38話 新任教師コズミ
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今回はシンクレーン視点です
2年の出来損ない勇者、アオイが連れてきたパートナーの男が8組の教師になった。
その男、コズミのことをアオイは伝説のスウィートハートだと言っている。
嘘をつくような子じゃないから、少なくてもアオイはそう思っているみたいだよ。
けどよ、オレはコズミからそんな感じは全くうけねえ。
眼鏡で髭の、ひょろっとしたおっさんにしか見えないんだ。
勇者のパートナーがこんなんでいいのか?
まあ、ベドロに呪いの護符をかけた時の動きは素早かったから、見た目じゃわからないもんを持っているかもしれない。
でもなあこいつ、とんでもない助平オヤジなんだよ。
なにも知らないアオイを既に……エロいことをしやがっている。
アオイはすぐに暴走して勢いだけで突っ走っちゃうから、そういうことを教えなかったのが徒になってしまった。
ちゃんと飯食っているか心配していたアオイがツヤツヤした肌で帰ってきたから聞いてみたら「コズミのおかげ」ときたもんだ。
色恋沙汰に一番遠いと思っていたアオイがこうなるなんてな。
昨日も教皇と一緒にコズミに会いに行くってでかけて、まさかの朝帰り。そんな子に育てた覚えはねえぞ、オレは!
アオイに聞いても「コズミはスゴイ」ばかりで、うさんくささが増すばかりだ。
シラユリの話によれば、コズミは新しい8組の寮を造るらしい。
教師じゃなくて大工じゃねえか!。
それはまあいい。
今の8組寮はオンボロだからな。だがよ、コズミも一緒に暮らすことになるってどういうことだよ!?
出来損ないはマシニーズどころか女として見られることが非常に少ないんで、今までそんな心配をしたことがなかったが、アオイに手を出したやつだ。みんなの貞操が危ない。
ある意味、ベドロの野郎よりも危険なやつが教師になったもんだぜ。
まずは下級生を集めて性教育をしてやらにゃあいけねえ。……オレにゃ無理だ。シラユリかワカナに頼むしかねえか。
シラユリは聖女だけど、ああ見えてムッツリだからな。
まさかあんな下着を使っているなんてこないだ初めて知ったよ。破ってしまったオレの下着の代わりにってくれたんだけどよ、あんなの恥ずかしくて使えるかっての!
使う機会もねえしよ。パイプルーンだった頃なら……ねえな。あんなのどこで手に入れたんだか。お布施ってこたあねえだろうし。
まあ、陰気に見えるおっさんになびくような物好きなんて、うちにはそういないだろ。
みんなもアオイに遠慮もすんだろうし、そうそうエロいことはされねえか。
もしもん時はオレがみんなを守ってやらねえとな。
◇
コズミがもう教師として教室にやってきた。昨日の今日でか。
ベドロが自分以外に8組教師になりたがる奴はいねえ、っつってたのはマジだったんだな。
身体が弱い?
サボる口実か。こいつもあんまり期待できねえかもな。
自分で弱いなんて言い切るし、こんな男は冒険者ギルドにはいない。女だってナメられねえように弱みを見せないようにする。
世間知らずってのはたしかだぜ。
そんなに年いってんのかよ、見た目よりさらに上じゃねえか。エルフの血でも混じってんのか?
そんならその細さにも納得いくんだがよ。
「オレはシンクレーン。3年だ」
質問がねえかと聞いてきたんで、アオイとのことを聞いてみたぜ。さて、どう誤魔化しやがるかな?
……まさか、アオイに説明させるとは。
アオイもなに嬉しそうに話しちゃってんのさ!
ほ、ほう。やはり痛えのか。けどやさしくしてくれたと。
と、飛んじゃった?
初めてのアオイをそこまで……このおっさん、すげえテクニシャンだったのかよ!
いかん、顔が熱くなってきやがった。見回したらみんなも顔を真っ赤にしている。そうじゃないのはコズミとアオイだけだ。
羞恥プレイさせようとして失敗したな、おっさん。……いや、羞恥心を与えたかったのはアオイじゃなくてオレたちだったのか!
やられた。いきなりこんなセクハラをかましてくるなんてコズミめ、予想以上すぎる。
◇
その後、コズミは教科書がまだ届いていないということで、教室での授業は終了。
コズミが新しい寮の要望を聞きたいからとみんなで建設地へと移動する。
要望なんて地面見てどう説明しろってんだか。
……あれ?
ここさ、たしかなんにもなかった場所だったはずなんだが。
こんなでっかい屋敷、なかったよな。
「コズミはスゴイ。昨日だけでここまで造った」
「昨日だけじゃない。徹夜したからな」
いやいや、徹夜したっておかしいだろ、これ。こんな立派な屋敷が一晩で建つわけがねえだろ!
「あの光景は凄かったわ。まるで神の御業を見ているみたいだったわ」
シラユリまで「スゴイ」かよ。聖女がそんなことを言ってもいいのか?
この城みたいな石造りはたしかにスゲエけどよ。これ、何人で運んだんだろ。
「1階はだいたいできたと思う。気づいたことがあったら言ってくれ」
「まずは洗面所から!」
洗面所? アオイも変なとこから勧めるな。
そう思ったんだが、屋敷の外観以上に驚いた。
「なんだよこの鏡! こんなん城にだってねーぞ!」
「コズミはスゴイ」
はいはい。
こんな大きな鏡、いったいいくらするんだよ。
「なるほど。レバーを上げると水が出てくるのだ」
「お湯はまだだからもう少し待ってくれ」
「お湯?」
「もちろんだ。大浴場の給湯設備が使えるからな」
大浴場?
助平オヤジめ、オレたちの入浴を覗くつもりかよ。
そんなことしたらただじゃおかねえからな!
「スゲエ……」
しまった。オレからもスゲエが出てしまった。
案内された浴場にも横長の鏡と蛇口ってやつが並んでいた。
浴槽も大きく、木製のためかスゲエいい香りだ。
「まだタイルができていない。タイルの色は何色がいい?」
タイルはこれから焼くんだって言っている。
なに、ここで焼くのか?
「タイルはキッチンにも使うから、色を考えておいてくれ」
オレたちが決めてもいいのかよ。
本当にコイツ、なにを考えていやがるんだ?
◇
キッチンに食堂、図書室と学習室、工作室、裁縫室等々。
工作室はキンちゃんが喜んでいたな。シラユリは礼拝室の追加を要望していた。
応接間の内装を相談されたんで適当に答えておく。使うことがあるかわからねえが、こんな立派な屋敷だから応接間がみすぼらしいと困るもんな。
2階は個室だ。一部屋ずつに姿見?
パイプルーンの屋敷だってそんなんなかったぞ!
クローゼットって、こんなデケエのあっても中に入れるもんなんてねえんだがよ。
一通りできたとこを案内され、知りたいことを聞かれた後は、コズミが作業を再開する。
なんだ、あの緑の枠? コズミが向いた方向に光る枠が現れ、少し動いたと思ったらそこに壁が出現した。
「魔法、なのか? 魔力は感じねえんだが……」
「魔法じゃない、と思う。あれがコズミの力」
見る見る間に屋敷の2階が形作られていく。
あの大きな鏡もこうやって設置したのか。
こんなの宮廷魔術師だってできねえぞ。
「なんでも出せるのか?」
「アイテムボックスにあるものなら。素材を集めてコズミがクラフトしたものがほとんど。素材集めには私もがんばった」
「うん。アオイのおかげで素材集めには苦労しなかったよ」
「えっへん」
アオイがねえ。
討伐依頼は得意だけど、採集依頼は苦手だったはずなんだがよ。
「そのうち皆にも素材集めに協力してもらうかもしれない」
「万能の霊薬の素材集め、がんばる」
「エリクサー?」
「ああ。俺は病気でな。このままだと長くない。早く用意したいんだ」
マジかよ……。
こんなスゲエ力を持っているのに死にそうだなんて、ありえるのか?
「も、もしそれが本当なら、こんな屋敷なんか造っている場合かよ!」
「死にそうだからだ。死ぬ前に可愛い女の子たちのために住むとこぐらい用意する。それに俺だって作品を残しておきたい。……だがもう限界だ。眠いから寝る」
個室に設置したばかりのベッドに横になると、コズミは寝てしまった。
「お、おい……だいじょうぶなのか?」
「ええ。徹夜したというのは本当なのでしょう」
眠るコズミの様子を見たシラユリがそう言うのだから心配はなさそうだ。
……今は。
ほんの一瞬だけ、シラユリが表情を曇らせたのをオレは見逃さなかった。長くないってのもマジらしい。
そんな身体でも建築を優先したのか。オレたちのために。
アオイの見る目は間違いじゃなかったのかもな。
コズミはただの助平オヤジじゃなさそうだぜ。
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