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78話 おねがい! コズミ先生

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 グレーシャンとイザベルが買ってきてくれた食材をクラフトした樽に漬け込む。

 鑑定時の解説によると材料と設置場所によってできる発酵物の味が変わるらしい。

 材料はともかく、場所か。きっと菌を周囲から集めているってことだろう。


 彼女たちが買ってきた材料の量は考えていたものの倍以上だった。収納バッグを渡しておいてよかった。

 そのせいで買いすぎたのかもしれないが。


「材料を入れるだけなのかい?」


「ああ。本来はもっと別の手順が必要なんだが、これは材料を入れて待てば目的の物ができあがるアイテムだ」


 樽シリーズは材料も手順も実際のものとは違うから、ちゃんとできるかちょっと不安になるが3B仕様を信じて材料を入れていく。

 ウィスキーや焼酎でさえ蒸留なんてなしに材料を樽に入れるだけである。本当にできるのか?

 完成するまでの時間はゲーム時間でだいたいが2、3日だったはず。あとは待つだけ。

 一番短いのはマヨネーズだ。これは混ぜるだけだから樽なしでもクラフトできると思うのだが、樽シリーズでまとめたかったのかな?


 酒類もコンビニで入手しやすくなったが、やはり生産メインの3Bゲーマーとしては自分でクラフトした樽でできた酒も飲みたい。エリクサーが完成したら、これで祝杯を上げる!


「サモピンもほしがりそうね」


「あいつならこの調味料でどんな料理を作ってくれるか楽しみだな。昨日のも美味かった。いつも以上に食べ過ぎたよ」


 そのせいもあって、朝昼ともにスポーツドリンクだけで済ませた。まだ胃がもたれている。

 サモピンの店に行けるのはエリクサー後かもしれないな。


「あれでか? しっかり食わないと元気になれないよ。だからそんなに細いんだって」


「元気じゃないからたいして食えないんだよ。というか、戦闘職の食欲と一緒にされても困る」


「小食なのね」


 たぶん、エリクサーで病気が治っても俺はみんなほど食えない気がするのだが。

 その分、量よりも味を求めたい。

 サプリメントと栄養ドリンクと酒だけあれば生きていける気はするが、それもちょっとな。

 ……その考えだとサプリメントをツマミに飲むことになりそうか。



 ◇



 生徒たちが戻ってきた時は、門の前に集っていた少年たちと一悶着あったらしいが、彼女たちは困った顔どころかスッキリした表情で帰ってきた。

 ほとんどの生徒がなにか悟ったような感じだ。


 それから「ただいま」と言いながらすぐにチュートリアル世界へと向かう生徒たち。

 もう少し話をしてくれてもいいだろうに、目さえ合わせてくれない子が多くてちょっと寂しい。これが親離れした娘を持つ父親の心境だろうか?


 で、コンビニから戻ってくると今度は食堂で戦利品をつまみながら会議があるというので追い出されてしまった。俺には秘密なんだそうだ。

 不貞寝することにする。


 アオイに起こされた時にはもう夕方だった。こんなに寝てしまうなんてここ数日の疲れが残っているようだな。

 早くエリクサーをクラフトしないとやばいかもしれん。

 もしもの時のために遺書だけでも書いておくべきだろうか。それともずっと放置している3Bを再開して基地群を完成させるか迷うな。


 シラユリもシルヴィアとともにちゃんと戻ってきていた。

 夕食後、生徒たちが話があるという。

 あれか、約束していた勝利のご褒美か。

 いったいどんなことを要求されるんだ?


「1年からでいいぜ」


「うん。小さい子からでいい」


 シンクレーンとアオイに促されて、1年の四人が立ち上がる。順番にではなく、四人全員である。


「キンちゃんたち1年からのお願いは一人分だととても思えないので、四人分のお願いにするのだ。その代わりきいてほしいのだ」


「……わかった。かなえられるかどうかわからないが、できることならしよう」


 四人分?

 い、いったいなにをお願いされてしまうんだ?


「キンちゃんたちのお願いは……コズミ先生に帰らないでもらいたいのだ!」


「元の世界に帰るな?」


「そうなのだ。コズミ先生は別の世界からきたのだ。やっぱり元の世界に帰りたいと思うのだ。でも、この1年のみんながせめて卒業するまでは元の世界に帰らないで、8組の担任でいてほしいのだ!」


 ふむ。

 元の世界か。俺としては3Bができればあっちには帰らないでもいい気もするのだが。

 帰ってもすぐに死にそうだし。エリクサーの素材がむこうで入手できるとは思いにくい。

 そもそも、だ。


「俺が帰る方法がわからんのだが。ゲートを使えばむこうに帰れるかもしれんが座標がわからん。むこうに帰るよりも先に俺が死ぬかもしれん。その可能性の方が高い。だからそのお願いでいいのか?」


「も、もちろんなのだ。みんなが卒業したってコズミ先生には長生きしてもらうのだ。それこそキンちゃんと同じくらいに!」


「どうあがいてもダークエルフほど長生きは無理だろ……わかった。そのお願いをきく。むこうには帰らない」


「やったのだ!」


 1年の生徒たちは手を取り合って喜んでいる。

 よかった。どうやら嫌われたり、疎まれたりしていたワケではなかったようだ。

 会議を秘密にしたのは、俺がお願いの内容を知ったら先手を取ってむこうに帰ってしまうのかと思ったのかもしれないな。


 続いて2年。やはり五人全員が立ち上がる。

 こいつらもか。それとも1年がああ出たからそれに合わせたのか?


「2年からもみんな合わせてのお願い。いい?」


「内容による。できることならする、風呂に一緒に入れと言われても困る」


 アオイがよく誘ってくるので本当に困っている。

 そりゃこの8組寮の大浴場は一つ、つまり女湯しかないので俺は自宅の風呂にしか入れなかったのだが、チュートリアル世界の塔には男湯も設置したのだ。俺だってでかい風呂に入れるから不満はない。


「それは残念……」


「違うっす! 2年みんなからのお願いは違うっすよ!」


「そうだった。2年からのお願い。コズミにここから出て行かないでほしい」


「ずっと寮で暮らしてください」


 むう。1年のお願いと似ているが、ある意味さらにハードルが上がった気がする。

 女子寮で暮らすのは気まずいので、そろそろ自宅を別に建築して引っ越す予定だったのだが。樽シリーズなんかクラフトする前に先に引っ越しておくべきだったか。


「そ、それは……」


「1年の四人よりも多いお願い」


「お願いします!」


「お願いっす!」


 グレーシャンも俺が出てったら教師やらないとか脅してくるんだよなあ。なにか間違いがあったらどうするつもりなんだか。

 もしかして婚期が遅れて焦っているのか?

 まだ若いがこっちだと行き遅れみたいな扱いで、未婚仲間だったイザベルも結婚が近そうだから……。


「なんだいコズミ、そんなにあたしが気になるのかい?」


「いや……こっちだと結婚前の男女が一緒に暮らすのはどうなのかな、と」


 一緒に暮らしてて噂されて恥ずかしい、なんて言われたりしそうなのだが。

 そうなったら俺、かなりかなーり落ち込むぞ。


「それこそ今さらね。公衆の面前であんなに強い繋がりを見せつけたのだから、一緒に暮らすぐらい当然と思われているわ」


 マジか!?

 むむ……仕方がない、のか。


「わかった。ただし、なにか問題になったらすぐに俺が出て行く。それでいいか?」


 条件つきの俺の承諾に2年の生徒たちは拍手で喜んだ。

 そこまで嬉しいもんかね?

 俺の方もちょっと嬉しいのは秘密だ。お父さん、嫌われてなかったと。


「コズミは私のパートナーなんだからいっしょにいるのが当然」


「これで稽古をつけてもらいやすくなります」


「ぬふふふっす。チャンスはいくらでもあるっすよ!」


 なんだか不穏な台詞も混じっているが気にしない方が精神衛生上よさそうだ。

 さて、残るは3年。三人だが不安だ。

 やはり全員立ち上がったし。


「オレたちも1、2年と似たようなことを考えていたんだが、先をこされちまった」


「ですので、そんなに身構えなくてもいいですよ」


「簡単なお願いですから。ただしその代わり、絶対にきいてください」


 ふむ。簡単というならいいだろう。

 ……逆に不安になってくるが。


「コズミ先生、お髭を剃ってください」


「わかった。お願いならば仕方がない」


「即答!?」


 いや、だってこの髭、アオイと会った頃はただの無精髭でその後、異世界でなめられないようにって剃らなかっただけだし。

 いい加減、不衛生じゃないかって思い始めていたんだ。


「もっと他のにすればよかったか」


「でも髭を剃ったコズミ先生の顔、気になりますよ」


 だからだからハードルを上げるなっての。



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