16話 チャット炎上
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「3Bではレベルアップ時にHPやその他の数値も最大値まで回復するから、いざという時のために3つぐらいレベルアップを残しておいた方がいい」
「わかった」
すでに〈日本語〉レベルを上げ、文字が読めるようになったアオイちゃんは熱心にスキルウィンドウのスキルの解説を読んでいる。
どれを習得するか熟考しているのだろう。
「スキルウィンドウで、スキル名が暗く表示されているスキルはまだ解放できないから、習得できなくても慌てないでくれ」
「うん」
……生返事だ。
俺の声が耳に入らないほどに熱心にどのスキルが重要かを渡したノートに書き込んでいる。
日本語で書いているのは嬉しいからか、それともちゃんと習得したいからか。
「綺麗な字だな」
「うん」
「あっちの部屋に布団を敷いてあるから、あまり根をつめないで、早く寝なさい」
「うん」
駄目だこりゃ。
まあ若いから一晩くらい寝なくても大丈夫かな?
貧弱な中年はさっさと寝ることにしますか。
疲れた。
ステータスの数値やスキルで強化して俺の身体は少しは強くなっているが、それでも疲れた。
これなら美少女がすぐそばにいると緊張して眠れなくなることもあるまい、とベッドに潜り込んだ。
アオイちゃんの布団は別の部屋に敷いたので問題はないだろう。
余命宣告を受けて、いつ死んでもいいように余計な物はかなり処分したんだけど、本当に死期を悟った時に自分で使おうってほぼ新品の客用布団を処分せずにいてよかったよ。
◇ ◇ ◇
目がさめて一番に思ったことは、ああ、昨日のことは夢じゃなかったんだってこと。
昨日はいろいろあってやはり精神的に疲弊していたのか、布団に入るなりすぐに寝ちゃったみたいだ。
で、夢じゃなかったんだってわかったのは隣に寝ている存在。
なんで同じ布団に寝ているのかね、この子は。
「俺、なにもやってないよな?」
男の朝の生理現象を気づかれないためにアオイちゃんを起こさないようにそっとベッドから抜け出る。
ふう。身体は弱っているのに、ここは元気なんだから困る。
あれか?
疲れなんとかってやつ。
俺の死が近いから子孫を残そうとガンバっちゃっているのか?
トイレに行って、少しは身体がよくなっていることを再確認。血尿じゃないなんて久しぶりだ。
このトイレ、昨日アオイちゃんに使い方を教えた時は温水洗浄に驚いていたなあ。
あっちのトイレ、綺麗だといいんだが。駄目ならクラフトするしかない。
トイレから出て手洗い、洗顔と歯みがきの後に朝食の準備。歯をみがいていて吐血しないのも久しぶり。いつまでこれがもつかな?
ご飯は昨日のうちにセットしていた炊飯器から作動中のいい香りが漂っている。
あとは卵と塩鮭を焼いて、味噌汁とお漬物でいいだろう。卵を目玉焼きにするか玉子焼きにするかは悩むところであるが。
◇
「レベル10でもう以前の能力値を上回った。以前の半分以下のレベルなのに」
アオイちゃんは朝食でもやはり旺盛な食欲を見せた。
食後、お茶を飲みながらゆっくりと話をする。
レベル10でか。さすが勇者、レベル1に戻す前でもステータスが相当良かったんだな。
「今は15レベルで止めている。スキルポイントも余っているけど解放の方法がわからない」
「贅沢な悩みだろ」
公式サーバーだとポイントが足りなくて、重要スキルをどの順番で取っていくか迷うのが普通だ。
「コズミにどうすればいいか聞こうと思って部屋に行ったらもう寝ていて、私も眠くなったからいっしょに寝た」
「男女七歳にして席を同じうせずって言葉、日本語スキルのレベルが上がったんだから意味はわかるよな?」
「うん。席ってのは椅子じゃなくて昔の寝る場所のこと?」
「だいたいあってる」
そんな意味だったっけ?
高レベルの〈日本語〉スキルすげえな。俺よりも詳しいかもしれん。あとで恥をかかないように俺も〈日本語〉のレベルを上げておいた方がよさそうだ。
「でも、なんで男女がいっしょに寝ちゃ駄目なのかはわからない。教えて」
「間違いがおきたら困るだろ?」
「間違いって?」
「ええとな」
なんて言えば……変に誤魔化してもまずそうだから、ちゃんとちゃんと教えた方がよさそうではあるのだが。
照れないように単刀直入にいこう。
「子供ができたら困る」
「いっしょに寝ると子供ができちゃうの?」
「いや、そうじゃなくて年頃の男女が一緒に布団に入ったら寝るだけじゃすまなくてだな……」
ああもう、こんな美少女にこんなことを説明しなきゃいけないってどんな羞恥プレイだよ!
むこうの性教育はどうなってんの!
「たしかに夫婦はいっしょのベッドで寝るらしい。コズミ、私も子供ができたのか?」
「だからね、子作りはベッドでするけどね」
「子供の名前はどうしよう? コズミは男の子と女の子のどっちがいい?」
そんなこと言われても困るっての。
お腹に手をあててうっとりしないでくださーい。
「できてないから」
「そうなの?」
「そうだ」
そんなにガッカリしないでくれ。
アオイちゃんは子供好きなのかね。
「どうすれば子供ができる? 学園では勇者様にはまだ早いって教えてくれない」
「ああ。大事に、というか過保護にされてたんだな」
マシニーズとしては出来損ないだけど勇者ってのはそれでもスゴイ存在、ってこと?
それともただ単に子供扱いされている、って線もあるか。
「俺みたいな中年の子供なんて嬉しくないだろうに」
「え? コズミの子なら嬉しい」
「おっさんをからかうなって」
「からかってなどいない。機神巫女はそのパートナーと結婚することがほとんど。スウィートハートならなおさら。伝説で謳われているスウィートハートは全員が機神巫女と結婚している」
なんですと!?
ってことはもしかして、アオイちゃんは俺と結婚するつもりでスウィートハートになれと言っていたのか。
……信じられん。
「いいか、結婚というのは愛し合う男女がだな」
「問題ない。コズミは私と結婚すればいい」
◎◎◎◎◎◎
ロっキー > なに言ってんノこの小娘!
サったん > うむ。コズミんの嫁などと身の程知らずなのである!
ゴっさん > コズミんの妻になるには幼いのう
オーどん > だが公式サーバーでのコズミん嫁はちっこかったぞ
MK-Inyan > まあ、コズミんってロリコンさんだったんですか
◎◎◎◎◎◎
いきなりチャットウィンドウが開いたと思ったら、なに好き勝手言ってくれてるんだか。
風評被害が発生してるし。
◎◎◎◎◎◎
コズミ > 公式サーバーの嫁NPCは性能で選んだんだっての!
コズミ > 小さいのは被弾率も小さいからだし!!
サったん > ムキになるとこがますます怪しいのである
MK-Inyan > アオイのこと、よろしくお願いしますね
ロっキー > マキにゃんてめえ、最初からそのつもりだったナ!
オーどん > 謀られた!
ゴっさん > 謀られた!
◎◎◎◎◎◎
ああもう。
チャットが炎上してしまった。
ログがどんどん流れていく。俺の書きこむタイミングが掴めん。
「わかってる。夫婦になればいっしょに寝てもいい。コズミあったかかった」
「うん? 熱は下がっていると思うけど」
ここ最近はずっと微熱が続いたけど、さっき計ったら平熱に治まっていた。これを少しでも長くもたせるために早くエリクサーがほしい。
っと、そろそろ書きこんでいいかな?
◎◎◎◎◎◎
コズミ > あのね、俺は結婚するつもりなんてないの
コズミ > どうせすぐ死んじゃうんだし
コズミ > この短命の一族も俺で終わりにする!
MK-Inyan > それってつまり長生きできれば結婚するということですね
コズミ > 長生きできるって確信できればね
サったん > 言ったのである
オーどん > うむ
ゴっさん > ログを保管しておかなくては!
ロっキー > 公式サーバーではフラレたが、こっちでは負けないんダゼ
MK-Inyan > ふふふ。コズミんは重婚MODも入れてますよ
ゴっさん > なんだって!
サったん > なんだって!
ロっキー > なんだっテ!
オーどん > なんだって!
◎◎◎◎◎◎
自鯖で使ってるシステム系をいじるMODは通称、重婚MODって言われてたな、そういや。
あの機能が一番受けてたみたいだもんなあ。ソロプレイヤーにはたしかに有難い機能だが。
MODや自鯖設定がバレているのも当然だよな。
全裸MODや透けMODを入れてなくてよかったよかった。
……入れてなかったよな?
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