第32話 忍び寄る者
今回は???視点です。ライリー達は出ません。
紺碧の夜空に月光が微かな光を放つ。その月光を計算したかのようにとある部屋に注ぎ込まれていた。
その部屋には、8人の人影があった。全員が丸机を囲み、談笑していた。
それは特におかしくはないだろう。しかし、一般とは大きくかけ離れた点が数々ある。
1つ目に、部屋の豪華さだ。家具の1つ1つに豪華な彫刻や装飾が施されていた。
月光を受けているため、最小限にされたシャンデリアはこの部屋の〝品〟の良さを表していた。
2つ目に、服装だ。ここに居る8人は庶民から見たら高すぎて吐く程の服だ。
これを手に入れるには、ダークウルフ1000頭以上は必ず必要だろう。
3つ目に、魔力だ。8人から放たれる魔力は、とてつもなく強く、多い。
ライリーとは比べ物にならない程。
それぞれが一般人の100倍以上はあるだろう。
そして、その場に一人の黒尽くめの男が現れ、跪く。
直視してはいけないとばかりに頭を下げ、緊張で汗を滴らせながら発言が許されるのを待った。
そして、その男から見て真正面の1番豪華で、1番魔力を放つ女性が口を開く。
その女性は、ありとあらゆる光り輝く宝石があしらわれた〝王冠〟を被り、純白のシルクのドレスを纏い、優雅に佇んでいた。
その姿は、芸術作品のような美しさで、顔の可憐さも引き立てる。
「よい。ここは私室じゃ。固くなるでない。して、報告は?」
女性の「固くなるでない」と言う言葉をかけられても黒尽くめの男は微動だにしない。
理由は簡単だ。
緊張をといた瞬間に次に見るのは断頭台だからだ。
目の前の女性はそれ程までに高位の存在なのだ。
「報告致します。女王様の命令の元にリーカスを尾行した所、実際に冒険者を引き連れギドナ組と接触を確認」
男は、一つもいい間違えんとガチガチになりながら口を開いていく。
しかし、それに横槍を入れる者が居た。
筋肉質で、190センチ以上ある大柄な男だ。初老で髪の毛は綺麗な白だ。
ミスリル製と思われる鎧を着ていて、1つ1つの動作から戦い慣れを感じる。
「ガハハハハ! ガッチガチでは無いか! まぁ、致し方ない事だがの! まぁ、その対応が正解だ! ワシが許してもこいつ等が許さんだろうからな!」
そう言いながら、ガッチガチに緊張した男が気に入ったのかわざわざ席を立ち、背中をボンボンと叩いた。
黒尽くめの男は、今の出来事が信じられず感激のあまり言葉を失っている。
〝この男〟に背中を叩かれるとはそれだけこの国の者にとって特別な事なのだ。
分かりやすく言うなら憧れの英雄に話しかけられる所か、励ましてもらえたといった感じだ。
この行為に反応する者がいた。
「あまり私の部下にちょっかいをかけるな。だが、言う通りだ。しっかりと礼を正せ。バカ女王以外にはな!」
女王は、雰囲気でうんうんと頷いていた。
「うむ、その通りじゃ……ってふぁっ!? お主、なーにが『バカ女王以外に』じゃ!」
黒尽くめの男は、自分の遥か上の上官の言葉を強く受け止め、しっかりと返事をする。
「は! 仰せのままに!」
「お主もかぁ! 全くぅ!」
全自動ツッコみマシーンと化した女王は気品などは失い、今では楽しげな雰囲気だ。
女王の周りの7人も、黒尽くめの男の返答に大爆笑している。
「朕はお、怒ったからな! お主らのクリスマスプレゼントは断頭台じゃ!」
「おお。流石、我らがバカ女王。息をする様に職権乱用をっ……!」
黒尽くめの上官は、如何にも感動した! と言う口調でそう言った。
その発言に、黒尽くめの男は顔を真っ青にする。しかし、そんな事はお構い無しに7人は更に大爆笑した。
「はぁぁあ! もう良い! 説明を続けるのじゃ!」
女王は、諦めて黒尽くめの男に続きの説明を求めた。
黒尽くめは、言わなければ死ぬ! と焦りながら説明をしていく。
「しかし、リーカスが転移した先ではボスであるフッドが倒された後でした。フッドを倒したのは、冒険者学園に在席する、一年のライリーと言う女のようです。
冒険者によると、リーカスがギドナ組を襲撃した理由もこの娘の救出のようです。しかし、ギドナ組の討伐はこの娘のパーティーである、ブレークハーツによって達成され、リーカスは一切介入しなかったようです」
報告を受け、ふざけていた8人も真面目になる。
「リーカスか。ワシの記憶が正しければ確か竜殺しとか呼ばれてた弱っちいガキじゃったか?」
「ええ。……じゃなくて、そうじゃ。しかし、ギドナ組をただの学園生が……黒尽くめよ、今後は必ず1人そのライリーと言う娘に尾行するのじゃ!」
「はっ! 御意のままに! その、ライリーと言う娘に関して、追って報告があります。
第一に、会話でなにやら〝魔王〟という言葉を何度も発しておりました。
第二に、確実な情報ではありませんが、パーティーメンバーの、レアと言う娘がゴブリンと言う情報もあります。
第三に、これは確実な情報ですが、パーティーメンバーのマチルダと言う娘が、赤色の眼を持っていました。
これらの情報から察するに、ライリーは魔王に関係する魔族だと愚考します」
その報告に、全員が苦虫をかみ潰したような表情になった。
漂う魔力が強くなり、そこだけ違う重力がかかっているようになる。
そして、女王が固く閉じた口を開け命令する。
「ライリーの尾行の人数を増やすのよ! 背後関係も徹底的に洗いなさい! 大臣達、命令よ。謁見の間にライリー含めパーティーメンバ全員を呼びなさい! 見極めるわよ。少しでも害がある場合は……即刻その場で処刑よ」
その言葉に、全員が跪き、頭を下げ地面スレスレの所で応える。
「はっ! 御意のままに!」
その日、この国の要注意犯罪者リストにライリー、レア、マチルダ、巻き添えでケイリーの名前が乗る事になったのであった……




