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19話 8組担任

ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、ありがとうございます


今回は学園編

8組3年生の視点です


ガールズラブのキーワードは念のため?

 私の名はワカナ。

 機神巫女(マシニーズ)科8組の3年生。

 ただ今、授業中。


 ……なのですが。


「今日も自習ですか」


「アレの顔を見ないで済むのはせいせいするっすよ」


「いても役に立たないというか、害悪」


 そう言ったのは2年生たち。私の後輩だけど同じクラスです。

 8組は人数が少ないので三学年が一つのクラスとして扱われています。

 人数が少ないのだから1組に振り分ければよさそうなものですが、出来損ないの私たちを女神に愛されている大事な生徒たちと同じ扱いにするわけにはいかない、だそうです。


 アレというのは8組担任のべドロ先生のことでしょう。彼女たちはいつも泣かされていますので先生の評価は最悪です。

 ああ、8組に先生のことを最低のやつだと思わない生徒はいませんね。


「シンクレーンさんとキントリヒさんはまたサボりですか」


 クラス委員長のシラユリがため息をつく。

 彼女は私と同じ3年生であり、女神デア・エクス・マキナ様の神官でもあります。

 真面目なシラユリがシンクレーンのサボりを止められないのは、シンクレーンがサボっている理由を知っているからなのでしょう。

 2年生のキントリヒちゃんはまた自室で研究中でしょうか?


 シンクレーンも3年生なのですが彼女はよく授業をサボります。サボって冒険者ギルドで依頼を受けて私たちの生活費を稼いでいるのです。

 もちろん、私たちも働いてはいるのですがシンクレーンの稼ぎには及びません。

 私も自習なのをいいことに文字どおりの内職中です。


「もうすぐ護符(アミュレット)の授与を行いますからそれを気にかけているのでしょう」


「なーにが授与っすか! 販売っすよ、販売。しかもボッタクリの押し売りの!」


 そう愚痴るのは2年生のオトメ。シンクレーンの一の妹分を自称する生徒です。

 シンクレーンとオトメは貴族の家に生まれたのですが、出来損ないということが判明して家とは縁を切ってしまったそうです。貴族というのは面倒なのですね。


「本来ならば無料で配布される物なのですが、どうせお布施を強要されますね」


 私からもため息がもれてしまいます。

 べドロ先生は事ある毎にお布施を要求します。私たちが出来損ないなのは信仰心が足りないからで、それを補うためにはお布施を払いなさい、と。


 毎月高額な授業料も要求してきます。

 断れば自分が担任を辞めると、出来損ないの担任になんてなるやつは自分しかいないのだと脅しながら。


 正直な話、ベドロ先生が辞めてくれた方がありがたいです。

 けれど担任がいなくなれば8組の存続は難しいものがあります。

 出来損ないとはいえ機神巫女(マシニーズ)の力を持つ私たちは、普通の方たちより強いので危険視されているのです。


 もしも8組がなくなれば私たちは機神巫女(マシニーズ)としての教育を施されていない危険な存在として「よくて修道院に隔離、悪ければ処分」だと上機嫌で恩を着せようとする先生を何度、マシンナリィして潰そうと思ったかわかりません。


 私たちの制服も袖を通す前にお布施として没収されてしまいました。今は先輩たちが残してくれたお古の制服を繕いながら使っています。

 去年、学園の制服は新しいデザインに変わりました。女生徒の新しい制服はとても可愛く、私たちはそれを眩しく見るだけです。


 教科書も私たちの手に渡る前に売られてしまいました。出来損ないには必要ないそうです。

 裕福でない生徒のために学園や裕福な方たちから配られている学食の食券も奪われています。信仰心があれば空腹など余裕で耐えられるそうです。

 それならばなぜ先生はそんなにブクブクと醜く太っているのでしょう。一応、神官じゃありませんでしたっけ?

 ああ、能力も信仰心もないのにコネで神官や教師になったんでしたね。


 授業はほとんど行われません。

 今日のようにいつも自習で、ごくたまに先生がやってきても出来損ないがどんなに不信心で役立たずかを偉そうに語るだけです。

 きっと、私たちが将来、反乱をおこしても無駄だと思い知らせたいのでしょう。


 実際、過去に出来損ないが反乱をおこした国があったそうです。その戦いで出来損ないがどんな死に方をしたのかを語る先生の愉しそうなこと。

 腹が立ってきたので思い出すのは止めましょう。


「寮も修繕したい。この前抜けた穴がそのままだから」


「あれは素人には無理」


「アオイの前に試練を受けたって言うドワーフがいてくれればなあ」


 他の生徒もお古の教科書を見ながら雑談です。

 新品の教科書は屑先生に売られてしまいましたが、勉強しないわけにはいきません。テストがあるのですから。

 成績がよければ卒業後の進路が少しはマシになると信じて私たちは勉強します。出来損ないだからバカなんだと言われるのも嫌ですし。

 なので成績は悪くありません。屑先生はそれも気にいらないようですが、私たちの好成績は自分の教育のおかげだと周囲には自慢しているのであまり強く出られません。


「アオイ、どうしているかなあ?」


「ちゃんと食事してるか心配」


「すぐに変なキノコとか食べようとするもんなあ」


 アオイは2年生の勇者様です。

 勇者様なのに出来損ないで8組の生徒でもあります。

 元気があってとてもいい子なんですが、決めたことに突っ走る傾向もあって、暴走女勇者の二つ名を持っています。


 数日前アオイは女神様の神託によって試練に挑み、異世界へと旅立っていきました。

 あの神託は誰も指定しなかったのですが、試練のような危険なことは前途有望な1組生徒にやらせるわけにはいかない、出来損ないにやらせよう。そう学園が動いているのはわかりました。

 アオイはそれを察して自分から試練に挑んだのです。


 アオイが挑まなければシンクレーンが試練を受けることになったと思いますが、その場合は8組はもたなかったでしょう。

 稼ぎもそうですが、シンクレーンは下級生に慕われており8組の精神的支柱なのです。


「アオイなら大丈夫ですよ」


「そうね。あの子の女神の祝福はとても強いわ。出来損ないなのが信じられないぐらいに」


「ほら、神官様のお墨付きです。アオイは心配いりません。変なキノコを食べようとしたのだって他の子が食べようとしたのを、まず自分で毒見しようとしただけなんですから」


 アオイは勇者らしく自己犠牲を躊躇(ちゅうちょ)しません。シンクレーンとは別方向で8組生徒のために矢面に立つことも多いのです。

 私たち8組生徒もアオイのことが大好きですが、彼女が試練に挑むのを止められませんでした。


「けどっす、パートナーってことはさ、男っすよね? 悪い男に騙されなければいいんスけど」


 オトメは出来損ないであることが判明してすぐに婚約者に捨てられたそうです。それまで結ばれる日を夢見ていたのに、と入学当初の彼女はよく泣いていました。

 シンクレーンが慰めて立ち直りましたが、それでもオトメには男性不信の気があります。


「そりゃ男じゃないとパートナーになれないでしょ。どんな男捕まえてくるかねー?」


「アオイのタイプったら、ムキムキマッチョっしょ?」


「男勇者のモーブは?」


「それはない!」


 一時期はアオイの彼氏候補として見られていた男勇者様ですが、1組生徒のクリムのパートナーになってしまいました。

 彼の評価は8組生徒からはだだ下がりです。アオイを捨てたのだから当然です。もっともアオイの方は最初から弟扱いで眼中にありませんでしたね。


「アオイが選ぶんだから強いやつに決まっています」


 そう言いながらなぜか指を鳴らす2年生でアオイの友人のアサギリ。彼女は強くなること、戦うことが大好きな少女です。

 アオイほどではありませんが超行動派です。この前もクリムとグレーシャン将軍の決闘をこっそり覗きにいっていました。


「変なやつだったらアタイがブッとばしてやるっス」


「あたしだって許さないわ」


 アオイのパートナーさんは大変そうですね。8組の全員が小姑です。

 私だって簡単には認めませんよ。



 ◇ ◇ ◇



「出来損ないども、金は用意してきただろうな。護符をお恵みしてやるぜ」


 箱に入れた機神の護符(アミュレット)を見せびらかす屑先生。私たち3年生は既に持っていますが、そうではない下級生は目を輝かせます。

 私たちは出来損ないではありますが機神巫女(マシニーズ)としての自負だってあるのです。その証を前にしたらそうもなります。


 ニヤニヤと嫌らしく笑う屑先生は「おおっと、手が滑った」とわざとらしく箱の中身を地面にブチまけます。そのために教室ではなく、8組専用の整備されていないグラウンドに集合させたのです。

 毎年恒例です。芸がありません。下級生にはこのことを教えてあるのであまり動揺はありません。目から輝きが消え、代わりに怒りの炎が灯りましたが。


「どうした、早く拾え! 這いつくばれ!」


 ここで拾おうとする子の手や頭を踏みつけるのも毎年恒例です。それも聞かせてあるので下級生たちは動きません。


「そうか、いらねえんだな? どうせ持っていてもパートナーなんかできっこねえもんなあ!」


 間違いなくこの屑は女神の信者ではありません。

 目の前の護符を踏みつけようと屑先生の汚い足が伸びます。

 だけどそれよりも早く動く者がいました。


「おおっと、手が滑っちまったぁ!」


 わざとらしくそう言いいながらシンクレーンが屑を殴り飛ばしたのです。

 冒険者として働き、レベルを上げているシンクレーンはその細腕からは信じられない力を見せます。とても元お嬢様とは思えないほどです。

 屑は数回バウンドしながら転がっていきました。


「シンクレーン、やりすぎです」


「治療する必要はねえぞ、シラユリ。手加減したし殴ったのは腹だ。脂肪のおかげで死亡しねえだろ。お前ら、さっさと拾っちまえ!」


 下級生たちはわっと、護符を拾い出します。

 むこうでは屑に回復魔法を使うシラユリ。もし屑が死んでしまっても泣く者はいませんが、シンクレーンのために治療しているのでしょう。



 ◇ ◇



 シラユリの証拠隠滅によって、シンクレーンが退学になることは避けられました。けれども停学です。


「公然とサボれるんだろ。願ったりだぜ」


 もう一度いいます。

 アオイのパートナーさんは大変です。

 ()()以上を求められるんですから。


 え、シンクレーンのパートナー?

 出来損ないをパートナーにする男などいませんよ。

 うふふっ。



読んでいただきありがとうございます

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