52話 マイクパフォーマンス
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旧寮の焼け跡を見たが、ここで暮らしていたら生徒に死者が出ていたかもしれない。
背中に嫌な汗が噴き出る。
犯行は深夜に行われたようだし、いくらマシニーズに変身できると言っても無傷ではすまなかっただろう。
「ここまでやるかよ。……わかった、やってやろうじゃないか!」
「コズミ君、血の気が多すぎないかね?」
「いや、俺はいつも貧血気味なんだが」
アオイと会うまでは吐血もしょっちゅうだったぐらいだ。
さっきドメーロを攻撃したのだって、あいつの簡易表示が敵カラーのままだったからというのも大きい。なにをされるかと不安で先制攻撃をしてしまったという面もあるのだ。
「犯人を倒すの? 私もやる」
「オレもやるぜ。どうせドメーロだろ!」
アオイとシンクレーンがそう進み出て、8組生徒の多くもこくんと頷いていた。
血の気が多いのはこいつらだよな。
経験値稼ぎの戦闘訓練の影響か?
「直接はやらない。証拠もまだ見つかってないしな」
「いや、すでにコズミ君は手を出していなかったかね?」
「副学園長の方が大きなダメージを与えていたが」
あの程度で済ますわけがない。
生徒たちの安全のためにもな。
「なんだよコズミ先生、抜け駆けしてたのかよ」
「軽く撫でただけだ。残念ながら致命傷にはなっていない」
うかつにも俺が挑発に乗ってしまった、という見方もできる。
あいつが悪いとはいえ、傷害事件とされてもおかしくはない。
ドメーロが利用しようと思えば利用できるだろう。
「本当に残念なのですわ」
チッと舌打ちするクリム。
1組生徒でもドメーロに従っているワケではないのか。
「それで、どうするのだ?」
「その前に、新しい寮に同じことができないようにしてからだ」
さっきのあれでドメーロに女神由来のスキルが無くなっていることをバラしてしまった。
もう気づいていてこの犯行に及んだのかもしれないがそうでなかった場合、追い詰められたと知り、今度こそと焦るかもしれない。
「それこそ放火だと証明するようなものではないかね?」
「ええ。それぐらいは考えられる頭はあるはずです」
「どうだろう? ここが焼けたのを女神の天罰と言い張っていたぞ。嬉しそうにな。多少強引でもそれで押し通して、邪魔な俺たちを排除したかったのだろう。またやってもおかしくはない」
「そんな……」
もちろん、そんなことをさせるつもりは毛頭ないのだが。
ここは自重スイッチを外させてもらうこととしよう。
◇
旧寮を後にして、新寮から少し離れた場所に移動する。
8組生徒や副学園長、クリムと弟勇者も一緒だ。他にも野次馬が数名ついてきている。
簡易鑑定の文字色は中立カラーなので問題はない。
「離れていてくれ。ここを整地する」
「ここをかね? それなら業者を呼ぶが」
「いらん。アンジュラ、クルミダ。出番だ。変身してくれ」
「はい!」
ショベルカーとブルドーザーに変身する二人。
俺が整地してもいいのだが、彼女たちがやった方がデモンストレーションになる。
8組生徒の力の一端を見せてやろうじゃないか。
「俺が指示する範囲を整地してくれ。できるな?」
『もちろん!』
『お任せを!』
護符から元気のいい返事が返ってきた。
二人には講習時に整地のやり方を簡単にではあるが説明している。実習にも丁度いい。
邪魔になりそうな岩や木の根をアンジュラが掘り起こし、クルミダが土砂を押し出し平面にしていく。
その整地速度にざわめく野次馬たち。
「クルミダ、そこはもうちょい左だ」
『了解ですっ!』
俺は指示を出しながら、整地された地面にどんどんと大きな塀を設置する。
クルミダの返事が一々堅苦しいのは、父親が騎士でその口調がうつっているとのことだ。
ブルドーザー時の重厚なブレードが人型時にはシールドになっていて騎士っぽいデザインに変形するのはそのせいなのかもしれない。
「コズミ君、君はアオイ君のパートナーではなかったのかね?」
「コズミは私のパートナー! ……でも、みんなとも仲がいい」
「そんなことが……さすが伝説のスウィートハート、か」
「仮のパートナーだ。仮の! マシニーズが課題で頼むパートナーは仮でもいいのだから問題はないはず」
だから男にスウィートハートなんて呼ばれたくはないのだが。
もう少し別の呼称はないもんかな。
「たしかにそうだが、複数のパートナーとなんて前代未聞なのだが」
「そうなのか?」
「そうなのですわ! シンクレーンとパートナーなんてうらや……そんな不誠実なパートナーなんておかしいのですわ!」
「そう言われてもな。彼女たちに経験させてやりたいが他に方法がなかった。マシニーズ教育の一環として考えてくれ」
クリムが顔を真っ赤にするほど怒っている。
マシニーズとパートナーは結婚率高いらしいからこんな反応になってしまうのか。
俺と生徒たちが結婚するわけもないだろうに。
「け、経験!?」
「そう、経験だ。試合の時は大きく変わった彼女たちを見ることになるだろう」
マイクパフォーマンスではないが野次馬たちに聞こえるように宣言する。
出来損ないなんかではない、とアピールしておかないとな。
「勝つのは私たちですわ!」
「そう言ってられるのも今のうちだ。1組の生徒に伝えておいた方がいい。試合で負けて服が破れても恥ずかしくないようにしておけ、と」
俺が思いついた対策は重ね着だ。
ロボットに変身するのだから動きが鈍るということはないだろう。破れてもいい服を上に着こんでおけばいいはずだ。
俺が思いつくぐらいだから、1組の生徒たちだってそうするはず。
「なっ、なんて破廉恥な!」
「はい?」
「そ、そちらこそ見せられる私たちが呆れるような、無様な下着などつけてこないでほしいのですわ! なんでしたら私が素晴らしい下着を提供して差し上げるのですわ!!」
言うじゃないか。
マスク剥ぎデスマッチのノリだな。
……万が一の時のために下着じゃなくてエロくないアンダースーツを用意すべきか?
この時はまさか本当にクリムから下着が届くとは思ってなかったのだが。
◇
張りきったアンジュラとクルミダのおかげで思ったよりも早く、寮の周囲に大きな塀を設置することができた。
ここからの侵入は許さん。
「こ、これならたしかにあの館を造ったというのも頷ける」
「コズミはスゴイ」
「用がある時は門のそばにあるこの呼び鈴を使ってくれ。呼び鈴を使わずに勝手に入ってくる侵入者の安全は保障しない」
大きな門はもちろん3B仕様なので見た目以上に高性能。登録した者は門扉を開けることができるが、そうでない者が開けることはできない。
登録するのは俺と8組生徒だけだ。
門の強度も高く、塀の高さも十分だ。簡単には侵入できまい。
だが、この世界のスキルや魔法を使えば侵入することはできるだろう。
なので警報やトラップも多数設置する。
「コズミ君は物騒だな」
「うちの生徒を守るためだ。興味本位で侵入を試みる生徒が出ないように宣伝してもいいか?」
「それは構わないが、掲示板に張り出すかね?」
学園都市はさすがというべきか識字率は高いようで、各所に掲示板が用意され重要事項の周知に使用されていた。
今回はその識字率の高さを使う有効な手段でいく。
「それも頼むが他にも行う。アオイにビラを撒いてもらう」
「アオイ君だけに?」
「アオイならなにがあっても大丈夫だからな」
「まかせて!」
そう、シャイニーブルーでビラを空から学園中に散布してもらう。
空を飛ぶマシニーズの注目度は高いだろう。それからバラ撒かれたビラも皆が手に取るはず。
飛行する出来損ないをドメーロ派がどう説明するのか楽しみだ。
それに、この学園都市上空を飛ぶことでヒワのトラウマ克服もしたい。学園でだって飛ぶことはできる、と。
もしも攻撃されてもシャイニーブルーなら対処できる。だからアオイにしか頼めない。
紙はクラフトできる。インクもだ。
プリンターで印刷すればいいとして、どんな文章にするか……。
俺がトラップを設置している間に8組生徒たちに考えてもらうとしよう。これも授業の一環だ。
8組が出来損ないなどではないことも宣伝できるかな?
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