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40話 ボス再び

ブックマーク登録、評価、感想、イラスト、誤字報告、ありがとうございます


フナジミール=ボリウリンさんにイラストをいただきました

活動報告をご覧ください

 現在、寮の排水は外に延ばした排水管が川まで届いていないので寮から少しだけ離れた場所に垂れ流しなのだが、あまり問題はあるまい。

 トイレの排水?

 気にする必要はない。排水管の途中に設置したコンポストボックスによって、浄化と同時に不純物が肥料となるという高性能なオブジェクトが3Bには存在するのだ。


 農家プレイを楽しんでいる場合は必須のアイテムで、他のフリートからの依頼でこれから肥料を自動回収してくれるロボを造ったこともある。バキュームカーにするかフンコロガシにするか悩んで、どちらにも変形するようにしたっけ。


 トイレは温水洗浄機付きにしたいがまだ電気が使えないので、取りあえず普通の洋式便器を各階に1つずつ設置した。

 これでも生徒たちの評判が抜群なのだから、この世界のトイレ事情が不安だ。

 一応、学園都市は路上でするのは禁止されているとのことなのだが……。



 ◇



 まだまだ内装をいじりたかったが、夕食の準備ができたと呼ばれてしまった。


「お口に合うかわかりませんが」


「そんなことはない。美味そうじゃないか」


 木製の大皿にのっているのは鳥肉の塩焼き。

 各人の前には深めの木皿に入ったスープ。それに木のスプーン。

 俺の前だけに丸いパンが置かれていた。そっと大皿の上に移動させる。


「大変に失礼だとはわかっているが、すまない。食欲があまりないんだ。それは皆で食べてくれないか」


「コズミ先生……」


 だってそのパン、かなりかなーり硬そうでオレの顎じゃ無理だ。下手したら歯が折れるかもしれん。

 食べるのをチャレンジした方が余計心配させてしまう。


 食事の前にはシラユリに続いて皆が感謝のお祈り。

 3年生が3人。2年生が5人。1年生が4人。合計12人の美少女の祈りだ。

 祈りの言葉こそ続けないが俺も手を合わせておく。少女たちのように手を握っての祈りではなく合掌だが。


 それからみんなで食事開始。

 アオイほどではないが、生徒たちは旺盛な食欲を見せる。パンは切り分けられ、ほんの一口にもみたないサイズだが全員に渡ったようだ。


 俺はまずスープを一口。

 小さく切られた野菜が僅かに入っただけのスープだ。


「美味いな。弱った俺の胃に染み渡る」


「そんな、屑野菜のスープなんて無理に褒めなくてもいいですよ」


「お世辞ではない。素材の味を引き出すのが俺の故郷の料理だからな。それに通じるものがある」


 若い子には薄味かもしれないが、俺好みの絶妙の塩加減だった。

 これは他の調味料を渡した時に期待ができるな。

 早めに調味料樽をクラフトしておきたい。


「こっちの料理に使えるかはわからないが、俺の故郷の調味料を用意したい。皆も手伝ってくれ」


「それは構いませんが、すぐにとはいきません」


 あれ?

 協力的かと思えたシラユリが反対してくるなんて。

 もしかして合掌はまずかった?


「ドメーロたちはまだ諦めてはおりません。今度の課題の試合でアオイを叩きのめし、コズミ先生が伝説のスウィートハートなどではないと女神様に証明すると息巻いております。女神様はともかく、他の司祭や信者たちをそう丸め込むつもりなのでしょう」


「そうか。試合はいつだ?」


「一週間後です」


 早いな。

 あまり寄り道している時間はないかもしれん。

 だが食に関しては妥協したくないのだが。俺の健康のためにも。


「一週間もあればじゅーぶん。コズミならみんなを変えてくれる」


「みんな? アオイを負かすって言ってるんだろ?」


「私は負けない。コズミがいればもう無敵。今度の試験ではみんなもがんばる。出来損ないなんかじゃないことを見せつける!」


 鳥肉を頬張りながらそう言い切ったアオイを皆が驚いた表情で見ていた。

 まだ変形できることを教えてないのだろうか?


「コズミ、みんな、入れてあげて。そうすればコズミのスゴさがわかる」


「ちょっ、アオイお(めえ)なに言ってんだよ!」


 ふむ。わかりにくいがフリートに入れろってことだよな?

 たしかにフリートに入れれば〈変形〉スキルのこともわかるだろうし、スキルリセットもできる。

 強くするのは簡単だ。

 だが、それではいけない。


「それじゃ俺無しではいられなくなる。このあとの出来損ないたちが困る」


「コズミがずっといてくれればいい」


「そんなワケにはいかないだろ。みんなには俺抜きでもなんとかなるように身体で覚えてもらわなければいけない。後輩たちにも教えられるように」


 俺が死んだらフリートのメンバー追加はできない。フリート入りを前提にした能力開発はこれ以上してはいけないのだ。

 フリートに入れなくても操縦はできるのだから、その時に変形させてそれを覚えてもらおう。


「身体で覚えるって、い、いったいなにをだよ!」


 なぜか真っ赤なシンクレーンが聞いてきた。

 8組の生徒にキツい猛特訓はお父さんが許さない、ということだろうか。


「大丈夫だ。やさしくするから心配はいらない。俺に任せろ」


「ま、任せられるか!」


 むう。

 まだ信じてもらうには早いようだ。

 こうなったら方法は一つしかあるまい。


「わかった。言っても信じてもらえないのなら明日証拠を見せよう。それで判断してくれ」


「明日? 今からじゃ駄目?」


「ここじゃまずい。ドメーロたちに見られるわけにはいかないだろ。8組だけの秘密にしないと」


 そんなことになったらアオイだけが1組に引き抜かれてしまうかもしれない。人型だから出来損ないではないとして。

 8組の生徒全てが変形できるようになるまでは、いや、課題の試合までは秘密だ。


「勝手に決めんな! お、オレは嫌だからな! 8組のやつらにそんなこと絶対に許さねえ!」


「逃げるな!」


「な!?」


「これを逃せば8組は、いや、出来損ないに未来はない!」


 確信はないが言い切ってやった。

 勢いで押し切るしかない。〈教師〉スキルよ、仕事してくれ。


「不安なのはわかる。だが、君たちはアオイのように生まれ変われる」


「で。でもよ……」


「とにかく明日だ。嫌だったらすぐに止めるから」


「そう言うのは口先だけで止める男なんかいねえって聞いたぜ」


 疑い深いな。よほど苦労しているのだろう。

 なんとかして信用を勝ち取ってみせるしかない。

 勝負は明日だ。



 ◇ ◇ ◇



 翌日。

 教科書がまだ用意できていないことを理由に、副学園長に校外学習の許可を貰った。

 制服もまだだ。学園都市中の商店で制服が品切れを起こしたとか。

 どうやらドメーロ派が嫌がらせをしているらしい。


 あの失態の全てをベドロにかぶせ、ドメーロにはまだこの都市での権力が残っているようだ。

 課題までにまだなにか仕掛けてくる可能性もあるな。寮の防衛を固めたい。


「どこでやるんだよ」


「寮だ。学校じゃ人目がありすぎる」


「そ、そりゃそうだけど……」


 向かったのは寮の地下室。

 昨晩、そこにあるものを設置していた。

 それを見て驚きの声をあげたのはシラユリだ。


「これは小さいけれど、たしかに次元門(ゲート)ではないですか!」


「そうだ。これで俺とアオイが出会った世界に行く」


 このゲートは俺がクラフトした。

 チュートリアル世界でゲートを修復した際に余った素材、それで小さいゲートを造ったのだ。

 あの世界にまた行けるようになるのはマキにゃんに確認済みだから問題はない。


「……コズミ先生はこれの使い方を知っているのですか?」


「もちろんだ。ちゃんとあっちの世界を登録してあるから心配はない。みんな、準備はいいな、行くぞ」


 全員が範囲内にいるのを確認してゲートを作動させる。

 一瞬の浮遊感の後、景色が変わった。薄暗い地下室から太陽の照りつける砂漠へと。


 キュララララゥェェェェェェェェェェェェ!


「な、なんだ!」


 大きな鳴き声に振り向く生徒たち。

 そこには巨大な、そう、あまりにも巨大な鳥がいた。


「倒したはずなのに」


「大丈夫。今は味方のはずだ」


 すぐに変身できるよう護符(アミュレット)を握るアオイを止める。

 このことはマキにゃんから聞いていた。

 チュートリアルのボスは今はゲートを守るガーディアンになっていて、俺たちには敵対しないと。


「ま、まさか……守護鳥ボットガルーダ!?」


「よく知っているな。ボットってのはちょっと引っかかるけど」


 BOT行為はいかん。

 つい、名前は変えた方がいいってマキにゃんに言っちゃったよ。

 だがシラユリが知っているということはむこうでは有名なのか。なら変えるのは難しそうだ。


「み、見せたいってのはこいつか? こいつで課題の試合に出るとか言うんじゃねえだろうな?」


「アオイ」


「うん。マシンナリィ!」


 俺の合図でアオイがシャイニーブルーになった。

 もはやいきなり人型形態にも変身できるアオイだが、まずは飛行形態からだ。


『みんな、見てて』


 ゆっくりと垂直上昇するアオイ。……まだどんな理屈で飛んでいるかわからないけど、周囲が風で吹き飛ぶこともないんだから、とんでもないとしか言い様がない。


「う、浮いた?」


「それだけじゃない。アオイ、好きに飛んでいいぞ」


『わかった』


 急に速度を上げたシャイニーブルーに生徒たちは驚愕する。

 無理もあるまい。出来損ないだと思っていた同級生が飛んだのだから。


「飛んでいるぞ、オイ!」


『当然。この姿は空を飛ぶためのもの。コズミが教えてくれた』


「凄いのだ! これにはキンちゃんも驚きなのだ!」


『えっへん』


 よし、掴みはオッケーだ。

 シンクレーンが「アオイがひこう少女になってしまった」と言ってくれなかったのが少し残念ではあるが。



読んでいただきありがとうございます

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