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42話 2号

ブックマーク登録、評価、感想、イラスト、誤字報告、ありがとうございます

 シンクレーンの運転席にあったのはハンドルではなく、シャイニーブルーと同じく2本の操縦桿だった。〈操縦〉スキルのおかげで動かし方はわかるから問題はないが。

 フロントガラスのように見えた箇所も窓ではない。

 外から中の様子は見えなかったが中からも外は見えない。ドアが閉まると真っ暗になってしまう。

 だから運転席の存在がわからなくて、人が乗って操縦できるなんて気づかれなかったのかもな。


 護符(アミュレット)の光を頼りに操縦桿を握ると、その途端にアオイと同じくシンクレーンが色っぽい声を上げてしまう。操縦桿は敏感なようだ。


『い、いきなりそんなとこ触んなよっ!』


「これでシンクレーンに動きの指示を出すことができるんだ。くすぐったいかもしれないが、慣れてくれ」


『そういうことは先に言ってくれっ!』


 うむ。次の子からはそうすることにしよう。

 メモを取りながら進めるか。


「わかった。他にも気づいたことがあったら言ってくれ。だがメモを取りたいから、ここを明るくするか、外を見られるようにしてほしい。そっちで出来ないようなら、俺が操作する」


『ちょ、ちょっと待ってくれ。……こうか?』


 すぐに外の景色が映し出された。シャイニーブルーと同じ全面にだ。マシニーズの共通仕様なのかもしれない。

 明るくなったのでアイテムボックスからメモとペンを取り出して、気づいたことを記入する。


「俺が中に入ったことで、なにか違和感はあるか?」


『……なんだかドキドキして落ち着かねえよ』


「血圧の上昇か? だがこの場合、心臓の鼓動なのかエンジン音なのかわからないな……。そうだ」


 護符ならば外のアオイとも通信できるはず。護符に向かってアオイと話をしたいと念じながら話しかける。


「アオイ、聞こえているか?」


『うん。聞こえている』


「そっちから見てシンクレーンに変化はあるか? 音が大きくなったとかはないか?」


『音はわからない。コズミたちの話し声も聞こえなかった。ただ、シンクレーンに黒いラインが彩られた』


『マジかよ!』


 黒いライン。マシニーズの装甲に現れるパートナーの(サイン)だ。

 それがシンクレーンに?

 黒ってのは俺のカラーらしいが。


「そうか。アオイも気づいたことがあったら教えてくれ。教本(マニュアル)作りの参考にする」


『わかった』


「それではシンクレーン、まずは君の出来ることを確認したい。どこまで把握している?」


『オレができること? 走るのはけっこー速えぜ』


 アオイは飛べることを知らなかったが、走れることは理解しているのか。

 シルヴィアもそうだったが、車輪を見ればこれぐらいはわかるのだろう。


「他には?」


『他? 体当たりでモンスターをぶっ飛ばすとかなり強え!』


 消防車がそれはマズイだろう。

 やはり見た目からは想像できない能力は無理か。


「それは本来の機能ではない。少し俺が君を動かす。そのためにはまた触るがいいか?」


『わかった。……そっとだぞ、そっと!』


「気をつける。いくぞ」


 腫れ物を触るようにそおっと操縦桿に触れる。途端に『ひゃ』と甘い声が上がりかけたがシンクレーンは途中で堪えたようだ。


「まずはこの梯子から」


『梯子? ここ動くのか? の、伸びた!?』


 シンクレーン消防車の梯子を起こし、高く伸ばしていく。

 全部この運転席から操作できるな。


「これは、梯子の先に人を乗せて高所での救助等を行う機能だ。高い塔の火災等で役に立つ」


『火災? これが役に立つ高さの塔なんて城ぐらいにしかねえんじゃねえか?』


 むう。この世界の建築技術では大型消防車の梯子は出番はないのか。

 だが、シンクレーン消防車はそれだけではない。


「ではこれはどうだ?」


 梯子の向きを操作して、他の生徒たちにかからないように注意しながら放水開始。

 シンクレーン消防車の梯子の先には放水器も付いているのだ。

 ホースを伸ばして給水を受けることもできるのだが、今はそれはしていない。


『み、水が出た?』


「火災を消火するための放水機能だ。シンクレーンのこの姿は俺の世界の消防車という火災時に活躍する車によく似ている」


『消防車……』


「給水を受けてないわりにはかなりの勢いと量で水が出るな。MPを確認してくれ」


 アオイの飛行やビームと同じように、シンクレーンはMPを消費して放水ができることが操縦桿から伝わってくる。

 これがなければシンクレーンの脱水症状を心配したところだ。


『コズミ、シンクレーンの一部が伸びて先っちょから水がスゴイ出てる!』


「それは異常じゃないから心配はいらない。シンクレーンの力だ」


『オレの力……MPが減っているけど、この水のせいか? そろそろ止めていいよな?』


「うむ。自分で止められるか試してくれ」


 すぐに放水が止まると、梯子が伸び縮みを始める。シンクレーンが動きを試しているのだろう。

 ……けっこう長い時間試しているな。楽しいのだろうか?


「そろそろいいか、シンクレーン? 次に移りたいのだが」


『ま、まだあんのかよ!』


「いくぞ」


 操縦桿ではなく別のスイッチを操作して、回転灯とサイレンを稼働させる。サイレン音の種類だけではなく、回転灯の色も変更できる。今は赤だ。


『う、うるせえ』


「そうか?」


 スピーカーのマイクを使って、声を外に流しながら聞いてみる。

 かなり大きな声だったようで、すぐにアオイから通信がきた。


『シンクレーンから光と音がして、コズミの声が聞こえた。大きな声』


「シンクレーンの機能だ」


 マイクを握ったまま返答する。

 シンクレーンに頼めばマイクを使わないでも俺の声を外に響かせることができるだろう。


『だからうるせえよ!』


 シンクレーンもスピーカーを使って喋った。

 本人も使えるのか。

 これってもしかしたら、全てのマシニーズは護符なしでも喋れる可能性があるな。

 メモメモっと。


「これは光と音で緊急時であることを知らせて、道を開けて貰う機能だ。うるさいぐらいでなければ困るんだ」


 回転灯とサイレンを停止させながら説明した。


『そんなもんか?』


「そうだ。消防車形態での機能はこんなところか。次はいよいよ変形だが、心の準備はいいか?」


『お、おう! やってくれ!!』


 許可が出たので変形開始。シンクレーンが〈変形〉スキルを持たないせいか、アオイよりもゆっくりと変形していく。

 これはこれで変形の行程がわかって訓練にはいいかもしれない。


『成功した?』


「アオイ、どうだ?」


『シンクレーン、ちゃんと人型になっている』


『う、うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 天高く片手の拳を突き上げるシンクレーンロボ。

 シャイニーブルーと同じでこの動きや変形でも振動は全くなかった。マシニーズの操縦席は高性能すぎる。


「軽く動きを確認しよう。それから何度か変形の練習だ」


『おう!』


 軽く走ったり、パンチやキックの動きを試すシンクレーン。俺の操作のあと、自分だけでもやってもらう。


『スゲエ! マジにオレ、普通のマシニーズになってる! コズミ先生、あんたスゲエよ!』


「もういいか? 必殺技はまたあとで、な。変形のコツを掴む方が先だ」


『も、もうか? ……わかったよ。他のやつらが控えているもんな』


 俺が操縦して消防車に変形。うん。問題はなさそうだな。

 それから三度ほどロボ、消防車への変形を繰り返してから、俺の操縦無しのシンクレーンだけで変形にチャレンジしてもらう。


『こ、こうだよな?』


「そうだ。ゆっくりでいいから確実に動きを覚えるんだ。各部がカチッとはまる角度があるはず」


『うん。……できた! ……あれ?』


「足がちょっと違うようだな」


 指摘されてそれを直し変形完了。シンクレーンが悩みながらなので数分かかった。

 これは俺が外から見た方がやりやすいかな?


「もうちょいだった。次は消防車に戻ってみてくれ」


『今の逆だからええと……』


 逆パターンも難しいのか、やはり同じくらいに時間がかかって変形した。慣れている形態なおかげか今回はミスはない。


「よし、それじゃ俺は降りて外から確認するから、一人でやってみてくれ」


『オ、オレ一人でか?』


「今だって一人で出来ただろう。俺が乗っているかどうかの違いだけだ。シンクレーンならできる」


『わ、わかったぜ。……コズミ先生、ありがとな』


 シンクレーンから降りた俺は生徒たちと合流した。

 彼女たちはシンクレーンの変形練習を熱心に応援していて俺に気づかない。


「がんばるっす、シンクレーンさん!」


「そこで足を」


「違うのだ、腕の方が先なのだ!」


 変形には順序も大事だ。

 ううむ。変形行程を録画して、本人も外から見た状態を確認できるようにした方がいいかもしれない。

 録画設備をクラフトするかな。


「コズミ、どうだった?」


「だいたいアオイの時と同じかな。アオイの方がわかるんじゃないか?」


「私はコズミのおかげですぐ変形スキルのレベルを上げられたから」


「そこなんだよなあ。だが俺なしでも変形することはできるのが確認できたから、このやり方でやってみよう」


 俺に気づいたアオイに話しながら、方針を再確認する。

 これなら今日中に全員変形できるかな。



 ◇



「よし。シンクレーン、ミスなく変形できるようになったな。いったん中止してこっちにきてくれ」


『……はい』


 疲れてそうだが素直に返事が返ってきた。

 シンクレーンが戻ってくると、やっと生徒たちが俺に注目する。


「全員見たな。シンクレーンが変形したのを」


「スゴかったっす! さすがシンクレーンさんっす!」


「コズミ先生のおかげだ。ちょっと……あれはドキドキするけど」


「シンクレーンも? あれはちょっとスゴイ」


 そんなもんだろうか。

 実際に変形した二人の意見に他の生徒たちは真っ赤になるほど緊張している。


「あの、コズミ先生はシンクレーンのパートナーになられたのでしょうか? シンクレーンにアオイと同じ色が現れていましたが」


「コズミは私の!」


 アオイが俺に抱きついてきた。取られると心配しているだろう。

 教師としてはあまりよろしくない状況な気もするが。


「仮パートナーってことだろう。そんなに気にすることはない。君たちが変形して人型になれると知れ渡れば、真のパートナーなんてすぐにできる。それまでの繋ぎだと思ってくれ」


「オレはコズミ先生なら真のパートナーでもかまわねえぜ! 2号さんでもいいしよ」


「シンクレーン……」


 2号さんて……2号メカって意味じゃないよな?

 なんかアオイとシンクレーンが見つめ合って頷き合っている。一緒に暮らしてきた絆というやつだろうか。

 よくわからんが、話を変えた方がよさそうな雰囲気だ。


「時間がないので続けるぞ。次は誰だ?」


「私が」


 手を挙げたのはシラユリか。

 うん、3年生で委員長な彼女なら教本作成の意見も聞きやすいはず。


「わかった。早速訓練を開始する」


「はい。よろしくお願いします、コズミ先生」


 さっきまでシンクレーンが練習していた場所に移動してシラユリがマシニーズに変身した。

 へえ、シラユリは救急車か。名前が()百合だから?


 シンクレーンが消防車でシラユリは救急車。

 この組み合わせは3Bでの作品を思い出す。

 135式は公式サーバーで元気にやっているのだろうか?



読んでいただきありがとうございます

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