第34話ライリーvsリアム
俺は椅子の持ち主の事を忘れ、リアムに集中する。
机の上から机の上に跳び、前の教壇付近に居るリアムにどんどんと近ずいていく。
しかし、そこで予想外の事が起こった。
リアムが椅子を避けないでその場に仁王立ちしているのだ。
「ライリー! てめぇはなぁ! 何もかもが甘いんだよ! 甘過ぎる! ママのおっぱいすすってるバブちゃんかてめぇは!
知らねぇが、すげぇスキルを持ってるんだろうなぁ! その、抜きん出た力でよーく分かるよ! だがな、スキルなんぞ〝努力〟には〝絶対〟勝てねぇんだよ!
良いか? てめぇは命の取り合いを舐めてるんだよ! てめぇはバブちゃんだが、俺の生徒だ。誰かに殺されたら死体を砕くからなぁぁあ!」
恐らく、リアムのこの力は長年鍛えた事によって手に入れたんだろう。
リアムのムッキムキの身体を見ればよく分かる。
そして、その魔力。リアムの魔力は一切の揺らぎが無い。
確かにリアムの言う事は正しいんだろう。だが、俺は生憎負けず嫌いなんだ。
1度剣を抜いといて下がるなんて男の恥だ。
────今、身体は女だけど。
リアムにぶん投げた椅子は一瞬で、リアムに断ち切られてしまった。
だが、もう身体の勢いを止められない。
リアムは直前まで迫ってくる。
「【魔闘】」
ただ、斬られるだけかも知れない。もう、目の前には負けしか無いのかも知れない。俺にあるのは絶望だけなのかも知れない。
だが。
ここで諦める訳には行かない。最後まで抗ってやる!
俺は剣に〝のみ〟闘気を行き渡させ、強化する。
おい、【賢者】! どの位、剣に憑依出来る!? それで勝てるか!?
《......っ。30%です。30%憑依すれば名称⋮リアムの魔力を上回る計算です》
「【憑依】」
全てを......剣に。
本来ならこんな所で命を削る場合じゃ無いんだろう。
近づくに連れてリアムの魔力の洗練さ、力強さがビシビシと伝わってくる。
それに対して俺はただ大きいだけだ。
だがな、何度でも言う。
男も女も子供も大人も関係無く剣を抜いた時点でこれは命の取り合いなんだ。
ああ、リアム。俺は舐めてたんだろう。
こっちは強いスキルで、しかも相手は格下の人間だ。
どこか心の余裕があったんだ。
己の出せる〝全力〟を出していなかった。
防御? 舐めてんのか? 攻撃には注げる全ての魔力を注いでやる。
《......》
俺の持っている剣が半分は光を半分は闇を放ち、辺りに広がる。
「ふん。引き出すのは良いが、圧倒的に〝努力〟が足りない。まだまだだな......」
俺は全力でリアムに振りかぶる。
1ミリたりとも力加減はしてない。
「要注意犯罪者さんよ」
次の瞬間、俺が見たのは嫌らしい笑みのリアムと天井、そして暗転した視界だった......
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「......おーい。犯罪者ー。おきろー」
俺は世界一雑なマチルダによる声掛けで目を覚ます。
「犯罪者さん! おきるの! はーんざいしゃさーん!」
目を覚ますと俺はふっかふかのベッドに横たわっていた。
そして、俺を4人の人が覗いていた。右から順番に、
ちっちゃくて可愛い女の子。
無口で無表情な可愛い少女。
クールでお姉さんみたいな少女。
うんうん。いつものブレークハーツのメンバーだ。
ただ、これ以上俺は右に顔を向けたくない。切実に。
俺が恐る恐る右を見ると......
鍛え抜かれたムキムキボディの男の子! はい。リアムさんですね。
「おーおー。おねんね出来て、良かったでちゅねぇー? 犯罪者さん?
じゃ、もう1回気絶するまで扱いてやるから剣を持ちやがれ!」
俺は、3秒後の自分の末路を心配しリアムにベッドの上で震えながら質問する。
「あっ、あのー。まず、犯罪者ってなんですか?」
リアムはその質問に狂気を覚える笑みを浮かべ、俺の頭を思いっ切り掴んだ。
俺は頭を掴まれ、ベッドから引きずり出されリアムの目線まで持ってかれる。
「良いか? 今、お前はライリーじゃ無い。せいぜい、その辺に生えてる農作物だ」
ん? どういう事だ?
俺の頭にはクエッションマークと、頭蓋骨の痛みしか無い。
よく分からないが、リアムがそう言うならそうなんだろう。
どうも。
〝付喪神のライリー〟改めて〝ナス科のトマト〟です。