51話 火災現場
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経験値稼ぎに出した生徒たちが戻ってきた。
1班、2班ともに血塗れだったんで慌ててアオイに治療するように頼んだが、「返り血だから」と呆れられてしまった。
どうやら大きな怪我をした者はいないとのことで一安心。
そして彼女たちが収納バッグに入れて持ち帰った獲物の数に驚く。
どうやらテラーバードの群れと戦ったようだ。
こんな数の群れがいたのか?
アオイと二人旅の時は多くてもせいぜい5羽ぐらいだったのだが。
あまりに数が多い時は救援を呼べと注意。そのために待機してたのだから。
え?
テラーバードが仲間を呼んだ?
おかしい。
何度も戦ったが一度もそんなことはなかったのに。
もしかして、ボスを倒したことでチュートリアルの難易度が上がってしまったのだろうか?
このチュートリアル世界はもう、チュートリアルではないのかもしれない。
空路で移動してよかった。
砂漠の敵が強化されていたら危険だったところだ。
3班に状況を説明して送り出す。この班にはアオイがいるので敵が強くなっていても問題はあるまい。
1、2班は待機して休憩だ。
確認したところ、帰ってきた生徒たちは全員レベルが上がり無事に〈変形〉スキルが1レベルになっていた。
これでスムーズに変形できるようになるだろう。
「それだけではありません。今までよりもステータスやスキルレベルの上昇がいいのです」
シラユリの言葉に頷く生徒たち。
ふむ。フリートには入れてはいないが、チュートリアル――ではなくなったかもしれないが、便宜上チュートリアルと呼ぶことにする――世界だからだろうか?
学園世界の方でもレベルアップして比較検証してみたいところだ。
「テラーバードも面倒な分、経験値もいいしよ。オマケに美味い。むこうにいたら食い尽くされちまうんじゃねえか?」
どうだろう。この世界だとリポップしそうな気もしないでもない。
いきなり数も増えているようだし。
「むこうでも絶滅したモンスターとかいるのか?」
「絶滅した種族はいますよ」
世界の危機とやらで、いくつかの種族が絶滅したとのこと。
怪獣大戦ではエルフも数を激減させており、絶滅しないか心配されているらしい。
その後、3班のレベルアップとスキル入手を済ませて戻ってきたので、待機する班をローテーションさせながら経験値稼ぎだけでなく採取も行う。
食べられそうな植物、キノコ等も少し集まった。これは帰ってから鑑定すればいいだろう。
学園世界へは、草原に建てた拠点内に設置した小型ゲートで帰る。これで次に来る時はこの拠点にいきなりくることができるようになった。
明日ももう少しレベル上げをしよう。
◇ ◇ ◇
翌朝。
約束の3日が過ぎたので学園長室へと向かうと、嫌な顔を見ることになった。
偽神官のドメーロである。
「これはこれは、伝説のスウィートハート殿」
無視する。
こんなジジイにスウィートハートなんて呼ばれるのは嫌すぎる。
「副学園長、約束の物は?」
「教科書の方は用意できた。制服の方はもう少し待ってくれ」
「そうか。それなら教科書だけでも渡してくれ」
制服が遅れたのは結果的によかったのかもしれない。
昨日、新しい制服を着ていたら血塗れにしてしまっていたところだ。
戦う時は制服じゃない方がよさそうである。
「そ、それよりもコズミ君、生徒たちは無事なのか?」
「ついに出来損ないどもに天罰が落ちましたな」
副学園長の問いをドメーロが遮る。
その顔はニヤニヤとしていて鬱陶しい。
「出来損ないのくせに機神巫女を名乗る偽物たちに女神の劫火がふるわれたのです」
「副学園長、この頭のおかしい偽神官がなにを言っているか、通訳を頼む」
「……昨晩、8組の寮が火事になった。生徒たちはまだ見つかっておらん」
「は?」
暗い顔でそう告げる副学園長。
どういう意味だ?
だって俺は今朝方、生徒たちと食事をしたぞ。あの寮で。
ああ。
「火事の原因は?」
「わからん。が、あの寮はあまりにも傷んでいた。竈が壊れて火が燃え広がったのでは? ……こんなことなら、もっと早くあのベドロを解雇してあの子たちを別の寮へと引っ越させるのであった!」
「いや、それはない。昨日はあの寮で火を使うことはなかった。放火だ」
「放火ではありません。出来損ないへの天罰です」
しつこいのでつい、怒りのあまりにアイテムボックスから〈抜刀術〉で木刀を出して、ドメーロを殴ってしまった。
魔法作業台で強化された木刀だ。いくらドメーロのレベルが高くても痛いだろう。
出来損ないだと!
あの子たちがそれでどんなにツラい思いをしているのかわからないのか。
それを天罰?
許せるはずもない。
「8組の生徒たちを出来損ないなどと呼ぶな偽神官! 天罰ってのはお前に落ちてんだよ」
「ふ、副学園長、こんな乱暴者を教師にしておいていいのですかっ! 即刻クビにすべきですっ!」
「コズミ君、ドメーロに落ちたという天罰とは、今の打撃のことかね?」
副学園長が俺を睨む。いや、俺だけじゃないな。ドメーロのことも睨んでいる。
生徒の無事が確認できていないのに、やけに嬉しそうなドメーロに腹が立っていたようだ。
「……天罰によって、偽神官は女神の奇跡を使えない。そうじゃないと言うのなら自分でその傷を治してみろ」
「なっ! いいだろう、儂の力を思い知るがいい。ハイヒール! ……ハイヒール! ハイヒール! ヒール! ヒール!」
しかしドメーロの傷はいっこうに回復しない。学園長室に虚しく声が響くだけだ。
「と、いうことだ。副学園長、生徒たちは無事だ。安心してくれていい」
「本当かっ!」
回復魔法を使おうとして失敗し続けるドメーロをポイっと壁に向かって放り、近づいてくる副学園長。
偽神官はべしゃっと壁にぶつかってずり落ちていく。……頑丈な壁だな。
「8組の寮は無事だ。燃えたのは以前の寮だ」
「なに?」
「忘れたのか。俺が造るって話だったろう。だから造った。それで生徒たちが引っ越した」
そういや引っ越したこと、報告してなかったな。
今回はそれがよかったか。
「造った? ……もう寮を造ったというのか!?」
「そうだが。まあ、まだ完成とは言えないが住むことはできている。生徒たちも3日前に引っ越し済みだ。だから無人だった前の寮が火事になることなんてありえないんだ。もし偽神官の言うように女神の天罰というなら新しい方の寮が燃えるはずだろ?」
「う、うむ。しかしそんな急ごしらえの寮で生徒たちは安全に暮らせるのかね?」
「今頃なにを言っている。気になるなら見にくればいい。生徒たちの無事もその目で確認できる」
副学園長は「わかった」と頷き、俺とともに8組寮へ。ドメーロは廊下に転がされて放置された。
放火の件を問い詰めたいが証拠は出てこないかもしれないから、今はこれでいいか。
「これが新しい8組寮だ」
洋館を紹介したのだが、副学園長の返事がない。
外観に対する意見を聞きたかったのだが。
「おーい」
目の前で軽く手を振ってみる。
反応なしか、仕方ない。
アイテムボックスから出した霧吹きをシュッと副学園長の顔へ。中身は気つけ薬だ。
状態異常の気絶を治療する。キントリヒに調合してもらったのを俺がクラフトした霧吹きに入れた物だ。
副学園長は途端にゲホゲホと大きく咽て、キョロキョロと辺りを見回す。
「これが新しい8組寮だ」
「こ、これが? ……コズミ君が造ったのかねっ!?」
「そう。俺は戦いよりもこういうのが得意だ」
あまりに大きい声での質問。そんなに興奮せんでも。
ほら、すぐに戻るつもりで寮に待機させていた生徒たちが何事かと出てきたではないか。
「き、君たち! 無事なのか……よか、よかった!」
生徒の無事を確認できて嬉しかったのかボロボロと涙を流す副学園長。
悪い人ではないのだが、暑苦しいのは苦手だ。
◇
前の寮が燃やされたと聞き、8組の生徒たちは大きなショックを受けている。
生徒、副学園長とともに現場へと向かったのだが、それはもう酷い有様だった。
「アオイ!」
「皆さん、ご無事だったのですわ!」
野次馬もかなり集まっていて、その中の二人が俺たちを見つけて近づいてくる。
少年と少女の二人だ。少年はアオイの名を呼んでいて、少女は貴族っぽくて……でかいな。シンクレーン級か?
「うむ。8組の生徒たちはコズミ君の造った新たな寮へと引っ越していて無事だったそうだ。まさに女神の導きだろう」
「その男が……造った?」
「そう。コズミはスゴイ」
なんか少年が俺を睨んでいるんだけどどういうことだ?
こいつもドメーロ派なのか?
まさか放火の犯人か。現場に現れるって言うし。……え、簡易鑑定に勇者って表示されているのだが。
「君は?」
「これはモーブ。ほぼ弟」
少年ではなく、アオイが簡潔に教えてくれた。
そういえば、同じ孤児院で育った弟分も勇者だとか言っていたな。
モーブ少年がなにか言おうとしたがズイっと爆乳少女が立ちふさがる。
「ワタクシはクリム・パイプルーン。モーブ君のパートナーにして、アオイさんのライバルですわ!」
「……8組担任、コズミだ」
「私のスウィートハート!」
アオイのライバル?
パートナーがいるということはマシニーズなのか。
勇者がパートナーってズルくね?
そしてアオイ、俺の自己紹介に付け足すんじゃない。
「コズミ先生、あなたのおかげで皆さんがご無事なこと、お礼を言って差し上げますわ! 本当に良かったのですわ。これでアオイさんと戦うことができるのですわ!」
この子は放火魔ではなさそうだな。
いったいどんなマシニーズになるんだろう。
可変型ではないとして……まさか爆乳ミサイル持ちか?
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