86話 支援物資
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今回はヒワ視点
ヒワです。
機神巫女科8組の1年です。
わたしたち8組のみんなはコズミ先生のおかげで生まれ変わることができました。
返しきれない恩がコズミ先生にあります。
はじめは少し怖い人でした。マスクと眼鏡でほとんど顔がわからなくて、マスクをとってもお髭のお顔のおじさんです。
ひょろっとしていて強そうには見えないのに、わたしたちの元担任を問い詰めた時の剣の動きは全く見えないほどに鋭かったんです。
次に抱いたイメージはエッチな先生でした。
ワカナとシラユリが1年を集めてその意味を教えてくれました。キンちゃんとアンジュラは知ってたみたいです。
すごいことを知ってしまいました。コズミ先生はアオイともう、お父さんとお母さんがすることをしたって。
コズミ先生の授業でアオイの話してくれた「はじめて」の時、それを聞いていたら真っ赤になってしまいました。ワカナたちの言うとおり、アオイはもう大人になっていたんです!
名前を言うのもイヤな元担任だってわたしたちにそんなことをしたことはありません。ワカナが言うにはわたしたちを女として見ていなかったからだそうです。
でも、コズミ先生は違います。わたしたちを可愛い女の子って言ってくれました。美少女だともよく言います。お世辞ではありません、コズミ先生は本当にそう思っていることしか口にしない正直な方なんです。
わたしたちはコズミ先生のおかげでは自分たちが出来損ないではなく、可変型という種類の機神巫女であることを知りました。
変形、をするためにコズミ先生を中に入れるのはちょっと怖かったです。ワカナたちが言っていたあれです。赤ちゃんができてしまうかもしれません!
違いました。
コズミ先生を中に入れるのと、赤ちゃんができる行為はちょっと違うそうです。少し安心しましたが、コズミ先生はわたしの秘密にすぐ気づいてしまいました。
マシンナリィしたわたしが飛べることに。
コズミ先生ならばわたしを操縦して無理矢理飛ばすことができたはずなんです。
でも、そうはしませんでした。わたしを説得してそれでも飛ぶのを怖がっていたら諦めてくれました。やさしい先生です。
わたしの中に入って敏感なところに触るのにもとてもやさしくて……とっても気持ちいいんです、あれは。
コズミ先生は自分のことを仮パートナーだと言いますけど、コズミ先生以上の人がいるなんてとても思えません。
特訓のおかげでわたしも飛ぶことができました。もう、サベージュの攻撃も怖くなんてないんです。先輩も謝ってくれましたが、そうじゃなくたってコズミ先生が鍛えてくれたわたしが落とされるわけがありません。
そう言ったらコズミ先生に「油断するな」って注意されてしまいました。
ですね。チョーシくれてました、ごめんなさい。
そのコズミ先生が倒れてしまいました。
ずっと無理をしていたみたいです。グレーシャンとイザベルにコーチを頼んだのも身体が限界だったからかもしれません。
なのに、猫に噛まれたりして……実はわたし、猫が苦手です。
だけどコズミ先生が飼いたいみたいなんで、我慢して黙っていました。ちゃんと止めればよかったんです。
コズミ先生が倒れたのは猫のせいもあるに違いないんです!
あんな可愛い顔して恐ろしい生物……可愛いのは認めますよ、可愛いのは。
でも苦手なんです。わたしが鳥の形にもなれるせいかもしれません。
コズミ先生のためにエリクサーの材料を探すことになりました。
反対する人なんて、もちろんいません。
わたしたちだけじゃなく、冒険者ギルドでも依頼を出しました。エリクサーや材料の採集依頼です。
多少高くなっても報酬はジェーンが払ってくれると保証すると、冒険者ギルドもちゃんと依頼を出してくれました。ジェーンはやっぱり貴族様なんでしょうか?
コズミ先生の看護のためにシラユリが残り、それ以外のみんなは材料を探します。
副学園長やシルヴィア様も伝をたどってみるそうです。
◇ ◇ ◇
コズミ先生が倒れてから二日。まだ意識を失ったままです。
エリクサーの材料は集まってきましたが、まだ全ては揃っていません。
キンちゃんが言うには一番重要な霊草が手に入らないみたい。
だから霊草を探しに遠出するんだって。
「全員で行くことはない。オレとキンちゃん、ミレス、ミカンヌで行く。残りはこっちで探してくれ」
「見つかったらすぐに連絡してほしいのだ。エリクサーを調合できるのはコズミ先生とキンちゃんだけなのだ。急いで戻ってくるのだ」
「あたしとイザベルは1組の授業があるから行けない。気をつけろよ、お前たちになにかあったらコズミが悲しむんだからな」
とても高い山の上の方で見つかるとのことなんだから、飛行できるわたしも行きたかったけど、1年は駄目だって止められた。キンちゃんは霊草を見分けられるのがキンちゃんだけなんでしかたないんだって。
わたしだってコズミ先生の役に立ちたい。
ふと見ると、コズミ先生を寝かせたお風呂みたいなベッドを運ぶ時にできちゃった壁や床の傷を小さなおじさんが直してるんです。
コズミ先生が召喚した家妖精。膨らんだズボンと腹巻きをして、大きなハンマーをかついだ彼は、傷になっている箇所に近づくとそのハンマーでぽこぽこと傷を叩く。たったそれだけの動作だったのに、傷がまったくわからなくなっちゃいました。
「コズミはスゴイ」
わたしといっしょにそれを見ていたアオイが言います。本当にそのとおりだと思います。
アオイもコズミ先生が倒れてからずっと暗い顔です。
コズミ先生のパートナーだからわたしたち以上にツラいのかも。
わたしたちはアオイに誘われて特訓したあの世界、チュートリアル世界にきていました。
ここで霊草を探すというんです。
キンちゃんほどではありませんが、アオイも霊草の見分けができるかもしれないって。
「コズミが心配で忘れていた」
勇者でもそんなことがあるんですね。
でも、この時はそれがよかったんだからアオイが忘れていたのも意味があったのかも。
だってすぐに機神の護符にシラユリから通信が入ったから。
『今、どこにいますか?』
「チュートリアル世界。これからみんなで霊草を探す」
『……ちょうどよいですね。女神様から神託がありました。コズミ先生のための物資をそちらに送ってくれるそうです』
女神様が!?
コズミ先生のことを女神様も救いたいんですね。
よかった。これでコズミ先生が助かります!
「送ってくれるってどこ?」
『守護鳥のいる世界としか聞き取れませんでした。ただ、その物資は非常に目立つ物のようです。探し出してください』
「わかった」
ええっ、この世界のどこに届けられるかわからないんですか?
でも、そんなことを言ってもいられません。
絶対に受け取らないと!
「アサギリ、ヒワ、飛べる私たちは散会して各個に探そう。残りMPと大きな鳥には気をつけて」
「まかせて。あんなのには負けないから」
「戦ってないで女神様からの物資を探しましょうよ」
残りのみんなは一番送ってくる可能性の高い塔の周辺で待ち構えることになりました。
あの塔もアオイが壊して、コズミ先生が直しているんです。
コズミ先生はまだまだ大きく、便利な塔にしたいみたい。わたしもそれが見たいな。
◇
いつもよりも高く、周囲を気にしながら飛んでいたらそれを見つけました。
見つけた、というかいきなり視界に出現したんだけどね。
ぽんっ、て感じで目の前に現れたそれはすぐに落下を始めて、それからバッて広がりました。
あれは知っています。パラシュートです。
コズミ先生が作ってくれた物に似たのがあります。魔法も使っていないのに落ちる速さが遅くなるんです。
広がったパラシュートの先には大きな箱がついてます。その箱は強く光り輝いていて、たしかに目立っています。
「こちらヒワ、それっぽいものを見つけました。パラシュートにぶら下がった光る箱です」
『たぶんそれでしょう。回収をお願いします。ただし、薬瓶かもしれないからやさしく回収してください』
「わかりました!」
危なかったです。シラユリの注意がなければ慌てて乱暴に回収して、中のものを駄目にしていたかもしれません。
わたしはゆっくりと鳥の足でパラシュートを掴み、塔へと戻りました。急ぎたいけど壊さないように飛ぶのはちょっと難しかったです。
塔にはすでにこの世界にきたみんなが待ち構えていました。
そおっと光る箱を下ろします。
みんなもそれに集まったんで、わたしもマシンナリィを解いてむかいます。
その時です。
ガシュッと箱が勝手に開いたんです。
そして。
「*****」
中から一人の女の子が出てきたんです。
なにやら話しています。わたしには分からない言葉ですね。
アオイにはわかったのか、彼女に話しかけました。
彼女の台詞の中で「ふっふっふ」という笑い声と「コズミ」という単語だけがわたしにわかりました。
この人がコズミ先生を助ける物資なんでしょうか?
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