第十一話 好転
「やっと、、、ついたああああ~~!」
城門を超え、へたり込む蒼。
あれから半日。蒼の回復だけを頼りにひたすら町まで歩き続けた。
全員疲労困憊。これ以上はほんとに無理だ。
普通に進むだけならいざ知らず、通常よりも早いスピードで、ノーストップで一日以上歩き続ければ疲れるのも仕方ないだろう。
「ベッド、、、、。ベッドをくれ、、、。」
もはやうめき声とも悲鳴ともつかない声を上げる光。
「さすがにわかってる。あのドラゴンとやって俺も限界だ。さっさと見つけてくるぜ」
アスティアもさすがに疲れ気味だ。
足取りも重く、宿を探しに消えた。
「それにしても、検問がないなんて驚きました。ここは治安が良いのでしょうか?」
「言われてみればそうですね。確かに不思議です」
エリシアに言われるまで気が付かなかったが、そういえばここは国境に一番近い城下町だ。
普通、他国とのトラブルや、怪しいものが入らないように検問があるのが普通なはずだ。
俺たちの世界みたいな防犯システムもないはずなのに。
先生も不思議そうにしていたがそのなぞはすぐに解けることになった。
「おい。てめえら、見ねえ顔だな?ここの住人じゃねえな?」
「はい、そうですけど、、、」
見たまんまガラの悪い巨漢が低くドスを聞かせた声で迫ってきた。
「この町は初めてか?」
「そうですね。今俺たちいろんなとこ旅してて」
「そうか、じゃあこの町でのルールを教えてやるよ。ここは俺たちが管轄してるとこでな。
滞在許可書を持ってなきゃ、自由に街をで歩けないようになってんだ。んで、それの発行量にちっとばかし金をもらっててね」
「いくらですか?」
今のやり取りで、後ろ数名が気を悪くしたようだ。
「ちょっと!とつぜん、、、!?」
彩乃が割って入ろうとしたが俺が止めた。
「なーに、理不尽に取ろうってことじゃねえ。保険料と思ってもらっていい。一人銅貨二十枚だ。」
「銀貨1枚に銅貨20枚ってことか?」
「そうだ。そんだけありゃ発行してやるよ」
「わかった。これしかないんだが釣りはあるか?」
そう言って俺はフィリアからもらった袋から金貨を取り出した。
「冒険者っぽく見えたがなんかでかい仕事でもこなしてきたのか?ちょっと待ってろ。今釣りを出してやる」
その後何事もなく、無事人数分の証明書をもらえた。
「ぜったい怪しい人だと思ったのに」
蒼の言う通り正直外見だけ見ればやーさんだった。
「おそらくこの街はそういう裏社会の人たちに仕切ってもらっているのでしょう。
悪を持って悪を征す、案外効率的かもしれません」
「まあ、それなりに安全なところってことだな。」
エリシアの発言に帰ってきたアスティアが答える。
「宿を見つけてきたぞ。いったん移動するか」
やっと休めそうだ。みんなからそんな言葉が聞こえてきそうだった。
「気を抜くのはついてからだ。いくぞ」
そうは言われても正直気が抜けるのは仕方ないと思う。
俺たちは足早に宿へと向かうのだった。
☆——
宿に入り、全員が爆睡し、気づけば次の日になっていた。
「全員丸一日ねてたってすごいな。休日寝て無駄にした喪失感があるんだが」
光が遠い目をしている。
「しょうがないよ。いろいろあったからな」
正直いろいろありすぎて疲れたどころの話じゃないけどな。
「んで、今日は何するんだ?まさか、何もしないなんてことはないと思うが」
「それはお前が外に出たいだけだろ?」
「あ、バレたか?」
いい笑顔でそういう光。
たった数日だったのにこんなに気が緩んだのは数か月ぶりな気がする。
「お?起きたか。今日は仕事があるぜ」
アスティアが部屋に来て早々目の前に紙を持ってきた。
「これは、、、申請書?」
「そうだ。お前たちにはこれに名前を書いて、ギルドに所属してもらう」
「それは魔物とか山賊の討伐依頼とか、身分証を発行してるみたいな、そういう組織のこと?」
「そうだ。お前らこのままだとそこらへんにいる名もない一般市民だからな」
「でもこの世界に身分証なんて概念があったなんて、、、。」
レンガ造りの町に、ならされただけの道。
控え目に言って文明レベル的にそんなもの思いつかなそうだが、、、。
「まあ、わかるなら何でもいいさ。名前は偽名でいい。どうせその時の気分で名乗る名前を変える奴もいるしな」
身分証の概念はあるのに、そういう大事そうなことは適当なのか。
まあ、次の日生きてるか、死んでるかわからない様な世界なんだ。
名前なんて気にするだけ無駄なのかもしれない。
そう思ったが、光が異議を唱えた。
「まてまて、じゃあお尋ね者はどうやって見分けるんだよ」
「?人相書きと似てるやつのステータスウィンドウを開かせて調べるんだよ。効率的だろ?」
「名前が変わらないほうが効率的だと思うのだが、、、。」
「口頭の名前を本当の名前で統一するなんてこの世界じゃ無理だよ。でなけりゃ、とっくに全世界手取り合って協力してるさ」
文明レベルが低い弊害なのか、生きることに必死だからなのか、そういうことに関してはなかなか協力できないようだ
「こういうのは理屈じゃないからなぁ」
光も納得したようだ。
「てか、それ言いたかっただけじゃね?」
「あ、バレた?まあ傀儡にはばれても仕方ないか」
緊張が解け始めてきたのか、気が緩んだのか、そんな茶化しあいができるくらいには落ち着けたようだ。
名前は適当によくいるような名前にしてもらって、その紙を持って行ってもらった。
ほんと、この世界は変なところで緩い。
「そしたらすぐ出発だ!と言いたいところだが、正直まだ傷も言えてないと思うから少しゆっくりするか」
急ぐ必要もないしなと言っているように思えた。
「むしろゆっくりさせてくれっていうところだったよ」
そう言って光はベッドに向かった。
「じゃあ俺も休むことにするよ」
ベッドに向かった俺たち二人をしり目にアスティアは部屋から離れた。
俺たちはもう少し休ませてもらうことにするよ。
☆——
薄暗い路地。そこに息をひそめる影が一つ。
「とにかく隠れてやり過ごさないと、、、」
見た目に反しておとなびた思考を持った影は鬼から隠れるように息をひそめる。
「そもそもこっち側に隠れて潜入ってのがおかしかったんだよ」
そう言って自分がここにいる元凶を思い出し一発叩き込みたくなるのを、悪態だけにとどめて我慢していた。
実際この任務が危険なことは出発前に聞かされていたし、実際やりたくないとも思った彼女だったが、、、。
「絶対に成功させなきゃいけないし、私が一番適任だったのも、んしょっと。事実」
追っ手をまいた確信のある少女はおもむろに立ち上がった。
「さて、引き続き、仕事をしないとね」
青年はそういって路地裏から出て行った。
何処に居るかもわからない人間を探せ。しかも敵対国にいるなんて指令をもらえば、だれでも、自分は始末されるのかと思ってしまう。
しかし、今回の任務は本気のようで、トップじきじきの依頼。
彼が従っている理由はそこにしかなかった。
「で、これの光がどんどんつよくなっていってるけど、今この街にいるのかな?」
この任務が本気だと判断した理由はほかにもある。
それが彼の手の中にある小さな黒いキューブだ。
特定の対象が近ければ近いほど光り、対象がいる方向の面が光るという、ある探し物に最適なアイテムだ。
「別に見つけるのはいいんですが、本当に付いて来てくれるんですかね?」
連れて帰るまでが任務。
それこそが、彼をここまで不安にさせている要因であった。
「こんな命がいくつあっても足りないような任務、なんでやらなきゃ、、、、。これは、、、」
キューブがひときわ強く光っていた。
その光が差す先には女性三人の集団がいる。
「本当にあの人たちなんですか?とりあえず第一段階は終了ってところですかね」
ここにきて初めて進展があり、少し気分も上がったのか、少し嬉しそうにそうつぶやいた。
☆——
で、なぜこんな状況になっているのか。
「わかるぞ。別に警戒するなとは言わないからな。いい心がけではある」
そう言って諭されているのは買い物に出かけていた女子三人組だ。
今は部屋で正座をしてうなだれている。
「知らないやつから声をかけられたので警戒した。ここまではいい。でも!さすがに!話くらいは聞け!!」
三人の肩がまた下がった。
ちなみに何があったかというと、知らない人に声をかけられた。
追っ手だと思った三人は何を思ったか一斉にパンチ。
そのまま走ってここまで帰ってきたという。
ちなみに、現場に行くと倒れた男が確認できたので俺たちで部屋まで運んできたというわけだ。
「だって顔が半分隠れてましたし、怪しいと思うじゃないですか!」
蒼の言ってることは確かに正解なのだが、
「それはお前らがいたところの常識だろ!こっちの世界じゃ20人に一人くらいは顔を隠してるよ!」
それはあくまでお前たちの常識だと一蹴されていた。
「まあまあ、私の目的を達成することはできそうなので、大丈夫ですよ。」
運ばれてきた男性は頬をさすりながら不機嫌そうに口を開いた。
「私も仕事で来てるんです。こんなことしてないでさっさと話しをさせてほしいのですが」
そう言われて全員一瞬でシーンとなった。
「静かにしていただきありがとうございます。それでは話をまとめさせていただきます」
そう言って彼は自身がここに来た理由を話し始めた。
その要件は私と一緒に来てほしいということだった。
「私のトップがあなた方をお呼びのようですのでお迎えに上がったというわけです」
「手間が省けたな。俺たちも魔王のとこに行くとこだったんだ。話が分かりそうな奴で安心したぜ」
アスティアが不敵に笑う。
「あなたには隠しても無駄なようですね?なぜわかったんでしょうか?」
「それは、そのキューブを持ってるからだろ」
クロロムはびっくりしながらもそれならばといったように納得していた。
「でもなんで私たちなんでしょうか?」
「それはお前たちがこの世界における特異点になりえるからだ。」
「特異点って、世界の命運を握ってるみたいな?」
「そういうわけじゃない。俺も詳しくわかってるわけじゃないから説明しにくいんだけどな、、、」
先生の問いにアスティアが説明しようとするが口ごもる。
「じゃあ私が代わりに説明しましょう。特異点とはアカシックレコードに唯一対抗できる存在です」
「アカシックレコードなんかどっかで聞いたことあるような、、、」
光がアカシックレコードという単語に引っかかる。
「あれじゃないか?世界の全てが保存されてるとかいう」
「それだ!」
俺の答えに光はしっくり来たようだ。
「そのとおりです。アカシックレコードとは世界の記憶。それに対抗するための特異点です」
「まだよくわからないかも、そもそもなんでその世界の記憶ってやつと対抗しないといけないの?」
彩乃が疑問を投げかけた。女性組がその質問にうんうんと首を振っていた。
「私のこれも受け売りなので詳しいことは魔王様にでも聞いてください。」
そう言われては仕方がない。みんな疑問は残ったようだがそのすべてを押し殺した。
「そうと決まれば早くいきましょう。魔王様のもとに一刻も早くお連れしなければ」
そう言って俺たちに準備を促す。
目的も一致している彼の言葉に俺たちは準備もそこそこに宿を出た。
☆――
あまりにも遅くなってしまいました。
申し訳ございません。
正直完結するかも怪しいですが、ゆっくり待っていただいて、暇つぶしにでもしていただけるとありがたいです。
それでは。