74話 便利屋
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シルヴィアによる発表後、もう帰っていいという話だったので、8組の生徒とともに帰宅。
ちょっと寄り道してくる、と街に戻ってきてすぐに別れたグレーシャンがしばらくして一人の男を寮に連れてきた。
イザベルの恋人、サモピンだ。
ごつい……。料理人と聞いているがすごい長身でマッシヴな男である。副学園長のようにオーガかなにかかと思ったが鑑定では人間だった。
「俺はサモピンだ。あんたが伝説のスウィートハートなのか?」
「スウィートハートは止めてくれ。いい加減、男にそう呼ばれるのはウンザリしているんだが。コズミでいい。もしくはコズミ先生だ」
「あんたのおかげでイザベルがあんなに嬉しそうなのは感謝している。俺ではあんなできなかった」
「いや、サモピンに迷惑をかけることなく大っぴらに付き合えるようになったのを喜んでいるんだろう。がんばれ、俺も8組の生徒たちもお前を応援している」
こいつは出来損ないと差別されていた時、それでもかまわないとイザベルに求婚すらしていた男だ。二人と同期であるグレーシャンによれば一途ないい男らしい。
自分たちの恋愛を諦めていた節がある8組の子たちにとって、自分たちの分までも幸せになってほしいカップルだったようだ。
今の8組の生徒なら恋愛もできるだろう。
ただし、簡単には8組の娘たちは渡さないがな。
年頃の娘を持った父親の気分だ。もはやあの子たちは俺の娘と言っても過言ではないだろう。馬鹿親まっしぐらである。
「コズミ先生!」
そんなことを考えていたらいつのまにか滝のような涙を流していたサモピンが俺に抱きついてきた。
「あんだのおがげだ! 俺、俺……がんばる……」
「わ、わかったから離してくれ! 折れるから!」
感動のハグのようだが、マッチョのおっさんにハグされても嬉しくない。というか苦痛だ。サモピン、力を入れすぎ。このままだと本当に俺の骨が折れそう……あ……。
意識が遠くなってきて気絶する寸前でドゴッという鈍い音ともに俺は解放された。
ぜえっ、ぜえっ……あ、サモピンが転がっている。
「コズミになにするの?」
「サモピン、浮気はいけませんよ」
そう言いながらミレス、なんで眼鏡を光らせているかな?
俺がそのモーション見せたあと必死に練習してたけど、ついにスキルを習得したのか。
そんな俺たちにはあ、とため息のアンジュラ。
8組でやっていた畑が何者かに焼かれてしまっていて落ち込んでいるのだ。まあ、ほぼ確実にやったのはドメーロたちなのだろうが。
畑の周囲にもトラップを仕掛けておくべきだった。ドロップ品も出さないやつがかかっても嬉しくはないが。
「そりゃあできが悪いのばっかりでしたけれど、みんなでがんばって育てていたのに」
「本当にあいつらは害虫よりも酷かったな」
しかもお詫びの品と置いておかれた送り主不明の品に毒入りの食品が紛れ込んでいた。
罪状の追加である。早いとこ捕縛されてほしいものだ。
体力が残っていれば寮のトラップも強化したいが、今日は無理。
アンジュラを元気づけ、8組完全勝利を祝うためにも宴会といきたいが、やはり疲れているので生徒たちに好評なカラアゲを作る気力もちょっと……。
「コズミ、今日の料理はサモピンにも手伝わせてやってくれ」
「まかせてくれ、どうせ毎年この日は店は休みにしてるんだ。8組の子たちが噛ませ犬にされている日なのに浮かれた客の相手なんかやる気にならなくてな。だけど今日は8組の勝利祝いだ。存分に腕をふるわせてもらうぜ」
「それは心強い。サモピンの腕は聞いているから楽しみだよ」
太い二の腕をぽんと叩くサモピンをキッチンに案内してこっちの世界にはない調理器具の使い方を説明。
アイテムボックスからいろいろとモンスター肉を渡しておく。
それと鑑定した結果、大丈夫な贈り物の食材も。
「ワカナもアンジュラも使い方を知らない食材の処理の仕方、いいチャンスだから聞いておいた方がいい」
「おいおい、いったいなにが……こんな超高級食材までまじってんのか? これは俺の手にはちょっと……」
「そちらは私にお任せ下さい」
そう割り込んできたのは、オトメを応援していた一団にいた老女である。彼女はオトメに仕えていた侍女なんだそうだ。
俺たちが寮に帰ってきた時、門の前で待ち構えていた。
「婆の料理はおいしいっすよ」
「姫様、その口調はお直し下さいませ」
「ええーっ? 気に入ってるんすから嫌っすよ」
「お父上が聞いたらお嘆きになります。コズミ先生からも言ってやって下さい」
オトメは小さな国のだが、れっきとしたお姫様だそうだ。
ドメーロ派によって国を荒らされないために、オトメは自ら縁を切って国を出たという。
「色気づけば口調ぐらいすぐに女らしくなると思うが」
「ですからコズミ先生に頼むのです。あなたが言えば姫様は直してくれます」
「な、なに言ってるんすか! コズミ先生はそんなのじゃないっす!」
オトメが真っ赤になってしまった。
やはりアイデンティティーを曲げるのは嫌なようだな。
たしかに一国の姫がその口調では面白す……いや、まずいか。
「まあ、公式の場では気をつけるように」
「コズミ先生?」
「俺はちょっと休ませてくれ」
食事の準備をしないでいいのならゆっくり休める。
あ、でもお祝いだからちょっとは酒も必要か?
俺も飲みたい。
そろそろショップを出店するとしようか。
そのつもりでチュートリアル世界のあの塔を修復したのだ。まだ修復は途中だが、ショップを出せるスペースも確保した。
「コズミ、どこに行くの?」
「ちょっとあっちに行ってくる」
地下のゲートに向かうのをアオイに見つかってしまった。当然のようについてきてしまうアオイ。
まあいいか。俺が倒れないか心配してくれているようだし、邪険にする必要もあるまい。
「まだ塔を直すの?」
「そんなとこだ」
目的のスペースに移動しアイテムボックスから1枚の紙を取り出す。
「なに?」
「店舗誘致チケットだ。これを使えば店を誘致できる」
どの店を誘致するか悩んだが、今回使うのは無難に24時間営業のコンビニエンスストアにした。他の店だと営業時間があるからな。
3Bの基地や艦艇だとPXという設定にされる場合もある人気のショップだ。
「いきなりお店ができた……コズミはスゴイ」
「はいはい。これはチケットがないとできないから無駄遣いできないんだよ。むこうに出店するのも面白そうなんだがな」
まあ、むこうに出店しても支払いがカード決済だから俺しか利用はできないのだが。
このカード、3Bでは初期装備であるIDカードなワケだが、なぜか謎の換金モノリスでも使用できて通貨データを扱うことができたりする。
キャラが死亡してリスポーンした時は新しく別のIDカードを初期装備として所持しているが当然残金がゼロなので、死んだキャラから前のIDカードを回収しないといけない。
「いろいろ売っている! ここはなんのお店なの?」
「コンビニエンスだから……便利屋?」
で、間違ってはいないよな、たぶん。
アオイは店内の商品に目を輝かせている。
売っているのは3Bと同じようだ。普通のコンビニで売っているものだけでなく、3Bならではの商品も取り扱っている。
「こんなに安くていいの?」
「え? ……ああ、日本語が読めるから数字もわかるか」
俺の3B仕様だから言語は日本語表記になっているんだった。
アオイの基準では商品はかなり安いらしい。3Bの標準的な価格のままなんだがな。
「これ下さい!」
「ここのは商品をあのレジカウンターまで持って行って買うんだよ」
「わかった」
アオイはオニギリをいくつか持ってレジへと移動した。まあそれぐらいならいいか。
アイテムボックスからIDカードを取り出す俺。すでにいくつかのテラーバードの死体を換金モノリスで換金してあるので購入はできる。
「計算が速い」
店員であるモブロイドがバーコードを読み込ませて、金額が表示されてアオイは促されるままにIDカードのリーダーにカードを載せて会計を済ませた。
おい?
なんでアオイがIDカードを持っている?
フリートに入ったからって渡してはいなかったのだが。
「え? これはアイディーカード。女神教の教会で発行しているの」
「まんまか!」
アイディーカードは身分証明にも使われていて、カードマネーによる決済は成立後の金額の変更ができないので、8組の子たちは現金だとすぐ誤魔化そうとされるのでカード決済になれているのだそうだ。
俺は逆にカード決済の方が信用できなかったんだけどなあ。海外だと特に。……海外旅行なんてしたことはないがさ。
「まさかそのまま使えるとはな」
マキにゃん手抜きである。
まあこれでこの店は生徒たちも使えるのがわかった。
店舗ウィンドウを呼び出して、商品構成を確認しなければ。
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