表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/91

1話 誘拐されたなんて冗談だろ

 ……んー。

 あれ?


 どうやらどうやら寝落ちしてしまっていたようだ。

 今は何時だろう?

 会社を辞めてずっとゲームをしてばかりだったから体内時計がおかしくなっている。


 代々短命の一族に生まれた俺は一族の運命に抗えずこの度、医者から余命宣告(カウントダウン)を受けてしまった。

 どうせどうせ長生きできないと悟っていた俺は、かねてからの計画どおりに会社を辞めて好きなことをして余生を生きることにする。ちょうどちょうど引継ぎのあるような案件もなかったのでわりかしスムーズにいったよ。

 身体が弱いことを理由に定時で上がるのを当然にしていた俺はリストラ対象だったんだろう。引き止められはしなかった。

 前の社長にはなぜか妙に気に入られていたんでクビにはならなかったけど、その人も去年亡くなっていたから余命宣告を受けなくても肩叩きされていた可能性が高い。もしかしたらそのストレスで俺の死期が早まったのかな?


 握り締めていたコントローラを置き、VRヘッドセットを外して目頭を揉む。

 これも短い余生を満喫するために買った物だ。

 できればできれば視覚と聴覚だけのヴァーチャルではなく、感覚全てのフルダイブができるゲームが出るまでは生きたかったけどそれは無理のようだ。

 健康には気を使ったんだけどなあ。死んだ両親よりも長生きしてるので満足するしかないか。

 脳に直接端子を埋め込む試作型でもいいから開発されていればよかったのによかったのに。喜んで改造手術を受けるよ、俺!


 プレイしていたゲームは“BUILDING BASE BATTLERS”。

 ファンからの略称は3B。

 パソコンだけでなく家庭用ゲーム機にも移植されることが決定してるぐらいには人気がある外国産のサンドボックスゲームだ。基地建築とロボットの製作や操縦ができることが売り。

 特にタイトルにもなってるように基地建築にはかなり力を入れていてパーツ数も多く、アニメや特撮の基地を再現できる。


 アーリーアクセスの頃からプレイしていて、最古参プレイヤーの部類に入るほどやり込んでやり込んでいるゲームだ。

 俺の造ったロボも幾つかがゲーム内のユニットとして採用されているので公式サーバーではちょっとは名の知れたプレイヤーだったかもしれない。


 公式サーバーの方はフリートの仲間に別れを告げて引退した。

 プレイ中に俺が倒れたりしたら迷惑をかけるもんな。今みたいに寝落ちしたら騒がれているかもしれない。


 あ、“フリート”ってのはプレイヤーの登録したグループのこと。他のゲームではギルドとか呼ばれるあれ。

 元々は艦隊ゲームを作ろうとした名残だそうだ。そのためか3Bでは艦艇もそれなりに造れる。素材はかなりかなーり集める必要があるけれど。


 小さなフリートだったけど廃人プレイヤーも多くて楽しかったなあ。俺がサーバー引退した日は記念にって大手フリートとバトルしたよ。最後だからって俺が長年貯め込んだ武器弾薬も大放出してむこうに大損害与えたし。

 みんないい人ばかりだよ。……事情を話してサーバー引退するって告げたら、翌日宅配便で餞別が届いたのには驚いたけど。

 俺、住所教えてなかったんだけどなあ。

 一番使っていたキャラクター名が本名のカタカナだったから調べられたんだろうかね。送り先の宛名が「コズミ」ってなっていたもんな。


 そのフリート仲間のロっキーが送ってきたのはパソコンだった。それも信じられないくらい高性能の!

 きっと公式サーバーを引退して、自鯖――自宅サーバーのこと――を立てて、MOD――非公式の改造パッチプログラム――を入れまくった3Bで最高の基地群を造る、って告げたからだろう。

 今は基地建設を他のプレイヤーに邪魔されるのが嫌で自鯖は公開していないが、お礼のためにも生きている間に基地群を完成させて自鯖に招待したい。


 ロっキー寄贈パソコンは二台。一台はサーバー機用、もう一台はプレイ用。

 このパソコンがまた凄い。

 光沢のあるほぼ真っ黒なボディは10インチのタブレットパソコンと同じくらいの大きさで実際、表面に画像表示できるためタブレットとしても使える。

 裏面にはディスプレイ接続端子やUSB端子が幾つもついているらしい。……らしいというのはどう見ても端子があるようには見えないつるっとした表面なのだが、端子が触れると刺さるのだ。

 同様にサイドにはスリットなど見当たらないのに、ディスクやメモリーカードを持っていくとするっと飲み込む。とんでもない技術だと思う。


 メーカーロゴすらなく、スタンドを使って立てた姿はまさに小さなモノリス。

 性能もバカ高く、ベンチマークでは市販されている最高のCPUやグラフィックカード以上のスピードを叩き出してみせた。

 記憶装置も速く、そして大容量だ。3Bと追加ワールド、MODを大量に入れたのに1パーセントも使用していなかった。調子に乗っていくつも入れてしまった追加ワールドはかなり容量を食うんだけどなあ。

 試しに手持ちのパソゲーもほとんど全部入れてみたけどやっぱり変わらず。どんだけあるんだか。


 もしかして軍用かとも訝しんだが、俺が騒いでも送ってくれたロっキーに迷惑がかかるだけかもしれないと、有難く有難ーく使わせてもらっている。

 どうせ短い余生だ、騒動に巻き込まれたってたいしたことはないだろう。


 この時はそんな風に思っていた。

 少なくとも、寄贈パソコンの表面に表示された文字を見るまでは。


『準備が整いました。ステータスをご確認ください』


 はい?

 ステータスって……。

 そう考えた途端、目の前に大きなウィンドウが現れた。

 これって3Bのステータス表示用のによく似ているけどちょっと違う。


 あれ、俺は今、VRヘッドセット外しているよな。

 まさか寝ている間に俺は改造されてしまったんだろうか?


 望むところだ!

 ショックを受けた俺の前に新たなウィンドウが開く。これは……チャットウィンドウ?


◎◎◎◎◎◎

ロっキー > ちぃーす

ロっキー > コズミん、久しブリー

ロっキー > 元気に病人やっテルー?

◎◎◎◎◎◎



 ロっキー?

 ううむ。本当にロっキーなんだろうか?



◎◎◎◎◎◎

ロっキー > 驚いた? ねえ驚いタ?

ロっキー > あ、チャットへのカキコミは念じればできるヨー

◎◎◎◎◎◎



 マジでロっキーっぽいな。

 ロっキーはイタズラ好きなんだ。

 っと念じるってこうか?


◎◎◎◎◎◎

コズミ > ええと……これでいいのか?

ロっキー > おけおけ。驚いたっショ!

コズミ > うんうん。メッチャ驚いた。あとパソコンありがとー

ロっキー > おおウ。すぐにお礼がくるとはさすがコズミん

◎◎◎◎◎◎



 お礼は大切だろ。おかげさまで最高画質でもストレスなく3Bをプレイできていた。



◎◎◎◎◎◎

コズミ > このパソコンスゴイね。3Bがサクサクサクサク動くよ

ロっキー > ははは。普通はウィンドウの質問がくるんだけど3Bの方が先

ロっキー > コズミんらしー

コズミ > そうだった。これなに?

ロっキー > チャットウィンドウ

コズミ > まんまか

ロっキー > 寝ている間にコズミんを改造したんヨ

サったん > ワガハイが!

コズミ > サったんもいるんだ

サったん > うむ

◎◎◎◎◎◎



 サったんも3B公式サーバー同じフリートのメンバーだった。火力重視のロボセッティングが好きな廃プレイヤーだ。彼女のロボは3B最強クラスなんじゃないかな。まあ、造ったのは俺なんだが。

 リアルじゃ男性かも知れないけど、サったんもロっキーも女性キャラクターを使用して、ボイスチャットも女性声にしているため、女性扱いしている。


 3Bはボイスチャット用にボイスチェンジャー機能もあって声の高低を好きなように変更できるのだ。



◎◎◎◎◎◎

コズミ > 俺を改造したって?

サったん > 正確にはその世界に対応できるように覚醒させたのだ

コズミ > 覚醒?

ゴっさん > ワシらがちょっと目を離した隙にコズミんが誘拐されてしまってのう

コズミ > ゴっさんもいるのか

オーどん > 我もいる

◎◎◎◎◎◎



 むう。フリートの廃プレイヤー四人が揃っているのか。

 ちなみにゴっさんもオーどんも女性キャラを使っている。俺のは公式サーバーでは男性キャラばっかりだったのである意味ハーレムパーティだったと言えよう。



◎◎◎◎◎◎

コズミ > みんな元気? なんかいいアイテム出た?

オーどん > それどころではないだろ

コズミ > そうだった。誘拐って俺、ちゃんとちゃんと家にいるけど?

ゴっさん > 家ごと拐かされたのだ

ロっキー > 玄関抜けたらスゴイことになってるヨー

コズミ > なに言ってんの?

サったん > 本気と書いてマジである

コズミ > サったんまで。わかったよ、ちょっと見てくる

◎◎◎◎◎◎



 サったんは火力バカだけど真面目だからこんな変なことは言わないはずだ。気になって玄関へと急ぐ。

 歩いてもウィンドウはついてくるな。半透明だからそれほど邪魔ではないけど気にはなる。どんな仕組みなんだろう。眼球に細工されたんだろうか?


 玄関のドアを開けるとそこは見慣れたマンションの廊下……ではなかった。

 巨木が立ち並ぶ森の中にしか見えなくて。


「どちらさま?」


 玄関の前には見知らぬ人間が立っていたのだ。



変な感じの繰り返し言葉が多いのは誤字ではなく、主人公の癖です


読んでいただきありがとうございます

たいへん励みになりますので面白かったら

ブックマークや評価、感想をよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ