69話 姫抱き
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8組の3年の試合が全勝で終わった。
あとは1組の3年同士の戦いだから俺はちょっと休憩できる予定だったのだが、1組の指導陣が組み合わせを変更したいと言ってきた。
ドメーロが再起動したようだな。さっきのワカナ用の剣の小細工もやつの指示か。
「今頃なに言ってるんですかね?」
「まったくだ。これ以上恥を晒しても女神様は同情などせんだろうに」
やれやれと疲れた顔の副学園長。
あんな偽神官の言うことなど聞く必要もないだろうに。なにか弱みでも握られているのか?
ここでバラエティ番組なら土下座を要求するのだろうが、こっちに土下座の風習があるのかわからない。
「受け入れると、今年の1組の3年が可哀想なことになるかもしれない。就職先に困ることにならないか?」
「そこまでなのかね? まあそれでも各国は優秀な生徒を見抜くだろうから問題はない。卒業する3年の数が変わるわけでもないのだ。どこも機神巫女を欲しがっているからな」
「ならば今日が最後の仕事となるドなんとかが無能なので試合の組み合わせに失敗してしまったので事前に発表した組み合わせから変更する、そう発表するなら組み合わせ変更を受け入れよう」
「よかろう。ドメーロが学園とは無関係になることを内外に知らしめるにもいい機会だ」
副学園長は折れたままの角を軽く触る。
魔法で治すことはできるそうだが、8組の生徒の境遇を見逃し続けた自分を忘れないためにもあえてそのままにしているらしい。
1組の許可を確認しに向かわず副学園長はルールを告げた時の壇上に上がり、大きな声でそのままを告げた。
しかもドメーロが女神の信頼を失い、女神の奇跡がなくなったことも追加している。
あ、シルヴィアが囲まれて質問されているな。各国のスカウトマンだろうか。それとも情報局みたいな部署か?
学園都市以外でも偽神官が発生したって嘆いていたから、それに関することかもな。
「あんたが伝説のスウィートハートかい?」
「8組の担任だ。1組生徒のパートナーか?」
「まあな」
だからおっさんにスウィートハートなんて呼ばれたくないんだが。
指揮者の丘にやってきた男は俺と同じくらいの男で使い込んだ感じの革鎧と剣を装備していた。これが冒険者?
不快な表情でニヤニヤ笑っている。本当に1組の生徒のパートナーなんだろうか? 簡易鑑定の表示も思いっきり敵対色だ。
1組のマシニーズを見れば、ボディカラーはほぼ一色。8組の生徒やサベージュの時のようなパートナーを示す色は装甲に出ていなかった。
これではパートナーの能力を上積みすらできないだろう。3年であるならそれぐらい知っているはず。この男はパートナーですらないのかもしれないな。護符も持っていないようだし。
2年の一人目はアサギリだ。
彼女もいきなり人型に変身してみせた。
アサギリは剣と盾を鑑定して状態を確認。さすがに今回は状態は悪くなかった。
『コズミ先生、相手の1組がなにか首を傾げています。しきりにそちらの様子を気にしているようです』
「わかった。ありがとう。こっちは気にせずに戦ってくれ」
『……お気をつけて』
まったく。試合に集中できるようにと思って不審な男のことは言わなかったのに、アサギリは気づいたようだ。
ステルス機に変形することといい、忍者じみた子だ。やや戦闘狂ではあるが。
試合開始の鐘が聞こえると同時に、不審な男が斬りかかってきた。
あまりにも予想どおりすぎて俺でも余裕で回避できてしまう。〈抜刀〉を使ってアイテムボックスから木刀を出して反撃。
「スラッシュ!」
俺も使えるようになったはいいが、一度も実戦で使ったことがなかった必殺技をいいチャンスだとつい使ってしまった。ドメーロに使いたくてウズウズしてたんだ。
狙い違わず革鎧に命中し、男は丘から転げ落ちていく。
『コズミ先生、だいじょうぶですか?』
「ああ、戦いに集中してくれ。心配はいらない」
試合中にもかかわらずこちらへ駆けてくるアサギリを止める。相手の方もなにごとかと戦いを中止していた。スキをつくようなことがなかったところを見るに、やはり生徒の方は知らされてなかったようだ。
しかしドメーロもなりふり構わなくなってきたな。さっきの副学園長の話が堪えたか。
だがそれだと男を用意するのは早すぎる気もする。最初から俺を亡き者にするつもりだったのか?
ドメーロたちは不審な男は勝手に指揮者の丘に現れたので、自分たちは無関係だと言い逃れようとし、男は衛兵に突き出された。
――あとで衛兵が男を取り調べた結果、この男は8組生徒が会場までの移動中に俺を殺すために雇われた連中の一人だということがわかる。飛行しての移動は用心しすぎではなかった。
試合は動揺したのか1組の生徒の動きが精彩を欠き、勝ったアサギリも不満そうだった。
『コズミ先生はやっぱ強かった。あとで稽古をつけてください』
「断る。俺の身体がもたない」
調子にのって放った必殺技のせいで明日は筋肉痛が確実だ。これ以上俺の寿命を縮めないでほしい。
◇
次の試合はいよいよアオイの試合。
観客たちも待ちかねていたようで、その熱気がこちらにも届いてくる。
相手は3年ではなく、クリム。現在の1組で最強だから当然のことらしい。ハンデつきだったがグレーシャンに勝ったこともあるという。
そのパートナーはアオイの弟分でやはり勇者のモーブだった。
「この試合に勝ってアオイの目を覚まさせる! ペテン師め、お前が伝説のスウィートハートではないことを証明してやる!」
「俺は自分でスウィートハートなんて名乗ったことはない。だからコズミ先生と呼びなさい」
おっさんからスウィートハートと呼ばれるのも嫌だが、美少年にそう呼ばれるのも嫌である。俺にそっちのケはない。
『目を覚ますのはモーブ。コズミのスゴさを認めるべき』
「アオイは騙されているんだ!」
『コズミのことを悪く言うのであればいくらモーブでも許さない』
そう護符から聞こえると、アオイが飛行形態に変身。それからゆっくりと人型形態へと変形していく。ワザとである。シャイニーブルーはもっと速く変形できるのだから。
うむ。バンク変形に使えそうなぐらい見事な魅せ変形だったぞ。
人型になったシャイニーブルーはこちらに近づいてきて、俺に手を伸ばしてきた。
『またコズミが襲われると困る。いくら目が曇っていても弟が大怪我するのはちょっとイヤ』
「俺はこんなやつに負けない!」
おいおい、「そんなことはしない」じゃないのか?
さすがに勇者に狙われたら俺もピンチなのだが。
8組の子たちの話によればこのモーブはアオイを捨ててクリムをパートナーにしたってことらしいけど、まだアオイに未練があるシスコンのようだ。
アオイについた悪い虫って感じで見られてるな、これは。それとも恋敵か?
俺にはそんなつもりはないのだが。
事情がわかったので避難することを決め、シャイニーブルーの手に乗り操縦席のハッチへと運ばれる。
あの円盤光でもいいのだが、アオイや他の生徒も直接俺を手で操縦席に運ぶのを好むのである。俺はお人形さんではないのだがな……。
「アオイ、なにをして……なぁぁっ!?」
モーブが驚いているが知ったことではない。そう思ったが観客席もかなり動揺しているみたいだ。
クリムロボもこっちを指差している。むう、話ができないのはちょっと面倒だな。
クリムロボは真紅のボディカラーで両肩が紫。色だけでなく、形もどことなくシンクレーンロボに似ている。
シラユリがこっそりと教えてくれたが、シンクレーンの妹だということだ。たしかにどっちも見事な巨乳である。
「アオイ、一度変身を解いてクリムに説明するか?」
『うん』
クリムに近づいていき、変身解除するアオイ。
クリムも理解してくれたのか、生身に戻ってくれた。
だけどアオイ、なぜ変身解除した時に俺が君に姫抱きされているのかな?
『コズミは私のだから』
……俺の心を読むんじゃない。
せめて逆にしてくれ。
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