50話 夢見勝ち
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サブタイトルの『勝ち』は狙って使っているので誤字ではありません
私の名前はミレス。
出来損ないの8組の生徒です。
いえ、もう私たちは出来損ないなどではなく、機神巫女だと名乗っていいのでした。
……いまだに夢でないかと思います。
だってアオイが連れてきた男の人が伝説のスウィートハートで、私たちの先生になってしまったのですから。
それだけならばまだ納得しやすかったかもしれません。
だって、アオイは勇者様なのですから。
女神様の神託で旅立った勇者様が伝説のスウィートハートを見つけてきた。ほら、物語にもありそうじゃないですか。
でも、コズミ先生は物語に出てきそうな人ではありません。
眼鏡とマスクでほとんど顔を隠していて、食事の時にマスクを外したと思ったらお髭のおじさんですよ。
アオイが同じ勇者のモーブに興味がなかったのは、こういう趣味だったからですか。
コズミ先生は身体もひょろっとしていて、自分で病弱とまで言うんです。
駄目です!
か弱い眼鏡枠はもう埋まってますよ。
キャラかぶりはいけません。私の影をさらに薄くするつもりですか?
コズミ先生は私たちのために新しい寮も造ってしまいました。まるでお城です。
もしかしてドワーフの古代種なのでしょうか?
お髭ですし。
夢ではないかと思うことはまだあります。
みんなで入れる大きなお風呂。
お部屋にも大きく綺麗な鏡にふわふわで暖かなお布団。
お尻を清めてくれるピカピカなトイレ。
まるで本で読んだお姫様になったかのようです。
こんなことが現実にあり得るわけがありません。
食事の量は増えましたがいつもの延長上の料理なのは、私の夢だから私が想像できないような豪勢な料理は出てこない、ということなのではないでしょうか?
出来損ないが変形、というものをして普通の機神巫女になれる、というのも私の願望が見せている夢……。
夢なら醒めたくありません。
まあ、ただのいい夢ではないんですけどね。
コズミ先生は勇者様のパートナーとは信じられないほどに好色なんです。
あの無垢だったアオイを弄んだばかりか、私たちまでパートナーにしてしまうなんて。
どれだけ女好きなんですか。
機神巫女に乗り込むなんて、普通思いつきます?
その上、操縦桿という機神巫女の敏感な器官に触れる時に「やさしくするから」なんて言うんです。
狙ってますよね!?
あの感覚だって慣れません。
操縦桿を動かされると私たちはコズミ先生に身体を自由にされてしまうのです。
逆らえません。
……いえ、あの手ならばいいと思えてしまうのです。
コズミ先生だからいいのです。他の男なんて嫌です。
私はもうコズミ先生のフィンガーテクニックの虜にされてしまったのでしょうか?
コズミ先生は恋愛対象としては絶対に扱われない出来損ないを「美少女」なんて言いますし。お世辞とわかっていてもちょっとドキドキです。
出来損ないだった私たちは恋愛対象としてなんて見られたことはありません。そんな経験、あるワケないんです。
これでコズミ先生が美形さんだったらもうみんな惚れちゃってます。
眼鏡を外して髭を剃ったらもしかして、という可能性もありますが。
まあ、8組のみんなは顔で男を選ぶようなことはないでしょう。恋愛なんて夢見ません。
私たちが必死にパートナーを探している時に全く相手にしてくれなかった男ばかりなのですから。
そう考えると、コズミ先生くらいの色欲魔人でなければ出来損ないはパートナーなんてできません。
夢でも私の男性観は現実的なのですね。
◇ ◇
『次はミレスだ』
機神の護符からコズミ先生の声がします。
私の番を告げています。
浮遊中のキンちゃんの土台から飛び降りろと言うのです。
夢なら醒めてほしいのです。
『大丈夫だ。みんなのを見ていたろう?』
「で、でも」
『パラシュートは自動で開く。俺を信じて、飛び降りなさい』
「そ、そんなこと言われても」
下を見れば足が竦みます。もう私、半泣きです。
でも他に残るのは1年ばかりです。私以外の2年は既に飛び降りてしまいました。
ここは先輩として……やっぱり無理!
『無理そうならキントリヒに掴んでもらって落としてもらうか?』
「え?」
振り向いて黄金色の巨人を眺めます。
キラキラです。派手です。
キンちゃんにポイされるのはさすがに上級生として見せられない姿なのではないでしょうか?
「わ、わかりました! 自分で……飛びます」
目を瞑ってゆっくりと足を踏み出して……その先を躊躇していたら大きな指先に背中をツンって押されてしまいました。
キンちゃん、この前怖い本の話をしたの、根に持っていたんですか!
パラシュートはしっかりと開き、私は無事に着地することができました。
無事に、です。
ちょっと……してしまったなんてことはありません。
ないんです!
ふぇええん。
コズミ先生はいい笑顔で「よくやった」と褒めてくれました。眼鏡とマスクで隠れていますがわかります。あれはとってもニヤケた顔です。
私だけではありません。ちょっと下着を替えることになった子に限って余計に褒めていたのです。
まさか羞恥に震える少女を楽しむ趣味があるのでしょうか。だから「よくやった」と!
そんな変態教師なコズミ先生ですが、私のことも考えてくれています。
マシンナリィして飛んで移動することになったのですが、私はみんなの乗ったコンテナを運ぶ役目になりました。
私の出来損ないの形に意味を与えてくれたのです。
この形は未確認飛行物体という、コズミ先生の世界でも正体不明の物の形だそうです。
他のみんなのように、なにか意味があるのか聞いたら、悩んだ後に「夢を与える形?」と疑問形で答えてくれました。
なんでも、宇宙人と言う別の星から来た人が使う乗り物だとか。
そんなことを言われても、私はどう役立てればいいのですか。
ですがコズミ先生は私の能力が皆を運べることを見つけてくれたのです。
しかも、私は皆を運ぶので空中戦はしないでいいとか。
助かります。戦闘は苦手です。
か弱い私は戦闘は苦手なのです。
だから試合で1組の機神巫女と戦って勝つという無謀な目標を与えられたのにも困っています。
でも、私たちが勝たないとドメーロ派が幅を利かせている現状は変わりません。
ドメーロや元8組担任のベドロに比べたら、コズミ先生はとてもいい先生です。変態だけどいい変態です。
8組と先生のためにも試合に勝ちたいです。
みんなもそうなのでしょう。
マシンナリィしないでの戦闘もがんばりました。
……テラーバードという大きな鳥が仲間を呼ぶので戦い続けるしかなかっただけなのですが。
貰ったばかりの鎧も返り血塗れです。
切れ味のいいコズミ先生の剣がなければ危なかったかもしれません。
大変だった戦いのおかげでレベルアップした時、今まで以上にスキルレベルも上がり、コズミ先生の仰ったように〈変形〉スキルを入手することができました。
収納バッグのおかげで、お肉もたくさん運べます。
「なにをやってる! あまり敵の数が多かったなら助けを呼べ!」
「あれぐらいなら勝てるんだって」
持ち帰ったお肉の量に、コズミ先生から初めて強く注意されました。こんなに多くのモンスターと戦わせるつもりはなかったようです。
厳しいのか過保護なのか、よくわからない先生です。
◇ ◇ ◇
特訓が終わり、全員が〈変形〉を覚えて意気揚々と帰宅です。
帰りは私たちの特訓中にコズミ先生が建築した拠点内に設置された次元門から寮の地下室に戻りました。
どうせ次元門を使うなら、アオイとコズミ先生だけであの場所に移動して、次元門で移動すれば全員がパラシュート訓練をする必要はなかったかもしれません。
だけどその場合でも飛行できる私は訓練をしたでしょうから、悔しくはありません。
その日の夜。
8組の寮が炎上しました。
……古い方の寮ですが。
元々ボロかったのですが、その面影もないほどに全焼しています。
もう荷物はなかったとはいえ、一年以上暮らした場所です。
私たちの大事な思いでが奪われた……。
こんな時こそ自分の能力が役に立ったのに、とシンクレーンは悔しがっていました。
火の気は無かったので間違いなく放火だと思われます。
どう考えてもドメーロ派の仕業でしょう。
私たちは絶対に負けるわけにはいきません。
この幸せな夢を見続けるためにも。
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