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61話 ご褒美

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 グレーシャンの稽古は彼女の圧倒的な強さを見せて終わった。

 賢者、聖女も強いのはわかったが、それでも経験を積んだマシニーズには勝てないのか。

 これは試合に勝つというのは簡単にはいかないかもしれない。

 むこうはこちらの手の内を知らないが、それだけでは不十分だ。

 生徒一人一人に気になったことを指南していくグレーシャン。ごっちゃにならずによく全員に教えられるのはさすが元将軍である。


「あたしが注意したとこをよく覚えておけよ」


「はいっ!」


 白ジャージ姿の生徒たちがキラキラした目でグレーシャンを見ている。

 まるで憧れのメダリストを前にしたスポーツ少女みたいだ。


「今日はできるだけ人型、ってのに慣れるためにできる限りずっとマシンナリィしているように」


「長時間のマシンナリィはあまりしないようにと、教科書にはありましたが」


「あっちに慣れすぎると生身の時に違和感を感じるようになるからね。熟練の機神巫女(マシニーズ)はその辺の切り替えも上手い。だけど時間がないからそんなことを言っている場合じゃないだろう?」


 巨大になった状態に慣れるってどんな感じだろう。眼鏡をしてるのが当たり前になるってようなことなんだろうか?

 一般生活に支障をきたすのはできれば避けたいが、しかし時間がないというのもたしかだ。ここは勝つために目を瞑るしかない……。


「もちろんだぜ! 試合に勝つためならそれぐらいやらねえとな!」


「無理するのはよくないけど、今回ばかりは無理をとおす時なのだ。キンちゃんもやるのだ!」


「なんだか楽しそうです」


「そう思えるのはアサギリぐらいですよぅ。でも、やるしかないんですよね……」


 弱気なミレスまでもそう言っている。生徒たちもみんなやる気のようだ。

 ここは応援するべきだろう。

 俺が指導するようなことも思いつかないし。


「がんばってくれ。俺もできる限りサポートする」


「コズミはイザベルと一緒に食事の用意を頼む。みんなかなり食うからね。あとは……」


 なにか思いついたのか、ニヤリと微笑むグレーシャン。

 なんだろう?

 酒を出せと言われても困るが。

 ……特訓を任せちゃって手があくなら酒樽クラフトしてビールを……麦がないと駄目か。


「そうだな。お前たち、コズミになにかしてもらいたいことあるか?」


「コズミに?」


「そうだ。試合に勝ったやつはコズミにお願いを聞いてもらうことにしよう」


「はい?」


 なんだそりゃ。俺がお願い聞くなんて言われても生徒は困るだろうに。

 だいたい、なにかがほしいってクラフトなら喜んでするのだが。


「そんなことを言われても生徒たちはやる気出ないだろ」


「そうか?」


「ううん。それならもっと頑張れる」


 アオイのこの嬉しそうな顔を見たら嫌と言うわけにはいかないか。

 だがアオイはほっといても勝てそうだし、アオイ以外は喜びそうにないと思うのだ。


「それってどんなお願いでもですか?」


「……できることなら。あまり無茶な要求は無理だ」


「わかりました」


 わかったって、なにがかなシラユリ。

 なにを要求されれるのか、ちょっと怖い。

 聖女だから寮に宗教的なオブジェクトの増加だろうか。


「よしっ! 全員わかったな。厳しくいくぞ。三日間でお前たちを一端(いっぱし)機神巫女(マシニーズ)にしてやる」


「はい!!」


 さっきよりも返事に力が入っている気がする。

 あと三日ということで危機感を覚えたのかな。

 せめてもう少し時間がほしい。このチュートリアル世界が時間の流れが違うなんてことがあればいいのに。



 ◇ ◇



 乱取りとでもいうのだろうか、人型マシニーズになった生徒たちが一対一で戦い、一定時間が経つとペアを変えるという訓練が続いた。

 時々グレーシャンが指導したり戦ったりしている。


 生徒たちも本気でやっているのか、変身解除される者も出てくるのでジャージの修復と追加を行う。

 何度か変身解除されると、どれぐらいのダメージでそうなるか生徒たちも体感でわかったようで、変身解除される前にギブアップするようになった。


 ダメージを受けた生徒は変身を解いて回復魔法を受けてから再度変身を行い、すぐに特訓を再開するハードさだ。

 服が破けるだけで傷は受けないが、体力は奪われているらしい。

 ダメージを受けた子に使おうとすることで俺も回復魔法のスキルを解放(アンロック)することができた。すぐにスキルポイントを使ってスキルレベルを10まで上げたので効果も高いようだ。


 特訓は日が落ちてからも続いた。

 食事の準備がなければナイター設備をクラフトしたところだ。

 イザベルは恋人が料理人らしく、たまに店を手伝うこともあるとかで〈料理〉スキル持ちだった。安心して包丁を任せられる。

 料理中に恋人の料理はどうだとか、この肉を恋人に使わせてみたいとか、すぐに惚気られるのにはまいったが。


「よし、いったん休憩だ。飯食ったら座学だ。教科書にはない戦い方を教えてやる。コズミもパートナーとして戦術は覚えておけよ」


「はい……」


 生徒たちはみんなフラフラで疲れた顔をしていた。食後は眠りそうで心配な。

 なけなしのコーヒーでも出してあげるか。慣れていないなら効くだろう。


 こんなに疲れていて食欲があるのか心配になったが、若さのおかげか、グレーシャンの予告どおりに旺盛な食欲を見せる生徒たち。

 昨日の倍以上の唐揚げもあっという間になくなってしまった。揚げ物は熱かったが頑張ったかいがあったというものだ。


「コズミ先生、この黒いのは?」


「コーヒーだ。お茶の一種だな。苦いが眠気覚ましの効果がある」


「苦い……」


「ストレートが無理ならこの粉と砂糖を入れて飲むといい」


 ミルクと砂糖をテーブルに出す。……みんなけっこう入れるのね。

 砂糖は高級品らしいからなあ。

 クラフトできる植物も探したい。サトウキビか甜菜があればいいのだが。


「美味しいです」


「甘くておいしい」


 ……それはほとんど砂糖の味じゃないだろうか。

 まあ、疲れた身体には甘いものも必要か。

 デザートも用意してあげないとな。


 アイテムボックスにはテラーバードの大きな卵もいくつかあるので、砂糖があるうちにプリンを作ってみるのもいいかもしれない。あ、牛乳が必要か。

 そうなるとできるのは茶碗蒸し? 銀杏がほしいところだ。


 食後は座学。

 マシニーズ同士の基本的な戦い方や、実戦における陥りがちなミスなどをグレーシャンが解説する。

 イザベルも特殊形態時の対人型マシニーズとの戦い方を教えてくれた。やはり注意すべきは魔法と必殺技か。


 生徒たちはみんな眠そうだが必死にノートを取っていた。

 俺も眠いが寝るわけにはいかない。

 というかグレーシャンの体力凄いな。二人のコーチ代も副学園長に相談しなければいけないだろう。

 出してくれないようなら、俺がなんとかせねばなるまい。



読んでいただきありがとうございます

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