79話 転入生
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朝、電動シェーバーを久しぶりに使う。
しかし、髭がかなりかなーり伸びていたのでうまく剃りにくい。シェーバーについているトリマーを使ってある程度短くしてから剃っていくとやっと綺麗に剃れた。
あ、シェービング用のクリーム類があれば、自分でクラフトした刃物でやった方が早かったな。
そのうち電動シェーバーもクラフトするか。久しぶりの深剃りにヒリヒリする肌をなでながらそんなことを考える。
マジックアイテムの素材が手に入ったら魔法作業台を使って、デリケートな俺の肌にもやさしい電動シェーバーをクラフトしよう。
朝食のために食堂へ向かうと生徒たちが待ち構えていた。
みんな挨拶もそこそこに俺の顔を凝視している。
そんなにおかしな顔ではないと思うのだが。
「どうした? お前たちが剃れと言うからそのとおりにしたんだが、そんなに似合わないか?」
「い、いえ……むしろよくお似合いです」
「あ、ああ……コズミ先生って美形だったんだな」
「コズミはカッコいい!」
はい?
いや、そんなことを言われるのは初めてなのだが。
って、よく考えたらお世辞か。そんなお世辞は初めてだったから真に受けてしまったではないか。
そう思ってよく見ると頬を染めてうっとりした視線を向けている子も多い。
おいおいマジか?
……もしかしてまさか、異世界だから美的感覚が違うとかいうのではないだろうな?
「あんまりジロジロ見るな、恥ずかしい」
なんか自意識過剰に思えて恥ずかしくなったのでマスクを装着する。コンビニで補充できるようになってよかった。イザベル糸でクラフトしたのは肌触りもいいのだが、あまりにも上質すぎて使い捨てにするのは気が引けるからな。
「もったいないねえ」
「こっちの方がライバル増えなくていいかもっすよ」
「お前たちはなにを言っているんだ」
朝から妙に疲れた。
今日は休んで寝ていたいがそうもいくまい。
居着いてしまった感じのある侍女の婆さんに寮を任せて登校する。俺たちの場合は出勤だろうか。
シルヴィアも大神殿へと。彼女もこっちが落ち着くまでは寮で暮らすことになっている。
「いってらっしゃいませ」
「いってきます」
もうちょい若い人だったらメイド服をクラフト……フリートの仲間が見てるからそんなことはできないか。
そもそもこっちにはリアルメイドがいるのだ。
……侍女とメイドってどう違うのだろう。
グレーシャン、イザベルとともに職員室へと向かう。
先にきていた副学園長が説明していてくれたようで、他の教師たちもすんなりと受け入れてくれた。
グレーシャンが2年、イザベルが1年の1組の担任になるとのこと。3年の担任はなんとかドメーロ派ではない神官がやってきてくれた。
「機神巫女科の主任はコズミ君に任せたいのだが」
「待ってくれ。俺は身体が弱いから無理だ。偽神官騒ぎのせいでイメージの落ちている女神教のためにも神官がやった方がいいだろう」
そんな忙しそうなものにしないでほしい。エリクサーをクラフトする時間が必要なのだから。
神官教師も簡易判定で偽神官ではなく、ちゃんとした神官であることがわかっているし、表示も友好色だ。問題はない。
「さすがコズミ君、そこまで考えてくれるのか」
「授業の方はまだ慣れていないからフォローを頼む」
試合の特訓ばかりで俺が教室で授業をするのは初めてとなる。
この学園では担任の教師がほとんどの授業を教えるとのことだ。
非効率だ。小学校の低学年ではないんだから……。
学科が多いのもそのためで、共通の教科は少ないらしい。
教科書はあるが授業内容は教師によって大きく違うとのこと。
授業時間も一回が長いようだ。
「共通の教科だけでも、それ専門の教師を用意して学科に関係なく教えた方がよくないか? 俺の国だとそうしているんだが。全部を教えるというのは教師側の負担が大きすぎる」
「それは興味深いな。それならばベドロのような不埒な教師も出にくくなるかもしれない」
ベドロ……8組の元担任だったやつか。
8組生徒が他の教師から授業を受けることができれば、たしかにやつの酷さもすぐに発覚できたかも……いや、ドメーロに握りつぶされた可能性が高いか。
「それは来年度からやるかどうか、あとで検討すればよかろう」
「そうだな。次の職員大会議の議題にしてみよう」
「……君は?」
口を挟んできたのは一人の少女。
学園の制服を着ているから生徒なのだろうが、副学園長と並んでいるのはなんでだ?
美少女だからマシニーズっぽいのだが。
「この方……この子はジェーン君。8組の転入生だ」
「転入生?」
「うむ。わけあって機神巫女であることを隠しておったのだが一昨日の試合を見て考えが変わり、学園に通うこととなった」
「8組ってことは可変型なのかい? 出来損ないだってばれると自分だけではなく家族にも迷惑がかかるから、隠して学園に通わなかったってやつはまだいるかもね」
マシニーズがこの学園で授業を受けるのはどの国でも義務になっているそうだが、グレーシャンの言うようにそれを隠して学園にこない者もいる、か。
だが。
この生徒の場合、それだけではないのだ。
「ジェーン、君はハーフエルフだね」
「そうだ。ワシがハーフエルフだとなにか問題でも?」
問題はそっちじゃない。
キントリヒはダークエルフだし、ハーフエルフがいたっていいだろう。むしろ普通のエルフも見たい。
だが簡易鑑定に表示されているのは種族がハーフエルフだというだけではないのだ。
◎◎◎◎◎◎
ハーフエルフ:女性
学園長:LV44
◎◎◎◎◎◎
レベルも高いが、なにこの役職?
そのまんまの意味なのだろうがさ。
「この場であなたの正体を言っていいのか? なんでそんな人が8組に入ろうとするんだ?」
ブフォッと副学園長がむせてしまった。
副学園長ともなればジェーンの正体を知ってるワケだから驚くのも当然だな。
こんな小さい外見だがハーフエルフなら見た目どおりの年齢ではあるまい。学園長が人前に姿を現さないのはこの見た目のせいか?
「こ、コズミ君、それは内密にしてくれんか?」
「そのつもりだから詳しいことは口に出さなかった。俺の質問には他のやつがいないところで答えてくれればいい」
「ふふっ。サローが絶賛するのもわかるな。コズミ先生、お前に興味があるから8組に入るに決まっておる」
サロー? ……副学園長のせいか!
ギロッと見ると視線を逸らされてしまった。まったく、主任といい、面倒そうなことばかり持ってこようとするんじゃない。
「俺に興味? 見たままだが。虚弱体質だから面倒事は勘弁してほしい」
「あの8組を僅かな期間で生まれ変わらせたのだ。興味を持たない方がおかしいだろう。なに、面倒なことはない。ワシは普通に生徒としてコズミ先生を見たいだけだ」
「断ることは……そうか。わかった。ならば特別扱いはしない。それを認めてくれるならば了承しよう」
副学園長を見ながら言ったが首を横に振られてしまった。最高権力者には逆らえない、か。
だが条件は出させてもらう。
「無論だ。ワシとて生徒は可愛い。生徒のためにならんことなどせん。よろしくな、コズミ先生」
「よろしく、ジェーン」
ジェーンと握手しながら内心でため息。
あいつらにどう説明したもんだろうか?
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