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54話 来客

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 ビラによる攻撃、いや、注意喚起は予想以上に効果があったらしい。

 シャイニーブルーにつけたのは3Bでも宣伝に使えるアイテムだ。

 アップデートでこのアイテムが導入されたばかりの頃は使い方がよくわからなくて、ミサイル回避用のチャフ発射装置だと誤解したっけ。アイテム名と解説の日本語化は、たまに意味不明なものがあったりするのだ。


『情報収集のために大神殿へ顔を出したのは間違いでした……』


 寮にいる俺の護符(アミュレット)にシラユリからの通信が届く。

 疲れた声だ。

 ビラのせいで大神殿は大混雑の上、大混乱に陥っているらしい。

 このままではヤケになった市民が暴徒化するかもしれないとシラユリもかなり不安になっているようだ。


『市民には、天罰が下ったのは偽神官だけだと説明して落ち着いてもらおうとしているのですが、次から次へと人がやってくるのでキリがありません。その上、本当に回復魔法が使える神官が減っていたのにも参ります。偽神官たちは聖女なんだから自分たちの力を取り戻してくれと私に迫る始末で』


「大丈夫なのか?」


 危険だったら助けにいかないといけないかも知れない。

 人込みからの救出……ミレスでシラユリだけ重力ビームで空中に脱出させるか?


『はい。大司祭様のおかげでなんとか。大神殿のトップである大司祭様はドメーロ派ではなく、力を失うようなことはなかったのです。大司祭様は偽神官を一喝しました。女神を信じられなかったからそうなったのです、神官見習いからやり直しなさい、と』


「まともな司祭がいてよかったなあ」


「けどよ、偽神官は排除すりゃいいのに」


『残念ながら学園都市はドメーロの影響が大きく、無事な司祭、神官が少ないのです。偽神官全てを排除した場合、かなりの人手不足状態となり、立ちいかなくなりますから』


 大神殿がそんな状態では人手を減らすわけにもいかないか。

 ビラが原因だからなんとかしないと。


「まさか、当日にすぐ影響が出るとはな。こんなに女神の天罰を恐れる市民が多いなんて」


「世界を何度も救った女神様なのだ。女神デア・エクス・マキナを信仰する者が多いのは当然なのだ。だからこそ、信仰心が低いと宣伝されてしまった出来損ないは皆にとって許せない存在だったのだ。女神様の天罰を貰ったなんてことになったら、今まで出来損ないにした扱いを今度は自分が受けることになるのだ」


 女神に感謝しているのはわかった。だからといって、8組の生徒たちを差別していたというのはちょっと。

 8組の皆はそのせいで苦労していたのだから。


『コズミ先生、どうにかなりませんか?』


「自分たちを苦しめた、自業自得のやつらを助けようというのか? 天罰に怯えているんだ、無辜(むこ)の民というわけではあるまい」


『それでもです。私たちは誇り高い機神巫女(マシニーズ)ですから』


 シラユリからの通信に反対する声は上がらなかった。

 さすがマキにゃんが選んだ子たちというべきか。いい子たちばかりである。

 それだけにドメーロのような悪党の相手は難しかったのかもしれない。


「わかった。ならば、こんな時こそシラユリの力を使うべきだ」


『私の力?』


「場当たり的な対処だが、救急車形態でサイレンを鳴らし、回転灯を光らせながら大通りを巡回するんだ。今すぐ悔い改めれば女神はお赦しになるでしょう、とでも言いながらな。8組生徒がそう言うのであれば少しは効果があるはずだ」


 マシニーズの車両は大きいが、この学園都市の大通りはマシニーズがパレードすること

もあるとかで道幅が広い。走ることはできるはず。

 救急車に宣伝カーの真似をさせるのはちょっと気が引けるが。

 8組生徒が変な形などではなく特殊な能力を持つ、という宣伝もさらにできるだろう。



 ◇



 シラユリ救急車だけでなく、シンクレーン消防車も大通りを巡回し、音と光で注目を集めてからの説得で、街の混乱はだいぶ治まったようだ。

 だがおかげで今日はほとんど特訓できなかった。

 もう少し考えて行動しないといけないな。


「コズミ、お客さん」


「またお詫びか? それだったら……」


「ううん、1組の生徒」


 大神殿での懺悔や祈りではなく、8組生徒への直接の謝罪で天罰を免れようとする者もいた。新しい8組の寮にお詫びの品を持ってくるのだ。

 だから行動が速いっての。どんだけ天罰が怖いんだか。

 彼らは門のところで震えながら謝罪して、すぐに去っていく。俺はその相手に疲れたので生徒にそれを任せようとしたのだが、別の客らしい。


「1組?」


「うん。どうする? コズミに話があるみたい」


「きちんと呼び鈴を鳴らして、門の外で待っているならば会ってみよう。なんの用か気になる」


 クリムを挑発したことへの抗議だろうか?

 それとも、マシニーズ科主任のドメーロの指示で?

 悩みながら門へと向かう。既にトラップは配置済だ。


機神巫女(マシニーズ)科1組、3年のサベージュです」


 そう名乗った少女は一人で来ていた。

 簡易鑑定での色も敵対カラーでなかったために、寮へと案内する。

 途中で会ったヒワが怯えたようにすぐに去ってしまった。

 アオイの宣伝飛行では一度も攻撃などされなかったと、説得したのだが。


 話は応接間で行う。

 まさか1組の生徒が初めての使用者になるとは思わなかった。

 キョロキョロと部屋を見るサベージュ。


「これをコズミ先生が数日で造ったのですか?」


「そうだ。わざわざそれを聞きにきたのか?」


「いえ……単刀直入に言います。機神巫女(マシニーズ)を飛行させるのを止めさせて下さい!」


 ああ、なるほど。

 ヒワが怯えていた理由がわかった。

 飛行中に攻撃をして、さらに脅しをかけてきたマシニーズが1組にいると言う。彼女のトラウマの原因を作ったのはこいつだったのか。


「断る」


「なぜですか! 危険なんですよ!!」


 テーブルを叩いて抗議するサベージュ。

 お茶が零れるんじゃないかと、ちょっと焦ったじゃないか。


「飛べない者が心配するより、ずっと安全だ」


「そんなことはありません!」


「普通ならマシニーズが空を飛んだのだから喜んだり、自分も飛べるようにしてほしいと言うと思うのだが。サベージュはずいぶんと保守的だな」


 勇者アオイをヒワのように脅しても効果がなさそうだから、担任の俺に飛行中止を求めにきたというわけか。


「……私は空を飛ぶ機神巫女(マシニーズ)を今日よりも前に知っていました」


「ヒワか。やはり彼女を脅したのはサベージュなんだな」


「安全のためです。マシンナリィは大きなダメージを受けると解除されるのは知っているでしょう、空中でマシンナリィ解除となると、命を失いかねない」


 そういう切り口でくるか。

 だが、そんなことはとっくに気づいている。

 その解決策とパラシュートもクラフトし、経験済だ。


「ならばなぜ、ヒワを攻撃した? 殺すつもりだったのか?」


「違います。信じてはもらえないかもしれませんが怪我をしないように低い位置でかする程度に狙いました」


「脅すためにか?」


「警告するためです。……飛びさえしなければ、妹のようになりませんから」


「妹?」


 実はサベージュの妹は、出来損ないだが飛行可能なマシニーズだったという。

 出来損ないが飛んだりしたら、なにを言われるか不安だったので人前では飛ばないようにしていたが、こっそりと隠れるように夜間の飛行を楽しむことが多かったらしい。


「私も妹が飛ぶのを見るのが好きでした。あの日までは」


「あの日?」


「私たちの住む村をワイバーンの群れが襲ったのです。学園への入学前でしたがマシンナリィできた私と妹は懸命に戦い、なんとか村を守り切ることができました。……ですが群れのリーダーと戦っていた妹は空中でマシンナリィが解けてしまい……命こそ繋ぎ留めましたが、もはや歩くことはかないません」


 落下で大怪我してしまったのか。

 それで妹のようにしたくないからヒワを襲ったと?

 なんか無理があるような……。

 だが簡易鑑定の色からすると、俺を騙そうとはしていない気もする。


「大丈夫だ。空中で変身が解除されても無事に着地できるようなアイテムをクラフトし、生徒たちに渡してある」


「そんなアイテムがあるのですか?」


 これぐらいの情報なら公開しても構わないだろう。

 落下死を恐れての手加減なんて、うちの子たちも望まないだろうから。


「疑うのなら試すか?」


「……もしそれが本当なら、なぜコズミ先生はもっと早く……」


 泣かれてしまった。

 しかもタイミング悪くお茶のお代わりのためにワカナが入室してきて。

 ちらりと俺を見てからサベージュを慰め始めてくれたので、タイミングはよかった?



 ◇ ◇



 心境の変化があったのかサベージュはヒワに謝って、それでも「できれば飛んでほしくない」と言い残して帰っていった。

 ヒワは狐につままれたような顔をしているな。

 ううむ。ヒワの飛行が遠のいた気もする。試合に備えての作戦じゃないだろうな?

 あとでサベージュの妹が本当にそんな状況か調べたい。


「コズミ、またお客さん」


「今度はなんだ?」


「私の知り合い。お姉さんみたいな人だからコズミにも会ってほしい」


 家族への紹介?

 まさか外堀を埋めようというのか、アオイ。



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