89話 二次元嫁
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遅れてすみません
ぶはっ。
意識がなくなりそうだと思ったのはアオイの抱きしめがあまりにも強くて所謂、落とされた状態にされそうだったからだった。
あれ?
そういえば眼鏡もしていないのに視界が鮮明だな?
痛みも感じない。
もしかして俺は既に死んでいる?
心臓は動いているようだ。
ステータスウィンドウで自分の状態を確認する。
おや?
「治って……る?」
状態異常がほとんど消えている。残っているのは謎の*****不足ってやつだ。
HPもレベルアップ直後以外で初めて最大値になっているのを見た。
これはいったい?
ともかく、異常もないようなのでベッドに寝ているのもあれだ。
この治療ベッドは気持ちよすぎて二度寝したくなる誘惑にかられるが、みんなを心配させるのも悪い。
というか、さっき思いっきり今際の際を演出したばかりな気もするが、それは気にしない。
気にしたら死ぬ。俺が!
ベッドから抜け出し、アイテムボックスから出したタオルで身体を拭いてついでにそれを腰にまく。さすがにパンイチなのはあまり見られたくはない。
ふむ。俺用にクラフトしたジャージを着ながら自分の身体を見る。いくつかあった手術跡も消えているな。
状態異常の減少から考えるに、これはきっと。
「……エリクサーを使ったのか?」
「そう。私が作ったエリクサーのおかげでコズミは助かったのよ」
凄い気にはなっていたのだが、あえて無視していた倒れていた少女が起き上がった。
ぐいっと拳で口元を拭った少女は、ずいっと急接近。
小さな子だ。キンちゃんぐらいだろうか。
顔もかなりかなーりの美少女。この子もマシニーズ……む?
この子も着ている服もどこかで見たような。
「スズリ?」
「やっとわかったの? 真っ先に私に気づくべきでしょう。妻のことをほったらかしなんてコズミはロクデナシよね」
ため息をつかれてしまった。
いや、スズリがわかったのだって左手薬指につけられていた指輪のせいだがな。俺の左手にもつけられているし。
これを見て3B公式サーバーのメインキャラの嫁を思い出せたからだ。
「本当にスズリ……? なんでここに?」
「きちゃった」
きちゃった、じゃなくてね。
なんでゲームのキャラクターがここにいるかという質問だったのだが。
いくら俺が3Bキャラの能力を持っているからって、これはいくらなんでもおかしいのだが。
……おかしくないのか?
なにが正常なのかわからなくなってきたきた。
どうなっているのか、あとでフリートのみんなに確認しなくてはいけない。スズリのことは任せていたはずなのだ。
「どうしたの? なにか不満でも?」
「え、いや……」
「どうせ、私よりもロボが来た方がよかったと考えているのでしょう。コズミは妻や仲間たちを捨てて終活するような男だものね」
う。ゲームキャラなはずなのにグサッときてしまった。
たしかに俺の生きた証として理想の基地群を建築しまくろうとした際、スズリや仲間NPCは自鯖に連れてこなかったが……。
「いいのよ、別れてあげたって。妻の目が届いてないと思ってこんなに女の子を囲っているような男なんてこっちから願い下げよ」
う。
ゲーム嫁なはずなのに。
リアルな嫁じゃないってわかっているのにそう言われるとショックを受けてしまう。
スズリはかなり気に入っているNPCだからなあ。
と、いうかだね。
「その格好で言われても説得力ねーよ」
呆れた感じでシンクレーンがツッコミを入れる。
それはそうだろう。俺も同意見である。
だって、スズリは俺に抱きつくというか、しがみつくというか、まるでコアラのようにくっついているワケで。
たしか、なんとかホールドというやつだっけ?
思い出せん。
3Bキャラのモーションの一つにあって、スズリも得意にしていたな。
画面で見ても可愛かったがまさかリアルに自分がされることになろうとは。
……よく俺の貧弱な腰が耐えられているな。スズリが小さくて軽いとはいっても、以前なら痛めているか、倒れているところなのだが。
「どこかおかしいかしら?」
「そんな不思議そうにされても……」
首を傾げるその動作はあざと可愛い。つい頭をなでてしまう。
うわ、柔らかくていい手触りの髪だ。いつまでも触っていたいぐらいだな。
「いつまでなでているのよ? あまり妻を子供扱いしないで!」
「そう言いながら顔はうっとりしてる」
「頭もコズミ先生にスリスリしているようにしか見えない」
「誰がよ!」
スズリがなんだが。
嫌なら離れたらいいのに、その気配もない。
むう。これはまさかまさかツンデレというやつなのだろうか?
「ズルい……」
アオイがこっちを睨んでいる。
俺のパートナーを名乗っていただけにスズリの登場は許せるものではないのかもしれない。
「スズリ、あのだな、俺はコズミだがお前の知っているコズミではなくて」
「わかってるわ。でも、あなたはコズミ。コズミがコズミである一番大事な部分。私はあなたの妻よ。それが嫌なら……殺せば?」
「できるか! なぜ殺さねばならん。残念ながら仲間NPCを死なせてしまったことはあるが俺は狙って殺したことなどはない! スズリをここまで育てるのだって苦労したんだぞ」
3Bではイベントキャラ以外のNPCはランダム生成され、その能力はピンキリ。たまに神性能のNPCが生まれることもあるが、そういうのは公式サーバーでは他のプレイヤーにすぐに持って行かれてしまう。
弱くても手当たり次第仲間にしまくって、気にくわなければ処分して新たに生成されやすくするといった方法を取るプレイヤーもいた。
そのためアップデートの度に対策がとられ、公式サーバーでは一定期間に仲間にできるNPCの数を制限したり、評判値が設定されてあまり仲間NPCを死なせすぎてると評判値が下がり、仲間にしにくくもなっている。
スズリはその硯という名前が気に入ってフリートに入れて仲間にしたあとも注意しながら育成した。死なさないようにスキルを解放させるのは公式サーバーでは難しいのだ。最初から持っているスキルを伸ばすのが普通で、仲間に入れるNPCもそれによって厳選される。
だが俺は、最高の仲間NPCを作りたくてがんばった。スズリは初期所持スキルこそ少なかったが、不要なスキルも持っていなくてかわりに初期スキルポイントが最大値。
これは育てるしかないだろう!
時に自キャラを盾にしてでも生き延びさせたスズリは俺好みのスキルを持つ超強キャラへと進化したのだ。死なせるワケがあるまい。万が一死亡しても復活できる結婚相手に選んだのも当然といえよう。
「ならば私が妻と認めた、でいいのね?」
「う……わかった」
エリクサーを作ってくれた命の恩人だ。こんな泣きそうな顔で聞かれたら断るわけにもいくまい。
それに俺の二次元嫁の一人。嫌いなワケがない。
ちょっと外見が幼すぎるが別に生徒というワケでもないので、教師としてのジャスティスにも反してはいないのだ。
どうせ結婚なんてできないと諦めていた俺だ。紳士という評価は甘んじて受けよう。
「そう。当然ね」
「コズミの……お嫁さん」
「アオイには言ってなかったわね。私はコズミに育てられた先輩でもあるわ。お姉さまと呼んでもいいのよ」
どうどー見てもスズリの方が年下なんですが。
言われてみればスズリも俺の生徒と言えなくもないが……もう育成もおわっているし、卒業したってことで生徒ではない。ジャスティスに問題はない。
「問題はこの、コズミが囲っている女の子たちよね」
「なにそれ人聞きの悪い。囲っているわけじゃないぞ」
「コズミ、私はあなたが重婚MODを入れたって聞いているの。本当かしら?」
またスズリの首傾げ。しかしさっきよりも殺気がこもっているような?
あと、いい加減離れてくれ。さすがにそろそろ腰がヤバイ。
いろんな意味でな。
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