一編
何処かも判らない、小さな国の話だそうだ。
あるところに一人の娘がいた。
幼い頃から大切に育てられてきた娘だったから、それはもう、
白雪のように、、、と言うとありきたりなようだが、
そんな、純粋で、穢れを知らぬような子だったという。
彼女はある時、父におつかいを頼まれたんだ。
まあ簡単なおつかいさ。
そこらに生えてるような、ありふれた薬草を、
数束くらいでいいから摘んでこい、って物。
娘は喜んで承諾して、すぐに家を飛び出していった。
でも大変だったのはそこから先さ。
娘は家の周りの草むらを探したんだが、薬草が
何処にも生えてなかった。
何でかって言うと、近くのおばさんの家で丁度、
ティーパーティーをしてたのさ。
まあよくあるだろ、何処からか呼んできた
大人数のマダム方がやってるような。
そこで出すための薬草のクッキーを、これまた
大量に焼いたわけだ。
お陰で辺りの薬草はぜんぶマダムの胃袋の中。
しかも、娘は薬草を探すのも慣れてなかったから、
全然見付けられなくて、ついには
森の奥深くまで行っちゃったんだ。
ド田舎だものな。深い森なんて、
ご近所に余るほどあるのさ。
それでもって、彼女は森の奥であるものを見付けた。
、、、何かって?気になるかい?
、、、分かったよ、話してやるよ。
ドラゴンのタマゴさ。
しかもヒビが入ってた。
娘はもちろんこんなの見たことも、触れたこともない。
どうしたらいいのか、分からなかったんだ。
さらに言うと、周りには親のドラゴンも居なかった。
後に分かったことなんだが、どうやら捨てられてたらしいんだ。
或いは親が何かに殺されたか。
何にかって?、、、さあな。
ドラゴン同士の縄張り争いか。
または、人間が殺ったのかもな。
それでだ。娘はするべきことが分からなかった。
それはもう言ったよな。
だから。
僕らからすればあり得ない行動だが。
、、、彼女は、タマゴを抱き締めた。
優しく、な。
数分毎に、どんどんヒビは大きくなっていく。
数十分した頃。
とうとう、タマゴからドラゴンが顔を出した。
可愛らしい、真っ白なオスの雛だったそうだ。
娘も、餌をやらなきゃいけないことは流石に理解できた。
手持ちに、何とか見つけた一束の薬草があったから、
父のおつかいを果たせないのは残念だったが、
それを雛にあげた。
雛は、何とかそれを食べてくれて、すぐに眠り込んでしまった。
娘は隙をみて、そっとその場を離れたんだ。
娘は家を出発してから数時間もしてようやく帰りついた。
こんなことは初めてだったから、父も母も怒りはしなかった。
かえって娘を心配していた位のものさ。
父はおつかいを果たさなかったことを残念がったが、
どうやら娘の無事の方が大切だったみたいだな。
危ないからあまり遠くには行くんじゃないぞ、とだけ伝えて、
あとは特段言わなかったんだと。
まあ、それからも娘はドラゴンの元に通いつめるんだけどね。