58話 イザベル出します
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結局、酒の追加は我慢したが、久しぶりの飲酒のおかげかいつもよりも遅い時間に目が覚めた。
頭がはっきりしてきたらドキドキしながらメッセージウィンドウを開きログを確認する。
夜中に侵入者がトラップにかかっていればメッセージが残っているはずだ。
……無しか。
トラップは作動しただけでもメッセージが出るように設定してあるから、それも無いと。
さすがにいきなり新しい寮への攻撃はなかったか。ビラのおかげでなにかあったら疑われるとドメーロも判断したのかもしれない。
二日酔いというほどでもないが食欲もなかったので軽く済ませて、特訓開始。
昨日のうちに試合の日まで学園の校舎には顔を出さないことを副学園長に了承してもらってあるので、チュートリアル世界へ直行直帰で問題はない。
グレーシャンの「破れてもいい服で」という指示で生徒たちはいつも以上にボロボロの衣装である。
マシニーズは大ダメージを受けると変身が解除され、その際に服も破けるとのことなのでその対策だろう。
……コーチの二人は大ダメージを与える実戦的な訓練をするつもりだろうか。酒が入る前に訓練内容を聞いておかなかったのは失敗だったな。
こういう時のために訓練用の運動服をクラフトしたいが素材が足りない。
今日は特訓をグレーシャンとイザベルに任せて、俺はアオイと素材集めを行おうか。
だが、アオイにも対マシニーズ戦の知識は必要だろうし、どうするか迷う。
地下室からチュートリアル世界へ移動すると、グレーシャンとイザベルがボットガルーダに戦いを仕掛けようとしたので慌てて止めた。
「あれは味方だ」
「そ、そうだったね」
あの巨体を見れば驚くのはわかるが、慣れれば可愛いやつだぞ。
まだ警戒が解けないようなので、意識を別のものに向けることにする。
「みんな、さっそくやるぞ。いけるか?」
「もちろんだぜ!」
「まかせてください」
気合いののった声が生徒たちから返ってくる。彼女たちは大きく間隔を開けて並び、一斉に変身する。
「マシンナリィ!」
8組全員、十二機のマシニーズが勢揃いする姿は壮観だった。
このメンバーが似合う基地はどのようなものがいいだろうか?
滑走路はなくてもいいけど、やっぱりほしい。車両組も駐車場ではなく格納庫がいるだろう。ピラミッドは基地のオブジェとして普段は建物と一体化というのも捨てがたいな。
「8組、変形開始」
『了解』
俺の護符から全機の返事が聞こえる。この人数が同時でもちゃんと通信できているな。
通信時は彼女たちに対応した色の歯車の光が強くなるので、誰が話しているかがわかりやすくなっている。
ギゴガゴと変形していくマシニーズ。やはりアオイが一番早く、変形がシンプルなキントリヒが続く。
うん。〈変形〉スキルのおかげで全機が完全に変形できている。かかった時間も短い。
これで〈変形〉スキルのレベルが上がればもっと速く変形できるようになるはず……それだけではなく、新たな変形や中間形態ができるようになると俺は予想している。
初めてマシニーズの変形を見た二人の衝撃は大きかったようで、ボットガルーダへの警戒もどこかへ吹っ飛んでくれたようだ。
「コズミ、これがみんなあんたの、伝説のスウィートハートの力なのかい?」
「俺じゃ無い、マシニーズの本来の能力だ。出来損ないと不名誉な呼ばれ方をしているマシニーズは可変型ってことだ」
「じゃ、じゃあ私も普通の機神巫女になれるの?」
がしっと俺の両肩を掴んで問うイザベル。その目は血走っていて肩を握る手にも力がこもっている。
痛い。これ、もしかして折れてしまうのではないか?
「そうだ。だから落ち着いてくれ。俺の骨が折れる」
『コズミ? コズミを離して!』
シャイニーブルーの手がこっちに伸びてきたが、それに捕まる前にイザベルは手を離してくれた。
「ご、ごめんなさい。私、私……」
「君たちがどれほどまでに人型を渇望しているかは理解しているつもりだ。気にするな」
「わかっているじゃないか、コズミ」
グレーシャンにバンっと背中を叩かれた。だから痛いっての!
背骨が折れたらどうするんだ。
『でもコズミ先生、恋人がいるイザベルにアレはちょっと駄目な気がする』
『ああ、あれはマズイよなあ』
「アレ?」
『コズミが乗って目覚めさせる』
さすがに恋人がいる女性の敏感な操縦桿を触るのは俺だって躊躇する。
俺もその気ではないのに浮気扱いされるのは可哀想だし、恋人に恨まれるのは嫌だ。
「の、乗って!?」
「それは最終手段だ。俺がいなくなっても可変型のマシニーズが変形を覚えられるようにならないと意味がないから」
「コズミあんた、あの子たちに乗ったって言うのかい?」
「ああ。見た方が早いだろう。アオイ」
マシニーズに乗れるなんてのは知られてないようだから、説明するのは実践するのが一番だろう。
シャイニーブルーから発せられた光の円盤によって、俺は操縦席に移動する。
「これがマシニーズのもう一つの能力だ。パートナーが操縦することによって真の力を発揮する」
アオイに頼んで俺の声をスピーカーで外に運んでもらう。
これなら二人も俺の声が聞こえる……って、むこうの声が聞こえにくいじゃないか。
失敗した。
すぐに降りて、会話を続ける。
生徒たちもいったん変身を解除してもらい集合した。
「8組の生徒たちは今のように俺が中に入り、操縦することで変形を覚えた。だけどイザベルはそうするワケにもいかないだろう?」
「え、ええ……」
「イザベルも変形できるのは確実だと思う。生徒たちは時間がないのもあって俺が操縦したが、イザベルはゆっくり変形を覚えればいい」
「ほ、本当に私も変形、ってのができるようになるの?」
大丈夫だ。8組の生徒は全員変形できた。
絶対とは言えないかもしれないが、マキにゃんのことだからきっとできるようにしているはず。
もし変形できないようなら改造すれば……できないかな?
「変形できるかどうか確認するためにマシンナリィしてくれればある程度はわかる。あ、だがその前に護符が登録できるか試させてくれ」
「登録?」
「みんなも登録した方がいいだろう」
「そうですね。やってみましょう」
俺と生徒たちのアップデートされた護符にそうでない二人の護符を登録することは簡単にできた。これで通信も可能だ。
俺の護符に歯車は増えていないので、パートナーにもなっていないので問題はない。
……マシニーズの指導や連絡って普通はどうやっているんだ?
パートナーの護符を通してしか会話ができないのでは不便だと思うのだが。
「こんな機能が機神の護符にあるなんて」
「なんか女神がアップデートしたらしいから、他の護符でできるかは不明だ」
「そうなのか?」
「それよりも、私が変形できるか早く確認して。マシンナリィ!」
俺の返事を待たずにイザベルが変身してしまう。
色はクリーム色、8つの目と脚を持つその姿。
「シャーーーーーーーーーーーーッ! キターーーー!」
そう。イザベルはクモのマシニーズだった。リアルなクモではなくSFテイストのクモロボである。
8組生徒にはいなかった虫型のマシニーズである。テンションが上げるのも当然だろう。
「ど、どうした、コズミ?」
「……なんでもない。パーツの分割線から見ても、イザベルは変形できるだろう」
『本当なの?』
「本当だ。変形の感覚はあとで生徒たちに聞いてくれ。それを参考にして練習してレベルアップすれば変形スキルを入手できるはずだ」
護符からはイザベルの押し殺した嗚咽が聞こえてくる。
やはり彼女も泣いてしまったか。ここは聞こえないふりをする方がいいだろう。
泣いている女性に胸を貸すのは恋人の役目だと思う。
しばらく待ってイザベルが落ち着いてきたので質問する。
さっき俺のテンションが上がったのには理由がある。
「イザベル、君は糸を出せないか?」
『え? いくらクモに見えるからって、そんなことはできないわ』
「試してみてくれないか? 変形同様に俺の見立てでは出来るはずなんだ」
腹部先のあの形状、糸が出なければビームか銃弾が出てもおかしくはない。
だが武器とするなら多脚戦車として背中に砲台を載せたい。俺ならばそうする。
『そう言われても……出た!?』
「出来損ないだと言われている君たちの形態にも実は意味がある。女神はただ形を似せただけじゃない。その能力まで与えているんだ」
『意味がある……でも、糸を出すなんて役に立つとは……』
「なにを言っている! 戦闘にも役に立つだろうし、その糸こそ今の俺が必要な素材なんだ」
マシニーズの出すクモ糸なんて役立つ素材以外のなにものでもないではないか!
これを使えば、生徒たちの服がクラフトできる。制服や練習着が!
『こ、こんなのがほしいの? 私の身体から出たものなのに? どうかしてるわ』
「クモの糸というのはかなり凄い頑丈な糸なんだ。クラフトの素材として非常にほしい。MP消費で生成される物だったら、譲ってくれないか?」
『私……このクモの姿がとても嫌いだった。他の出来損ないと比べても嫌われやすいこの姿が。そのクモの糸が欲しいなんて言ってくれるなら断れないわね』
やった!
これはもう、俺にクラフトしろということだろう。
さすがマキにゃんである。
「おいおいイザベル、浮気はすんなよ」
『そ、そんなんじゃないわよっ!』
「ホントかねぇ」
「なんで糸をくれるというだけで浮気になると? イザベルの気が変わりそうなことを言うのはやめなさい」
たしかにさっきイザベルが言ったように女性の身体から出る分泌物を頂くというのは考えようによっちゃ変態じみた気もするが……。
そんなつもりは全くないので勘違いしないでもらいたい!
サモピンで検索したらクモが引っかかったので(クモだけに)
イザベルはクモ型なのです
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