82話 ビリー
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二匹目の子猫も無事にテイム成功。
名付けは生徒たちに任せることにして、作業室で猫用のグッズをクラフトする。
まず必要なのは餌と水の皿。そしてトイレに寝床か。
「歯がこれだけ生えていれば普通の餌でもいいのか? たしか猫にはあげてはいけない餌もあるから残飯はあまりよくない」
「そうなの?」
「ネギと海藻、貝類は駄目だったはず。あと塩分と人間用ミルク……」
「そんなに駄目なのかよ」
「味付け前の肉や魚をあげればいい」
3Bだと生肉でもよかったが、衛生的に気になるから加熱したのにしておこうか。
MODで追加された猫砂を土と木の素材粉でクラフトしトイレに入れて、猫用トイレの完成だ。
「これは猫用のトイレ。人間用のトイレの近くに置いておこう。猫がしたのはこうして専用のスコップですくい上げてトイレで流せばいい」
「猫なんて外でしてくるんじゃねえのか?」
「そういうワケにもな。躾ければちゃんと教えたところでするし、あの二匹はテイムできてるからすぐに覚える」
普通のトイレに猫のフンを流すのは実は危険なのでしてはいけない。猫のフンは水に溶けないのでトイレがつまる原因になるのだ。
だがこの寮のトイレは3B仕様。3Bではペットのフンをトイレに流せるようになっているが、これで壊れることはない。寮のも大丈夫だろう。
「この寮のトイレはいいな。校舎のトイレもこうなればいいのにのう」
「俺がやってもいいが、水周りと電気設備が必要だからトイレだけの改修では済まないんだ。壊れた時に俺しか修理できないのでは困るだろうしな。マジックアイテムで再現はできないのか?」
「できるかもしれんが、トイレにそこまで入れ込んでるやつはおらん」
ジェーンの要望に応えるのも悪くはないが、全て俺がやっては既存の職人も困ってしまうかもしれない。
マジックアイテム職人はいったいどんなマジックアイテムを作っているんだ?
高級マジックトイレなんて貴族にも売れそうなんだがな。
まあ、温水洗浄便座なんて発想は簡単には浮かばないか。
「この寮に呼ぶのは面倒だが、サンプル品をどこかに設置して職人や貴族に体験させれば、模倣品を作るやつが出てきてくれるんじゃないか」
「ふむ。アイテム職人科用にあれば、生徒や教師たちが興味を持つのは確実であろうな」
「そんな科もあるのか」
勇者科という冒険者を育成する科があるのは聞いているが、他にどんな学科があるのか全部までは聞いていない。生徒総数すら知らないのだ。
アイテム職人科というのも気になる。受講したいな。通信教育とかやっていないものだろうか?
他の科の教科書も頼んでおこう。
「ジェーンは学園にきたばかりなのに詳しいのですね」
「う、うむ。親戚が学園関係者でな! よく話を聞いておったのだよ!」
いきなり疑われるなよ、ジェーン。シラユリも苦労しているから用心深いとこもある。
俺はすぐに信用されたけど、それは神託のおかげだ。
……ここはシラユリも巻き込んだ方が俺の負担が減るのだが。
「そうだ、コンビニでも猫のエサは売っていたから買いにいくか」
「そうなのか? あの店は本当になんの店なのかわからんな」
「まだ行ったことはないが、こっちの道具屋はあんな感じではないのか?」
ゲームの道具屋の多くも、商品の取り揃えが無茶苦茶なのだが。
商売関係のギルドがあって、取り扱う商品のナワバリがあるのかもしれん。
学園にも商人科か似たようなのがありそうだ。
「わからん。店に行ってするような買い物は自分ではほとんどしたことがなくてな。たまに家に来る商人から買うことはあったが、それで事足りていたのだ」
領主ってそんなのでいいのだろうか?
まあ、一般客が使うような店に貴族が直接やってきても困るのかな。
「ジェーンは箱入りで大事にされてたんだな。それでドメーロたちに見つからずにすんでいたのかもしれねえな」
「親戚に学園関係者がいれば出来損ないの扱いも知っていて、入学させたくなんかはならないのだ」
「そうだ。……済まない、皆の苦労を知らずに自分だけのほほんと暮らしていて」
頭を下げて謝罪するジェーン。
ジェーンのせいではないが、責任者ではあるのだから悔やんでいるのか。
「気にすんな、ジェーンのせいじゃねえよ」
「悪いのは偽神官たち」
「おまえたち……ありがとう」
うわっ、ジェーンも泣いてしまった。
涙腺が緩いのはおっさんだけではないのか。
もしかして8組に転入してきたのは謝るため? ……それなら正体を隠す必要はないな、うん。
事情がわからない生徒たちがジェーンを慰めながら連れだってコンビニへと向かう。
グレーシャンも一緒だ。また酒かツマミを買うつもりかね。
おや、キントリヒは行かないのか。
「コズミ先生、ちょっといいのだ?」
「どうした?」
「ちょっと聞きたいことがあるのだ」
そう言いながら作業室内を見渡し、廊下に首を出してキョロキョロして人がいないことを確認、ドアを閉めてから質問を続ける。
「ジェーンはもしかしたら学園長なのだ?」
「……なんでそう思う?」
キントリヒは〈鑑定〉スキルを持っていたっけ?
賢者だから持っていてもおかしくはないのだが。見た目は幼女だが賢者相手に誤魔化せるか怪しい。
それでもすぐに肯定はせずに質問で返した。
「キンちゃんの知っているエルフに似ているのだ。年齢以外はそっくりなのだ」
「知っているエルフ?」
キントリヒはエルフの国で生まれ育ったと聞いている。ジェーンもハーフエルフだから知り合いのエルフに似ている……学園長の親戚が知り合いにいるのか。
「そのエルフは300年前の怪獣戦争の折に活躍した機神巫女なのだ。そのパートナーがこの学園の創設者であり、初代学園長なのだ」
「それは初めて聞いた。本当に俺は学園のことをなにも知らないんだな」
「現在の学園長は二代目。初代学園長の子供だと聞いているのだ。名前はビリー。でも姿を見た者はほとんどいないのだ」
ビリーね。こっちではどうかわからんが男のような名前だ。もしかしたら性別すら隠しているのかもしれんな。
なぜ隠すかは不明だが。少女だとなめられる、というだけの理由か?
「初代学園長は伝説のスウィートハートなのだ。だから比べられるのが嫌で表舞台に出てこないのだと思っていたのだ」
「伝説のスウィートハートが学園の創設者?」
「そうなのだ! もしキンちゃんの読みどおりなら、コズミ先生が父親と同じ伝説のスウィートハートと知って気になっているのだ!」
そんな理由で正体を隠してまでして生徒となるのだろうか。
情報は増えたが、逆に疑問が深まった気がしてきた。
ん? 初代学園長の妻がエルフならもしかしてまだ生きている?
「初代学園長とそのパートナーの娘がジェーンだと言いたいのか?」
「もちろんなのだ。記録に残っている伝説のスウィートハートは全員、パートナーの機神巫女と結ばれているのだ」
「だからアオイがあんなノリなのか……」
「そして初代学園長のパートナーは、エルフの国の女王様なのだ! キンちゃんもお世話になったお姉ちゃんなんだけどジェーンにそっくりなのだ!」
エルフの女王!?
それが初代学園長と結ばれたマシニーズでジェーンの母親……でも女王ってことはエルフの国にいるんだよな。キントリヒも世話になったと言っているし。
一緒に暮らしてはいないのか。
仲が悪い?
ハーフエルフだからエルフの国で暮らしていない?
わからんな。家庭の問題に首をつっこむのは得策ではない。
キントリヒに他の生徒には言わないように口止めだけしてもらって、ジェーンのことを頼むことにしよう。
……ううっ、ぽんぽん痛い。
ジェーンでビリー
つまりそんな色
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