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56話 ベストカップル

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 女神の天罰を恐れる人たちからの謝罪の品がかなり集まってしまった。


「これ、やっぱ神殿に渡した方がいいんじゃねえか?」


「やめてください。あっちはただでさえ人手が少なくなってて大変なんです。これ以上手間を増やさないでください」


「そう言われても、こんなに貰ってしまってはなにか裏があるんじゃないかと落ち着かないんです」


 今までの不幸や苦労に慣れてしまったのか、謝罪の品の山に困惑する少女たち。

 俺もこれは予想できなかった。ドメーロ派に流していたお布施をこっちに回しているだけなのかもしれないが。


「受け取らないというのは?」


「断ったよ。そしたら、お赦しください、お赦しくださいって泣いて、動いてくれなかった。こっちが勘弁してもらいたいぐらい」


「取りあえず、謝罪した人とお詫びの品のリストを作っておいて、どうするかは後で考えよう」


「それなんですが……いつの間にか置かれていた物もいくつかあって、誰からの物なのかわかりません」


 マジで勘弁してほしい。

 今は試合に集中させてやりたいのに!


「これまでは、こんな贈り物なんてなかったのか?」


「いえ、たまに善意の寄付を匿名で頂くことはありました。……だいたいは出来損ないの関係者と表立って名乗れない、でも支援したいという家族からの物でしたから悩むことなく頂いていたのです」


「そんな時は誰から貰ったかわかるっす。どっちもそれを明らかにはできないっすけど」


「わかっている方は食べ物や衣類が多くて嬉しかったです。……貴族の家から誕生日などでお花がくることがあったのですが、そっちは……娘の状況がよくわかってないのだと思われてしまうようで不評です」


 むう。女の子に花を贈っても、駄目な時もあるのか。

 名前を出せない家族からの贈り物というのも悲しい。

 これからは家族のままでいられるように可変型の子たちの差別をなくしてあげたい。


「お野菜や果物は傷んでしまう前に食べてしまいましょう」


「そうだな。毒や呪いもないみたいだし」


 鑑定しても普通の食品だったので、いただくことにしよう。

 俺のアイテムボックスなら傷まないが、そこまでする必要はない気がする。



 ◇ ◇



「スゴーい、ごちそうだ!」


「コーチがきてくれたお祝いと、明日からの猛特訓に備えて栄養つけておかないといけないからな」


「コズミ先生とアオイも手伝ってくれたんですよ」


「えっへん」


 俺が作ったのは唐揚げぐらいだけどな。

 テラーバードの皮を加熱するとかなり油が出るから、それを使っての唐揚げだ。

 植物油に比べたらちょっと身体にはよくないかもしれないが、その植物油がないので仕方がない。

 3Bでは植物油は特定の植物を調合作業台でクラフトすればできる。オリーブかエゴマか亜麻があれば健康に良さそうな油ができるはず。早くクラフトしておきたい。


「うまっ!? なにこれ!」


「コズミと私が作ったカラアゲ。みんなが獲ったお肉で作った」


「あんなに油をたくさん使う料理は初めて見ました。さすがコズミ先生です」


 こっちじゃ揚げ物はそうないらしい。

 胃にもたれるし、健康のためにもそうたくさん食べれるわけではないが、少しは食べたい。

 俺だけではなく、生徒たちにも評判が良さそうだ。

 食用油のクラフトを急ごう。


「こんなに美味しいのは初めてなのだ!」


「ワカナの料理もおいしいけど、これは別格すぎる」


「食の革命です」


 見る見る唐揚げがなくなっていく。三十人前ぐらい作ったはずなんだが。

 これほどまでに揚げ物を作ったのは初めてで量が読めなかった。

 育ち盛りの食欲を侮っていたわけではないが、揚げ物って疲れるのだ。料理中の熱さが俺にはツラい。


「これなら店出せるよ」


「うん。サモピンにも教えたい」


 コーチに就任した二人も満足してくれたようだ。

 やはり唐揚げは無敵だな。

 残念なのはレモンがないことだが。


「これは酒がほしくなるね」


「酒か。……試合に勝利した時の祝杯用にとっておきたかったんだが、まあいいか」


「あるのか?」


「量はない。ちょっとだけだぞ」


 祝杯用のを残しておけばいいだろう。

 こんな美味い唐揚げで飲まないなんて考えられない。

 ちょっと待っててくれと言い残して自宅へと帰った。


 うん。缶ビールとハイボールがまだあった。

 アオイと二人の時は全く手をつけていなかったからな。酔って手を出すことはないと思うが、絶対とは言い切れないし。

 箱で買って配送してもらっていたけど、もう数本しか残っていない。もっと買っておけばよかったか。

 幸いにも冷蔵庫に冷えているのがいたのでそれを持って食堂へ戻る。


「悪いがこれだけだ」


「なんだよ、先生たちだけかよ」


「未成年者に飲ませられるか」


 こっちでの成人が何歳かは知らないがな。

 酒の量があったとしても、面倒そうなんで生徒たちに飲ませたくはない。


「乾杯!」


「ああ。特殊な形状のマシニーズの未来に」


 ビールを注いだ木のコップをカツンと合わせる大人組。

 むう、乾杯の時はなんか言った方がよかったのか。

 飲み会なんて健康上の理由でほとんど出なかったからよくわからん。


「冷えてて美味いな」


「カラアゲにも合う!」


「やはりビール樽もクラフトしなければ!」


 このビールは3Bのビール樽でクラフトしたビールではないので、酔う以外の効果はないようだな。

 だが美味い。やはり唐揚げとビールはベストカップルだ。異論は認める。


 普段は唐揚げをやる時も胸肉がメインなのだが、これはテラーバードのモモ肉。肉汁豊富なこの唐揚げを頬張って、ビールをぐびっと。

 くぅぅぅ。揚げ物作業で汗をかいた体に染み渡るぅ。

 なんで洋館よりも先にビール樽をクラフトしておかなかったのかと後悔するほどの味なのである。醸造樽は材料を入れてもすぐには醸造完了しないからなあ。


「ん? どうしたアサギリ?」


「グレーシャンは美味しい料理に弱いみたいだったから、ちょっと気になって」


「グレーシャンもコズミを狙うの?」


「い、いや、あたしは料理が上手いパートナーがほしいなって」


 ずいっと身を乗り出すアオイに腰が引けるグレーシャン。それでも二人とも唐揚げを刺したフォークを離さないのはさすが姉妹か。

 パートナーの条件もいかにもアオイの姉らしい。


「コズミ先生ならみんなのパートナーだから大丈夫なのだ」


「はい?」


「明日になれば証明できますが本当です。そのおかげで私たちも変われました」


 複数のパートナー持ちってのは珍しいらしいからな。

 仮パートナーなんだから問題はないと思うのだが。


「ふーん。伝説のスウィートハートってのは普通じゃないんだな」


「イザベルも変われますよ」


「は? 何股掛けかは知らないけど、私にまでパートナーになれって言うのか?」


 俺が言ったわけじゃないのに睨まれてしまった。

 マシニーズのパートナーってイコール恋人ってことらしいからなあ。

 恋人がいるイザベルにとって、受け入れられるものでもないのだろう。


「俺は生徒たちの仮パートナーだっての。そう深く考えないでくれ。試合に勝つためにもあって力を貸すだけだから」


「パートナーってのは、そーいうモンじゃねえんだよなあ」


 つまらなそうに髪を弄りながらグレーシャンが続ける。


「パートナーのいないあたしが言っても説得力ないけどさ、信頼しあって初めて機神巫女(マシニーズ)は強くなれるんだよ。何人もとなんておかしいだろ、力を発揮できるとは……」


「それなら大丈夫です。コズミ先生はみんなに色を出すことができています」


「マジかよ。どんだけ気が多いんだ?」


「コズミはスゴイ……浮気者」


 みんながじっと俺を見るので酔いが醒めそう。

 これだけにするつもりだったが、もう少しもぉ少ぉしだけビールを持ってきたくなってしまった。



読んでいただきありがとうございます

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