4話 マキにゃん
いろいろスキルを習得した結果、多少は旅をすることができそうになったわけで。
「なんか俺、調子よくなってきたから学園に行けるかもしれない」
「本当? 感謝する。ありがとう、コズミ」
アオイちゃんの口調はクールだが、俺の右手を両手で握ってぶんぶんぶんぶんと動かすぐらい喜んでくれている。
小さくて柔らかな手だ。こんな少女が勇者?
マシニーズが変身ヒロインなら問題ないのか。
「俺もよく知らない世界に一人というのは心細いから気にしないでくれ。この家の外はどんな世界なんだ?」
よくよく考えればアオイちゃんの誘いを断ったところで、こんな世界に一人残されてはどうしょうもない。
電気水道ガスが使えても食料を手に入れるためには外出も必要になるだろう。短い余生がさらにさらに短くなるだけだ。
「ここの外は大きな樹木が立ち並ぶ森。出てくるモンスターは虫系と大型の鳥類。ちょっとだけ危険」
「ちょっとだけ……」
それは26レベの勇者様だからじゃないでしょうか?
俺は1レベルだし武器もないのだが。
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ロっキー > コズミんのレベル上げにちょーどいいネ
オーどん > うむ。植物素材を集めるのもいいだろう
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そんなこと言われてもね。
俺が3Bと同じ仕様だということは死にやすい死にやすいというイメージしかないのだが。
いくらMODで激ヌル設定にしててもさあ。
……ってことはまさかね。
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コズミ > もしかして3Bのスキルが使えるってことは武器とか作れたりする?
サったん > 当然なのである
ロっキー > コズミんなら無双ができるヨー
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無双は無理だろう。
でも、武器が作れるのなら少しは戦えるかな。
……ゲームならともかく、実戦なんて肉体的だけでなく精神的にキツい。
あ、そだそだ。〈耐性・精神〉にもポイントをふってスキルを取っておこう。役に立つといいのだが。
「まずはこの家を拠点に周囲の安全を確保。それから次元門を探したいと思う」
「安全を確保ってどういう……家も危険なのね」
アオイちゃんがきてくれなかったら何も知らないうちに家を破壊されて死んでしまった可能性もあったのか。
どうあっても外に出ないといけないようだ。
「この家には結界を感じるから、心配は少ないと思う」
「結界?」
「まるで神殿のような清浄な気に満ちている」
どういうことだ?
俺の身体のために空気清浄機は常時稼動させているけど、そのせいじゃないよな。
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オーどん > この娘、できる
ロっキー > あいつんとこの巫女みたいだからネー
コズミ > あいつ?
ロっキー > コズミんにあげたパソコン創ってくれタやつ
MK-Inyan > 呼ばれてとびでてにゃんとやらー!
MK-Inyan > ただ今紹介にあずかったMK-Inyan参上!
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なんか知らない人キター!
MK-Inyan……マークワンにゃん? それともMKInyanでマキにゃん?
俺の代わりにフリートに入った新メンバーだろうか?
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コズミ > はじめまして、コズミです
MK-Inyan > MK-Inyanです。はじめまして
MK-Inyan > 左、右、左、右上!
コズミ > ?
MK-Inyan > テンキーにすると4、6、4、9。よろ~
コズミ > なるほど!
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テンション高そうな人だなあ。チャットだけかもしれんけど。
っと、言うことあったんだ。
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コズミ > パソコンありがとうございます
コズミ > とっても高性能で3Bがサクサク動いて感激です
MK-Inyan > いやいや、おかげでコズミんと知り合いになれてこっちもハッピー!
サったん > 紹介するつもりはなかったのである
ゴっさん > うむ。コズミんを覗いていたばかりか、こんな場所に運びおって
MK-Inyan > だってコズミんとこにアオイを送れなかったんだもん
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んん?
俺がこんな異常事態に遭遇しているのはMK-Inyanさんのせいってこと?
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コズミ > MK-Inyanさんはアオイちゃんの知り合いなの?
MK-Inyan > MK-Inyanでいいよー
MK-Inyan > アオイの上司みたいなもんかな?
コズミ > そうなんだ
MK-Inyan > エリクサーは必ず渡すからアオイのことをよろしくお願いします
コズミ > いえいえ
コズミ > こちらの方こそ、アオイちゃんのお世話になりそうですみません
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急に真面目モードになられると対応が困るな。
でもエリクサーをくれるっていうのは有難い。
あの超スペックのパソコンを作った人みたいだし、何者なんだろう?
……アオイちゃんの言う女神様っぽいけど。デア・エクス・マキナだもんなあ。
もしそうだとしたらフリートのメンバーこそ何者、って話になるわけで。
うん。考えないようにしよう。
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サったん > コズミん、チャットできる範囲は家の中だけなのである
サったん > 外に出たら注意するのである
ロっキー > アオイをもてあそぶアドバイスできなくてゴメーン
コズミ > んなことしないから
MK-Inyan > 責任取ってくださるならOKですよ
コズミ > 俺すぐすぐ死ぬからそんな責任取れませんて
ロっキー > 死ぬ死ぬ詐欺入りましター
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まったく、いくらスウィートハートなんて言われてもこんなおじさんとアオイちゃんみたいな美少女がそんなことになるはずがないでしょうに。
無理矢理?
それこそ無理無理。若い子に病弱で貧弱な俺がそんなことできるワケがない。するつもりもない。
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サったん > コズミんはまさか男の子の方がよいのであるか?
コズミ > なぜそうなる
コズミ > 俺は二次元専門なの!
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リアルの女性となんてありえるワケがないだろうに。
だって性行為なんて病気になるかもしれないじゃないか!
だから風俗にも行く気はなかった。
俺は潔癖症だからね。
「どうした? マイスウィートハート」
二次元から抜け出してきたような美少女にそう言われるとちょっと嬉しかったりするけど。
別になんかしようとは思えない。
優しいアオイちゃんの力になって、ついでにエリクサーをゲットできればいいだけだ。
「がんばって学園に行こう」
「ありがとうコズミ」
やばい。
課題のためだってわかっているのに、その気になっちゃいそうだ。
俺ってばチョロすぎる。
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