45話 ペアリング
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ヒワが攻撃された時は離陸直後の高度が低い状態で、攻撃も翼をちょっとかすった程度で落下時のダメージはあまり大きくなかったのだが「もっと高いところから落ちたら」と思うと怖くなって飛べなくなってしまったらしい。
「襲ってきたやつはわかっているのか?」
『はい。落下したわたしの前に姿を見せて、機神巫女が空なんか飛ぶな、とすごい剣幕で怒られました。次に飛んだらどうなるかわからないぞ、って……』
脅されたのか。
そんなことをするやつがマシニーズにいるなんて!
「だがそいつは、ここにはいないぞ。落とされることは無い」
『でも、学園にはいます……1組の3年生なんです』
「そうなのか」
現役の生徒とはな。
こんなに怯えているようでは今は無理か。
ヒワの飛行はいったん諦めて、他の能力を確認することにしよう。
『ごめんなさい』
「謝る必要はない。他の能力はわかるか?」
『とっても遠くまでよく見えます!』
鷹の目、とでもいうのだろうか。カメラ性能はかなり高いようだ。
だがそれも飛行との組み合わせでこそより発揮できる能力ではある。
「そうか。それじゃそろそろ変形を試すぞ」
『は、はい。よろしくお願いします』
その後、操縦桿ソフトタッチの儀式を済ませて無事に変形も成功した。
ううむ。やはり人型でも飛行できるのがわかるだけに、なんとも残念である。
どうにかして飛んでもらいたい。
◇ ◇
「さて、全員が経験したわけだがどうだった?」
「け、経験って……コズミ先生、そういう言い方はちょっと……」
「む?」
「コズミ先生、シラユリはムッツリだから変な妄想しただけなんで気にすんな」
委員長のシラユリは真面目な分、余計なことを考えてしまうのか。
だがこれはなにを言ってもセクハラ扱いされそうだからスルーしておこう。
年頃の娘さんの扱いは難しいな。
「それで、感想は?」
「凄かったのだ! キンちゃんは感動したのだ! みんなが変形できたことで絶対に出来損ないじゃないって、証明できたのだ!」
「私も。必ずものにして試合に勝ちます!」
「飛ぶのは無理ですが、戦うことはできます」
生徒たちは口々に興奮した様子でその感想を告げる。
ヒワもトラウマの克服はまだだが、試合に向ける強い意志を感じた。これなら勝てる、かな?
「よし、それならば残りの時間は各自、変形の練習だ。ただし、ここからあまり離れるなよ。この塔の周辺はあいつのおかげで敵は出現しないがあまり離れると砂漠は危険だからな」
「機神巫女より大きなミミズとか、いきなり襲ってくる」
「一人では絶対に行動するな。常に二人以上でいるように。なにかあったらすぐに護符で俺に連絡をしなさい」
俺の護符にはついに8組全員の色の歯車彫刻が揃ってしまった。この歯車はやはり、パートナー登録が完了した証のようだ。
これで全員と護符で通信可能になってなっている。
……マシニーズ同士ではどうなのだろうか?
「護符でマシニーズ間の通信はできるのか?」
「それができれば便利なのですが、機神巫女とパートナー間でしか」
「クュウゥェェェェェェ」
「え? そ、そうなんですか?」
突如、大きな鳴き声を上げたボットガルーダと、そちらを向いて反応するシラユリ。ボットガルーダはシラユリに向かって大きく頷いた。
シラユリはもしかしてあの鳴き声の意味がわかったのかもしれない。
「どうやら私たちの護符はアップデートというのを受けていて、機神巫女同士での通信や地図と現在位置の表示等ができるようになっているそうです」
「そんなの、いつの間に仕込まれたんだ?」
「クウェウェ」
「アオイのために勇者召喚した時に、だそうです」
「やはり言っていることがわかるのか?」
「守護鳥ですから」
ボットガルーダ、守護鳥ってことはマキにゃんの配下なんだろう。
あんな倒し方しちゃって、すまなかったな。
これからは味方らしいから頼りにさせて貰うぞ。
「コズミがみんなとパートナーになれたのもそのアップデートのせい?」
「クュェ、キュキュ」
「コズミ先生の持つ能力のせいだそうです。まさか全員とペアリングするとは思わなかった、と」
「なるほど。ペアリングか」
なんだかな。ゲーム機とコントローラーじゃないのだからさ。
だが、複数の子とパートナーになれるのは珍しいのか。
パートナーなしでも変形できる方法を探らないと……出来損ないじゃないってのが知られれば、可変型なマシニーズにもパートナーはできやすくなるか。
「ふむ。地図の表示は念じればできるようだ。皆の現在位置も表示されているな。各自、試すように」
護符を持って、どうやるんだと考えていたら、護符から立体映像っぽく地図が出現した。その地図上に色とりどりの光点とすぐ上に名前が表示されている。
ほとんど3Bのマップ機能と同じだ。チャットで生徒たちをフリートに入れないことに決めたから、その代わりということなのかな。
どうせならアイテムボックスもあればいいのだが、その機能はないようだ。残念。
「マシニーズはパートナーのスキルも使うことができるのだったな?」
「はい。マシンナリィ時のみになりますが、それは可能です」
離れていても俺のアイテムボックスに収納できるのなら、生徒たちが強くなれば資材回収が捗るな。
……全員が飛べるわけではないから、それほどでもないか。
「できました! これでシンクレーンが授業をサボってもすぐに居場所がわかります!」
「てっ、てめえシラユリ、さっきの仕返しのつもりか?」
「なにかあったのか? できれば授業はサボらないでほしいが」
「お、おう。コズミ先生の授業はサボらねえよ、できるだけな」
生活費を稼ぐために冒険者ギルドの依頼を受けるんでシンクレーンは授業にあまり出なかったらしいから、その辺もなんとかしないといけない。
8組生徒のバイト用になにか店舗を建築するのもいいかもな。
「護符の確認ができたら変形の練習だ。さっき言ったことを守ってくれ」
「コズミはどうするの?」
「この塔をリフォーム……使いやすいように修復する。さすがに一人だけあっちに戻って寮の作業を続けるわけにもいくまい」
洋館の内装を弄ったり設置したい機器もまだまだあるのだが、生徒を残していくのはマズイだろう。
それにこの塔はボットガルーダのおかげで安全地帯なのだから拠点として活用できる。修復するのは当然だ。
「私はどうする?」
「アオイはシャイニーブルーで繊維にするための草を集めてきてほしい。ここはボットガルーダがいれば大丈夫だから。なにかあったらすぐ連絡するように」
「わかった」
返事をしてすぐにアオイは変身して飛んでいってしまった。
あの感じだと二、三戦してくるかもしれないがシャイニーブルーは強いので不安はない。
……さっそく護符からもれ聞こえてきた戦闘中のアオイの声が「コズミの浮気者!」と言っているのにはまいったが。
適度に強いモンスターよ、アオイのストレス発散に役立ってほしい。
◇
塔の修復をしながら、料理用とは別に設置した溶鉱炉でレンガを焼いていく。プラスのついた溶鉱炉を設置したために激ユル仕様もあって、すぐに焼き上がるので長い時間放置しにくいのが難点か。
巨大な塔の修復は思ったほどは進まず、遠距離に離れていてもちゃんとアオイから俺のアイテムボックスに届いた草を素材粉・繊維に分解し、麻と木綿の布をクラフトしておく。
よし!
これだけあればみんなが布団で寝れる!
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