53話 インタビュー
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今回は三人称です
フロマ学園を中心とする学園都市を前代未聞の衝撃が襲っていた。
都市上空に謎の飛行物体が出現したためだ。
「鳥だ」
「鳥にしては大きい。ドラゴンだ」
「いや、魔大陸の魔王軍の新兵器では?」
人々は空を指差し口々に思ったことを言い合う。
だが、その中で正解にたどり着いた者はほとんどいなかった。
「ありゃ機神巫女だっつの」
「グレーシャン、お前もそう思うか?」
「わかるだろイザベル、あたしらが間違うはずがない」
友人と再会中だったズーラ帝国北軍の元将軍グレーシャンは苦笑する。
その飛行物体、いや、機神巫女から受ける懐かしい感じに。
「だが、あれはどう見ても出来損ないだろう」
「そうだな。普通の機神巫女が飛べないのに、出来損ないが飛んでいる。面白いな」
「面白いってお前、む!」
「近づいてきたな」
グレーシャンの指摘どおりに飛行機神巫女が高度を落としてその青く鋭角的な姿を近づける。
その目的が分からずに慌てて逃げ出す者もいたが、飛行機神巫女から聞こえてきた音にその動きを止める。
街中に響き渡るような大きな声だった。
「騒がせてごめん。こちらは機神巫女科8組2年アオイ。学園の許可により、学園都市上空の飛行と注意喚起を行っている」
機神巫女科8組のアオイといえば、優秀な勇者でありながら出来損ないである有名人だった。
また、暴走勇者としても有名である。
「機神巫女が喋った!?」
「やっぱりアオイか」
自分の感じたものが間違っていなくて微笑むグレーシャンと対照的に、イザベルは驚愕の表情を見せている。
「アオイって、グレーシャンの妹分の勇者だったよな?」
「ああ。試練から戻ってきたってのは本当だったんだな。まさか、ひこう少女になってるとは思わなかった」
「シャレを言ってる場合じゃないだろ」
「他にどうしろって言うんだよ。お、なんか落としているね」
飛行機神巫女のアオイから何かがばら撒かれ、ゆっくりと落ちていく。風に乗って広範囲へと広がっていくそれは、大量の紙であった。
「なんだ? なにを撒いている?」
「あれが注意喚起ってやつか? 拾ってみようぜ」
この日、二人だけではなく学園都市に多くの市民がこの紙を拾い、それを読むのだった。
アオイは都市全域の上空を飛行してビラを撒いたのだから。
白く上質な紙で作られたビラにはこう書かれていた。
+ + + + + +
機神巫女8組の寮が新しくなりました。
しかし、旧8組寮が放火され、再度の犯行も懸念されるため、新8組寮に御用がある方は、門の横に設置された呼び鈴をお使い下さい。
無断での侵入は安全を保障できません。大変危険ですので絶対にしないで下さい。
記者:8組寮が放火って物騒ですね。ドメーロ司祭は天罰が落ちたと仰っていましたが。
?:彼はもう司祭ではありません。マシニーズ科の主任も解任されています。
記者:あなたは?
?:身の安全のために名乗れません。事情通の教会関係者とお呼びください。
記者:身の安全って大げさな。
事情通の教会関係者:8組寮は放火されたのです。8組の生徒の命を狙って。私も命を狙われてもおかしくはないでしょう?
記者:本当に放火なのですか?
事情通の教会関係者:はい。火災があったその数日前にすでに8組の生徒たちは新しい寮へ引っ越しを済ませておりました。無人なのに火が出るなんて、他にありますか?
記者:ドメーロ元司祭の言うように天罰なのでは?
事情通の教会関係者:天罰を落とすほどの存在が、8組生徒たちの引っ越しを知らないはずがありません。
記者:なるほど。もしかして犯人の目星がついているのでは?
事情通の教会関係者:はい。まだ名前は明かせませんが、元司祭とだけ言っておきましょう。
記者:元司祭ですか? 女神教のですよね?
事情通の教会関係者:はい。彼は8組の生徒たちを出来損ないと蔑み、嫌がらせを続けておりました。
記者:8組の生徒は出来損ないでしょう?
事情通の教会関係者:いえ、違います。女神様が力を授けるマシニーズにそんな失敗はありえません。
記者:生徒たちの信仰心が低いから出来損ないになるとドメーロ元司祭はよく言っていましたが?
事情通の教会関係者:女神様がそんな相手に力を授けると本気で思っているのですか?
記者:い、いえ……。
事情通の教会関係者:よろしい。彼女たちは姿こそ普通とは違いますが立派なマシニーズです。素晴らしい力も持っています。
記者:素晴らしい力、ですか?
事情通の教会関係者:はい。勇者アオイは空を飛びます。
記者:それはすごい。勇者アオイと言えば、数日前の勇者召喚が記憶に新しいですね。見事でした。
事情通の教会関係者:あれも、8組の信仰心の高さの証明です。数百年間成功していなかった勇者召喚に成功したのは女神様の助力あってのこそ。
記者:8組には聖女様もいると聞きましたが?
事情通の教会関係者:ええ。あまり知られていないのは、8組に勇者、聖女、賢者がいるということを知られると、8組を憎む元司祭にとって都合が悪いからです。
記者:なぜ元司祭はそんなにまで8組を憎むのですか?
事情通の教会関係者:元司祭は以前は次期教皇と噂されるほどだったのですが、神託により新しい教皇は別の方になったからです。
記者:それが8組とどういう関係があるのでしょうか?
事情通の教会関係者:現教皇シルヴィア様も8組生徒だったのですよ。
記者:そうなのですか? 聞いたことがありませんが。
事情通の教会関係者:元司祭の一派が隠しているからです。
記者:では、元司祭が8組を憎むのは私怨ということですね。
事情通の教会関係者:はい。そのために彼らには天罰が落ちてしまいました。
記者:天罰ですか?
事情通の教会関係者:はい。元司祭の一派は女神様の怒りを買い、奇跡の力を失っています。彼らはもう治療も行えません。
記者:それはもう神官とは呼べないのでは?
事情通の教会関係者:ええ。勇者アオイが異世界で見つけてきた伝説のスウィートハートは、元司祭たちを偽神官と呼んでいます。これほど相応しい呼び方はないかと。
記者:偽神官たちはまだこの学園にいるのですか?
事情通の教会関係者:ええ。残念なことに。女神教の本部から学園教師を解任されたにもかかわらず、引継ぎのためと称して居座っています。
記者:引継ぎ、ですか?
事情通の教会関係者:そんなことは一切しておらず、彼らは今度のマシニーズ科の試合で8組を1組が倒せば、女神様が8組生徒が役に立たないから自分たちを赦して下さるなどと、勝手なことを思っているのです。
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途中からインタビュー形式になるビラを手に取った市民たちはその内容に大きなショックを受ける。
「ドメーロ司祭が解任? 嘘だろ」
「出来損ないじゃないって、信じられるかよ」
「だが、さっきは飛んでいたぞ」
「魔法で幻を見せたんじゃないのか?」
困惑する者が多く、ビラをすぐに信じる者は少なかった。
いや、出来損ないと蔑んでいた8組生徒たちが立派な機神巫女だったなんて信じたくなかった者たちばかりだったのだ。
だがやがて、8組の旧寮が火災にあったこと、新8組寮の工事が8組の機神巫女たちによって驚くべき速さで進んだことを実際に見たという者たちが現れる。
「8組の寮、新しいのは見てないけど古いのは全焼だった。生徒は無事でよかったよ」
「出来損ないが通ったとこは地面があっという間に真っ平らになっちまったんだ」
「すげえでっかい塀ができた。あんなの見たことねえ」
それを聞いて青い顔でビラを見直す市民たち。
さらに混乱は加速していく。
「学園が許可を出したというのは本当らしい。ドメーロも主任ではなくなっていた……」
「そういえば昨日、大神殿で怪我を治療してもらったら、やたらに混んでいたがまさか治療できる神官が少なくなっていたからじゃないのか?」
怖くなって学園に確認を取った者からの報告や大神殿の状態からの憶測により、都市はパニック状態となってしまった。
偽神官だけではなく、8組生徒を出来損ないと差別していた自分たちにも天罰が落ちるのではないかと。
大神殿は女神に許しを請う市民で溢れることとなる。
「やっぱり面白いことになってきたな」
「それどころじゃないだろ。やばくないか、これ?」
「今までがおかしかったんだって。この紙をサモピンが読んだらすぐにイザベルを探すんじゃないか?」
からかうグレーシャンにイザベルは返事をせず、ビラを強く握り締めるだけだった。
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