62話 贈り物
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試合の日まで今日を入れてあと二日。
心配で腹が痛いせいか、久しぶりにお通じが悪かった。ぶっちゃけ、血便。
それとも一昨日の飲酒のせいだろうか?
ぽんぽん痛い。
悩みの一つである下着はチャットで聞いたら、逆に俺の好みを聞かれてしまい困った。
だからそんなに詳しくないのだというに。
インターネットの通販サイトで調べてもいいが、フリートの仲間に見られていると思うとやりたくない。
ただでさえ生徒たちの生肌に刺激されている俺がそんな画像を見て、心穏やかでいられるかというワケだ。
まあその悩みは特訓に出発する直前、寮に届いた物により解消した。
本当は昨日のうちに届けたかったらしいが、ずっと留守だったから今日になったとのこと。昨日は帰りが遅かったからなあ。
「送り主はクリム・パイプルーンだそうだ」
「クリムから? 中身は?」
「これだ。呪いや毒を調べてみてもらえるか? あいつがそんなことをするとは思えないが、ドメーロの奴らが名を騙る可能性もある」
なるほど、と鑑定しようと送られた物を見て俺の動きが止まる。
ええと、これはもしかして……。
「下着か? しかも女物の」
「そうだ。けっこう高そうなやつばかりだね」
そういえば一昨日クリムに会った時にそんなことを言ってたような。
あれって本気だったのか。挑発かと思っていたんだが。
だがまだクリム以外から届いた疑いは残っている。鑑定はしなくてはいけない。
……真剣な顔で女性物の下着を見る男というのはどうなんだろう?
かといってニヤケた顔でというのはもっとマズそうだ。できるだけ無表情になるように室内でもマスクをして鑑定を行う。
凄いな。
ファンタジー世界なのに下着は現代風なのか。チャックは無かったみたいなのに。
「特に異常はないようだ。こっちの下着はみんなこんななのか?」
「まさか。こりゃドワーフ製のかなりの高級品ばかりだね。貴族や大商人でもなけりゃここまでのは使えないね」
「なるほど。ドワーフ製なのか」
初遭遇ドワーフ作品が武器防具じゃなくて下着とは!
ドワーフはこんな下着を使うのが普通だというのか。
まだドワーフは見ていないんだが、8組の生徒たちが帰りを待ちわびてている試練に挑んだという子はどんなだろう。
試合が無事におわったら生徒たちも捜索に行きたがるかもしれない。試練がチュートリアル世界に行ったとしても、世界座標がわかれば行けるのだが。
「ずいぶんとアダルトな下着っすねえ。シンクレーンさんに似合いそうっす!」
「こ、これは刺激的です」
「クリムのやつ、なに考えてんだか」
「試合で君たちを倒して変身解除させた時に恥ずかしくないように、とのことらしい」
こっちの方が恥ずかしいような気もするのだが、年頃の娘さんはわからんな。
まあデザインの参考にはなるのでいくつか似たようなのをクラフトしておこう。
渡す時に俺が作ったというのも恥ずかしいので、匿名の贈り物とでもすればいいだろう。
◇
出発前に水を差された感じになったが、クリムの挑発によって逆に生徒たちもやる気になったようだ。
「コズミと相談した結果、今日はまずレベル上げを行うことにする」
「できるだけマシンナリィしたままで過ごすのでは?」
「そうだね。ここの次元門はマシンナリィしたままだと使えない大きさだけど、この砂漠には大物もいるらしいから、そいつらを倒すよ」
「危険な相手だから気を引き締めていこう」
塔の周辺はボットガルーダのナワバリなのかモンスターが湧かない。だから少し離れる必要があるが、マシニーズ状態なら移動もすぐだ。
走るのも訓練になるということでランニングしながら塔から離れる。
今回は俺もシャイニーブルーに搭乗している。生徒たちの命が危険な場合に備えてだ。
イザベルも変身して一緒にいるので、さらに安心だ。グレーシャンによればイザベルスパイダーは特殊なマシニーズの中では強い方らしい。
「この辺りから出てくるから注意するように。特に砂の中から出てくるやつはやっかいだからな」
『誘き寄せよう。コズミと私ならすぐに見つけられる』
アオイならできるか?
戦闘機形態にならずとも飛行できるし、戦闘になっても一機で対処可能だ。
「グレーシャン、イザベルを頼む。周辺を少し偵察してくる。いいのがいたら誘き寄せる」
『わかったよ。まかせな』
『経験値の元よろしくね。それまで変形の練習しとくわ』
イザベルスパイダーが変形を試みてギシギシガキガキと怖い音を立てている。
既にいくつかの変形のための動きを見つけたようだ。
「行ってくる。モンスターが出たらすぐに連絡してくれ。イザベルはあまり無理はしないように」
『はいはい。いってらっしゃい。あんたたちもイザベルの恥ずかしい姿ばっか見てないで、ちゃんと周囲を警戒すんのよ』
『恥ずかしいってのはなによ!』
あれは恥ずかしいというよりも怖い、なのだが。
クモが中途半端に形を変えながらビクンビクンしているのは生徒たちのトラウマにならなければいいのだが。
あの子たちのためにもすぐにモンスターを見つけなくては。
あまり皆と離れないように注意しながらしばらく飛んでいると、〈感知〉スキルに反応があった。
アオイもわかったようで、そちらへと方向を変える。すぐに見えてきたのは数体、いや数羽の大きな鳥が走っている姿だった。テラーバードの砂漠種だ。
『デザートテラーバード……小さい。他を探そう』
「いや、こいつらじゃマシニーズの訓練にもならないが、まだいる」
『あ……さすがコズミ』
テラーバードの後方の砂が動いたかと思うと、そこから巨大な生物が姿を現した。
4、50メートルはある巨大ミミズ、デザートビッグワームだ。普通のミミズと違い、まるで岩のような皮膚をもつその姿はあのモンスター育成ゲームのキャラクターに似ていなくも無い。あれよりはるかに巨大ではあるが。
デザートビッグワームは砂中よりも陸上に上がった方が動きが速いようだ。見る見るテラーバードとの距離が縮まっていく。
『コズミどうする?』
「みんなのところへ引っ張っていこう。あのテラーバードを捕まえられるか?」
『やってみる』
人型で飛行したままテラーバードの一羽に上から近づくシャイニブルー。その頭を掴むと高度を上げていく。
「そのまま行けそうか?」
『うん。ついてくるかな?』
「駄目ならまた考えればいい」
時間がないんでこれで上手くいってくれればいいが。
焦っているのは顔に出さないようにアオイに告げる。操縦席の全面スクリーンにはバラバラに逃げ出したテラーバードが映っていた。
さて、デザートビッグワームはこっちを狙ってくれるかどうか……。
◇
「これは予想外だった」
俺たちは大型モンスターを釣り出すのに成功した。
ただし、一匹ではなかったが。
シャイニーブルーが捕まえた以外のテラーバードは追っていたデザートビッグワームからは逃げることはできたが、別のデザートビッグワームが現れてあっという間に食われてしまった。
そいつらは食い足りないのかこっちまで狙ってきて、現在シャイニーブルーは四匹のデザートビッグワームに追われている。
「少し減らしておくか?」
『これぐらいなら私とグレーシャンだけでも余裕』
本当か?
まあこいつとは戦ったことがあるからアオイもそう判断したのだろうが。
いざとなったらあの必殺技を使わせればなんとかなるのは確かか。
「グレーシャン聞こえているか? これからデザートビッグワームを四匹連れて行く。大丈夫か?」
『待ってたよ、言ってた大ミミズだね。問題ないから早くきてくれ』
「了解。大きいからビビんないでくれよ」
『そいつは楽しみだね。イザベル、もういい加減戻りな』
『ちょ、ちょっと待って』
本当に大丈夫なんだろうか?
◇ ◇
『ウォーターショット!』
消防車ロボの放水攻撃に慌てて逃げようとするデザートビッグワー
ム。どうやら水は苦手らしい。砂中に逃げようとするも上手く潜ることができない。
『っすラッシュ!』
いつもの口癖でおかしな風に聞こえてしまうダンプロボの必殺技が砂大ミミズの固い表皮を削り、内側にまでダメージを与える。
迸る体液。ううむ、これ見た目が岩っぽくて逆に助かっているよな。普通のミミズがそのまま巨大化してたらかなりグロい絵面になってそうだ。
「ヒワ、危ない!」
『え?』
デザートビッグワームの一匹が口から何かを飛ばしたのだ。これは初めて見る攻撃だが、石礫か?
その前に立ち塞がるのはブレードシールドを構えたブルドーザーロボ。
『このぐらい!』
「ヒワ、クルミダを抱えて飛べ! 急げ! お前なら飛べる!」
石礫を吐いたデザートビッグワームが猛進している。この砂の足場ではクルミダが受けきれるか怪しい。
鳥ロボがクルミダを掴まえて上空に逃げると、デザートビッグワームがそこへ襲いかかってくる。間一髪だった。
『クルミダ、盾に頼りすぎるな! 盾がどんなに強くても、あんたがもたない攻撃ってのはあるんだ!』
『は、はい!』
クルミダの自前の盾はかなり硬い。だが、それだけではいけないと指摘しながらグレーシャンが他のデザートビッグワームを牽制している。
デザートビッグワームは目がないのだが、グレーシャンロボのプレッシャーは感じているようだ。
「ヒワ、よくやった。お前のおかげで二人とも助かった」
『わ、わたし……飛んでる?』
『不覚……助けるつもりが助けられてしまうとは。ヒワ、ありがとうです』
ヒワたちを襲ったデザートビッグワームは空振りのあと、そのまま砂に潜ろうとしたのをイザベルスパイダーの糸によって動きを封じられ、潜ることもできずに他の生徒のスラッシュの餌食となっていた。
凄いなイザベル、もう糸を使いこなしているのか。
多少の苦戦はあったようだが、デザートビッグワームは無事に討伐された。
あ、テラーバードはまだ生きているけどどうしようかな?
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