第33話 教官と魔王
「り、リアム大先生が来たぞぉ! み、みんなぁ! 命が惜しかったら早く着席するんだぁ!」
早朝の教室に、ドアを「バーン」と大きい音を出しながら開け、クラスメイトが駆け込んできた。
いやぁ、実に爽やかな朝だ。
輝く朝日に、雲一つない空。そして、クラスメイトの恐怖に震える声が実に気持ちが良い。
清々し過ぎて俺の足はブルブル震えている。
これは決して恐怖のせいでは無いだろう。誰もが恐怖で縮み上がる裏組織と殺し合いをした俺がたかが教官のリアムが怖い筈ない。
こそ震えは、武者震いというやつだろう。リアムとの相対の前にやる気が起きすぎて震えてるんだ。
教室がシーンと静まり返る。
先程まで狂気していたのが嘘のようだ。
しかし、その理由は簡単だ。
「コツン、コツン」という音と共にリアムが近づいているのだ。
教室は、足音が近づく度に空気が重くなり、緊張感が広がる。
そして、ある生徒がボソッと俺が震えている理由を証明する事を言う。
「ま、まさに魔王の如し。リアム魔王が降臨なさるぞ……」
俺はこの言葉にストンと納得がいった。
俺は教官に恐れてるんじゃ無い。
魔王に恐れてるんだ!
これで震えの理由も分かった。俺は長年の悩みが解決した程にスッキリしていたため、ついつい声に漏れてしまう。
「魔王リアム。これ以上ぴったしなものは無いな」
俺がそう呟くと、クラスメイトが一斉にこっちを向き、奴隷に没落してしまった子供を見るような目でこっちを見てきた。
「ん? みんなどうしたんだ?」
俺がそう問いかけると、クラスメイトは劇などでよく見る唐突に魔法をぶっ放されて慌てた小物役のように、一瞬フリーズしてパット前を向いた。
後ろを見たり、前を向いたり忙しいな。教会の鐘みたい。
俺がそんな事を考えていると、マチルダが俺の肩を指でつんつんし、耳元で話しかけて来た。
「……ライリー、ご愁傷様。お別れは悲しいけれど私もいずれ死ぬ。ライリーは早かっただけ。じゃあ、さようなら」
そう言ってマチルダは苦笑しながら元いた席に戻ってしまった。
マチルダが笑うなんて珍しいな。いつもは無表情で何を考えてるのか分からないからな。
というか、本当に何でだろう?
「ライリー。てめぇ、誰が魔王だってぇ?」
《警告。頭上に名称⋮リアムの持つ剣が迫っています。回避する事を推奨します》
ふぁっ!? な、なんだって!?
俺は警告に従い、【魔闘】を使いながら身体能力を底上げし、立ち上がり隣に空いていた椅子に飛び乗りそして机へジャンプし前列にダイビングする。
「おい、ライリー! 誰の許可で避けている! 後なぁ、机は立つ場所じゃねぇんだよぉお!」
そう言って、リアムは第2撃目を繰り出してきた。
「いきなり教官みたいな事を言われても困る!」
俺はそう言いながら持っていた剣を取り出し、リアムの剣に向かって走らせる。
次の瞬間、リアムの剣と俺の剣がぶつかり合う。
「俺は、教官だ! ライリー!」
うん。生徒に斬り込んでいる教官なんて聞いた事無い。
剣はギシギシと音を立て、俺の腕は吹き飛ばされそうになる。
か、硬い!
まるで、岩を頑張って押してるような感じで、ピクリともしない。
「えぇ……。朝のホームルームってなんだっけ?」
誰かがそう呟いた。
うん。全力の同意だ。俺も朝から教官と切り合うなんて思っても見なかった。
転んで服が汚れちゃった位にショッキングだ。
「ふははははは! ライリーこれで終わりだ! 舐めてるとどうなるか思い知らせてやるわ!」
リアムは、俺の剣を弾き次の剣を繰り出すために構える。
その姿は、まるで獲物を狙う魔獣のようだ。
クラスメイトも、圧倒的な力の前に静まり返り巻き込まれないように決死の避難を始める。
大体は、机の下に丸まっている様だ。
ブレークハーツのメンバーは、真顔で読書をしている。呑気な奴らだなぁ。
巻き込んでやろっと!
俺は、ブレークハーツの3人が座っている席に飛び移る。
「皆、死ぬ時は一緒だよな?」
「あんた、満面の笑みで言う事じゃないわよぉ!」
おお、おお、ケイリーは喜んでるようだ。
「なーんてね。私達が対策して無いとでも思ってるの?」
「はえっ?」
次の瞬間、影から出てきたマチルダの骸骨騎士達に俺は突き飛ばされた。
確か、あの骸骨はケルトとか言う奴だ。
と言うかさ! 影から出てくるって反則でしょ!
俺は一個前の机に飛び移りながら、そう文句を言った。
「ライリー、せめてもの慈悲だ! 一発で送ってやる!」
「うるさい! ってか、どこにだよ!」
うん。まぁ、分かってるんだけどね。
どうせ、天国でしょ。
「うるさいだぁ? 本当に舐めてる様だな! ガキは察しが悪りぃなぁ。地獄に決まってるだろ!」
うん。もっと酷かった。
そして、その言葉の後にリアムの雰囲気が様変わりする。
まさに「獣」だ。
さっきまではそんな感じがする位だったが、今の威圧感は真に「獣」と言えるだろう。
荒々しい魔力を放っている。しかも、厄介なのがそれがしっかりと練られた魔力と言う事だ。
戦いに関してはまさに「教官」のようだ!
「【獣剣】王牙」
荒々しい魔力が、剣に集中する。
今しか無い!
リアムの体に魔力が減った今、叩くしか無い。俺の勝ち筋はそれしか思い当たらない。
俺は教室にあった椅子をリアムに投げつけ、それを追ってリアムのムッキムキの体目掛けてダッシュする。
椅子を避ける事でワンテンポ遅れる筈だ。その間に剣を叩き込んでやる!
椅子の持ち主が「ひっ…!」と言いながら悪魔を見るような目で見てきたが、きっと俺がリアムだとでも思ったんだろう!
俺は悪くない!
……ん? 待てよ? リアムに見えたって事は俺も恐怖の対象に? 魔王ライリーになるのか?
……うん! じゃああの目は気のせいだ!