84話 アオイの決意
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84話と85話を入れ替えました
今回はアオイ視点
私はアオイ。
勇者なんて呼ばれているけど、ちょっと強いだけの女の子。
口数が少ないとも言われるけど、それは私が小さい頃はこっちの世界の言葉をうまく喋れなかったせいかもしれない。
別の世界で生まれた私だけど、迷子になってこの世界にきていた。
異世界の人間だって信じてくれる人はほとんどいなかった。女神教の教会でアイディーカードを作る時の検査で私が〈勇者〉スキルを持っているのがわかるまでは。
検査では、私が勇者だけでなく機神巫女であることも判明した。
……出来損ないであることも。
孤児院の院長は私が機神巫女なことを隠そうとしてくれたが、勇者でもある私のことを隠すわけにはいかず、私はフロマ学園に通うことになった。
学園では勇者である私をドなんとか――コズミがそう呼ぶので私もそう呼ぶことにした――司祭が出迎えて好待遇で扱ってくれたのだが、私が出来損ないだとわかると態度が一変。口ではやさしかったが冷遇された。
出来損ないの集う機神巫女科の8組のみんなは、孤児院に次ぐ私の新しい家族。
彼女たちが酷い境遇に扱われているのは自分のことよりもツラかった。
だから、女神様の神託による試練の話が出た時に私は志願した。
私が試練を乗り越えてパートナーを見つけてくれば、出来損ないを見る目が少しは変わるだろうかと期待して。
シラユリからは私を始末するためにドなんとかが仕組んだとも言っていたけど、私が行かなければシンクレーンが自分が行くって言い出すと思う。
シンクレーンは8組の精神的な支え。いなくなったらみんなが困る。私が行くしかない。
それに、次元門を使うチャンスでもある。もしかしたら私が生まれた世界に行けるかもしれない。お父さんお母さんに会いたい。
次元門の先は残念ながら私の生まれた世界ではなかった。でも、お父さんと同じ世界からきたコズミに会うことができた。
試練開始から数日。持ってきた食料もほとんどなくなり、空腹を抱えたまま森をさまよっていた私は妙な物体を見つけた。
巨木が生い茂る森の中に、明らかに人造物と思われる大きな石板があったのだ。
そこには文字が書かれたプレートとドアがついていた。
慎重に近づいていくとドアがゆっくりと開いて、一人の男が現れた。
「どちらさま?」
その男はそう、もう何年ぶりかになるお父さんと同じ国の言葉で聞いてきた。その瞬間、なぜだかわからないがこの男の人が運命の人なんだと私にはわかったのだ。まさしく女神様のお告げに違いない。
◇ ◇
コズミはやっぱり日本人で、しかも伝説のスウィートハートだった。
持っている知識もスゴイ。
彼のおかげで私は、出来損ないなんかじゃないと知ることができた。本当の力を使うことができるようになった。
さすが私の運命の人だ。
でも、コズミは機神巫女とパートナーだからって、私との結婚はないと言う。
私がコズミと結婚したがるのはパートナーだからで、コズミのことを好きだからではないと言うのだ。
……よくわからない。
機神巫女とパートナーが結婚するのは当然だと思う。
機神巫女の強さはパートナーとの絆の深さで変わる。強い絆で結ばれた二人なのだから夫婦にもなるのだ。
コズミと私は帰還の手段を求めてチュートリアル世界――コズミがそう呼んでいる――を飛び回り、帰ってくることができた。
8組のみんなも勇者召喚という方法でそれを助けてくれたみたい。
コズミはスゴイ。
帰ってきてから、いきなり8組の担任だった偽神官を退治してコズミが新たな担任となってしまった。これは私も予想してなかった。
コズミはスゴイ。
クラフトというスゴイ力を持っていて、8組の新しい寮を建ててしまった。
短期間で建てたとは誰も信じないような、立派なお屋敷を。
コズミが寮を建ててくれなければ、偽神官による放火で8組の誰かが危険だったかもしれない。
コズミはスゴイ。
8組のみんなも出来損ないではなく、可変型という種類の機神巫女なんだと教え、証明してくれた。
みんな、泣いてしまった。……人のことは言えないけど。
そのおかげと、変形を覚えさせるためにみんなにコズミが乗り込んでしまったせいで、みんながコズミを見る目が怪しい。
なんだか不安になる。こんな気持ちは初めてだ。
病気かもしれないのでシラユリに相談したら、惚気るなと怒られてしまった。
……よく、わからない。
コズミはスゴイ。
8組の古い寮が放火されてしまった。コズミはそれすらも利用してドなんとかたちを牽制する。マシンナリィした私の上にクラフトした機械をくっつけて、チラシをばらまけるようにしてくれた。
出来損ないだって私たちを馬鹿にした街の人たちが、飛行する私を指差して驚いているのはいい気分だった。
まさか、あんなに謝罪にくるとは思わなかったけど。コズミのチラシの効果がスゴかった。
それだけではない。
チラシのおかげで同じ孤児院出身のお姉さん、グレーシャンと再会することもできた。しかもコズミの発案でグレーシャンと友達のイザベルが私たちのコーチをしてくれることになったのだ。
グレーシャンは帝国最強の機神巫女と呼ばれる達人で、その師事を受けられるというのは1組でさえできないだろう。
私たちが試合に勝つことができたのも二人の特訓によるものが大きい。つまり、それを導いたコズミのおかげだ。
コズミはスゴイ。
グレーシャンもそのことに気づいたのか積極的にコズミにアプローチしている気がする。
なんだか胸のモヤモヤが大きくなってきたようだ。
……ようやく私は気づいた。
このモヤモヤは嫉妬なのだと。
こんな気持ちになる私は自分が酷く醜い気がして、シラユリではなく今度は教皇シルヴィア様に相談した。
「アオイさんはそんなにもコズミ様のことを愛しているのですね」
愛している?
私がコズミを?
パートナーだから当然……違う。
なんだか、パートナーだからというだけの理由でこの気持ちを説明するのはおかしい気がする。
私のこの想いはそんな理由だからではない。
パートナーだからではない。コズミだから好きなのだ。
そう、私はコズミが好き。
理解したらなんだか胸がドキドキしてきた。顔も熱い。
でも、嫌な気分じゃない。
もしかして、みんなもこんな気持ちなんだろうか。
コズミを取られてしまうのではないかと不安になってくる。シルヴィア様だってコズミを憎からず思っているようだ。
安全なのはイザベルだけ……イザベルはコズミを好きにならないでほしい。サモピンと幸せになってほしいのは8組みんなの願い。
「コズミ先生をお好きなみなさんでコズミ先生と結婚すればいいのですよ。みなさんが幸せになります」
オトメの侍女の婆さんが私に囁いた。
雷魔法を受けたような衝撃が私を襲う。そんなことができるのだろうか?
でも、それなら誰も泣かないですむ。ずっとコズミとみんなと一緒にいられる!
◇
コズミとみんなとの幸せな家庭を夢見始めたのに、それどころではないことになってしまった。
それはコズミがたい焼きを作ってくれている時だった。みんなで料理するのは新婚生活みたいで楽しかった。私はコズミが作ってくれるのが嬉しくて追加を頼む。
その時、コズミが血を吐いて倒れたのだ。
コズミはずっと口癖のように「自分は身体が弱い、もう長くはない」って言っていた。
でもエリクサーのレシピを知ることができたからあとは材料を集めるだけ。それだけでコズミはずっと一緒にいてくれるって思っていたのに……。
「正直、あまり容態はよろしくありません。今まで普通に暮らしていたのも不思議なくらいです」
救急車という、医療用の形態を持つシラユリが暗い表情でみんなに話す。
治療魔法も使ってはいるが、あまり効果が出ていないとも。
「そんな、そんな状態でオレたちのためにコズミ先生は……」
「私たちが無理をさせたからコズミ先生が……」
「コズミ先生、死んじゃやだよぅ」
最近やっと明るい顔が続くようになったみんなの顔が曇る。今にも泣きそうな子もいる。私も同じだろう。
でも、私は諦めない。
「エリクサーを作ろう」
「アオイ?」
「キンちゃんはレシピを知っている? そう、それならあとは材料を集めるだけ」
私だってエリクサーをなんとかするってコズミと約束している。
その約束は絶対に守る。
エリクサーで元気になってもらって……コズミに告白する。
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