6話 初めてのクラフト
ふう。
マジで異世界っぽいな。
少なくとも地球にはあんなでっかい虫はいないだろ。
……すごいすごい過去ならありえるのか?
そもそも昆虫って気門ってので呼吸してるから、あまり巨大にはならないんじゃなかったっけ。もしかしたら外の酸素濃度ってムチャクチャ高かったりするのかも。
まさかまさか人体に有害なガスとか含まれたりしてないだろうな?
あ、3Bのシステムなら有害な空気は色つきで見えるはずだ。警告アイコンも出てないから大丈夫だと信じよう。
「これで外の様子が見れるの?」
「そう。モノリスの反対側からこられるとダメだけど、正面はなんとか見える」
ゲームプレイ中にインターホンがなった時のためにスマホ対応のをつけている。
だって俺にくる客なんてほとんどいなくて、通販かセールスだけ。通販の到着をゲーム中でもすぐに確認できるのでありがたいのだ。
インターホンカメラの映像では、しばらく虫たちが蠢いていたがこちらに来る様子はなかった。
「アオイちゃんは虫とか平気?」
「はい。何度か戦ったことがある」
「そうか。女の子だから苦手だったらどうしようって思ったけど平気ならよかった」
俺は苦手ではないし動画等で見るのも平気なのだが、不衛生な気がして触るのは嫌だ。
家で見つけたら徹底的に排除していた。
「食料になることも理解している。日本でもよく食べると聞いた」
「いや、最近の若い子はあんまり虫は食べないからね」
「父はよく食べたと言っていた」
イナゴかハチの子だろうか。ザザ虫じゃないといいけれど。
どちらにせよ、こっちの虫は大きすぎて丸ごと調理するのは無理そうだ。
「いざとなれば食べるけど、取りあえず食料なら鳥を狙った方がよくないか?」
「鳥は飛ぶから剣だと難しい。私の使える攻撃魔法だと、森が火事になってしまうかもしれない」
攻撃魔法!
さすが勇者、アオイちゃんは魔法も使えるのか。
すごく見たいけど火事になっても困る。広い場所を見つけないと。
「魔法か」
3Bにはないけれど、MODには魔法使いのいるワールドもあったよな。もちろんもちろんそれも入れている。
……ということは俺も魔法が使えちゃったりする?
スキルウィンドウを開いて検索してみる。
あった!
けどけど残念なことに解放されていない。どうすれば解放される?
魔法に関連する動作……よくわからん。
条件がわかれば、ってああ!
「アオイちゃん、俺に魔法を教えてくれないか?」
「コズミに……うん。コズミならすぐに使えるようになる気がする」
「それはどうかわからないけど、あとでお願い」
よし!
これで魔法が使えるようになるかもしれない。
リアルで魔法使いかぁ。
あっちの意味でもそう取られそうだ。……間違いでもないが。
MODのだとたしか、杖を装備していると魔法の威力も増したんだよな。
杖はまだ設計図持っていないけど、木製のなら自分でレシピ作成できるかもしれないな。
3Bのクラフトはクラフトレシピが必要で、これはスキルと同じように条件を満たすことで解放される。剣のレシピ解放にはナイフを何本か作るというように。
ただし、設計図があればレシピがなくてもクラフトすることができる。どこかで手に入ればいいけど、この世界にはないだろうなあ。
杖だから、棍棒あたりを作りまくればレシピ解放できるはずだ。俺にも武器が必要かもしれないし幸い、木材もある。作ってみるべきだろう。
「ちょっと試したいことがあるから、お茶でも飲んで少し待ってて」
「うん」
アオイちゃんにポットの使い方を教えて、俺はインベントリウィンドウを開いてアイテムボックスを確認する。
中には、さっき収納した木と、3Bスタート時や復活スタート時にプレイヤーキャラクターが持っているアイテムが入っていた。
追加MODによってそのアイテムも増えているんだけど、しっかり持ってるな。
中でも嬉しいのはショップのテナント誘致券が複数入っていたことだ。
これは自分で建てた基地内にそのチケットのショップを誘致できるというもの。店舗ごとに面積が決まっているので必要なテナントスペースを造る必要はあるが、ショップが好きな場所に造れる便利なアイテムだ。
3Bは荒廃した地球が舞台であり、開始当初はショップなんてないサバイバル生活をするゲームだった。
だが、3Bプレイヤーの中に某ファーストフード店の重役がいて、3B開発陣もその店を愛用していることを知った彼は開発陣のSNSにコメントした。うちの店は荒廃した未来でもやっていける、と。
そして公式サーバー内にまさかまさかの店舗展開。実店舗と同じメニュー、キャンペーンを行うこだわりで3B開発陣は広告料と多量の無料券を手に入れた。
さらにいくつかの店と提携して各地にショップが設置されたのだ。
基地を建てるのにどうしてもショップが邪魔で排除したがやはりすぐ近くにそのショップがほしいという場合や、基地内や艦内にショップを入れたいとの要望から、このアイテムが配布されるようになった。
MODではさらに店舗の種類が増えて、アニメショップやゲームショップすらあったりする。
ショッピングモールを造っている動画も見たことあったけど、あれは完成度が高かったなあ。わざわざゾンビ多発地帯に作っていて。
ショップの商品は品切れをすることもあるが、プレイヤーがなにもしなくてもいつの間にか補充される。
この世界でもちゃんと補充されるのだろうか?
まあ、今はショップを建てられる状況じゃないので先送りにするしかない。
さっさとクラフトに取り掛かろう。
といっても我が家ではあまり大きな物は作れないので、加工のほとんどをアイテムボックスですることになる。
3Bのプレイヤーキャラは〈空間操作〉スキルによってアイテムボックス内のアイテムを道具も無しに加工や修理することができる。
その工程は“分解”と“合成”の二つ。MODによって“魔力付与”もできるはずだが、そっちはまだやったことがない。
まずは分解を行おう。クラフトウィンドウを開いて、と。
アイテムボックス内に収納した物品は分解を指定することで、クラフトに適した状態へと変換できるのだ。
バードンツリーのブロックがアイテムボックスの一マスにまとめてスタックされているので個数を指定して分解するのだが、慣れている俺は全指定をイメージ。全てのブロックが“素材粉・バードンツリー”へと変換されていく。
うんうん。激ユル設定のせいかこの速度もそんなに遅くないな。
この素材粉を“合成”すれば使いやすい素材となるのだ。
他のゲームに比べて一手間余計にかかっている気もするが、これも製作陣のコダワリなのだろう。小石を集めて巨大な石材にするなどといったゲームにありがちな無茶を説明するための。
だがこれにも利点があって、〈分解〉や〈合成〉のスキルレベルが高ければ金属を溶鉱炉なしにインゴットに加工できるようになったりする。3Bにおける重要な要素なのだ。
よし、全てのバードンツリーのブロックが素材粉になった。〈分解〉のスキルレベルが上がれば一つの種類からでも効率よく複数の素材粉を入手できるようになる。中には“素材粉・水”や“素材粉・油”なんてよくわからんものもあったり。
そしてクラフトウィンドウで、合成先に“棍棒”を指定する。
俺の前には完成予定の棍棒のワイヤーフレームが現れる。色は黄色。この時に必要な素材粉が足りないとやはり赤いワイヤーフレームで表示されて合成はできない。
問題なさそうなので合成開始を念じると、素材粉・バードンツリーが消費され順調に進行状況バーが伸びていってやがて完了した。
「初クラフト成功!」
クラフトウィンドウを閉じると、メッセージウィンドウに情報が追加されている。
おお、さすが激ユル仕様。もうレシピが解放された!
◎◎◎◎◎◎
スキル〈分解〉がアンロックされました
スキル〈合成〉がアンロックされました
クラフトレシピ〈木のナイフ〉がアンロックされました
クラフトレシピ〈木の棒〉がアンロックされました
◎◎◎◎◎◎
木のナイフはペーパーナイフみたいで微妙だが、これから他の武器レシピの解放が進むだろう。
木の棒はMODで追加されたアイテムか。〈棒術〉スキルもあったし。
どんどん作っていこう。と、その前に解放されたスキルをレベルアップするする。
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