第35話 特訓
ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ......
ここに来てからもう何日経ったろう......
俺は恐らく学園の地下にある、巨大な地下室に居た。
この地下室は、何も物が置いていなくどこか不気味な雰囲気を漂わせている。
巨大な石造りのその場所は、どこか監獄のようだった。
まあ、監獄なんて見た事ないけどね!
そんな事を考えていると、目の前に斧が飛んでくる。
俺は必死に剣を振り、リアムが思いっ切り飛んでくる机やら椅子やら剣やら斧やらを防ぐ。
延々と素振りをやらされて、しかもその素振りの最中にもれなく机やら、椅子やら、武器が飛んでくるという、意味の分からない命懸けの訓練を何故かリアムにやらされている。
「おいおいおい! トマト(ライリー)よぉ! 訓練だからって手抜くんじゃねえぞ! 明らかに手を抜いたらお前の友達はぶっ殺すからなぁ!」
はぁ、はぁ、リアムがいつも通り無理を言ってくる。
まず、命の危機に晒される訓練なんて聞いた事無いんだけど。
俺は、飛んでくる斧を避けながらそんな事を考える。
俺は一切手を抜いてるつもりは無いんだがな......? 大体、全く寝ずに訓練ってのも頭おかしいんじゃないか?
「......わー。こわーい。トマトさん助けてー」
「トマトさーん。こわいのーたすけてなのー」
おい。マチルダとレア、適当すぎだろ。
馬鹿みたいに棒読みだぞ?
って危ねぇ! 斧を避けたと思ったら、その斧に隠れていた斧が俺の顔を掠める。
「あれあれ? どうしたァ? アホみてぇな顔してよぉ? てめぇが俺に対してやった事だぞ?」
この教官......器ちっさ!!
え? あの戦いをまだ根に持ってたの!?
「うぅ、酷いわっ! トマトさん。私をこの性悪な悪魔教官から救ってください!!」
逆にケイリーは演技力が凄いな!
てか、リアムの前でそんな事やっでいいのか?
確実に殺される気がするんだが?
「おお、お前ら。お前らも死にたいようだな? じゃあ死ねぇぇぇえ!」
あっ、やっぱり。
リアムはそう言って、3人の元に駆け寄り、胴体を掴んだ。
そして、次の瞬間。
剣でも、斧でも、机でも無くレアとマチルダとケイリーをぶん投げてきた。
全員、「ふへっ?」という間抜けな声をだし、次の瞬間、3人は「キャー!」と言う悲鳴と共に空中浮遊を楽しんでいた。
あーっ。恐らく、相当な高さにぶっ飛んだろうなぁー。
人間砲弾か?
いやさぁ、今更だけど俺達10歳よ? レアなんて6歳だし?
そんな子供を大の大人がぶん投げるって脳みそどこかに置いてきたんじゃないの?
「トマトよぉ? 何、呑気に突っ立ってるんだァ? 君のお友達を殺すって言ってるんだよぉー?」
うん。これ、置いてきちゃってるわ! 多分母親のお腹に脳みそ置いてきてるわ!
なんでそう思うかって?
リアムの奴、3人をぶん投げるに飽き足らず3人に向けて剣やら斧やらを思いっきり投げ始めたんだよ!
俺が、ボケーッとそんな事を考えていると。
《報告。スキル【魔闘】の使用を推奨。このままでは名称︰レア・マチルダ・ケイリーの中の1人の生存の確率は4%です》
【賢者】がそう報告して来た。
ってか、よっ、4%!? マジかよ!? じゃあ急がないと!!
あの教官、本当に何やってるの?
「【魔闘】」
俺が急いで技を使うと、リアムの「はぁ。やっとかよ」と言う声が聞こえた気がした。
てか、そんな暇じゃないんだよ! とっとと、3人を助けないと!
俺は、3人の中で1番余裕の無さそうなケイリーの元にジャンプする。
ケイリーは普段の落ち着きと打って変わって「ふぇぇぇぇたすけてぇぇぇえ」とパニックになってる。
てかさ、ジャンプしたは良いものの、俺飛べなくね?
俺は「アーイ、キャーント、フラーァァァイ!」と絶叫しながらケイリーに迫ってくる斧とケイリーの間にひょこっと現れた。
《......。【魔闘】は【念動】の能力を受け継いでいる為、闘気を集中させることによって飛ぶ事も可能です》
なんと! 【賢者】に呆れられた気がしたけどまぁいいや!
俺は、迫り来る斧を上に弾き試しに足に闘気を集中させてみる。
次の瞬間、「ズズっ、ボッカァーン!!」という大きな音が鳴った。
ズズっと鳴ったのは、リアムがぶん投げた斧が天井に突き刺さった音。
そして、ボッカァーン!! と言う音は俺が天井に突き刺さった音だ。
うん。何でこうなった!!
《......足に闘気を集中させ過ぎたのが原因です》
ごめん。知ってた!
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はぁ。馬鹿なのか? アイツは?
天井に突き刺さった阿呆のせいで、俺のため息は止まらん。
俺は取り敢えず、ぶん投げた3人を回収して気絶させておく。全く、面倒な事になりやがった。
元々、この俺様がこんな事をやってるのもこの阿呆が何故か国から「要注意犯罪者」と言うこの国で2番目に重い指名手配を受けたからだ。
1番は反乱犯罪者で指定されてるのは魔王や裏組織のドンとかその辺の大物だ。
殆どお目にかかれない。まぁ、会って戦うか手下にしてぇがな。
んで、ライリーと同じの2番目の要注意犯罪者ってのは魔族や裏組織の幹部、殺人鬼など。
つまり、国にとってはライリー......じゃ無くてトマトとその辺の殺人鬼は同等のようだ。
王国側から学園にトマトとその連れの出頭命令が来ていた。
勿論、この俺が自分の生徒を素直に差し出す訳がねぇ。
俺の生徒が死ぬ時は天命を全うするか、俺に殺される時と決めている。
んでもって、王国の命令を無視してせめて亡命出来る位には鍛えようとしてる。
だが、この国の軍隊は馬鹿みたいに強い。
芸術の国とこの国は呼ばれているが、強大な軍事力を背景に長年の平和がもたらされ、その結果多くの芸術作品が生まれただけだ。
荒くれ者の俺が言うのも何だが、芸術は平和が育てるんだ。
天井に突き刺さってるアイツを鍛えてるのは校長の命令ってのもあるんだがよぉ、このままじゃ軍に殺されるだけだな。
様子を見てみるか......と上を見ると、足をパタパタとさせて必死にもがいてる姿があった。
......阿呆なのかアイツ? あんな勢いでぶっ刺さってそれで助かる訳無いだろ?
もう、めんどくせぇからぶっ殺そうかな?
まぁ、良い。取り敢えずはトマトを収穫するか。
新作「僕の命は小さい〜殺処分を待つ2匹の犬達〜」を公開しました!!
そちらも読んで頂けると嬉しいです!!
なろうテンプレから逸脱した作品の為、みなさんの応援が必要なのです......!
ただ、読んで後悔はさせません。寧ろ、読まなくて後悔する作品です。
是非、〝泣きに〟来てください。