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77話 今さら

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今回はオトメ視点

 どもっす。オトメっす。

 昔はもっと長い名前を名乗っていたっす。親戚もそんな名前ばっかりで覚えるのが面倒だったっす。

 今はただのオトメっす。

 なのに自分の昔の素性がばれてから、みんなが妙な感じす。


「姫様はやめるっす!」


「でもオトメってお姫様なんですよね?」


「もう王家からは除外されているっす。いつもみたいにオトメって呼ぶっす。他人行儀は嫌っす! 8組のみんなは家族っす。壁を作らないでほしいっす」


「そんなに気にする必要はない。今まで一緒に暮らしていたオトメがお姫様だったので、みんな浮かれているだけ」


 アオイだって勇者様って呼ばれてないじゃないっすか。

 そりゃ自分だって最初の頃は勇者様って呼んでたけど、あの頃は緊張しまくりだったから勘弁してほしいっすよ。


「オトメはオトメ。お姫様でもかまわない、でしょ」


「そんなもんっすか?」


「うん。姫様だからってみんな遠慮していない」


 それはたしかっすね。昨日のアイスクリーム、余った分の争奪戦はそんなの関係なかったっすから。

 あんなに真剣にジャンケンしたのは初めてだったっすよ。


「アイスクリームとプリンの方がお姫様より上だから当然なのだ」


「酷いっす。でもすごくよくわかるっす。たしかにあれはアイスクリーム様と呼んで崇めてもいいぐらいの逸品だったっす」


 あんな料理、それこそ姫だった頃ですら食べたことないっすよ。

 それが売っているコンビニエンスストアというお店に行くために資金を稼ごうと、今日は久しぶりにみんなで冒険者ギルドへ向かっているっす。

 シラユリが神官のお勤めのためにいないけど、あいつの分も買っていってやるっすよ。


「これで外出するのも初めてだね」


「なんか目立っていますね」


「昨日のゴスロリ? より、こっちの方が楽でいい」


 冒険者ギルドの依頼をこなす予定なので、さすがに昨日の服は着ていないっす。恥ずかしいだの動きにくいだの言う子もいるっすけど、口ではそう言ってもみんなあの服を大事にしているから汚れるのがわかっている仕事には着ていけないっすよ。


 今日はジャージっす。女の子っぽくないカッコっすけど動きやすいし、その上から装備している鎧も木製で軽いのに頑丈っす。

 背負っているバッグも見た目以上に入るっす。マジックバッグじゃなくて収納バッグってコズミ先生は言ってたっすけど違いはよくわからないっすね。

 全部コズミ先生が作ってくれたっす。あの人、これらの価値がわかってないっすよ。

 本来、学生が使えるようなものじゃないっす。


 コズミ先生はアオイが見つけてきた伝説のスウィートハートっす。見た目はひょろっとした髭眼鏡のちょっとうさんくさいおっさんなんすけど、あの人は本物っす。

 出来損ないだった自分たちを可愛いだの美少女だの言うのには驚いたけど、不思議と嫌な感じがしなかったっす。


 自分が出来損ないだとわかった途端に手のひらを返したあのヤローの言葉が上っ面だけのものだったって今ならわかるっすよ。でも、コズミ先生はお世辞で言ってるわけじゃなく本当にそう思っていたみたいっす。だって、あまり冗談や嘘を言う人じゃないっすから。


 嘘っす!

 って思うことばっかり言ってるっすけど、全部本当だったっす。

 出来損ないなんかじゃない、って言ってくれた時はみんなで泣いちゃうぐらい嬉しかったっすよ。

 コズミ先生は他の男とは違うっす。


 それでみんな、コズミ先生を信じて体を許したんだと思うっす。

 だって、男を身体の中に入れるなんて、その人をよっぽど受け入れてなきゃできないっすよ。

 みんな、出来損ないだから恋愛も結婚も諦めてたと思うっすけど、だからってあんなことするのが誰でもいいってワケじゃないのは当然っす。


 久しぶりにあった婆にも「伝説のスウィートハートとのご関係は?」ってすぐに聞かれたっす。あの試合の、みんなが見てる前でコズミ先生を乗せちゃったからただならぬ関係だと思われたみたいっすね。たぶん、観客もそう認識したんじゃないかと婆が言ってたっすから。


 生徒と教師って説明したっすけど、なんかその時、自分でも納得していない部分があったのを認識してしまったっす。

 機神巫女(マシニーズ)とパートナーは運命共同体っすから、そうなるのが当然。いくらコズミ先生が仮の、なんて言ったって好きになっちゃうのは止められないっすよね。


 コズミ先生は、アオイのパートナーなのはわかっているっす。アオイは友人で家族っす。だからこの想いは諦めようとしたっす。

 だけど婆があることを思い出させてくれたっす。

 自分の生まれた国は一夫一妻だけじゃなかったっす!

 アオイ次第っすけど、ちょっとは望みが出てきたっすよ。



 ◇ ◇



 冒険者ギルドではいつもどおりの依頼を受けてきたっす。

 高額な指名依頼も入っていたけど、これは全員が拒否したっす。

 偽神官の罠の可能性があるから指名は誰からも受けないって言ったら、ギルドの受付は理解してくれたっす。

 今まで指名依頼なんてもらったことがなかったっすからね。


 罠だけじゃなくて、8組の生徒と接点を持ちたかった可能性もあるのはわかっているっす。

 昨日の試合で出来損ないじゃないことを証明して、さらに完全勝利したっすから国や貴族からのお誘いがあってもおかしくないんすよ。

 婆にも今までとは違う、注目を受けることになると念をおされてるっす。


 冒険者ギルドでだってパーティに入らないかってお誘いも多かったっすから。今までは邪魔者扱いで、誘われてもマシンナリィさせて盾にしようってのがわかるようなやつらばっかりだったっす。


 もちろん、全員お断りっす。

 8組のみんなはあの守護鳥のいる世界での訓練でマシンナリィしなくても十分に強くなってるっすよ。下心しかない男なんて断固拒否っすね。

 出来損ないって呼ばれてた頃は自分らを女扱いしなくて下心もわかなかったくせに、っす。


 日帰りできる軽い依頼だけ受けて、すぐにすませてみんなで帰宅っす。街の雰囲気が本当に違ったので単独行動は避けたっすよ。

 採取系の依頼も関連スキルが上がっていたので楽勝だったっす。いつもより多くて状態のいい依頼品に受付のおねーさんも驚いていたっすよ。

 けどコズミ先生のための薬草があまり見つからなかったのは残念だったっす。


 で、寮の門の前に男たちがいたっす。

 どこかで見覚えがあるような気がしてたら、去年、2年のみんなが試合のためにパートナーになってくれと頼んだ相手だったっす。

 自分は男なんて信じられない、って嫌だったっすけど機神巫女(マシニーズ)はパートナーが必要だからってがんばったっす。

 その時は断られたっすよ。出来損ないなんかと組んだら、手前えの信仰心が下がるって。


 なんの用かと思ったら、付き合ってくれないかという告白だったっす。


「バカっすね」


「な! 去年は俺を誘っただろう?」


「去年のあの時、パートナーになってくれてたらその目もあったっすよ。でも、断ったっすよね。今さらっす。むしろよく自分らの前に顔を出せるもんだと思うっす」


「あの時は出来損ないだと思っていたからだ! 今は違うだろ!」


 こういうの、逆ギレって言うんすよね?

 いくら課題のために誰でもいいからパートナーになってほしかったからって、なんでこんなやつらに頼んでしまったっすかね。去年の自分らの見る目のなさにため息が出るっすよ。


「そうっす。今は違うっす。お前らのようなボンクラと違って、自分らが出来損ないなんかじゃないって言ってくれた、見る目のある凄ぉい男がいるっすよ。お前らは必要ないっすね、一昨日きやがれっす」


 当然のように、みんなも断ってるっすね。

 コズミ先生のようにじゃなくても、サモピンみたいに出来損ないでもかまわない、そう言うような男がいればよかったっすけどね。たぶんコロッといっちゃったかもじゃないっすか?

 あ、でもそうだったらコズミ先生を選ぶことができなくなるから、いなくてよかったっすかね。


 さあ、帰ってコンビニでお買い物の後はいよいよコズミ先生からのご褒美っす!

 じゅるり、っす。



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