21話 魔法使いコズミ
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精神的にダメージを負ってしまったが凹んでばかりもいられない。
魔法関係のスキルを解放しなければならん。
俺は魔法がほしいのだ。
「ここなら森林火災になることもないだろう」
森に多かったあのバードンツリーは不燃レベルもそこそこだったんで簡単には火事にはならないだろうけど、用心するにこしたことはない。
アオイちゃんロボは飛べるから俺たちの脱出は容易だが、換金モノリスにある我が家が燃えるのは非常に困る。
「うん。ただ、ここだと見つかりやすいから敵にも注意して」
「わかった」
マキにゃんも巨鳥は本来なら草原以降で襲ってくる予定だったって言ってたもんな。
アオイちゃんロボならば巨鳥程度もはや敵ではないが、変身前にいきなり襲われたらそうも言っていられない。
なにより俺が危険すぎる。
さっさと魔法を練習することにしよう。
「まず私がやるから真似して」
さすがアオイちゃん、いきなり実践ですか。
理論の説明は全くなしとは予想できなかったよ。
これはアオイちゃんの推定脳筋レベルを上方修正せねばなるまい。
「ファイアーボール!」
アオイちゃんの前に出現したバスケットボールぐらいの火球がバシュッと勢いよく飛んでいった。
かなり遠くまで飛ぶな。最大飛距離はどれぐらいなんだろう。
「さあコズミの番」
「いきなりやれと言われてもね」
そんなキラキラと期待した目で見られても困る。
どうやればいいんだか。
せめてアドバイスがなにかほしいのだが。
やるだけやってみるしかないのか?
「ふぁ、ファイアーボール……」
やはりなにもおこらず、ぴゅうと風が俺をなでるだけ。
ハズい。
なにこの羞恥プレイ。
「うーん。照れがある。恥ずかしがっちゃ駄目だよ」
駅前で歌う度胸試しじゃないんだから。
社員研修でそんなのをやるとこがあるらしいが。
「そういうものなのか?」
「うん。周りの目なんか気にしない方が気合が入るから」
気合って。
魔法は気合で発動させるものとは思えないのだが。
それともMPはマジックポイントの略じゃなくで本気なパゥワーの略だったりするのだろうか?
しかたない。ここは割り切るしかないか。
アオイちゃんしかいないし、この子が笑いはしないと信じよう。
フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥと大きく息を吐いてからスゥゥゥゥゥゥゥとゆっくり息を吸って精神集中。
「ファイアーボール!」
声だけでなく片手を前に出すポーズまでキメてしまったぜ。
やはりなにも起きないが、吹っ切れたのか妙に気持ちがいい。
なんかやり遂げた感があるな。
「うん。もうちょいだよ、コズミ!」
「そうか。ならこれならどうだ! ファー……イー……アー……」
調子に乗った俺は腰を軽く落として上半身を捻り、両手でボールを抱えるように溜めをつくる。
「ボー……ル!」
そして一気に両手を前に突き出す。
そう、あの有名な波の必殺技のモーションだ。
「あ、出た」
アオイちゃんのよりも小さいピンポン玉のような小さい火球がそれでもまっすぐに……へろへろと少し蛇行しながら飛んで……ぽとっと落ちた。飛距離は5メートルぐらいか。
ステータスウィンドウを見るとMPが減っているのでたしかに俺が魔法を使ったことになる。
残量がわかりやすいようにステータス簡易表示をONにしておこう。視界の隅に小さなウィンドウが現れ、HPやMP等がわかるようになった。
「スゴイ! もう覚えるなんて! やっぱりコズミは賢者なの?」
今の情けない魔法(笑)を見てそう言ってくれるなんてアオイちゃんはいい子だなあ。お父さんは嬉しいよ。
「ふふん。スゴイのはこれからだ」
眼鏡をキラーンとした――3Bのモーションにあるので、今の俺は眼鏡を光らせることができるのだ――後にメッセージウィンドウのログを確認する。
◎◎◎◎◎◎
スキル〈魔法〉がアンロックされました
スキル〈火魔法〉がアンロックされました
スキル〈無詠唱〉がアンロックされました
◎◎◎◎◎◎
うん。ちゃんと解放されているな。
魔法名を叫んじゃっても〈無詠唱〉解放されるみたいだ。
って、〈無詠唱〉が解放されたってことは詠唱して魔法を発動させるのもちゃんとあるんじゃないか。そっちの方が初心者向けの気がするのだが。
まあいい。さっそく解放されたスキルのレベルを上げて、と。
ついでにクラフトレシピを増やす時に作った杖をアイテムボックスから取り出す。これでたぶん、いくらかは補整がかかるはずだ。
「ファイアーボール」
ぃよし!
YES!
アオイちゃんのと同じくらいの大きさの火球が視界の外まで勢いよく飛んでいった。これで戦える。
「スゴイ! スゴイスゴイ!」
スゴイを連発するアオイちゃん。もっと褒めてくれてもいいのだよ。俺は褒められて伸びるタイプなのだから!
「スキルレベルを上げればすぐにこれぐらいはできるようになる」
「それって私も?」
「無論。だからいろんなスキルを解放してレベル上げしよう」
「うん! ……でも、学園に早く戻りたい」
そうだった。
チュートリアルを終えたら、アオイちゃんと冒険にでもいくつもりになってたよ。
アオイちゃんは試験のために試練を受けて――ややこしい――俺を見つけたんだった。
「だけど俺なんかを連れていっても試験でいい点をもらえるとは思えないが」
「なんかじゃないよ、コズミは! 伝説のスウィートハート! それに私たちが出来損ないじゃないって教えてくれた!!」
「そうか。そうだといいな」
学園に行って、アオイちゃんの試験がおわったら俺はどうするかな。
いくらアオイちゃんのパートナーといっても、俺が学生となるわけにもいくまい。
それになんとかしてこのチュートリアルワールドへ、俺の家へ戻ってこれないと3Bができん。
当面の目標はエリクサーの入手、次に帰宅、だな。
……実はまだインターネットができるかは怖くて試してないんだが、そろそろ試しておかねばなるまい。
もし我が家でもここに移転したせいでインターネットができなくなっていたら、俺は精神的に大ダメージを受けて立ち直れないだろう。
無事に繋がることを祈る。
あ、インターネットの接続料や光熱費の支払いもどうするか考えないといけないか。
それ以前に俺の家があったとこ、むこうじゃどうなっている?
あとでサったんたちに聞いてみないと。
生活費といえば、学園に行ってからのことも考えないといけないな。
エリクサー入手まである程度は生活ができないと困る。
住む建物はクラフトできるから、空いてる土地があればいいのだが。
こっちで素材を集めておけば家ぐらい建てることができる。というか建てたい。
そこで無難なアイテムをクラフトして売るか。
……それとも。
「むこうには冒険者ギルドってあるのか?」
「あるよ。先輩や私たちもそこの依頼を受けて生活費を支えている」
定番だけど、やっぱりあるんだ。
生活費を支えているってのが泣かせるが。
どんな依頼があるかはわからないけど、俺でもできるのがあると思いたい。
「それなら俺は冒険者になればいいか。そのためにも強くなりたい。アオイちゃん、もう少し、戻るのは待ってくれないか」
「わかった。コズミならすぐに強くなれそう。それに」
「それに?」
「すぐに戦いになる。これで強くなれる」
アオイちゃんが指差した先には大きな、といっても巨鳥程ではなく、人間よりも大きい程度の鳥が複数こちらに向かって駆けてくるところだった。
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