75話 同僚
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3Bのショップは設定で売る商品をオンオフ変更ができる。
生徒たちも利用できるなら不要なものは販売禁止にしておこう。
まずは煙草。
あんな不快なものを異世界にまで広めるつもりはない。俺の健康のために当然オフ。
あとは18禁の本も駄目だな。俺も気にはなるが、たぶん見られているので買うことはできない。つい監視カメラを見てしまうが、あれ関係なく覗いていそうだ。
とりあえずこんなもので様子を見るとしよう。
8組の生徒たちだ。無駄使いはすまい。
あとはアルコールだが、これはモブロイド店長に頼んでみた。
モブロイドは3BのNPCの一種族。アンドロイドで人間大。イベントキャラやランダム生成されるやつなど多数が出てくる。
ここのは耳カバー以外の見た目は人間と同じだな。
店長も店員も全員同じ顔をしていることを除けば。リアルで見るとちょっと怖い。
「了解しました。未成年者及び学生には販売いたしません」
あ、できるのか。
これで問題なし。俺も買い物していこう。
ん?
アオイは気になるものがあったようで、じっとそれを確認している。
「これ、犬や猫の絵だけどあんな可愛いのも食べるの?」
「それは犬猫用の餌だから」
3Bだと犬猫も飼えるから販売している。……全く意味のないアイテムが雰囲気作りで売っていることも多いのだが。
日本語が読めない生徒が間違えて買わないようにペットフードは売ってなくてもいいかな?
「そうなの? 美味しそうなのに」
「悲しくなるからそういうことはあまり言わないでくれ……。猫なら寮で飼っていいぞ」
「コズミは猫、好き?」
「ああ。ネズミを捕ってくれるからな」
猫は飼っておきたいんだよなあ。
3Bの建築物はかなり耐久度が高いのだが、ネズミには破壊されることもある。それを防ぐのが猫なのだ。どんな基地を建てても、猫は必要なのである。
寮もたぶんネズミには弱いので猫を飼っておきたい。
それにいつ俺が死んでもおかしくなかったのでペットは飼っていなかったが、今なら俺が死んでも生徒たちがペットの面倒を見てくれるだろう。
悩ましいのは3B仕様の俺だと飼うのにはテイムしなきゃいけないんじゃないかということ。
猫や小型犬の場合は自キャラを噛ませて一定時間耐えるという所謂、姫姉様テイムで手懐けることとなる。
痛そうだし、野良猫に噛まれるのは不衛生だからやりたくない。
なんとか方法を考えたい。子猫がいればいいのだが。
「わかった。あとでみんなと相談してみる」
「頼む。トイレや爪とぎならクラフトできるから」
キャットタワーも専用のパーツがない頃から工夫して作るのが当たり前だった。やたらに大きくなったが。
MODによって猫用の出入り口付きドアやキャットウォークも追加されている。もちろん、狭い道の通称じゃなくて猫専用の本物のキャットウォークだ。
……寮に追加した時に生徒が無理矢理使おうとしないように注意しないと。
「コズミはなにを買うの?」
「酒や甘味だ。今日はお祝いだからな」
あと調味料やウェットティッシュも補充しておかねばならん。二日酔いが予想される明日の朝用にスポーツドリンクやトマトジュースもいるな。
久しぶりのコンビニについ買いすぎてしまうが、アイテムボックスがあるので問題はない。
なお、ショップの商品は精算がすむまでショップ外への持ち出しはできず、アイテムボックスに収納することはできない。もちろん精算前は使うことも食べることもできないのだ。
「甘味?」
「プリンかアイスが無難か? みんなの分を買っていくぞ」
「うん。楽しみ」
ツマミは……いいか。サモピンたちが作ってくれる料理で。もし足りないようならすぐに買いにこれるのだし。
やはり住居とコンビニの距離は重要なのである。
「ビールと発泡酒とハイボール、あと日本酒と焼酎とワインにウィスキー……」
「そんなにいろいろあるの?」
「ああ。同じ種類でも違う商品もある。生徒たちにはコーラやジュースでいいか」
祝われるのは生徒たちなのだから、酒ばかりではない。あ、お茶のいくつか買っておこう。
インスタントコーヒーも補充して、と。
こんなにもコンビニで一度に買うのは初めてだ。
◇
あっちに行っている間にシルヴィアと副学園長も寮にきていた。
戻ってくるなり、トイレから大きな叫び声が上がって何事かと思ったら副学園長だった。
生徒たちもわかるわかるとしきりに頷いている。
「コズミ君、あのトイレは素晴らしすぎる。なんというマジックアイテムなのだ!」
「マジックアイテムではないぞ。俺がクラフトした。設置の準備が面倒ではあるが」
「なんと。さすがコズミ君だ」
だからバンバン叩かないでほしい。
サモピンといい、こっちの男はみんなこうなのだろうか。
涙もろいのは人ごとではないので構わないが、荒っぽいのは勘弁してもらいたい。
副学園長はグレーシャンとイザベルに会いにきたとのこと。マシニーズ科の教師として雇いたいようだ。
偽神官の元教師を追放するにも、かわりの教師がまだいない。だから二人に1組の教師になってほしいとのこと。
「それも面白そうだね」
「私が教師? グレーシャンならともかく、私に教師なんて無理よ」
「そんなことないだろ。イザベルは子供好きじゃないか」
うん。サモピンの言うようにイザベルも8組の生徒たちへの対応もよかった。イザベルなら立派な教師になってくれると思う。
サモピンに永久就職したいのかもしれないが。
「俺でもできるのだから、イザベルなら絶対にできるさ。同僚教師が二人なら俺もありがたい」
「……おい。コズミ先生には感謝しているが、まさかイザベルに惚れたんじゃないだろうな?」
「なんでそうなる。そりゃたしかにイザベルは魅力的だが、横恋慕などする気力も体力もない。俺は身体が弱いんだ。自分の治療が最優先だ」
ギロリと睨まれてしまったのでそう言っておいた。恋人を寝取るなんてのは趣味ではないのだ。
「それはすまなかった。早くよくなるといいな」
「ありがとう。なんとかするさ。そうなったらゆっくりいい女を探すよ」
「コズミには私がいる」
今度はアオイに睨まれてしまった。
まったく、そんな表情でも可愛いのだから美少女はずるいな。
「それで、どうかね? 8組の生徒を短期間で鍛え上げたという二人ならば1組の生徒たちも受け入れてくれると思うのだが」
「そうだね。8組の子たちはもうあたしがコーチしなくてもよさそうだし、1組の子を鍛えてライバルにしてやった方が結果的にはどちらのためにもなりそうだね」
「おお、では!」
「けど、ここを出て行くとなるとちょっと考えちゃうんだよな」
「それならばずっとここで暮らせばいいのではないですか? 1組の教師となったからって出て行かれなくてもいいと思います」
シラユリがそう発言すると生徒たちも賛成する。
教師がいるとなると嫌がりそうなもんだが、この子たちはそうではないのだろう。グレーシャンはアオイの姉で、8組は家族状態。みんなの姉のような感じになっている。
「俺からもお願いする。生徒だけよりは大人がいた方がいいだろう。グレーシャンがいてくれれば俺は安心してここを出て行ける」
「ん? コズミ君はここを出て行くつもりなのかね?」
「女子寮に男がいるのはまずいだろうが」
この辺りの土地に好きに建ててもいいと言われていたから、俺の家は別に建てるつもりだ。
「ふーん。コズミが出て行くんならあたしもここを出て行くよ。もちろん教師もやんない」
「え? なんで?」
「ズルいじゃないか。生徒たちだけだと思ってたらシルヴィア様まで染めちゃってさ。あたしもコズミに染められたくなったんだよ」
「それって……グレーシャンもコズミを狙うの?」
仲間外れは嫌だというのだろうか。
グレーシャンもずっとパートナーなしでやっていたって聞いたから仮のでもパートナーが羨ましかったのかも。
「私としてはやっとグレーシャンに春がきそうなのは応援したいけど、生徒たちも可愛いのよね」
「やはりイザベル君も教師に向いておるよ」
「イザベルは安心。でも……」
なぜか不安そうな顔で周囲を見回すアオイ。その肩にやさしく手をおいたのはオトメの侍女。
なにやらアオイの耳元に囁いている。
「それ、本当?」
「もちろんでございます。詳しいことは姫様に聞いて下さい」
「わかった!」
ぶんぶんと頷くアオイ。
なにを吹き込まれたんだか。
まあいい。女子の内緒話は聞かない方が無難だ。
「シルヴィアと副学園長の分も用意しているんだろう? そろそろ開始しよう」
「ああ。コズミがやったっていうカラアゲも挑戦したから試してくれ。我ながらうまくできたと思うぞ」
「よし。今日は飲むぞ!」
「おお、そのお酒は! まだ他にもあるのかい? やっぱりコズミ、あんた最高だよ!」
カラアゲにビール!
お祝いなのである。
明日のことなど考えずに飲むしかあるまい。
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