現実
ライリーは、自分がかなり危機的な状況になっている事を察して、普段のおふざけを一切排除して、常時貼り付けていた笑みをも投げ捨て状況を整理、予測と最悪の想定をする。
そして、リアムの方に顔を向け最も重大な要素について質問をする。
「リアム、その指名手配の件で聞きたい事がある。その指名手配をされているのは、俺だけか?」
そう、ライリーの心配はそこだ。
正直に言って、もし指名手配が自分だけならばギロチンにかけられ死刑になっても良いと思っている。
ライリーがギロチンにかけられたとしても、本当の意味で死ぬことはない。なぜなら、今のライリーの肉体はゴーレムに憑依しているだけであって本体ではない。
よって、ライリー1人の場合はむしろギロチンにかけられこの体を捨てるのが最適解だ。
しかし、しかしだ。
他の3人がライリーと同じく指名手配をされている場合は状況が大きく変わってくる。
ライリーは、出会ってまだ短いが最早親友のような3人の姿を思い浮かべる。
マチルダ......彼女は口下手で気弱そうだが芯はハッキリと貫き通す、強い女の子だ。普段はうつらうつらとしているが、彼女が怒った時の凄みは有無を言わせない迫力がある。
ケイリー......彼女は掴みどころがなく飄々としていて、何を考えてるか分からない恐ろしさがあるが、辛い時・大変な時にお姉さんとして皆を支えてくれる縁の下の力持ちさんだ。
そして、レア。
レアは、いつでも、どんな時でも満面の笑みで天真爛漫をそのまま形にしたような女の子だ。正直、ゴブリンというのが未だに信じられない。パーティの空気が悪くなっても、その満面の笑みで俺達を救ってくれた、まさに太陽のような子だ。
ライリーは、もしこの身がゴーレムでなく本体だったとしても3人の事を救えるならばその身を差し出す程度の覚悟はとっくの昔に出来ていた。
(俺は、なんとしてもこの3人を守り抜かねばならない。体は女の子になったとしても心は男のつもりだ。女の子、たった3人を守り抜けず、何が男か。なにが神か......っ!)
もし、3人が指名手配をされている場合この大陸に覇を称えるこの国を相手にあまりにも無謀な逃亡をしなくてはならない。
相手は国、国家権力だ。
自分よりも遥かに強い人員をダース単位で揃えているのだろう。そして、ライリーには不要だが、食事を揃えるのにも、寝る場所を確保する事さえ難しくなる。移動も馬車なんて使える訳がなく、1度王都から出てしまえば門番に阻まれ他の街に入る事さえも難しくなるだろう。
相手はそれだけ強大なのだ。
ライリーは静かに息を吐き、もし、4人が指名手配をされている場合全員を守り抜くと覚悟を決める。
リアムは、ライリーのギラついた意思の籠った鋭い眼光を見て、少し表情を緩める。が、直ぐにその表情は険しいものとなりイラついたように身につけている剣の鞘をトントンと叩き出した。
「......俺好みの良い目だ。こんな突拍子もねぇ話を聞いて、その目が出来るのは......チッ、惜しいな。以前のおちゃらけたテメェは気に入らねぇがその目を出来るお前なら弟子にでも欲しかったんだがな......つくづくこの国は気に入らねぇぜ」
そして、リアムは普段の荒々しい言動を感じさせない優しい声色でポツリポツリとライリーに話しかける。
「なぁ、ライリー。俺は言ったろう?テメェらブレークハーツは実質的な指名手配をされた、と。つまり、ライリー、レア、マチルダ、ケイリーお前ら4人が指名手配をされたんだよ」
「......っ!」
ライリーは、リアムのその言葉に唇を噛み締める。
噛む力が強すぎて唇から人間で言う血のようなモノが流れ落ちるが、ライリーは心中に渦巻く激情により、それに気づく余裕は無かった。