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83話 尻尾の先

ブックマーク登録、評価、感想、イラスト、誤字報告、ありがとうございます

 3Bのアイテムは耐久度が1割以下になると壊れたアイテムとなり、壊れた状態でも使用することはできるが性能は落ちており、耐久度がゼロになると消失してしまう仕様だ。

 この時、特定のアイテムを使用して破壊すると素材を手に入れることができるので、PVP(プレイヤー(VS)プレイヤー)の時でも素材を入手できるのだ。

 もちろん、自分のアイテムを自分で壊しても素材を入手できるが、壊れたアイテムなら修理できるので、あまり俺は使わなかった。


 なぜこんなことをというと、コンビニのゴミの処理の話である。

 コンビニの商品も3B仕様なので、ゴミも簡単に処分できるわけではないのだ。

 3Bなら配置型のオブジェクトではないアイテムをそこらに置いたり、死亡時にぶちまけてしまった場合、一定時間で自動的になくなる。

 だが、自鯖の設定だと時間によって消えないようにしてしまっていた。公開時には調整するつもりだったのだが、基地群の建築中にうっかり死亡してアイテム全ロストしたくなかったからな。


 ポテトチップスの袋等、コンビニ商品のゴミは特定のゴミ箱に捨てるように指示。このゴミ箱は捨てた物を一定時間で自動的に消失させるアイテムでMODで追加されたやつだ。

 一定時間で消失されるとはいえ、地面に不要アイテムを置きまくると処理が重くなることがあるので実はけっこう有用なアイテムだったりする。

 設定をいじることで、廃棄アイテムから特定の素材だけ消失させずに残るようにしておこう。


「そこらに捨てるんじゃ駄目なのか?」


「ゴミはちゃんと始末するように。清潔にしてくれ」


 こっちだとまとめて燃やしたりするらしい。そのゴミを集めるのも専門の人がやるとかで軽犯罪者の苦役でやらせることもある。

 不要品はそこらにポイ捨てが普通って……一応、使えそうなものは売りに出すようで不要品はそんなに出ないとはいえ、俺としては耐えられそうにない。そういえば街をよく見た印象がなかったのはあまり綺麗じゃなかったからだろうか。


 外国人が日本の街は綺麗だって驚くというけど、その逆は勘弁してほしい。

 初代学園長はキントリヒの話だとエルフの女王に召喚された異世界人だそうだが、日本人ではなかったのかもしれない。


「お父さん、日本はゴミで島ができるほど豊かな国だって言ってた」


「そういう見方もできるのか」


「それは凄いな。コズミ先生はそんな国からきたのか」


 勘違い、でもないか。

 俺の生活環境ぐらいは日本並に……できればいいのだが。


「寮も壊れたら消えてしまうのでしょうか?」


「建物も家具も完全に壊れたら、な。だが、耐久力が1割以下になれば見た目が変わるので完全に壊れる前に修理すればいい」


「そんなこと言われても私たちじゃ直せませんよう」


「大丈夫だ。そう簡単には壊れない。耐久度を減らす一番の原因であるネズミ対策の猫もきたしな」


 建材もプラスつきの壁や床だから耐久度も高い。

 ネズミ以外なら破壊されないと思う。

 3Bのネズミは凶悪だから対策してないとヤバイが。


「まだ子猫だからそんなに期待したら可哀想じゃないか?」


「テイムした猫はがんばってくれるはずだ」


「そうなの?」


 クラフトした猫用の皿に入れたペットフードを食べている猫を見ながら微笑んでいる生徒たち。カリカリの方だ。ネズミを捕ったら猫缶をあげてやろう。

 まだ猫の数は足りないが、おいおい追加すればいい。

 修理は俺が……俺が死んでも問題ないようにしておくべきか?


「ふむ。そうだな、修理もやってくれる助っ人を用意するか」


「助っ人? そんな人がいるのだ? コズミ先生も召喚が使えるのだ?」


「召喚とはちょっと違う……ある意味召喚か?」


 MODで追加されたサポートキャラがいる。

 今回はそれを使ってみようと思う。

 必要なアイテムをクラフトしなくては。キャットウォークは後回しになるが、猫もまだ小さいしその方がいいだろう。


「コズミ先生、どんな人がくるんだい?」


「人じゃない、妖精だ。家妖精」


「家妖精?」


 家妖精はMODで追加されたサポートキャラで、やることは修理担当のモブロイドとほとんど同じ。ファンタジー世界向けのキャラである。この世界には向いているだろう。

 モブロイドも造れないし。正確には造れるが、動かすためのソウルが手に入らない。


 家妖精はいつの間にか居着いている場合もあるが、ほぼ確実に家に居着かせる方法がある。

 必要なのは家妖精の家となるドールハウスと、菓子。

 作業台でドールハウスをクラフトして、と。


「家の……模型?」


「ドールハウスだ。これを設置すると現れた妖精がここで暮らすようになる」


「こんな小さいのにかなり精密にできるのだね」


「コズミはスゴイ」


 クラフト関係のスキルのおかげでサクサクとドールハウスが組み立てられていく。〈模型製作〉も解放(アンロック)されたのでレベルを上げておこう。

 うむ。我ながらいい出来である。

 これならもし家妖精がこなくてもインテリアとして飾っておいていい。


「これで家妖精がくるのか?」


「いや、家妖精がつまみ食いするための菓子が必要だ」


「お菓子!」


「つまみ食い?」


 妖精はつまみ食いが好きらしい。MODを配布しているホームページにはそう記載されていた。

 そしてドールハウスに呼びたい妖精によって菓子が変わってくる。


「ちょっとコンビニで材料を買ってくるから待っててくれ」


「たくさんお願い。私も食べたい」


「そのつもりだから安心してくれ」


 俺も食べるのは久しぶりだし、そもそも作ったことはないが〈料理〉スキルがあるのできっと上手くいくはず。だが、念のために材料は余計に買っておこう。



 ◇



 何人かついてきた生徒たちとともにコンビニで買い物をすませて帰宅。

 作業を再開する。


「それで完成?」


「それ、食べるの? ちょっと固そう」


「いや、これは調理器具だ。食べられる材料、使っていないだろ?」


「鉄製の魚の彫刻?」


 帰ってまずクラフトしたのは鉄製の型だ。形は魚。

 そう。たい焼きの型である。複数いっぺんに焼ける所謂養殖タイプの型だ。

 加熱するためのコンロもキッチンに設置。


「あんこは手間だから出来合いのを買った。コンビニに売っていてよかったよ」


「あんこ、ですか? そんな真っ黒いのが食べられるのでしょうか?」


「これは小豆という豆を甘く煮たもので、たぶん気に入ってくれると思う」


 やはりこっちには豆を甘くしたものはなさそうだな。

 生地もホットケーキミックスを使った簡単ななんちゃってたい焼きだ。

 やりたがったアオイに混ぜて貰ってる間に型に油を馴染ませて余熱。

 そして焼き開始。

 いい香りが漂って、気づくとキッチンに全員が揃っていた。


「初めてにしてはよくできたかな?」


 焼けたたい焼きを一つとって割ってみる。

 うん、生焼けではないな。ちゃんと焼けている。


「魚の、パン?」


「食べてみてくれ」


 全員分は一度に焼けなかったので、貰えなかった者には少し待って貰う。

 半分コという手もないワケでもないが、このたい焼きではやりにくいのだ。


「熱い! けど甘い! おいしい!」


「ちょっと怖かったけど、このあんこって豆、美味いね」


「だが、これはケチらないで尻尾まであんこを入れるべきじゃないのかい?」


 ジェーンはわかってるのか、そんな注文をつけてきた。

 だが、今回の目的だと、尻尾にはあんこが入っていない方が正しいのだ。


「たい焼きの尻尾は元々、持ち手で食べないという説もあるんだ。職人への差し入れにも使われて、汚れた手でも尻尾を掴んで食べればいい。食べないと割り切ればあんこを入れる必要はないだろ」


「なるほど」


 他にもあんこが入っていない部分を最後に食べて口の中の甘さを減らす、という説もあったか。

 だが職人向けというのが今回の一番の理由だ。

 だってだな。


「あ、家妖精がやってきたようです」


「あれが家妖精?」


「ずいぶんと個性的な……」


 ドールハウスの前にたい焼きをのせた皿を置いていたらもう家妖精がきていた。

 等身が低いその小さな姿が纏う衣装は捻りハチマキに腹巻き、そして膨らんだズボン。手に持つのは巨大なハンマー。

 まさに昔ながらの大工なのである。


「これで寮の修理も万全だ」


「コズミ、次のを焼いて」


「ちょ、ちょっと待っ……ゴフっ」


 あ、やばい。

 口の中にあるのはたい焼きの味だけではない。

 血が……。



読んでいただきありがとうございます

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