81話 新しい仲間
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店長は何度も礼を言って、俺のIDカードに料金を振り込んだ。
今回のゴスロリ制服サンプルの料金だ。さらにむこうで製作したゴスロリ制服も一着いくらのロイヤリティを振り込んでくれるとのこと。
ジャージと体育着も同じだ。
ただ、ジャージはチャックのせいで高価になるかもしれないと言っていた。ドワーフの職人なら作れそうだが大量生産は難しいようだ。
ならばチャックのは高級品にして他の閉じ方でいいんじゃないかと聞くとほっとしていた。別に俺は完コピは求めていないから。
俺って、どんだけ頑固職人に思われているんだか。
まあ、必要なのはジャージよりも体育着である。
下着姿ではなく、運動着であるというイメージを定着させて、マシニーズ敗北時の負担を減らしておきたい。
学生用の体育着だけでなく、大人用のインナースーツもできないか相談しておいた。
「見られてもいい下着、ですか?」
「そうだけど、そうじゃないというか……」
どんなのができるか不安をとおり越して楽しみになってくるくる。
とりあえず、ベージュは避けるように頼んでおく。オバちゃんの下着のイメージがあるから仕方が無い。
話は済んだので帰宅。
本当は街を少し見ておきたかったが、商談に時間がかかってしまったので諦める。店長もテンション高かったもんなあ。
寮はかなり街の外れにあるので登下校に時間がかかる。生徒たちは若いからいいが、虚弱体質な俺にはしんどい。
街の道具屋をチェックする時間を稼ぐためにも移動用の乗り物がほしいところだ。
自転車をクラフトするのも悪くないかもしれん。
道があまり整備されていないから乗り心地は悪くなりそうだが。
特に寮の付近は道がないといってもいいぐらいだから道路整備を先にすますか。アンジュラとクルミダたちに協力してもらえれば時間もあまりかからずにできる。
ふむ。授業で道路整備をするのもいいな。
他の生徒たちもマシニーズが戦闘以外でも役に立つことを理解しているから、人型マシニーズでの土木作業をやってもらうというのは有りだろう。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
寮ではオトメの侍女の婆が出迎えてくれた。
やはりこのまま居着いてしまうのか?
給金はオトメの家が払っているのだろうが。
「お帰り、コズミ先生。この寮は本当に凄いな。噂以上だ」
「ただいま、ジェーン。そう言って貰えると建築した甲斐があるよ。気になったところがあったら言ってくれ。直せるところがあったらキャットウォークの追加のついでに直す」
「おいおい、まだ満足していないのか。キャットウォークとはなんだ?」
「そのまんまだ。猫用の通路だ。俺の建物には猫が必要だからな。建物を傷めるネズミを退治するために」
3B仕様な以上、どんな素材を使ってもネズミによる耐久力減少はあるはず。ネズミ避けにはいろいろな手段があるが、猫の方が確実。
餌やトイレの設置も必要だが効果は絶大である。この寮の大きさなら四匹もいれば大丈夫だろう。
「なるほど。だからアオイが猫を探していたのか」
「うん。見つけてくれたのか?」
「ああ。彼女たちは今、その猫を洗っているよ。コズミ先生が綺麗好きだからとね。ワシはこの寮の見物を優先させてもらった」
もう猫を連れてきたか。これは覚悟を決めねばならんな。
普通に飼ってもネズミを捕ってくれるだろうが、できれば猫にも3B仕様になってもらいたい。
「ジェーンは猫は嫌いか?」
「……よくわかるな。死んだ父親に猫の怪談を聞かされていてね。今では違うが、ワシも小さい頃は猫は祟るって怖がっていたよ」
「こっちでもそんな話があるのか?」
「いや……まあ、そんなとこだ。も、ということはコズミ先生の国にもあるのかね?」
言葉を濁したな。死んだ父親のことでも思い出したか。
ハーフエルフということは人間だった可能性が高いな。
だって猫が祟るから嫌いなんてエルフはいいそうにない。
「ああ。だけど俺の知ってるのは、殺された飼い主の仇討ちだったり、飼い主を大ネズミから護って死んだ化け猫等の猫の話だ。三年の恩を三日で忘れるとも言うが、忠義者の猫だっているということだ」
「ほう。それは詳しい話を聞いてみたいのう」
「仇討ちの方は怖くて眠れなくなっても知らないぞ」
「今はもう怖くないというに!」
まあ、俺はそういう怖い話し方なんてできないがな。
怪奇映画でも探しておこうか?
授業用にモニターと再生装置があってもいいと思うんだよな。ロボットアニメを見せるのはなにか参考になりそうで。
さすがに機械的にコピー商品を作ることはできなくても、マジックアイテムで似たような物を再現してくれるかもと期待している。
「コズミ、おかえり」
「おかえりなさい」
生徒たちが猫を抱きながらやってきた。まだ小さな子猫が二匹か。生後二ヶ月も経っていないかもしれない。
そんな幼い猫を風呂に入れてもいいのか?
「ただいま、みんな」
「猫、見つけてきた」
「この子たち、母猫がいないみたいで大神殿の若い神官がこっそりと面倒を見ていたんです」
そう自分の名と同じ白い子猫を抱きながらのシラユリ。
大神殿ならそのまま飼えばいいような気もするのだが。
「もらってきてよかったのか?」
「はい。大神殿は偽神官騒ぎで慌ただしくなっていて、危険ですので」
「そうか。ならばこの寮で飼いたい。反対意見はないな?」
生徒たちからの反対はなかった。
ふう。これぐらいならなんとか耐えられるか……。
簡易鑑定ではなく、〈鑑定〉スキルを使って猫の状態を詳しくチェック。よし、寄生虫や感染症にはかかっていないようだ。
やるしかない、か。
だがスキルがまだ解放されていないから……。
「ちょっとこの猫たちに酷いことをするように見えるが、それは必要なことなので邪魔しないように」
「コズミを信じる」
「コズミ先生がそこまで言うからには、どんな酷いことをするのか不安ですが……信じます」
いや、そこまで酷いことを子猫になんてするつもりはないのだが。
でも知らなければ酷いことに思えるか。
アオイとシラユリが子猫を抱いたまま逃げられないようにしてもらって、まずはウェットティッシュで猫の歯を軽く拭く。小さな歯ながらしっかりと生えていた。
痛くないようにやさしくやったつもりだが、嫌がられてしまった。
「さて、やるぞ」
「え、今のじゃないの?」
「今のは準備。必要なのはこれからだ」
深呼吸してからアオイの抱いていた黒地に白のブチの口に、そっと人差し指を押し込む。もちろん俺の指もウェットティッシュで消毒済みだ。
子猫は嫌がって逃げようとするが頭を押さえて逃げられないようにすると、観念したのか噛みついてきた。
けっこう痛い。だが指を引いてはいけない。
「コズミ?」
「大丈夫だ。怖くない」
「いや、無理矢理噛ませて怖くないってどうよ?」
いつの間に見ていたのかグレーシャンからツッコミが入ったが、そのまま噛まれ続けて、ついにメッセージウィンドウが開いた。
◎◎◎◎◎◎
猫が仲間になった
名前:
◎◎◎◎◎◎
よし、テイム成功である。
名前欄になにもないのは3Bだとここで名付けができるからだが、それはパス。あとでつけよう。
口から指を離しても子猫は暴れずにおとなしくしていた。ちゃんとテイムできている証拠だ。
指を見るとやっぱり傷になって出血してしまっている。ウェットティッシュで指を拭いてから回復魔法で治療を行う。
「コズミ?」
「こいつはもう俺の仲間だ。テイムに成功したからな」
「い、今のがテイム?」
「そう。小さなやつにしか使えない方法だが。真似はするなよ、たぶんうまくはいかん」
さてと、もう一匹もテイムしておこう。
……なんでそんなに微妙な表情をしているのかな、みんな?
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