71話 姫
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今回は新キャラ視点
レオパルディア。国土のほとんどが荒野と砂漠の小国です。
女神教の神官も我が国が貧しいからか金にがめつい神官が居着くこともなく、その手の神官にありがちな出来損ないを差別する教えが広まらなかったこともあって、貧しいながらも出来損ないが普通に暮らせる国です。
だからこそ出来損ないである私も侍女としてお城で働くことができたのです。
光栄なことに私は生まれたばかりの姫様の専属メイドを任命されました。
たとえ出来損ないでも機神巫女である私は護衛としても優秀だからということです。
姫様を狙うような不届き者はおりませんでしたが。
姫様は愛らしく育ち、裕福な隣国の王子との婚約も決まりました。
隣国では出来損ないは嫌われているので、私が姫様にお仕え続けることはできなくなりますが、私も姫様の幸せな未来を喜び輿入れの日を心待ちにしておりました。
ですが、姫様が機神巫女となり、さらに出来損ないであることわかってしまいます。
それを知られた途端に隣国の王子との婚約はなくなり、王家に出来損ないが生まれたと隣国の態度も変わりました。
貧しく出来損ないの多くすむ我が国に攻めてもうまみがないのか戦こそ仕掛けてきませんが、まるで敵国のように扱われています。
姫様はそれを嘆き自ら願って王家から除籍され、フロマ学園へと入学なされました。
民からも愛されていた姫様です。国中が悲しみに包まれました。
私はお役目を失い、辞職するつもりだったのですが、王から娘を頼むと学園での姫様のサポートを行うように命じられました。
姫様は私に城に残ってほしいと仰っておりましたが、私は姫様の専属侍女でございます。離れるわけにはいきません。
姫様はご自分が国に迷惑をかけることをお嫌うので私の身元がばれないよう、積極的に支援するわけにはいかず細々とした贈り物や、国許へ姫様のご様子を報告することぐらいしかできないのが悔しいのです。
あの方はあまりにも酷い生活を強いられておりました。
私が8組として学園であった頃よりも酷くなっています。
国で会う若い出来損ないの言っていたことは本当でした。学園都市や周辺国は出来損ないを人間扱いしていないのだと。
何度、姫様を国へ連れて帰ろうと思ったことか。
ですが、姫様には断られるのです。
「今の自分は8組の一員っす。仲間を捨てて自分だけ逃げるわけにはいかないっすよ」
8組の生徒になる高貴な生まれの方は出自を隠すために、粗野な口調を使う傾向があります。慣れない言葉を使うために変な言葉使いになりがちなのですが、姫様もそうでした。
王が知ったらきっとお嘆きに……あの王ならば姫の声を聞くだけで喜びそうですね。
姫様の世代は各国が注目していると国許への報告書を運ぶ情報局の方が教えてくれました。
出来損ないに勇者、聖女、賢者という滅多に現れない者が集っているからだ、と。さらには姫様もいるのだからな、そう彼は笑いました。
パートナーならばともかく、機神巫女本人がその三つになることは今までありませんでした。
これがなにを示しているかは国によって見解が違うようです。
なにか大きな災いに女神様が備えているというものや、出来損ないだから機神巫女として考える必要はない、という大まかに分けるとその二つの意見のようですね。
私としては、姫様を救うためにその三人が集った、そう思えてなりません。
その思いは間違いではありませんでした。
8組の勇者様が試練に挑戦し、翌日には早々と機神巫女の主任である司祭が勇者様の帰還は絶望的、冥福を祈るなどとのたまい、姫様の顔を沈ませます。
ですが、姫様の世代はやはり特別でした。
聖女様と賢者様が8組の方を引っ張り、勇者召喚を成功させたのです。
しかも勇者様はパートナーとして伝説のスウィートハートをお連れになりました。
見た目はちょっと伝説の人物とは信じられない男でしたが、8組担任ベドロの卑劣な罠を見破り、逆に成敗するという痛快な方でした。あのベドロには姫様たちも泣かされていたのです。思わず拍手してしまいます。
あの方は絶対に本物だと私は理解しました。
これは各国の判断がどうなるか、情報局の彼の話を聞くのが楽しみになってきます。
変化はそれだけではありません。
8組の寮が火事になったと聞いた時は胸が張り裂けそうになりましたが、姫様は無事でしかも廃屋のようだった旧寮とは違う、新しい見事な寮に移り住んだというのです。
私も新しい寮を拝見いたしましたが、信じられませんでした。
新たに8組の担任となった伝説のスウィートハート、コズミ様が僅か数日でこの屋敷を建てたというのですから。
さらに街では勇者アオイ様が空を飛んで紙を撒き、それによって出来損ないと偽神官の真実を伝えました。
私はこの紙を何枚も集め、情報局の彼を待たずに国許へと送りました。それぐらい緊急で重要な情報です。
◇ ◇
機神巫女科のパートナー探しの課題の締めである、機神巫女同士の試合。
予定にはありませんでしたが、観戦のために王が学園都市にやってきました。出来損ないによる高速馬車です。そのあまりの乗り心地のせいで王は疲れているはずですが、顔は笑っていました。よくぞ知らせてくれた、とのお褒めの言葉もいただきます。
試合の当日は驚きの連続です。
姫様たちは空を飛ぶ8組の機神巫女によって運ばれて登場しました。
その姿は学園の制服でこそありませんでしたが、それ以上に美しい豪奢なドレスのような揃いの出で立ちでした。
色が黒でなければ花嫁衣装のようにも見えてしまいます。
久しぶりの姫様の晴れ姿に私も王も近衛たちも涙を堪えることとなってしまいます。
試合開始。
一番手は姫様の慕うシンクレーン様です。
情報局の調べでは彼女はズーラ帝国の公爵令嬢だったとか。
シンクレーン様は試合での8組の初勝利という快挙を成しました。王と私たちは姫様もこれに続いてくれと祈ります。
衝撃は続きます。
二戦目のシラユリ様。8組の聖女様です。
偽神官として名を落とした機神巫女科主任ドメーロの派閥と見られることもありましたが、この方はそうすることで8組が受ける被害を減らしておりました。
そのシラユリ様が信じられない姿となったのです!
出来損ないの証である姿から、人の形になったのです。
シラユリ様だけではありません。試合を終えていたシンクレーン様も同様に姿を変えてみせました。
変形、というものだと帝国最強の機神巫女と言われた元将軍グレーシャンが説明してくれました。
出来損ないは出来損ないではなく、可変型という機神巫女だそうです。
ということはもしかしたら私もその、変形、ができるのでしょうか?
そして、姫様も?
第二試合はシラユリ様の勝利で8組が二勝目をあげました。
次の試合は8組の生徒が人の形にマシンナリィして始まり、すぐに決着がつきました。
秒殺です。今までの試合では8組の生徒が秒殺されることはありましたが、逆はありません。
いったいなにが8組の生徒をここまで強くしたのでしょうか?
グレーシャンが鍛えたという話ですが、それだけとは思えません。
8組3年の全勝で焦ったのか、偽神官ドメーロは卑劣にも8組のパートナーを狙います。
狙われたのはコズミ様です。彼は信じられないことに、勇者アオイ様のパートナーだけでなく3年の三人のパートナーもしてみせました。
パートナーとの絆の証である黒い色がマシンナリィした8組の方たちに現れているのでハッタリではないのでしょう。コズミ様は以降の方たちのパートナーとなるようです。
そのコズミ様を指揮者の丘に現れた1組生徒のパートナーらしき男が襲ったのです。
誇り高き機神巫女のパートナーがすべき行いではありません。
ですが不埒な襲撃者をコズミ様は難なく倒してしまいました。とても戦う方とは見えないのに、予想外の強さです。
試合は誇りを傷つけられた1組の生徒が敗れ、いよいよ次は勇者アオイ様の出番です。
観客席からも注目が集まります。
なにしろ勇者様です。しかも前日、空を飛ぶという偉業をなしているのです。期待が高まるというのは当然のことでしょう。
そして再び私たちは驚かされます。
アオイ様は自らの身体にコズミ様を取り込んでしまったのです。
今日はいったい何度「信じられない」と言えばいいのでしょうか?
今度は女神教の教皇シルヴィア様が最初の機神巫女とそのパートナーもやっていたと教えてくれました。
間違いありません。
コズミ様こそ伝説のスウィートハート様。
私たちは新たな伝説を目撃しているのです。
試合の相手はクリム・パイプルーン様。
現在の1組の最強の生徒で、あのグレーシャンを決闘で倒したと噂されるほどの実力者です。
ですが、相手が悪すぎました。
アオイ様は強すぎです。まさに別次元の強さと言っていいでしょう。必殺技を連発するという相手にとっては悪夢でしかない攻撃を見せて勝利しました。
観客席の若い娘たちはその後の勇者モーブ様によるクリム様の救助にも歓声を上げていましたが、あれは必要なかったでしょう。アオイ様ならその辺りもちゃんと加減していたでしょうから。
姫様たちを運んで会場に飛んできた円盤の少女、獣人の少女と8組の勝利が続きます。二人もコズミ様を身体に受け入れて戦いました。
自分の中に男の方を入れてしまうなんて最近の若い子は大胆ですね。
そしてとうとう待ちかねた試合です。姫様のお見せになった変形に私たちはついに涙してしまいした。
しかも、こちらに気づいたのか、姫様はこちらに手を振ってくださったのです。
王までもが男泣きです。
姫様までもがコズミ様を身体に受け入れたことには不満を露わにしましたけれど。
慕っていた元婚約者に捨てられた姫様は男性不信に陥っていたはずですが、その姫様にあそこまでさせるとは。
……もしや、なにかあったのでしょうか?
その場合、責任を取っていただかなくてはなりません。
各国も伝説のスウィートハートであるコズミ様の確保に動くでしょうし、姫様を溺愛する王でも割り切るはずです。
アオイ様がコズミ様との仲を見せつけてくれましたが問題はないでしょう。
我が国は一夫一妻ではありませんので。
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