66話 バカがゴスロリとやってきた
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生徒たちが特訓をしている間に、塔内部に寝室と大浴場を設置する。
寝室に備え付けられたベッドのシーツはイザベル糸素材によるクラフトなので、寮のよりも肌触りがいい。
さらに大浴場は壁の一面をガラス張りにした大展望風呂にしてみた。
露天風呂も捨てがたかったが塔の外は砂漠。砂で掃除が大変だろうし、砂漠の夜は寒いというので断念した。
昔、社員旅行で雪の中の露天風呂に入ったことがある。風情はあったが、あれは寒くて湯船から出られなくなるものだ。
チュートリアル世界の夜空を堪能できるのは魅力的だが、大浴場のある階の天井を高くしたのでそれなりに開放感はあるからまあいいだろう。
教皇シルヴィアも喜んでくれたのだから。
今日はこっちに泊まるというので、寮に俺の家の表札を取りに戻った際、来客がいるのに気づき出てみるとシルヴィアだった。明日の試合を観戦するために学園都市にきたので、8組寮に顔を出したそうだ。
せっかくなのでチュートリアル世界に誘って連れてきたのだ。
「守護鳥がいるなんてここはもしや聖地でしょうか?」
「どうだろう? 俺もよく知らないのだが」
ボットガルーダはこの拠点を護ってくれているから守護鳥というのも納得できるが、ここが聖地かと聞かれても困る。
簡単にこれる場所ではないから信者も困るだろう。……だからいいのかもしれないが。
◇ ◇ ◇
翌日、朝早く食事を済ませ、寮に戻る。
うわ、また罠に引っかかっているな、しかも何人も。
昨日と同じようにイザベルスパイダーが糸で巻いて捕縛し一纏めにしていく。持ちやすくはなっただろうが、捕まっている方はかなりツラいだろう。知ったことではないが。
シラユリいわく、ほとんどが偽神官のようだ。
『まったく、よほど追い詰められているみたいだね。早めにきてよかったよ。こいつらを置いてくるからお前たちは先に行ってくれ』
「……試合会場に行くまでに待ち伏せされている可能性もあるな。空から行くか」
「空から、ですか? アオイさんが飛べるというのは本当なのですね」
「えっへん」
アオイが胸を張っているが、運ぶのはアオイじゃなくてミレスUFOだろう。
イザベルとシルヴィアにもパラシュートベルトを装着してもらい、輸送用コンテナに搭乗してもらう。パラシュートを講習する時間はないが、念のためだ。
『いいな、そのベルト』
「あとでグレーシャンにもあげるよ。使い方と一緒にね」
『そいつは楽しみだね』
グレーシャンならパラシュートも楽しんでくれそうだ。
捕縛した侵入者の塊を雑にかつぐと、イザベルロボは衛兵に引き渡しに向かっていった。
俺たちはミレスUFOに運んで貰い、試合会場へと向かう。
アオイとアサギリ、それにヒワも護衛として一緒に飛んでいく。
キントリヒのピラミッドはいない。飛べるということを隠すのだ、ということだ。
「地上からの攻撃に備えて感知を有効に使うように」
『はい』
特訓時のレベル上げにより、生徒全員が〈変形〉以外のスキルも入手していた。〈感知〉ももちろんだ。
『もうすぐ会場につきます。地上はなにか騒がしいですけれど……あ、マシンナリィした』
「アオイ、8組だって告げてやれ」
『わかった』
シャイニーブルーがスピーカーからそれを告げると、地上にいたロボも剣を納めた。変身は解いていないが。
あとで知ったが彼女は試合観戦にきた王族の護衛だったそうだ。
シャイニーブルーのビラ捲きを知っていたので、すぐに納得してくれたらしい。宣伝しておいてよかった。
試合会場には陣地というか大きなテントが設営されており、そこが見学場所のようだった。
シラユリの指示に従って着陸し、コンテナから出ると歓声があがった。
かなり観客がいるようだな。会場は学園都市から離れているが馬車できたのだろうか。
……あれはもしかして屋台か?
なにやらお祭りのようだな。
飛行していた生徒たちも着陸して変身を解除し、副学園長のいるテントへと向かう。
生徒たちの制服は悩んだあげく、なぜかゴスロリになってしまった。
試着した生徒が並ぶ光景はまるでどこかの会場みたいである。
「飛んで来るとは思わなかったぞ」
「途中での襲撃が予想された。また寮に何人も襲撃者がきてな」
「生徒たちは無事……のようでよかった。それが君たちの制服か?」
「記憶を頼りに作ったらなぜかこうなってしまった。この試合だけでも許可がもらいたい。無理ならかわりの制服を用意してくれ」
副学園長は笑って許可をくれて、試合のルールを説明してくれた。
事前に聞いていたのとかわりはないが、一応確認もしておく。
「用意してある剣と盾を使うってのはわかった。マシニーズが元から持っている物を使うのは構わないんだよな?」
「うむ。マシンナリィ時に最初から持っている物を使う分には反則ではない」
よし。これであとから文句が出ても問題はあるまい。
ドメーロが離れた場所からずっとこっちを睨んでいるが無視だ、無視。
「学園長はこないのか?」
「あの方はあまり目立つのは好きではなくてな。別の場所から観戦しておるよ」
まだ学園長には会ったことがないが、8組の状況を放置していたぐらいだし不安でもある。ドメーロ派でないことを祈るしかない。
◇
試合で戦うのはマシニーズとパートナーのみ。
変身が解除されるかギブアップした方が負けとなる。
剣と盾は用意された物を使用し、使わなくてもいい。
魔法や必殺技の使用も可。変身解除後の攻撃は禁止。
副学園長がルールを説明している。出場者というよりは観客に向けたものだろう。
マイクも無しなのにでかい声だ。
副学園長の後ろで整列しているドメーロがニヤニヤしながら挑発してきたので、適当に返しておく。この観客の前で恥をかかせてやるとでも思っているのかね。
だが神魔の校しゃで恥と言ったら……いや、今の俺は8組教師だった。あんまり過激なことは言わないようにしなくては。
1組の生徒たちも美少女ばかりだな。だが8組の子たちの方が可愛いと思ってしまうのは贔屓目だろうか。
係の生徒が第一試合の出場者は移動せよというので、俺とシンクレーン、イザベルが指定の場所に移動した。
そこには対戦相手の生徒とドメーロが待ち構えている。
1組生徒とシンクレーンはさらに移動して変身した。
「ふん、ルール以前のことも知らんのか、戦うのは生徒のみである。それともまさかその出来損ないがパートナーだとでも言うのかね?」
「私はあなたと同じく応援と、あと準備のためにきたのですわ。マシンナリィ!」
クモ型ロボに変身したイザベルは用意されていたロボサイズの剣まで移動するとそれを持ってシンクレーン消防車へと運ぶ。
「イザベルは戦わないから安心しろ。剣を固定しているだけだ。それともまさか、8組は剣を使うのも禁止だとでも言うのではあるまい?」
「ふん、出来損ないは一人では剣も持てないのはわかっておる。それぐらいは大目に見てやろう」
偉そうに許可を出してしまったドメーロ。もちろんこれも事前に副学園長に確認しているので、こいつが文句を言っても無駄なのだが。
シンクレーンが変形すれば剣や盾が普通に使える。
だが、対戦相手が1年でしかもパートナーなしだと知ったため、急遽作戦変更となった。「ずいぶんとオレをなめてくれるじゃねえか」と。
「で、あの子のパートナーはまさか偽神官ではないだろうな。いくらなんでも可哀想すぎる」
「出来損ない相手にパートナー持ちを出す必要はあるまい。そっちこそパートナーがおらんではないか!」
俺を指差すドメーロ。また出来損ないと言ったな。
絶対に許すまじ!
「シンクレーン、そっちはどうだ?」
『ああ、さすがイザベルだ、がっちりとくっつけてくれたよ』
護符から返ってきた返事にギョッとした表情のドメーロ。
これも予想していなかったようだな。
「き、貴様、出来損ない勇者のパートナーではなかったのか!」
「答える義理はないな」
俺を差した指がぷるぷるぷるぷる震えている。
おいおい、この程度で驚いてちゃこの先もたないのだが。
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