76話 間接
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ツラい。
やはり飲むんじゃなかった。
もう酒やめる……いや、嘘だが。
スポーツドリンクが美味い。
コンビニを設置してよかった。
「おはよう。なに飲んでいるの?」
「おはようコズミ、朝から酒か?」
「……おはよう。しばらく酒はいい。水分補給用の飲み物だ」
「へえ、どれどれ」
持っていた缶をグレーシャンに奪われてしまった。ほしいなら新しいのあげたのに。こっちだと間接キスとかは気にしないのかね。
俺としては衛生面が気になるのだが。
グレーシャンはぐいっと最後まで一気飲みした後、微妙な表情を見せた。
「なんだか変な味だね。甘いんだけどなんていうか薬っぽい?」
「汗とかで失う水分と近い成分にしているんだったかな」
「汗の味なの?」
「味は違うと思うが。ほら」
イザベルも気にしているみたいなのでアイテムボックスから出したスポーツドリンクを渡す。……彼女はサモピンにお持ち帰りされて泊まってくるかと思ったけど違ったか。
プルタブの開け方はもう覚えたようで簡単に開けてイザベルもスポドリを口にする。
「たしかに妙な味だけど、悪くないんじゃない?」
「うーん、慣れりゃうまいか?」
「ああ。俺は好きだ」
経口補水液、栄養ドリンクとともに寝込んだ時はよくお世話になっているのである。嫌いなわけがない。
「生徒たちはどうした?」
試験休みではないが、試合の翌日は休み。
生徒よりも試合の準備で忙しかった教師のための休日とのことだ。学園都市全体の祭りのようなもので、マシニーズ科以外の学科の教師も忙しくなっていたかららしい。
「シラユリはシルヴィア様といっしょに大神殿へ、他のみんなは冒険者ギルドへ行ってるわ」
「冒険者ギルド? みんなが?」
ワカナぐらいは残って家事をしてそうにも思うのだが。
昨日の宴会の後片付けは……すでに終わっているのか。さすがだな。
「コズミのせいだろ。コンビニだっけ、そこで買い物するために稼ぎにいったのさ」
「マジか? そりゃアイスやプリンにあんなに興奮してたが」
昨夜、お祝いとして皆に振る舞ったデザートは予想以上の高評価で、テンションの上がりが激しかった。だがそれは試合に完全勝利した興奮が冷めてなかっただけだと思っていたのだが。
「ほしいのがあれば、試合に勝ったご褒美として買ってやるのに」
「それは別に願いがあるみたいだからね、自分でできることに使うつもりはないんだろうね」
「なにを言われるか怖いな」
全力で応えるつもりではある。俺の身体を配慮した全力で。
一発芸ぐらいなら見せてやれるはずだ。受けるかどうかは自信がないが。
「あたしたちもコンビニ行きたいからさ、コズミを待っていたんだよ」
「あなたかシラユリじゃないと次元門を動かせないのよ」
「え? アオイなら動かせるはずだ」
使い方を教えてある。たぶん他の生徒たちもすぐに覚えるだろう。
塔から離れたら危険もあるので使用は少し控えてもいいかもしれないな。試合のために連れていってたが、もうあの子たちが変形を隠す必要はない。
ドメーロたちがいなくなるのだから学校の施設を使うこともできる。
「それじゃ行くか。そこまで期待はするなよ、普通の店だから」
「コズミの普通は普通じゃなさそうだね」
「そうね。何度驚かされたかわからないもの」
MOD入り3Bの普通はたしかに異常だが、コンビニはそこまでおかしくはないはずだ。
マジックアイテムとか売っている店の方が凄いと思うぞ。
時間ができたらそんな店にも行ってみたい。どんなアイテムが売っているのか楽しみだ。
◇ ◇
コンビニに行った二人はかなりはしゃいだ。むこうの実際の店舗だったら、恥ずかしくて他人のフリをしたかもしれないと思うほどに。
酒や化粧品を聞かれるままに説明していく。
だが生理用品の説明を俺に求めるのは止めてほしい。そこから先は店員モブロイドに丸投げしてしまった。
「この店、あっちに出さないで正解だね。すぐに自分の物にしたがる貴族たちが出てきて面倒なことになるよ」
「それは勘弁してほしいな」
「そうでなくても混雑して大変よ。他の店から客を取られたって苦情もきそうね」
「生徒たちを出来損ないって差別して利用すらさせなかった店が潰れても構わないと思うが、そうでないところに迷惑をかけるわけにはいかない、か」
中には良心的な人もいたと聞く。サモピンのような人物も少しはいるだろう。
彼の料理も美味かった。調味料が少ないが、塩加減や香草の使い方がいいのだ。
サモピンには味噌、醤油を使った料理も開発してもらいたい。
ここで買ってもいいが、それだと一々女子寮に通うことになるのはまずい、か。
「買い物が済んだら、今度は俺が頼む物を買ってきてほしい」
「ん? なにがほしいんだい?」
「麦と大豆と塩。なければ似たような物を頼む」
麦と大豆ならこの塔に設置する畑でも作る予定だが、あっちで入手できる材料で作った方が後々困らずにすむだろう。
「ああ、昨夜言っていた調味料を作るのかい?」
「そうだ。それを作るための樽を俺がクラフトするから、調味料の材料を買ってきてほしい。金はIDカードでやり取りできるか?」
「ええ。でもそれぐらいなら出すわよ」
「いや、カード同士での金の受け渡しも試したいんだ」
俺のIDカードがむこうのと互換があるか、しっかり確認しておかないとな。
もし使えるなら、いろいろ買いたい。
今日はまだ疲れが取れないので、出歩くのは無理そうだから買い物は二人に任せる。
「わかったよ」
ビールやハイボールの缶を詰め込んだ袋をいくつも抱えたグレーシャン。
寮の冷蔵庫の一角が確実に酒のコーナーになりそうだな。生徒が飲まないように専用の冷蔵庫を設置した方がいいかもしれない。
一方、イザベルはファッション誌のチェックに余念がない。字は読めないが写真ならある程度わかるもんな。
このコンビニは雑誌やコミックにフィルムを被せたりしていないのが嬉しい。立ち読みはどうやらアイテム使用の制限にはかからないようだ。
「私の糸でコズミが作ってくれた布でこういうの、できないかしら?」
「どうだろう? 俺も服には詳しくないんだ。ミシンもクラフトしたからそれを使えば少しは楽になるかもしれないが」
裁縫室というか被服室というかな部屋にすでにミシンは設置済みだ。足踏み式の人力で動くタイプだが、こっちの方があの世界でも受け入れやすいと思う。
仕組みがわかればドワーフあたりが上手いこと造ってくれるかもしれないし。
ドワーフか。8組の生徒で試練に挑戦し、行方不明になったままのドワーフの生徒がいるんだよな。
生徒たちは今でも帰りを待っている。
なんとか探しに行きたいが、マキにゃんとのチャット情報だとチュートリアル世界とは別の世界に旅立っているらしい。
シルヴィアも当時の状況を確認したいが、ゲートが壊れているのでなかなか難しいとのこと。あとでその壊れたゲートを直せば探しにいけそうだな。
シルヴィアには護符によるマシニーズ同士の通信の方法を広めてもらうのと、可変型マシニーズの正しい知識の拡散をお願いした。
女神教は現在、偽神官騒ぎで大変らしいがこれこそが女神様の願いであると彼女も了承してくれたよ。
今は学園に残ってドメーロ派たちの後始末を行い、あと自分の変形を完全にマスターしたいようだ。
女神教でも可変型の変形指導はしたいが、俺にもそれを手伝ってほしいと言ってきたのでエリクサーが完成して俺の死病が治ったらということにした。
休日に講習会でも行うつもりである。ただ、今はその休日はエリクサーの素材集めに使わなければならないのだ。
今日はツラいから次の休みからだな。
エリクサーが完成するまでは酒は止めておくか。
……いや、晩酌に缶一本ぐらいならいいか。
それぐらいなら百薬の長になってくれる!
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