第十二話 友達と誕生日
会話もそこそこに街を出た俺たちはアスティアとクロロムに今後の計画を聞いていた。
「まあこのまま北に向けて歩き続けりゃつくわけだが、そうもいかねえだろ?」
「そうですね。私としてもそうしたいのはやまやまなのですが、、、。」
そこで二人は口を噤む。
「何か問題があるってこと?」
彩乃が訪れた静寂に待ったをかけた。
「ああ。しかも追っ手よりも厄介だな」
一体何が問題なのか。その疑問をクロロムが答えてくれた。
「神聖皇国エルギデス、人間領と魔人領その境目に位置する強大な国です。」
「もともと俺たちのいた国とは仲が悪くてな、俺たちは勇者の召喚をよしとしたが、あそこは召喚に否定的だったんだよ」
そういってアスティアは懐から一冊の本を取り出した。
「どっからその本出したの⁉」
「その話は後だ」
光がアスティアの話を遮りそうになったがアスティアはそのまま続ける。
「これが奴らが聖書と言っているものなんだが、教義が表紙に書いてあるんだ」
~我々の世界は我々に与えられし物 この世で生を授からざる異邦人を許すべからず~
「つまり、この世界の外から来たものを全力で排除しようとするんだ」
「別に名乗らなきゃいいだけだろ?」
光がごもっとな突っ込みをいれるが、彼は残念とでもいうように首を横に振る。
「奴らには、通るだけでステータスがわかる門状のオーパーツがある。入り口のどこにでも設置されてるから、まず街には入れない」
「周りを迂回してって言っても、領地の境目じゃあ警備が厳しいってことか、、、」
妙案を思いついたといった顔をした光も、自分の案が非現実的だとすぐに気づいた。
まさに八方ふさがりとでもいったように重たい空気が流れ、、、、
「ステータスも見れて警備も厳重ならあなたはどうやってこっちに来たの?」
とクロロムを見ながらつぶやいた。
「それなら、、、」
そういった彼はおもむろに棒立ちになると、突然消えた。
ようにみえたが、彼の足元に現れた一匹の猫が
「こういうことです」
というと蒼以外は納得した。
「つまりどういうこと?」
「いろんなものに変身できるってことでしょ?便利な能力ねでも、」
解決にはならない。
そう言おうとした彩乃の言葉を烈火のごとく遮り、アスティアが妙案だとばかりに俺を指さし、
「傀儡!お前が俺たちの姿を闇の魔法で消せば完璧だ!」
と、ぶっ飛んだ案を提案した。
「姿を消したくらいでばれないなら警備の意味がないだろ?」
俺がそう反論するが、クロロムがが遮る。
「いや、多分いけます。私が猫になっただけで通れる検問です。技術の如何には依りますが精度が高ければあるいは」
通り抜けられると。
確かにその通りかもしれない。
「技術に関しちゃ大丈夫だろ。なんてったってスキルで補強されてるからな」
「でもつい最近君に破られたばかりだ」
「ありゃルシファーに情報提供してもらったからな」
あいつに破られたんなら仕方ないかと思わなくもないが不安で仕方ない。
「まあ悩んでる時間もない。行き当たりばったりだ。最悪逃げればいいだろ」
泥船でもましに見えるようなアスティアの言動にひやひやしながらも、俺たちはついていった。
☆——
出発して幾分か経った頃、先生から声をかけられた。
「私はあなたたちと一緒に来てよかったのかな?」
「先生としてってことですか?」
「よくわかったわね。まだ高校生のくせに生意気」
「長い間会ってなかったから忘れてるかもしれないですけど、もう18になるんです。大人ですよ」
「そういうとこが生意気だっていってるの」
そういって顔を一瞬しかめる先生。
だが、すぐにいつもの優しい顔に戻った。
「今でも自分は納得してる。こっちのほうが大事だって。でも先生としての私はそれを許してない」
「多分先生はどっちにいてもそうやって悩んでますよ」
その場合は俺たちを引き留めなかったこと。救えなかったことを後悔するのだろう。
「どうします?今からでも引き返せば間に合いますよ」
「私にあんなひどいことされたところに戻れっていうの!?冗談でもやめて」
ちょっと踏み込み過ぎたかもしれない。そう思い少し気まずい空気が流れる。
「冗談よ。ふざけすぎたのはわたしのほうね」
何も言えない俺に、彼女は、拳を強く握りこみ、震わせながら、気を使って笑顔を見せた。
「今私が先生でいることに固執することは何の得にもならないどころか、できるものもできなくなってしまう。
それは絶対に嫌だから、、、私は日本に帰れるまで、先生をやめるわ」
強い目をしている。覚悟が感じ取れるその表情に思わず見とれてしまった。
だが、その顔もすぐに笑顔へと変わり、高らかに宣言した。
「みんな!私は今日から一度先生をやめます!だから、先生呼びは禁止!ちゃんと美乃ってよんでね!」
突然の彼女の宣言にみんなぽかんとしていたが、皆すぐに口をそろえてわかりましたと言う。
だが、彼女は不満そうに、
「敬語も禁止!」
と少し膨れて異議を唱えた。
やはりみんな困惑していたが、その後の彼女の笑顔に全員、よろしくと笑顔で返した。
その笑顔のおかげか、はたまた別の要因か、彼女の顔は晴れやかだった。
「ずっと我慢してたことも言えたし、悩んでることにもけじめをつけれたし、やっぱ悩みを打ち明けるって大切ね」
伸びをしながら気持ちよさそうにそういう彼女。
歩く道筋ものどかで、どこか緊張がほぐれていた。
その結果、突如襲撃してきた何かに反応できなかった。
後ろから轟音と衝撃。
吹き飛ばされるのをどうにか堪え、後ろを向くと、蒼に切りかかる千佳がいた。
ジャッジメントに阻まれ、切先は届いていない。
「まさか本当にまた会えるなんておもってなかったわ!」
震える声で怒号を上げる千佳に蒼は訳が分からないといったように叫ぶ。
「あなた誰ですか!?私あなたに会ったことないんですけど!!」
「姿が違うからしょうがないけど、あんたにその言葉言われると癪に障るわね」
その言葉に明らかにイラついたように声を荒げる千佳。
「どうして突然襲い掛かった、、千佳?」
正直、まだ思考が現実に追い付いていない。
そう声をしぼりだすのが限界だったが、蒼と彩乃はそうではなかったらしい。
「千佳って、、、、あの千佳!?」
そういってジャッジメントを解く蒼。
いままで全体重をかけていた障壁が突然消えて、倒れそうになってしまう千佳。
すぐに態勢を立て直し後ろに飛びのく。
「そうですよ。あなたの身代わりになって死んだ千佳さんですよ!!」
そういってもう一度蒼に切りかかる。
そこに割って入るエリシア。
「これを受け止めるの!?あなた、ただものじゃないわね」
「あいにくこれでも王国内で指折りだったもので!!」
「ちょちょ!?」
受け止めたそのままの流れで千佳を吹き飛ばしたエリシア。
吹き飛ばされた当人は近くの木に幹にめり込むほど打ち付けられていた。
追撃はせず構えを崩さないエリシア。
「確かにこれは厳しいわね。でも今回用事があるのはそっちのかよわそーな女の子なの」
そういって蒼に剣を指す千佳。
「わかってる。ずっと謝りたかったの。でもそれも無理だったから」
「へー、、、あやまっておわりだとおもってたってことだねー?」
その瞬間千佳の姿が消えた。
そう錯覚をせざるを得ないほどのスピードで動いたようだ。
あまりの速さに吹き飛ばされそうなほどの風を連れて千佳は、蒼を貫いていた。
「ずっと、、、ずっと、、、謝りたかった。ずっと後悔してた。あたしがあの日、死のうとしてなかったらって、、、」
千佳にしか聞こえない小さな声しかし、そのつぶやきを聞いたとき彼女は少し動揺した様だ。
おもむろに一歩後ずさる。何かを言おうとして、でも言葉が出ないようで、何度も口を開いては閉じてを繰り返していた。
「だいじょうぶ!?」
彩乃の声にみんな一斉に蒼に駆け寄る。
「正直今剣を抜くのはまずいが、町に戻るにしても間に合わん、、、ここで処置をするしかない」
「この中で生魔法が使えるやつっているのか!?」
「使えますが、正直この魔法は苦手なんですけど、、そんなこと言ってるひまはないですよね」
蒼は、致命傷にも等しい傷を受けたせいか生魔法を使えていない。
エリシアが必至に止血をし、美乃が生魔法をかけている。千佳を気にしているやつは俺以外いなかった。
「俺が知らない何かがあったんだろうが、一応聞くぞ。どうしてこんなことをした」
「だって、、、あいつを助けたせいであたしは死んで、、、それにこっちでだってひどい目にあって、、」
正直同情はできる。他人を助けて死んだ先に苦難があるとすればそれこそ想像を絶する苦痛であろう。
しかし、だからと言って彼女の行いが正しいかというと答えはノーだ。
「だからってお前は人を殺すのにためらいすらしないのか?」
そこで千佳はきつい眼光を飛ばしながら顔を上げる。
「確かに、生まれ変わる前ならころすまではしなかったかもね!
でも、私にとっては人だって必要とあらば殺さなきゃいけない過酷な世界だったのよ!」
そう叫びは、どうしようもないほどの理不尽に救いのない世界だったということが伝わるほどの慟哭だった。
俺は何も言えない。
いつだって他人の顔色を窺い、どう扱っても爆発しそうな取り乱している人間とかかわることをしなかった俺には、どのような言葉をかけるのが正解なのか、わかるはずがないだろう。
「で、あんたはもともと親友だった人を殺してすっきりしたってわけね」
この沈黙に声を上げたのは彩乃だった。
その声は氷よりも冷たく、この空間を支配するほどの鋭さがある。
「あんな奴友達だとも、、」
「じゃあなんであんたは蒼の声に耳を傾けたの」
千佳の言葉に上から重ねて反論を許さない彩乃。
千佳は何も言えずただ沈黙するしかないようだった。
「わかってるよ、、、わかってたよ最初から!!蒼に恨みを向けるのはお門違いだって、、。
でも、それ以外どうすれば自分を動かす燃料にできるかわからない!わかるはずがなかったの!!」
その叫びは弱弱しく、それでいて大きな声として耳に残った。
誰も口を開かない。何度目かわからない長い沈黙の後、声を上げたのは蒼だった。
「これは、私が死のうとしたことに対する、、、罰だって思ってたけど、、まだ私に対しての情が残ってたんだ、、、」
「何が言いたいの?」
お互いか細い声でやり取りを続ける。
今にも消え入り、会話自体が消えてしまいそうだった。
「私がこんなこと言うのは、、絶対間違ってるけど、、また、友達になれないかな、、、って」
目を見開きありえないものを見たという顔をした千佳。
手が震えているが、それは怒りに耐えているような雰囲気ではない。
おそらく葛藤があるのだろう。
この十数年彼女が悪いと思い続けてそれを頼りに生きてきたのだ。
この一瞬でその刷り込まれた感情が取れるわけがない。
だが、やり直したいと思っているのも事実のようで、じっと口を閉じ何かを考えこんでいる。
そうして幾分かの時が流れた後、千佳はやっと口を開いた。
「あなたを殺そうとしたやつとまた友達になろうっての?」
振るえる声で、喉の奥から絞り出したような言葉。
「そうだよ。私にとっては、、謝りたい相手ではあっても、、、恨むような人じゃないもん」
傷がまだ言えていない蒼が絶え絶えにそうつぶやく。
「まだあなたへの恨みが消えたわけじゃないの。またあなたを殺そうとするかもよ」
暗に自分に近づくなと、もうかかわることをやめてくれと。
そういう思いを込めて突き放したつもりだっただろう。
だが、蒼は歩みを止めない。
「そんなの、、気にしない。わたしを恨めないほど、、、、また仲良くなればいい。そうでしょ?」
俺には計り知れないが、彼女たちには一緒にいたころの記憶がある。
そのことを思い出しているのだろう。
「本当に、また友達になってくれるの、、、?」
今にも決壊しそうな感情を押しとどめるようにそう言葉を紡ぐ千佳。
そんな彼女に蒼は優しく微笑みながら
「当たり前でしょ、、、、私にとっては、、、まだ、親友だもん」
その言葉に千佳はとうとうこらえきれなくなったのか、大粒の涙をぼろぼろとこぼし始めた。
彼女は不安だったのだろう。
理不尽なこの知らない世界で一人。
想像を絶する苦難を経験していた彼女は、その不安を押し殺すため、ほかのことに思考を回して、
自分を守っていた。そうせざるを得なかったのだろう。
そんな彼女は今、大声で何度も子供のように謝りながら大声を上げて泣いていた。
かなり長い間放置してしまいましたが、一応続ける気ではいます。
待ってくれてるととてもうれしいです。
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