスティアは魔王とか言っていた。
ここから導き出される答えはひとつ。
「つまりガスティアさんが俺たちをここに召喚したわけだな」
俺が言おうとしていたことを代わりに光が言ってくれた。瞬間、時が止まったこのように深閑とする。
「何言ってんだ光アニメの見すぎで頭おかしくなったのか?」
煽るようにそういったのはクラスのカーストランク上位の「秦着 龍志」(はたぎ りゅうじ)こいつはいつも俺たちカースト下位組に何かと突っかかってくる。
「そうよそんなわけないって。パニックになったからって私たちまで君の妄想に巻き込まないで!」
細くもしっかりとした声を出して龍志に同調したのは同じくカースト上位の「立華 彩乃」(たちばな あやの)声、容姿共に完璧と十人中十人口を揃えて言うだろう。
うちのクラスの男子は満場一致でいちばんかわいいというようだ。まあ俺は思わないけど。
べつに女に興味がないとか、変な趣味があるわけではない。ただ彼女は俺と同じように仮面をかぶっている。
俺のように自己防衛ではなく人を陥れるための仮面。1度彼女は俺の目の前で仮面を外したことがある。
その時に彼女は「似たもの同士仲良くしましょ」といってきた。
おっと、今はそんなこと考える余裕はなかった。
「分かりました。あなたがたは証拠がないため召喚されたと信じれないということですな」
そういうとガスティアはおもむろに「オープン」と一言呟いた。
突然謎のウィンドウが現れる。
「皆様、このようにしてくだされ」
みんながそれを見た途端またしても静寂が訪れる。
どこからともなくオープンという声が聞こえた。それをきっかけに一斉にオープンという声が上がり始めた。
みんな半信半疑といったところだったが、目の前にウィンドウが現れるや否や、顔色を変えた。
顔を青くする者、赤くする者。だがいずれにしろ、みんなから感じられる共通の感情は恐らく絶望だろう。
「オープン」
俺もそう言うと目の前にウインドウが現れた。そこ書かれていたのは、まるでゲームのようなステータスウィンドウだった。
現れた自分のステータスにはこのように書かれていた。
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名前:宿木傀儡
年齢:17歳
職業:管理者
クラス:傀儡
レベル:1
レベル上限:30
ステータス
HP:100
MP:99999
生命力:100
筋力:50
魔力:200
守備力:20
魔法守備力:50
精神力:100
瞬発力:20
魔力属性
闇、無
スキル
クラススキル:マリオネット
使用時、すべての身体的動きを模倣、
または、自身の体を完璧にコントロールする。
:傀儡
ジョブスキルの使用不可、及びステータスの大幅低下
スキル :観察
観察対象のステータスやスキル、思考を把握、
更に観察者の動きを先読みすることが可能。
(ただし、思考、意思を持たない生物、非生物に対しては
ステータスとスキルのみ表示)
:仮面
闇属性魔法の幻惑、隠蔽効果補正。精神攻撃無効。
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なるほど、これを見せられれば、異世界だと信じるほかないだろうからみんなは絶望したのか。
だがまだ俺もまだ少し信じることができない。
俺はこのスキルというのを使ってみることにした。
と、思ったが発動の仕方がわからない。とりあえず頭の中で観察と念じてみた。
すると目の前にまるでシューティングゲームのレティクルのようなものが出てきた。俺が首を振ってもずっと真ん中で固定されている。
その間、周りの人間が照準に当たるとその人のステータスとスキルが左端に、その人の思考が右端にログのように表示された。
というか今すごいものを見てしまった。なんと、みんなのステータスが全員どんなに低くても400超えだ。平均でだいたい500くらいある。
ちなみにカースト上位組はステータス平均600程。スキルも強力なものばかりでみんなはなかなかに無敵だった。
しかし、そんなことに興味を示している余裕は周りには無いようで、「受け入れなければいけないでも受け入れたくない」と錯乱している。
ただ、立花彩乃だけが歓喜していた。
ちなみに、光は一番勇者にふさわしい気がした。聖属性の誰も持っていない属性を光だけ持っていた。
少し経ってガスティア王が、
「勇者様たちのために御馳走を用意して待っておりますので、まずそこで詳しい話をいたしましょう」
皆不安がりながらもただ言われた通りにすることしかできず広間をあとにした。
☆ーー
今俺たちは1000人は入りそうな食堂で大理石の大きな長机の前に座っていた。
「で、なぜ私たちを呼んだのか詳しく説明していただきましょうか」
希望は敬語で話してはいる物の、無愛想で不満を隠そうともしない。
「もちろんそのつもりですが、それよりもまずこの世界のことから話しましょう」
ガスティアは特に気にした様子もなくこの世界について話し始めた。
「まず初めにこの世界はエルダーマティアと名づけられ、他の世界と差別化しております。もっとも日常会話では頻繁に使わない形だけのものですがな。記憶の片隅にとどめておく程度でよろしいかと」
「そんなことは聞いてないです。それよりもまず私たちを呼んだ理由を教えてください」
希望から苛立ちの雰囲気が漏れ始める。
「もう少し待ってはいただけないでしょうか。この世界についての大前提を離していますゆえ。そののちしっかりとお話しいたしますので」
希望は気に入らなそうに口を閉じた。
「ありがとうございます。皆様が不安になるのももっともでございます。しっかりと説明させていただきたいのでもうしばらくお待ちください」
そういうとガスティアは先ほどのステータスについて話し始めた。
「この世界では自身の強さはステータスという数値で表されます。
この数値は高ければ高いほど優れているということです。
次にスキルですが、これは、ジョブスキル、クラススキル、そしてスキルの3つに分類されます。基本的にそれぞれで一個づつです。ただし、例外もあります。
まあその話は良いでしょう。
次に魔法ですが、これは個人の魔力の属性を扱い行使する力です。
つまり、自身の体に流れる魔力の属性しか扱えないということです。
また、同時に複数の属性を使える人は魔力を生み出す器官が複数あるということになります。
つぎにできることですが、属性ごとの特性を逸脱することがなければ何でもできます。
今確認できている魔法の属性は、火、水、風、土、闇、光、聖、生、無があります。
ここまでで質問がある方はいらっしゃいますかな?」
「はい、このステータスの数値は身体的にどのように影響するのでしょうか?」
光がした質問にガスティアは、
「それは後日王国騎士団長に聞くと良いでしょう。」
と、今は説明しなかった。
「他に質問はないですかな?では皆さんお腹が空いたでしょう。存分に堪能ください。」
ガスティアがそう言うと大量の料理が運ばれてきた。なるほど、たしかに美味しそうだ。
皆料理に目が釘付けだ。
俺は料理を知り目に、ガスティアを「観察」した。
ERROR ステータスを読み取れません。
(今はとりあえずこんなものか。)
思考は読み取れたものの、ステータスが全く読み取れなかった。まだ今は観察しておくことにしよう。
その後俺は、運ばれてきた料理を周りの皆と同じように楽しそうに食べた。
味は現代の高いグランドとか付きそうなホテルのレストランと同じくらいだと思う。普通に美味しかった。
☆――
皆が食べ終わった頃にガスティアが、
「それで魔王討伐の件、どうでしょう。受けていただく気になりましたか?」
と皆に質問した。俺は依然ガスティアを「観察」している。
希望が言った。
「どちらにしろ今は帰れないんだし、しょうがないですがやるしかないでしょう。
みなさんも、文句ないですよね。」
皆が首を縦に振った。今の希望の言葉には妙な説得力があった。スキルでも使ったのかもしれない。
皆が首を揃えて縦に振ったのを見てガスティアが、
「皆さんありがとうございます。これで我々も助かります。」
といった。
そのあいだガスティアは
(結果はまあまあだな。)
などと考えていた。
ついでに希望も「観察」して見た。
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名前:暁希望
年齢:17歳
職業:パラディン
クラス:勇者(kingdom)
レベル:1
レベル上限:99
ステータス
HP:700
MP:500
生命力:700
筋力:500
魔力:500
守備力:800
魔法守備力:700
精神力:600
瞬発力:400
魔力属性
光、火
ジョブスキル:絶対領域(LV.1)
自身の周辺3メートルに防御結界を展開する。
クラススキル:英雄
ステータスの大幅強化、更に成長率が大幅上昇に上昇する。
スキル:スーパースター
自身の存在感の上昇。更に自身の発言力の上昇。
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(このスーパースターという力、、。すごいぞ。フフ、僕はこれで皆を想いのままにできる。やったぞ!ハッハッハッハッ!)
驚いた。
希望がゲスとか初めて聞いたぞ。
「とにかく今日はお疲れでしょう。部屋も用意させてありますのでどうぞごゆっくりお休みください。」
ガスティアがそう言うと同時に、周りにいた侍女が動き出し俺たちをそれぞれの部屋に案内した。そうして用意された部屋を見ると、確かに王城らしいとても豪華な部屋になっていた。
俺は今日あったことを振り返った。
俺たちが召喚された理由は魔王を討伐することと言っていたが本当にそうなのだろうか?それに、今気がついたが、もしかしたら他にも同時に召喚された人がいるかも知れない。
それに俺のスキルとステータス。ステータスは弱いが、スキルとMPだけが異常に強い。
これも気付かれないようにしなければ。
とにかく今は突然環境が変わってストレスがかなりかかっているかもしれない。これらのことは明日考えよう。
そうして俺はベッドに飛び込むと、今日の疲れを癒やして明日に備えようと眠りについた。
一握りの不安と期待を胸に。
☆――
次の日、俺たちは騎士団訓練場に集められていた。眼の前には甲冑を着た身長の高い青髪で碧眼のヨーロパ風のきれいな女性が立っていた。
「今日からあなたあなたたちの監視役になった王国騎士団長のエリシアですです。
今日は君たちの戦闘適性を見させてもらおうと思っています。よろしくおねがいします」
そう言ってエリシアはきれいな笑みを浮かべた。
「じゃあ一列に並んでステータスを見せてください見せてください」
みんなが一列に並び、一斉にステータスを表示させる。俺も表示させ、待機しようとして一瞬思いとどまった。
俺はスキルが周りと違いすぎ、同じ職業も見かけず。何より、MPが異常に高い。
俺はその性格上目立つことを嫌う。どうにかして隠すことはできないか。
そう考えていると、ふと、ステータスが周りと比べて平均的に変化した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:宿木傀儡
年齢:17歳
職業:魔術師
クラス:傀儡
レベル:1
レベル上限:70
ステータス
HP:500
MP:600
生命力:400
筋力:400
魔力:500
守備力:200
魔法守備力:500
精神力:300
瞬発力:200
魔力属性
闇、無
スキル
クラススキル:傀儡
ジョブスキルの使用不可
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確かに平均的なステータスなのだが、スキルがほとんどなくなっている。
ただ、そのおかげで目立つのを回避できた。
エリシアさんが過ぎるとステータスが戻り、
MPの右側にに「/」がついてその隣に残りのMPだと思われるものが表示されている。
つまり今俺は魔法を使ったことになるのだろう。
(後で聞いた話だが、エリシアさんの観察眼はすさまじく、並みの隠蔽魔法では速攻で気づかれるそうだ。)
「皆さんはとても優秀なようですねですね。この世界の人たちの平均値を大きく上回っていますます!」
エリシアさんは興奮が抑えられないのか、畳み掛ける。
「何よりこの国に今五人の勇者が同時に存在していることが今でも信じられない!!」
そこで俺は違和感を感じた。最初に観察を使ったときに全員のステータスを確認したはずだったのだが。
その時は勇者は四人だったはず。気になったので『観察』を使って探してみることにした。周囲を見渡してもそれらしき人物はいない。
隅から隅までくまなく探すこと三十秒。隅っこにちょこんと立っているのを見つけた。
前回見たときには見かけなかった顔だ。
俺はまだ知らなかった。その勇者ー少女との出会いが俺の人生を一転させるということに。
今回はまだ書き溜めの分ですので、早めに更新できましたが、それが尽きれば遅くなると思います。
精一杯頑張らせていただきますのでよろしくお願いします。




