87話 ブースト
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今回はアオイ視点
シラユリが受けた神託により探していた物資をヒワが見つけてくれた。
パラシュートにぶら下がった光る箱。コズミに聞いた支援ボックスかもしれない。コズミはたまに3B仕様なんだから降ってこないかと期待していた。
箱が運ばれて、私たちはすぐに箱を開けようとする。
大きな箱だった。コズミのコンテナほどじゃないけど。
その箱が急に開いた。私たちはまだ開けていない。
開け方もわからなかったからそれはかまわないけど、中から一人の女の子が出てきた。
小さな、キンちゃんぐらいの見た目の女の子だ。見たことのない服を着ている。
「やっとついたのかしら?」
驚いた。
その子は日本語で聞いてきたのだ。
みんなは日本語を知らない。私が答えることにする。
「ついたって、どこへ? あなたがコズミを助けてくれるの?」
「コズミを知っているのね? ふっふっふ……やったわ! あの連中を出し抜けたのね!」
いきなり笑い出した女の子。
あの連中って誰?
「答えて。あなたがコズミを助けてくれるの?」
「もちろん。コズミはどこ?」
「コズミは次元門の先にいる」
助けてくれるなら早くしてほしい。
この子をコズミのところへ連れて行かないと!
女神様の神託もあるし、簡易鑑定というものの表示は味方の色なのでだいじょうぶ。私は女の子の手を取って次元門へ急ぐ。
「そう。私はスズリよ。あなたは?」
「私はアオイ。コズミのパートナー」
そう名乗った瞬間にスズリと名乗った女の子は私の手を払いのけ、いきなりバチンとビンタをされてしまった。
痛い。
それを見ていたみんなも驚いているけど、私はもっと驚いている。
表示が味方なのと、日本語を話しているから油断していたのはたしか。でも、私が回避できないほどのビンタなんて、この子は何者?
「あなたのことは聞いているわ、アオイ。自称コズミのパートナーのあなたがなんでこんなところにいるの! コズミが死にそうなんでしょ! コズミを殺すつもり?」
「え? わ、私はコズミのために……」
「わかってないのね。……いいわ。あとで教えてあげる。今はコズミのとこに行くのが先よ。急ぎなさい!」
なんでスズリが怒っているのか全然わからない。
その彼女は支援ボックスを消し去ってしまった。コズミと同じようにアイテムボックスを持っているの?
でも、それを聞くよりコズミの治療が先。スズリとみんなを連れて、8組の寮へと帰った。
急かされるままにコズミが寝ている礼拝室へとスズリを案内する。
「礼拝室って……霊安室よりはマシだけど、本当にコズミを助けるつもりがあるの?」
「この部屋の方が女神様の力を借りやすいってシラユリが言うんだから間違いはない」
「そう。それならいいけど……」
突然入ってきた見知らぬ女の子に驚くシラユリをよそにスズリに説明する。シラユリも日本語がわからないので会話には入ってこれない。
スズリはお風呂ベッドに寝るコズミを見てツラそうな顔をして、それからいきなり真っ赤になって鼻をおさえた。
「な、なんでコズミが裸になっているのよ!」
「お風呂ベッドに寝かせるため。服をきたままだとおかしい」
「え……そ、そう、こっちだとそうしなければいけないのね」
鼻に紙をつめながらスズリは言った。
コズミを背に、でも気になるのかチラチラ見ては真っ赤になっている。
「鼻、どうしたの?」
「わからないの? コズミの裸を見て鼻血を出さないなんて、あなたたちどうかしてるわ! しかもコズミは素顔なのよ! こんなレアなの、あいつらだってそうは見てないはずよ!」
「裸じゃない。コズミはパンツを履いている」
「当たり前でしょ! 全裸なんて、私を殺すつもり!?」
パンツまで脱がそうという意見もあったけど、私たちにはまだ早いとシルヴィア様が止めた。でも、綺麗好きなコズミが同じパンツを続けるのは可哀想だというので、今履いているのはグレーシャンとシルヴィア様が着替えさせたのだ。
私たちはそれに参加させてもらえなかった。ズルい。
「まったく、恥じらいというものがないのかしら? ……うん。まだコズミは大丈夫のようね」
「よかった」
「よくはない。アオイ、あなたはコズミのフリートに入っているのでしょう? コズミがこんな状態の時にあなたがそばを離れてどうするのよ!」
「私だってずっとそばにいたい。でも治療はシラユリやシルヴィア様の方が得意」
「そうじゃないわ。本当にわかってないのね」
大きなため息をつかれてしまった。
なんだろう?
私に他にできることがあったというの?
「コズミから聞いていないかしら? フリートブースト。フレンドバフでもいいわ」
「……あ」
「あるんじゃない! いい、フリートのメンバーであるアオイが近くにいるだけでコズミのステータスは上昇するの! あなたがそばにいれば、それだけでコズミは死ににくくなるのよ!」
コズミのフリートに入る時にそんな説明を受けた気もする。
でもあの時は変形のことばかりが気になって、あまりしっかり聞いていなかったかもしれない。
「私だけじゃなくて、コズミのステータスも?」
「そうよ。コズミはなにも教えてないのね。まったくもう!」
「そんなことない! コズミは私に、私たちのために大事なことを教えてくれた! 私たちを出来損ないじゃなくしてくれた!」
注意されているのに私は声を荒げてしまった。
これでは逆ギレというものみたいだ。
だけど、コズミのことを悪く言うのは許せない。
「ふん。言うじゃない。でもね、コズミは本当はもっとしっかりしているのよ! こんな屋敷で満足するような男じゃないの!」
「……この寮をコズミが作ったってわかるの?」
「当たり前じゃない。コズミのことで私が知らないことなんて、ほとんどないわ」
胸を張るスズリ。だがその胸は私よりも小さい。私に対する当たりはキツいが親近感がわいてしまうのは何故だろう。
「アオイ、その子はなんて言っているんですか?」
「コズミ先生を早く助けて!」
そうだった。
この子のことは気になるけど、コズミの治療が先!
スズリがきたことで心なしかコズミの顔色がよくなっているようにも見える。
フリートブーストも知っている彼女ならきっとコズミを助けてくれるはず。
「スズリ、お願い、コズミを助けて」
「わかっているわ。私がいるのだからコズミを死なせるわけないじゃない!」
怒鳴られ、睨まれてしまった。
スズリはアイテムボックスからいくつかのアイテムを取り出す。薬草や鉱石だ。
「これを使ってエリクサーをクラフトしなさい。材料は全て揃っているはずよ」
「……調合できるキンちゃんはまだ帰ってきていない」
「そう……だからあの女は私が支援ボックスに潜り込むのを見逃したのかしら?」
キンちゃんたちにも機神の護符で連絡が行っているが、まだ帰ってきてはいない。
急ぐように連絡するか迷うが、きっと彼女たちも最大速度でこっちへ向かっているはずだ。
「仕方ないわね。私が離れるとコズミのステータスが下がるのに……」
「え? スズリもコズミのフリートなの?」
たしかフリートに入る時にコズミ一人しかいないって言っていたのに。
私の知らない間にフリートに入ったのだろうか?
「違うわ。フリートブーストは効果は重複しないわ。フリートのメンバーが何人いても効果は同じよ。でないと人数が多いフリートばかり有利になりすぎるでしょ?」
「そうなの?」
「コズミはなんにも教えてないのかしら? フリートブーストよりも強力なバフがかかるのは聞かなかった?」
それは聞いていない。……たぶん。
私が首を振ったら、スズリはまたため息。
「その名はカップルブースト。フリートブーストとも重複できるの。私がコズミのそばを離れたらそれが消えてしまうわ」
「カップルブースト?」
「そうよ。夫婦ブーストとも呼ばれているわ。結婚相手が近くにいることで発生するのよ」
……え?
夫婦ブースト?
結婚相手?
「スズリはも、もしか……して?」
「私はスズリ。コズミの妻よ!」
ニヤリと笑った彼女の答えはあまりにもショックだった。
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