73話 結果発表
ブックマーク登録、評価、感想、イラスト、誤字報告、ありがとうございます
8組の全試合が終了した。
口には出さなかったが試合開始までは一人か二人は負けてしまうんじゃないかと不安でしかたがなかった。
それでも8組の生徒たちは出来損ないではないと証明できると確信していた。
まさかまさかの全員が勝ち星を上げるという文句なしの完全勝利であった。
試合にかける覚悟の違いもあったのだろう。
課題の仕上げとして試合に挑んだ1組と、未来をかけて挑んだ8組。
戦った1組生徒は3年で卒業後の進路もかかっていたが、それはあくまで自分一人のみ。対して8組の子は出来損ないと蔑まされた可変型マシニーズ全体の運命を背負っていた。
負けるわけにはいかなかったのである。
担任となってまだ短い俺だが、生徒たちのことは誇りに思う。
みんな。よく頑張ってくれた。
だから、約束していた勝利のご褒美はかなえてあげたい。
……あまり無茶な要求がなければいいのだが。
俺も疲れた。
8組の試合はもうないので、さっさと帰って休みたいがそうもいかない。
学校行事なのだ。途中帰宅はよろしくない。
そして副学園長とシルヴィアが8組の待機場所へとやってきた。
やはりまだ帰ってはいけないようだ。
全試合終了後にさらに少し待たされ、点数や最優秀生徒の発表があるとのこと。
「その点数って、誰がつけているんだ?」
「例年は機神巫女科の教師たちが採点しておった。だが今回はそういうわけにもいくまい。一応やつらも採点しておるが、他の教師にも採点を頼んでおるのは知らせておらん。偽神官どもが8組生徒にどんな点をつけるのか楽しみだ」
「私たちの判断では間違いなく8組から最優秀生徒が出なければおかしいのですけれど。現在、誰が最優秀かは難しいところですね。アオイさんは圧倒的な強さを見せましたが、相手は強いといえど2年。同様に人の形を取らずに勝利してみせたシンクレーンさんも相手は1年。他は3年に勝利していることもあり、決めるのが難しいのです」
MVPか。担任としては全員がMVPと言いたいところだが。
「それ、今日決めなければいけないのか?」
「うむ。観客も待っているのでな。遠方からきている客も多い。誰が最優秀かを知らねば国へは帰れまい」
そんなもんか?
まあ、スカウトの参考にする場合もありそうではある。
今回の結果だと8組の3年もスカウトが増えるかな?
グレーシャンはズーラ帝国はやめろって言っていたが。
「もしもドメーロ元司祭たちが採点に私情を挟んだ場合、観客たちは納得しないでしょう」
「それと、学園側の正式な採点、最優秀生徒を同時に発表するつもりか」
「さすがコズミ君。よくわかっておる。あやつらがどれほど害悪か諸外国にも知らしめなければなるまい」
可変型マシニーズの情報は各国に出回るはずだ。今まで出来損ないなどと差別していた原因であるのがドメーロ派であると、はっきりさせて排除しなければいけないのは副学園長もよくわかっているようだ。
「ふむ。それならばシルヴィア、ちょっと試さないか?」
「はい?」
この際、徹底的に追い打ちをかけておきたい。
ドメーロだけでなくそれ以外の可変型を虐めた者たちも含めて。
◇ ◇
残りの1組の試合はまあ、巨人同士の戦いという感じでロボらしさがイマイチ感じられなかった。
まだ弾薬をクラフトしてないから使わなかったが、バルカンも使用してみせるべきだったかもしれない。
1組ロボの頭部にもちゃんと装備されているようなのだから。
そして負けた方はダメージで脱衣してしまうのだが彼女たちにも体育着を配給してあげるべきだったと思う。
8組の生徒のようにアイテムボックスが使えないから、勝った方が敗者を隠してあげることができていない。
「シンクレーンのようにマントを装備しておいて、敗者にかけてあげるようにしておけばいいだろうに」
「一応、戦場で敗れて恥ずかしい思いをすることも覚悟できるように、なのですけれど……複数の方に肌を晒すことになるのは恥ずかしかったですね。改善するいい機会かもしれません」
シルヴィアも可変型だから8組の生徒として試合で戦い、敗れて破れた過去があるのだろう。……ちょっと見たかったと思ってしまったのは男として当然なので責めないでほしい。
全試合が完了し、いよいよ採点結果と最優秀生徒の発表である。
ドメーロは姿を現さなかった。副学園長によれば逃げた可能性が高いので捕縛が手配されているとのこと。
残った1組教師の偽神官が発表したのは1組生徒ばかりが高評価の採点だった。当然、最優秀生徒も1組から選んでいる。
まさに疑惑の判定そのもの。
やつらによれば、「変形できることを隠していた卑怯な行為はとてもマシニーズと呼べるものではなく、勝者として認めることはできない」だそうだ。
観客席からはもの凄いブーイング。とても納得のいくものではなかったのがわかる。
そこへ汽笛を鳴らしながらあるマシニーズが現れた。
銀色のSF機関車。つまりシルヴィアである。
シルヴィアは壇上のそばに停止した。
『私は教皇シルヴィア。多くの方はこの姿を見るのは初めてかもしれません。なぜならば私が可変型の機神巫女であることが都合が悪い偽神官たちによって、私がそうであることを、彼らによれば出来損ないであることを隠されていたからです』
機関車のスピーカーから流れる声に観客たちはこのマシニーズがシルヴィアであることを認識する。
『彼らは私たち可変型の機神巫女を出来損ないと蔑み、差別する風潮を生み出しておりました。みなさんの多くもそう呼んだことがあるかもしれません。女神デア・エクス・マキナ様はこの状況を嘆いていたのです』
「で、でまかせだっ! この出来損ないめ! 教皇の名を騙るとは不届きな!」
空気を読めないと言うか、むしろ空気を読んだ感じになった残った偽神官。俺だったらヤラセを疑いたくなる状況である。
「お膳立てが整ったな。いよいよやるが覚悟はいいか?」
『はい。コズミ様にお任せします……やさしく、シテください』
シルヴィアの許可が出たのでそっと操縦桿を握る。
そう。俺は今、シルヴィア機関車に乗っていた。ドメーロたちへの嫌がらせとしてやつが教皇になれなかった原因のシルヴィアをプッシュすることにしたのだ。
さすが教皇というべきか、操縦桿を握ってもシルヴィアは声を上げなかった。
だが代わりに押し殺した吐息が聞こえたのは生徒たちより色っぽいかもしれん。
俺の顔が熱くなるのを誤魔化すように操縦桿を操作して変形開始。シルヴィア機関車がロボへと変形していく。
『これでも私を出来損ないと呼べますか? 偽神官よ!』
「くそっ」
まるでどこぞの副将軍か北町奉行なノリである。
壇上から逃げようとした偽神官をひょいと掴むシルヴィアロボ。待ち構えていた衛兵に渡して、そのまま壇上横からシルヴィアロボが続ける。
『では、これからフロマ学園による正式な採点結果と最優秀生徒を発表いたします』
シルヴィア様コールが観客から鳴り響く中、発表を行った。
最優秀生徒は高度な魔法操作と観客を守ったキントリヒ。どうやらこれには観客も納得のようでブーイングもなかったのでほっとした。
読んでいただきありがとうございます
たいへん励みになりますので面白かったらブックマークや評価、感想をよろしくお願いします