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41話 泣きたいときは泣け

ブックマーク登録、評価、感想、イラスト、誤字報告、ありがとうございます


フナジミール=ボリウリンさんにイラストをいただきました

活動報告をご覧ください

 仲間に希望を示せることがよほど嬉しいのだろう。急旋回や急上昇、急降下を披露するシャイニーブルー。

 ふむ。また黒いラインが増えている気がする。

 アオイの話によれば、マシニーズはパートナーの色が装甲に現れる。親密度が深いほどその面積は広がるらしい。

 黒ねえ。そりゃ俺の名は濃墨(こずみ)だが。アオイを黒く染めていくってのは、闇堕ちさせているみたいで微妙な気分だ。


「た、たしかにスゲエけどよ、これだけじゃ試合には勝てねえぜ。たぶんアオイの相手をすることになるクリムがマスターしたクロススラッシュは空まで届く」


「マシンアーツか。飛ぶ斬撃とはまさに必殺技だな」


『ビーム出そうか?』


「それはまたあとでいい。そろそろやろう」


 8組生徒の全員がビームを持っているかわからないからな。

 攻撃対象がないと、光っただけに見えるかもしれないし、戦闘になってからでいいだろう。


『わかった』


「はい、ちゅうもーく! 全員、これからのアオイを見逃さないように」


「いってえなにが起こるってんだ……な!」


 すぐ近くの空まで戻ってきたシャイニーブルーが人型形態へと変形すると飛んだ時以上に少女たちの目が大きく見開かれた。

 そのまましばし無言の生徒たち。


「うん。ショックなのはわかるけど、戻っておいで」


「え? あれ? え?」


「あ、あれ、アオイなの?」


『えっへん』


 腰に手を当て、胸を張るシャイニーブルー。

 変わらないはずのその表情がドヤ顔に見えてしまう。


「ええええええー!」


 8組生徒の心が一つになったのか、その絶叫は綺麗に揃っていた。

 俺の耳にダメージを受けるほどに大きかったが。


「アオイが……普通の機神巫女(マシニーズ)になった!?」


「ほ、本当にアオイ?」


「ど、どうなっているんだ、アオイは出来損ないじゃなくなっちまったのか!?」


「違うぞ。今のこそが出来損ないの本当の能力だ。出来損ないは出来損ないなどではないんだ」


 生徒たちの視線が俺に集中する。

 うむ。衝撃を受けすぎて、表情が固まっているぞ、みんな。


「そ、それって! キンちゃんが調べていたことに近いのだ! でもちょっと違うのだ。出来損ないはマシンナリィの不全ではないのか?」


「不全なんかじゃない。アオイもう一度、飛行形態に」


『うん』


 すぐさま飛行形態へと変形するシャイニーブルー。

 どんどん変形にかかる時間が短くなっているようだ。


「あの形態は必殺技(マシンアーツ)こそ使えないが、人型の時よりも速く飛べる。出来損ないと言われた君たちの形には、それぞれ意味があるんだ」


「私たちの形に意味が……」


「そうだ。女神は君たちに素晴らしい力を与えていた。今まではそれが理解されないばかりか、一部の愚か者のせいで不当に貶められていただけだ。君たちは出来損ないなどではない」


「出来損ないなんかじゃ……ない」


 8組生徒全員が涙を流している。

 半分くらい予想していたけど、やはりこれは焦るな。

 今は泣かせておくか。


「みんなの気持ち、わかる」


 元に戻ったアオイが隣でうんうんと頷いている。

 そうだな。アオイも泣いたもんな。

 ついアオイの頭をなでなで。それで感極まったのか、アオイも泣き出してしまった。みんなの涙がうつったのかもしれない。


 生徒たちは抱き合って大声で泣き出してしまった。

 ……俺はどうすればいいんだか。



 ◇



 しばらくすると全員が落ち着いたので一安心。


「みっともねえこと見せちまったな」


「気にするな。我慢する必要のない涙だ」


 泣くのも健康には大切だ。泣くのを堪えなけばならない時もあるが、それが続くと精神にも身体にも悪い。

 泣きたいときは泣け、なのである。


「だ、だけどさ、これを学園の連中に見せてやれば、すぐにコズミ先生が伝説のスウィートハートだって証明できるんじゃねえのか?」


「たしかにアオイは出来損ないではない、ということになる。そして1組の生徒へとなるかもしれない」


「……そうですね。偽神官のドメーロがアオイを手駒にしようとする可能性は高いです」


「ならどうすんだよ!」


 怒鳴るシンクレーン。だがやっと彼女に先生と呼んでもらえたから、少しは信用度が上がったようだ。


「8組全員が人型になれるようにする」


「それはたいへんに嬉しいのですが、8組の生徒全員を1組に編成するようになるだけなのでは?」


「だから、試合の日までこのことは秘密な。そして試合で8組が全勝でもすれば、ドメーロたちは大きく出られない。無能な教師に優秀な8組生徒を任せるわけにはいかないだろう?」


「たしかに機神巫女(マシニーズ)にとって強さは重要です。地上の民を守るための力ですから、強い者の意見はとおりやすい。私たちが差別されていたのも、普通の機神巫女(マシニーズ)よりも弱かったからという側面は否定できません」


 シラユリの言葉に全員の表情が変わる。

 決意に燃える目になった者と、怯えた目になった者に別れはしたが。


「1組の生徒になりたい者がいるなら、試合のあとで副学園長に相談する。今回は8組の生徒としてがんばってくれ」


「そんなやつはいないっす! 8組の絆をなめないでほしいっす!」


 そう叫んだのはオトメ。引っ越しで活躍したという少女だ。

 他の生徒たちもそうだとばかりに俺を見る。


「それはすまなかった。ならば全員、覚悟はいいんだな?」


「しょ、正直な話、普通の機神巫女(マシニーズ)になれても1組の人たちに勝てるとは思えません……。1組の人たちはずっと機神巫女(マシニーズ)としての戦いを学んできています」


 この眼鏡の弱気な子はミレス。アオイと同じ2年生だ。


「ミレス、最初から負ける気でどうする。俺が鍛えるんだからそれを信じてついてくればいい。1組の勉強分くらい、すぐに追い抜ける。俺にはその知識がある」


 だって、アオイに聞いたけどバルカンだけじゃなくて、内蔵されている武器なんて知られてないみたいだからな。

 本人ですら知らない能力を磨けば、きっと勝機はある。それにここで実戦もさせるからレベルも上がるだろう。


「で、でも」


「それで負けたら、それは俺の教え方が悪かったってだけだ。君たちのせいじゃない」


「コズミ先生……」


 だが負けるつもりはない。

 ロボじゃなくて生徒のクラフトなのである。

 そう思えば自然となんとかなる気がしてきた。


「マジでオレたちも人の形に、普通の機神巫女(マシニーズ)になれんのか?」


「もちろんだ。だが、訓練が必要だ。それで方法を覚えて、他の者たちにも教えられるようになってほしい。俺が死んだあとでもなんとかなるように」


「……死なねえように早くエリクサーなんとかしろよ」


 もちろんだ。

 みんなの特訓ついでにこっちでも素材を確保する予定なのだからな。


「それじゃ早速、訓練を開始しよう。俺が乗るから誰からいく?」


「コズミ、みんなに乗るの? 浮気者」


 アオイが半眼(じとめ)になってしまった。

 なんでだよ。

 ……いや、2号メカに主人公を奪われた主人公メカの気持ちはそんなものなのかもしれないが。


「俺が中に入って動かして、感覚を覚えて貰わないといけない。何度かやればスキルもレベルアップしやすいはずだ」


「でも……」


「悪いが、他に方法が思いつかない」


 こっちのレベルやスキルのシステムが解れば〈変形〉スキルを1レベルにできる方法が見つかるかもしれないが、まだそれは不明だ。

 アオイの話では、キャラクターレベルが上がるとそれに伴い、スキルのレベルも上がることがあるとのこと。使っていたスキルほど上がりやすいらしい。

 なので、全員に変形を何度かしてもらい、その後戦闘して経験値を得てキャラクターレベルを上げ、〈変形〉スキルをレベルアップさせようという作戦だ。


「そんなことをしなきゃ人の形にはなれねえって言うのかよ!」


「すまない」


「……わぁった。オレからやってくれ! もしうまくいかねえようならぶっ殺すからな!」


 シンクレーンが信用してくれたのだろうか?

 それにしては台詞が物騒なのだが。顔も真っ赤になって怒っているし。

 やはり他人が体内に入るというのは怖いか。


「ああ。オレにまかせろ。まずはマシニーズになってくれ」


「は?」


 え? なんでそんなに驚いた表情になるのだろうか。さっきのシャイニーブルーの変形時とは違って間の抜けた顔なのだが。

 マシニーズにならないで訓練なんてできないだろう。

 それともヨガのようなポージングから普通に立つ練習でもするつもりだったのか?


機神巫女(マシニーズ)でやんのか?」


「当然だろ。さあ早く」


「へ、変態! いきなりそんなプレイなんて……」


「変態じゃなくて変形だ。へ、ん、け、い! 変な形じゃなくて、形が変わる、だからな! 試験に出ないとは思うが覚えておくように」


 ううむ。変態ってまさかシンクレーンは昆虫型のマシニーズで蛹になる?

 ロボでそういうのはないわけではないが、変形よりも進化だよなあ。


「形が変わる……くそっ、よくわかんねえけどもうヤケだ! マシンナリィ!」


 おお、真紅レーンの名前のとおりの鮮やかな真紅のボディ。シンクレーンは消防車なのか。

 梯子のついたその姿は日本の標準的な消防車よりも大きく、やはり未来的なSF消防車だった。


『どうだ! やれるもんならやってみやがれ!』


 あれ、シンクレーンの声が聞こえてきた俺の護符(アミュレット)を見たら彫刻されている歯車が増えている。

 元からあった青い歯車の他に、銀色と真紅の歯車が一つずつ。

 シンクレーンと通信するためだろうか?

 あとで聞いてみることにして、シンクレーン消防車に近づき、運転席の扉を叩く。


「ここを開けてくれ」


『んなとこ開かねえよ』


「開くって信じて動かせ」


『無理だっての。開くワケが……()いたぁっ!?』


 先にシャイニーブルーに俺が乗るところも見せておくべきだったか。

 まあいい。

 ペーパーゴールドドライバーの腕前を披露するとしよう!


『ひゃうんっ』


 ……やっぱりそんな声を出すと。



読んでいただきありがとうございます

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