49話 牛のように
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思った以上にパラシュート訓練に時間がかかってしまった。
実演を見たからといっても、いきなり高所から飛び降りろってのは難しかったか。
だが飛行するためにはやっておいた方がいいのはたしかだ。
飛んだはいいが恐怖で漏らしてしまった子もいたようなので、対応に困る。
とりあえず、着地後は気づかないふりして褒めておくしかできなかった。
「こんなことならマシニーズ用のパラシュートをクラフトしておけばよかったか。それなら最悪失敗しても変身解除ですむから飛び降りやすかったはず。しかしそうなると素材を集めるのに時間が……」
「もうみんな飛んだんだからいいだろ」
「そうだったな。全員、ベルトを新しいのに交換したな? それではアオイ、アサギリ、ミレス、キントリヒ以外はコンテナに乗ってくれ」
コンテナに乗り込む生徒たちと俺。このコンテナは座席と窓をセットしただけでなく、パラシュートと各所にクッションまで装備した人員用の航空輸送対応コンテナである。
「乗り込んだな。気密式にできているはずだから、高空では窓やドアは非常時以外開けないように」
「開けるとどうなるんだ?」
「気圧の違いによって、中から外へと空気が出ていく。強い風が吹いて危険だ」
だよな、たしか。
あと他に注意しておくことは、と。
「離着陸の時は座席についてシートベルトを締めてくれ。なにか異常があったらすぐに連絡するように」
「うん? コズミ先生はいっしょじゃないのか?」
「このコンテナを運ぶためにミレスの操縦をした方がいいだろう。戦闘になってもコンテナは守るから安心しろ」
マシニーズは変形だけでなく、普通に動く時も〈操縦〉スキルを持つ俺が動かした方が上手く動けるようだ。
それにミレスはまだ飛行にも慣れていないのだから。
シャイニーブルーなら俺が操縦しなくても鳥が喧嘩を売ってきたって問題はない。
「もし飛ぶのがどうしても怖いというのなら留守番してもらうが……大丈夫のようだな」
「もうみんな、あの訓練をやったんだ。今更怖えなんて言わねえよ」
「そうだったな。それではいくぞ」
コンテナの外に出て、扉をしっかりと閉める。
ううむ。航空輸送するコンテナだったらやっぱり大型のカマボコ型にしたいよなあ。ミレスでも運びにくそうだからこのサイズになるのだがね。
「飛行班は変身してくれ。今回は飛行訓練も兼ねるが、ミレスはコンテナを運ぶので戦闘はできない。もし戦闘になったらミレスとコンテナを守るように」
「もちろん。コズミも守る」
「空中戦、楽しみだ」
「MPの残量には注意するように」
一斉に変身する飛行組。ヒワはパラシュート訓練もなんとかこなしたが、まだ飛行は無理なようだったのでコンテナに乗っている。
戦闘機2機にUFOとピラミッドが並ぶ光景は凄いな。
これを配備する基地となるとどんなデザインにするか迷うだろう。やはりロボットアニメの研究所風に妙な形状がいいか?
「ミレス、準備はいいか?」
『は、はい』
ミレスの操縦席に乗って声をかける。
やや不安そうな声が返ってくるのは、8組生徒の中でもミレスが気弱な部類に入るからだろう。それもあって俺が操縦するのだ。
ミレス円盤を浮遊させコンテナの上空に位置を取る。
ここで重力ビームを発射するとコンテナがふわりと浮かび上がった。
まるでUFOにさらわれる牛のようだ。うん。ホルスタイン柄にしておいてよかった。
「コンテナ内に異常はないか?」
『こちらは大丈夫です』
コンテナをミレス機の底部に接触するまで持ち上げる。
ビームで吊り下げ、離れた状態で移動するのもUFOらしいが、鳥に襲われることも考えたらこの方がいい。
「ミレス。MPの消費はどうだ?」
『徐々に減っています』
「半分を切ったら報告するように。ミレス以外の飛行班も」
『了解です』
重力ビームもMPを消費する。無駄にしないように早く移動するか。
「移動開始だ。各自、敵への警戒を忘れないでくれ」
高度を上げて目的地へと移動する。
飛行機は高い空の方が安全なのだが、特に砂漠地帯は何十メートルもある巨大なミミズが襲ってくることもあるので高空の方がいい。
どんな原理で地上の様子を感知しているかは不明だが、シャイニーブルーで飛行中も襲ってきたので低空では安心できない。
ミミズがいなければ陸路での移動もありなのに。
◇
飛行マシニーズの編隊にちょっかいを出すようなモンスターもおらず、無事に砂漠を抜けて目的地に移動した。
テラーバードがよく出現する草原である。
上空から軽く周囲の安全を確認後、着陸だ。
「これから着地するから、コンテナ内にもし座席から立っている物がいたら着席してシートベルトをするように」
『全員、座っています』
「それじゃ衝撃に備えてくれ」
ゆっくりとコンテナを草原に下す。割れ物を扱うようにそうっと丁寧にだ。
これなら衝撃も少ないだろう。
「着地したぞ。大丈夫か?」
『はい。衝撃もほとんどありませんでした』
さすが3B仕様。コンテナのクッションがいい仕事をしてくれたようだ。
コンテナの扉が開いて、出てきた生徒たちがこちらに手を振っている。
全員、元気そうでほっとした。
飛行班も着地して変身解除し整列。
「全員いるな。気分が悪くなった者はいないか?」
大丈夫なようだ。顔色が悪い生徒もいない。
うん。あまり揺れないように操縦できていたな。
「飛行班もご苦労だった。コンテナに乗っている方も慣れない移動で疲れただろう。少し休憩したあと、訓練を行う」
「すぐじゃないの?」
「アオイは慣れているが、皆はそうじゃないからな。ただしここは巨鳥もくるから警戒は緩めないでくれ」
というか、疲れているのは俺なのだが。
生徒たちの命がかかった操縦桿を握るのは精神的にきつかった。
帰りは別の方法にしよう。
休憩後、訓練という名の冒険が始まる。
まあ、俺はこのコンテナ付近で作業の予定だが。
「それでは1班と2班はモンスターを探し戦闘してくれ。敵が見つかっても見つからなくても1時間したら戻ってくるように」
「3班はどうするんですか?」
「なにかあった時のためにここで待機だ。1班、2班が危険になった時にすぐに動ける人員がいないと困る」
全員で一緒に動くのは安全かもしれないが、はぐれた者が出ても気づきにくそうなので、四人ずつ三班に分けた。
「必ず四人で行動するように。巨鳥や勝てそうにない相手には変身してもいいが、そうではない相手にはできるだけ変身せずに戦ってくれ」
「その方が経験値の入りがいいもんな」
「テラーバードは群れでくるから油断はするな。シラユリ、シンクレーン、班の皆を頼む。マップがあるから迷いはしないと思うが、あまり遠くへは行かないように」
1班の班長がシラユリ、2班の班長がシンクレーンだ。
3班はワカナである。
「はい。コズミ先生もお気をつけて」
「私がいるから安心」
アオイも3班だ。生身での戦闘力で班分けしてもらったらこうなった。
8名の生徒を見送り、俺は作業を開始する。
巨鳥が襲ってきても避難できる拠点を造らなければいけない。
生徒たちの戦闘も気になるが、アオイの話ならテラーバードぐらいは倒せるとのことなのでそれを信じて送り出したのだ。
変身すれば巨鳥以外には負けることもあるまい。
……その時はまさか、あんなにも倒してくるとは予想外だったのだが。
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