72話 試合終了
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シャイニーブルーは圧倒的な強さを見せつけてクリムロボに勝利した。
アオイは俺のフリートに入ることで3B仕様になっているから当然と言えば当然なのだが。
ステータスを他の生徒と比べても明らかに高いし。
これだけはっきりと力の差を見せつけられたせいか、クリムはおとなしく去って行った。姫抱きに照れているというのもあるのかもしれない。
『コズミ、安全のためにみんなに乗せてもらって』
「さすがにもう襲ってはこないと思うが」
『甘いです、コズミ先生。ドメーロがそう簡単に諦めるはずがありません』
シラユリまでがそう言うので仕方なく残りの試合も搭乗することとなる。
俺の身を心配してのことなので逆らえないが連続で操縦して戦うのは、いくら操縦席が揺れなくても疲れそうなのだが。
俺の身体が持つかの方が問題だろう。試合ではなく家でゲームしているつもりでやるしかないか。相手の1組生徒には悪いが。
気弱な性格で不安だったミレスも1組最強生徒の惨敗で余裕ができたのか、俺が操縦することもなく重力ビームを巧みに操って勝利した。
UFO形態で空高く釣り上げてから投下って、まさにクレーンゲームのような戦法である。
重力ビームは魔法扱いらしく抵抗することも可能なのだが、相手ロボはそれに失敗。空中に運ばれた時点でもうパニックになってしまっていたようだ。
トラウマになってなければいいのだが。もしその時はバンジージャンプ台でも建築して治療してあげる所存である。
なにげに一番心配だったミレスの試合が勝利で終わり、あとはもう消化試合と言ってもいいだろう。
ミカンヌは大きく吠えたあとに変形するというパフォーマンスを見せた。
相手側はアオイ、ミレスと特殊な勝ち方をしたためかなり用心していたが、そのせいか動きが悪く8組ロボの中でも動きの速いミカンヌロボのスピードについてこれないかった。
結局ミカンヌの勝利である。
2年最後はオトメ。
操縦席のモニターが表示されると観客席がズームされていた。オトメが注目しているようだ。
騎士っぽい連中に囲まれた中年――といっても俺よりも年下かもしれないが――の男と老女が映っている。
「家族か?」
『……はい。来るとは思ってなかったっすけどね』
「そうか、ならば」
俺の時、親も身体が弱いのに無理して参加してくれたのが、心配と同時に嬉しかったのを思い出して、ちょっとウルッときてしまうな。
操縦桿を動かして家族にオトメロボの手を振らせた。
授業参観にきた親にはこれぐらいしたっていいだろう。
『い、いきなりなにするっすか!』
「家に迷惑をかけないように縁を切っているのは知っている。だが、もうその必要はあるまい? 君たちは疎まれる出来損ないなどではないんだ。堂々と家族だと名乗るべきだ」
『本当にそうっすか? ……でも今はまだちょっと見極めさせてほしいっす』
オトメはかなり慎重になっている。よほど家族が大切なのであろう。
口調は三下っぽいが、この子もいい子だ。
1組はどうだかよくわからないが、8組の生徒たちはみんないい子ばかり。マキにゃんは顔だけでなく性格もマシニーズ選考の条件にしているのかも。
モニターにはオトメに手を振って貰ったのが嬉しかったんだろう、家族と思われる二人どころか護衛らしき騎士たちまでが涙しているのが映っている。
「……泣いてるな」
『ま、まっだぐ、ばずがじいっず……』
オトメも泣いているのか、変身しているのにもかかわらず鼻声になっている。いったいいったいどんな状態なんだか。
俺ももらい泣きしそうになって困る困る。
「あんなに手を振り返しているじゃないか。やっぱり、すぐに家族って名乗った方がいいんじゃないか?」
『……無理っず』
「ならばせめて、元気に頑張っているところを見せてやりなさい」
『もぢろんっず! 気合い入れて行ぐっすよ!』
グスンと涙声ながらも、家族の応援の前に張り切ったオトメが負けるわけもなかった。
3年に続いて2年も完勝である。去年までの借りを返したという形だな。
学園都市の学生や市民、外からきた客にいたるまで8組の強さを知って貰えたことだろう。
もう出来損ないなんて呼ばせない!
残る1年の試合。
1組の3年もさすがに1年に負けるワケにはいかないはず。苦戦するかもしれない。
そう不安になったが、やるしかない。
アンジュラは緊張していたが、それでも互角の戦いで勝利することができた。
相手の3年も強いのだろうが戦っている途中でアンジュラの緊張が解けたのだ。
『あの程度ではグレーシャンにはほど遠いです』
『最近の機神巫女科はずいぶんヌルくなっているみたいだね』
『あんたの無茶ぶりみたいなの学校でできるワケないでしょ』
護符からグレーシャンたちの声が聞こえてくる。すでに携帯電話のように使われているな。
これも広まったら各地のマシニーズと連絡がつきやすくなって、情報革命が起こるんじゃないだろうか?
この世界の通信事情なんて知らないけどさ。
ヒワの試合は、飛べるようになったヒワが鳥形態で相手を翻弄。空中のヒワに向かって放たれた必殺技さえ易々と回避してダイブアタックでダメージを重ね、人型に変形して決着をつけた。
鳥形態の足で剣を掴んで使ったのだから相手もやりにくかったかもしれん。
クルミダロボの自前の盾はやはり強力。しかもここ一番のタイミングでクルミダが向かってきたスラッシュを受け止めてそのままシールドバッシュで相手を変身解除まで追い込んだ。
グレーシャンには盾に頼りすぎって注意されていたけど、クルミダはその盾を使いこなすことでその解決を図った頑固者だった。
『そういうの嫌いじゃないけどね』
『いつか大ミミズも押し返してみせます!』
まったくもう。
グレーシャンも笑っているから怒ってはいないようだ。
そして我が8組の最終戦。
トリは賢者キントリヒである。
洒落になっているが別に狙ったのではなく、むこうから渡された対戦表でそうなっていたのだ。
対戦順はこちらで変更したわけではない。
もう観客も慣れただろうと思っていたが、トラクタービームでの搭乗にまた歓声が上がった。
そりゃ驚くか。
変形したキントリヒの姿でさらに驚愕するかもな。
『試合相手の3年も魔法を得意としているのだ。楽しみなのだ』
グレーシャンも魔法は使えるが、基本的なものばかりでマシニーズによる魔法戦の訓練はほとんでできず、キントリヒは不満だったらしい。
「で、どうする? さすがにむこうも油断していないだろう?」
『まずは普通に撃ち合いしたいのだ』
キントリヒは賢者なくせに脳筋気味だ。
というか、マシニーズはみんなそうなのかもしれない。
ピラミッドのままでは魔法が使えないので変形して試合開始の鐘を待つ。
やはり蜜柑の皮が剥けるようにして中から現れた金色のロボに大きな歓声が上がった。
8組のロボ中では一番派手だものなあ。
「剣と盾はいらないのか?」
『いらないのだ。むこうも取っていないのだ』
どうやら相手側も魔法戦をしたいようだ。
賢者ロボ相手に魔法で挑むなんて強気だな。まあ、キントリヒロボの実力を知らないせいもあるのだろうが。
現在の8組ランキングでキントリヒはアオイに次ぐ2位だったりするのに。
試合開始と同時に相手はさらに距離を離すように移動しながら火球を放ってくる。
こちらも観客席に飛ばないように気を使いながら攻撃だ。
『ファイアーボール』
キントリヒロボの火球に観客席の声が静まり返ってしまった。
驚愕、というよりは呆れたという感じで。
大きさは普通だが、火球がゆっくりと飛んでいるのだ。相手側のものに較べるととあまりにも遅い。
これは俺が魔法練習初期に出したような失敗ではない。狙って出しているのだ。
こんなの簡単にかわせる?
一発ならそうだろう。
『ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール……』
ゆっくりとした火球で弾幕を形成するキントリヒ。まるで詰み将棋のように相手の回避先を潰していく。
火球の速度は一定ではなく、たまに速いのも入っている。それを慌てて回避して置いてあった火球に接触、焼かれる1組ロボ。
まだ変身解除しなかったか。変身解除したら残りの火球は相手の安全のため、すぐにキントリヒがキャンセルする予定なのだが。
自棄になったのか1組側も火球を連射してきた。
速度は一定だ。冷静さを失っているのは確実なようで狙いも甘い。
……というか、あれでは観客席が危ないな。
「キントリヒ、流れ弾を」
『わかってるのだ!』
隠し球として展開図のように地面に開いたままのピラミッドのガワをそのまま観客席の前に移動させて火球を防ぐ。
このガワはかなり頑丈で火球が一発当たった程度ではびくともしなかった。
『もうちょっと撃ち合っていたかったけど、そろそろ終わらせるのだ』
キントリヒロボが片手を天に掲げる。
特訓中は杖でやっていたのだが、用意されている剣と盾しか追加装備が許されていないので仕方がない。
『ライトニングボルトなのだ!』
雲一つなかった空から掲げた手に雷が落ち、それを相手に向かって振り下ろすとキントリヒロボに落ちたはずの雷が1組ロボへと飛んでいく。
この雷、操縦席の中だとモニターが光量を調整しているからそうでもないが、外ではかなり眩しくうるさいらしい。
高速で迫る雷撃を回避できなかった1組生徒はその一発で変身が解けてしまった。
ううむ。容赦なさすぎる気もするが、これでもキントリヒはしっかりと手加減してたりするのがアオイと違って賢者たるところだ。
『8組の完全勝利なのだ』
「そうだな。みんなよく頑張った。偉いぞ」
疲れた。
まだ1組生徒同士による試合が残ってはいるが、もう帰ってもいいだろうか?
そりゃ1組ロボも気にはなるが、今はもう休みたい。
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